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後日譚〜あれから〜
34 【リュカ】仕返し?
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兄さんの目の焦点が合わなくなり、次にがくりと首が垂れた。
ベッドから落ちかけ、あわてて体を支える。
「ジャック!!」
大声で叫ぶと、忠実な従僕は、間髪をおかずドアを開けた。
駆け寄ってきたジャックに尋ねる。
「大丈夫なの?突然倒れたけど。本当に後遺症とか残らないんだろうね?」
ジャックは兄さんの顔色を確認し、ほっと息をついた。
「問題はないでしょう。目が覚めたときには頭痛が残りますが、長く続くようなものではありません。スープは飲ませましたよね?」
「うん、もちろん。指示通りにしたよ」
「であれば、副作用もそれほどひどくはならないはずです。あのスープには痛みを和らげる薬を混ぜておきましたから」
「そう・・・ばれるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」
ジャックは皮肉に口角を上げた。
「ですが、しっかり準備したとおりに進めたのは、さすが中佐の弟様です。正直、中佐が引っかかるかどうかは五分五分だと思っていましたが」
「俺だって」唇を噛みしめる。「本当はこうならないことを願ってたんだけど。でも、兄さんは、聞く耳持ってくれなかった」
「そうですか」
ジャックは意識を失っている兄さんを見下ろした。
兄さんをこの部屋に閉じ込めることを決めた時、ベネディクトとジャックを説得し、協力してもらった。
二人とも兄さんの食事もとらず、仕事ばかりな生活態度や誰にも心を閉ざした状態に心を痛めていた。
俺がこの家を出てからその状態がはじまり、ミラが腹の子とともに亡くなってから、ますますひどくなっていったと。仕事上必要最低限の接触しかしなくなり、再婚はおろか、一夜の遊びすら皆無だと。
だが、俺にだけは兄さんは反応すると、ふたりは言う。
兄さんを揺さぶり、心を動かすことができる可能性があるのは、俺だけだと。
俺たちはその可能性に賭けた。
兄さんを閉じ込めて、逃げられない状態にして説得しようとこの部屋に担ぎ込んだが、兄さんは心を動かされてはくれなかった。
少しはぐらついたのかも知れないけど、それだけ。
でも、それだけじゃ足りない。
俺は兄さんの全部がほしい。
幼い頃から、ずっとそう思っていた。
どんな手を使っても兄さんを囲い込もうとしていたのは、俺の方だよ?
「愛の力ですべてが解決するなんて、ファンタジーだよ」自分の声がなげやりに聞こえる。
ジャックは俺をちらりと見て、慰めようと思ったらしい。
「あの中佐が、こんな簡単なトラップに引っかかるとは思いもしませんでしたがね。よほど冷静さを欠いていたんでしょう」
「そう?」
「あなたが絡むと、中佐は中佐でなくなります。あなたを敵にまわすことは、中佐にとって不利益にしかならないと思ったから協力しているのです。約束は守ってください」
「もちろん。必ず約束は守るよ」
俺がジャックの目を見て伝えると、ジャックは大きくうなずき、「早く」と小声でうながした。「それほど長い効き目がある薬ではありません。急いで下さい」
「分かった」
兄さんが説得に応じてくれなかった場合は、別の手を使おうと決めていた。
そして、そのためには兄さんをしっかりと拘束する必要があった。
こんな足かせ一つでは、兄さんを抑えられない。
おそらく、俺のバックにベネディクトとジャックが付いてるのはバレているだろうし。
ジャックにもらったのは、兄さんが戦地で捕虜を捕まえるときに使っていた薬だ。
頸動脈に直接少量の薬を流し込み、数分だけ自由を奪う。
その間に拘束して、身動きがとれないようにしてしまう。
まさか、俺がその手を使うとは思ってもいなかっただろう。
2人で兄さんをベッドに大の字に寝かせ、両手をベッドのヘッドボードに縛り付けた。
「足も縛り付けないと」ジャックが兄さんの足をベッドに縛り付けようとする。
「それは、かわいそうなんじゃない?」
ジャックが呆れたように俺をじろじろと見つめた。
「今まで殺されてないのは、中佐があなたに甘いからですよ?本気になれば指一本あればあなたを殺せます」
「まさか」
「私なら試してみる気にはなりませんがね。足を自由にしておいたら、蹴りを食らって一瞬ですよ」
「・・・分かった」
俺はジャックを手伝って、兄さんの両足もベッドの足に結びつけた。
「う・・・」
兄さんが唸り声を上げ、まぶたがぴくぴくとけいれんした。
「さ、行ってください」
ジャックは無言でうなずき、滑るように部屋を出ていった。
「う・・・ん」
小さくうめきながら、兄さんが首を振り、薄っすらと目を開けた。
「き・・・気がついた?」
精一杯の冷静な態度を装って、兄さんに近づく。
「リュカ・・・?」
兄さんの目がうつろにただよい、そして俺の上に落ちた。
「お前・・・」
「頭痛はどう?スープに痛み止めを入れたから、それほど痛くないって聞いてるけど」
「ああ・・・」兄さんは首を振って、額に手を当てた。
「こんな手に引っかかるとは、私も鈍ったな。かつて散々使った薬を使われるとは」
「ごめん。でも、兄さんが素直じゃないから。本当は俺のことを愛してるでしょ?いまでも」
「馬鹿なことを」
「へえ。じゃ、俺のこと振りほどいてみせてよ」
俺は兄さんの身体に馬乗りになった。
「やってみて」
ニッと笑い、兄さんの鼻にそっと口づけを落とす。
「リュ・・・」
何か言おうとした唇を俺の唇でふさいだ。もう、余計な言葉は聞きたくない。
ベッドから落ちかけ、あわてて体を支える。
「ジャック!!」
大声で叫ぶと、忠実な従僕は、間髪をおかずドアを開けた。
駆け寄ってきたジャックに尋ねる。
「大丈夫なの?突然倒れたけど。本当に後遺症とか残らないんだろうね?」
ジャックは兄さんの顔色を確認し、ほっと息をついた。
「問題はないでしょう。目が覚めたときには頭痛が残りますが、長く続くようなものではありません。スープは飲ませましたよね?」
「うん、もちろん。指示通りにしたよ」
「であれば、副作用もそれほどひどくはならないはずです。あのスープには痛みを和らげる薬を混ぜておきましたから」
「そう・・・ばれるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」
ジャックは皮肉に口角を上げた。
「ですが、しっかり準備したとおりに進めたのは、さすが中佐の弟様です。正直、中佐が引っかかるかどうかは五分五分だと思っていましたが」
「俺だって」唇を噛みしめる。「本当はこうならないことを願ってたんだけど。でも、兄さんは、聞く耳持ってくれなかった」
「そうですか」
ジャックは意識を失っている兄さんを見下ろした。
兄さんをこの部屋に閉じ込めることを決めた時、ベネディクトとジャックを説得し、協力してもらった。
二人とも兄さんの食事もとらず、仕事ばかりな生活態度や誰にも心を閉ざした状態に心を痛めていた。
俺がこの家を出てからその状態がはじまり、ミラが腹の子とともに亡くなってから、ますますひどくなっていったと。仕事上必要最低限の接触しかしなくなり、再婚はおろか、一夜の遊びすら皆無だと。
だが、俺にだけは兄さんは反応すると、ふたりは言う。
兄さんを揺さぶり、心を動かすことができる可能性があるのは、俺だけだと。
俺たちはその可能性に賭けた。
兄さんを閉じ込めて、逃げられない状態にして説得しようとこの部屋に担ぎ込んだが、兄さんは心を動かされてはくれなかった。
少しはぐらついたのかも知れないけど、それだけ。
でも、それだけじゃ足りない。
俺は兄さんの全部がほしい。
幼い頃から、ずっとそう思っていた。
どんな手を使っても兄さんを囲い込もうとしていたのは、俺の方だよ?
「愛の力ですべてが解決するなんて、ファンタジーだよ」自分の声がなげやりに聞こえる。
ジャックは俺をちらりと見て、慰めようと思ったらしい。
「あの中佐が、こんな簡単なトラップに引っかかるとは思いもしませんでしたがね。よほど冷静さを欠いていたんでしょう」
「そう?」
「あなたが絡むと、中佐は中佐でなくなります。あなたを敵にまわすことは、中佐にとって不利益にしかならないと思ったから協力しているのです。約束は守ってください」
「もちろん。必ず約束は守るよ」
俺がジャックの目を見て伝えると、ジャックは大きくうなずき、「早く」と小声でうながした。「それほど長い効き目がある薬ではありません。急いで下さい」
「分かった」
兄さんが説得に応じてくれなかった場合は、別の手を使おうと決めていた。
そして、そのためには兄さんをしっかりと拘束する必要があった。
こんな足かせ一つでは、兄さんを抑えられない。
おそらく、俺のバックにベネディクトとジャックが付いてるのはバレているだろうし。
ジャックにもらったのは、兄さんが戦地で捕虜を捕まえるときに使っていた薬だ。
頸動脈に直接少量の薬を流し込み、数分だけ自由を奪う。
その間に拘束して、身動きがとれないようにしてしまう。
まさか、俺がその手を使うとは思ってもいなかっただろう。
2人で兄さんをベッドに大の字に寝かせ、両手をベッドのヘッドボードに縛り付けた。
「足も縛り付けないと」ジャックが兄さんの足をベッドに縛り付けようとする。
「それは、かわいそうなんじゃない?」
ジャックが呆れたように俺をじろじろと見つめた。
「今まで殺されてないのは、中佐があなたに甘いからですよ?本気になれば指一本あればあなたを殺せます」
「まさか」
「私なら試してみる気にはなりませんがね。足を自由にしておいたら、蹴りを食らって一瞬ですよ」
「・・・分かった」
俺はジャックを手伝って、兄さんの両足もベッドの足に結びつけた。
「う・・・」
兄さんが唸り声を上げ、まぶたがぴくぴくとけいれんした。
「さ、行ってください」
ジャックは無言でうなずき、滑るように部屋を出ていった。
「う・・・ん」
小さくうめきながら、兄さんが首を振り、薄っすらと目を開けた。
「き・・・気がついた?」
精一杯の冷静な態度を装って、兄さんに近づく。
「リュカ・・・?」
兄さんの目がうつろにただよい、そして俺の上に落ちた。
「お前・・・」
「頭痛はどう?スープに痛み止めを入れたから、それほど痛くないって聞いてるけど」
「ああ・・・」兄さんは首を振って、額に手を当てた。
「こんな手に引っかかるとは、私も鈍ったな。かつて散々使った薬を使われるとは」
「ごめん。でも、兄さんが素直じゃないから。本当は俺のことを愛してるでしょ?いまでも」
「馬鹿なことを」
「へえ。じゃ、俺のこと振りほどいてみせてよ」
俺は兄さんの身体に馬乗りになった。
「やってみて」
ニッと笑い、兄さんの鼻にそっと口づけを落とす。
「リュ・・・」
何か言おうとした唇を俺の唇でふさいだ。もう、余計な言葉は聞きたくない。
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