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後日譚〜あれから〜
17 【リュカ】吊し上げ
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しまった。
ここのところ、兄さんのことやレオンのことで頭がいっぱいで、ギルド以外から小麦粉を調達することを報告し忘れていた。違法ではないが、ルール違反だ。
ポールのやつ・・・昨夜、ジャックに殴られた腹いせか?俺のことだって、何発も殴ったくせに。
鍵の位置が変わってたように思えたのは、そのせいか。
だが、目の前のギルド長は自分のメンツが潰されたことと、ギルド内の規律を乱されたことに怒り狂っている。
俺は、頭を下げた。
「忘れてません。すみま・・・」
「じゃあ、何故この小麦粉がお前の店にあるんだ?これは、ギルドを通した品じゃない。はるかに上質な・・・そう、公爵閣下が召し上がるような小麦粉だぞ」
「そ、それは・・・」
俺がことばに窮すると、目の端でポールがニヤついた。
なんでこいつは、こんなに俺に絡んでくるんだよ。前からしょっちゅう粉をかけてくるやつだったが、軽くかわせばそれ以上のことはしなかったのに、昨夜はちがった。俺に妙な薬を飲ませて、ボコボコにしただけじゃなく、部屋に盗みに入って、ギルドに告げ口まで。
凶暴なほどの怒りが腹の底にこみ上げた。
目もくらむほどの怒りに我を忘れそうになるが、やつの思うつぼだと気がついた。
苛ついても解決にならない。ギルド長は俺に答えを促すように瞬きもせず、俺をじっと見ている。
・・・困った。公爵家から、代金のかわりに小麦粉をもらったって話をここでしていいんだろうか。
でも、あの小麦粉は俺の一日の日当と比べて高価過ぎる。公爵家に行くときにも、ギルドにも一言も言ってないし・・・本来なら、公爵家に呼ばれたなんて大事があれば、ギルド長にすぐに報告するのがあたりまえだ。どう説明したら・・・
「それだけじゃありません。リュカは他にも怪しいものを持っていました」
ポールが部屋の端から声をあげた。
「何だと?」ギルド長がにらみつけるようにポールを見る。
「こ、これです!」
ポールは懐から小さな袋を取り出した。
ギルド長が不機嫌そのものの顔で、開けるように指示すると、ゆびがもつれたのか、袋からは赤や黒の実やピンク色の塊が転がりでた。
「なんだこれは」
「わかりませんが、多分、ご禁制の品ではないかと。麻薬とか、怪しげな薬に違いありません」
そんなはずない。俺は思わず声をあげた。「違います!それは香辛料です!」
「香辛料だと!!!」
部屋にいた全員が、目を剥いて俺の顔を見た。驚きすぎて、開いた口がふさがらない、という表情だ。
・・・しまった。香辛料なんて高価なもの、俺が持ってるはずもないのに。
「香辛料だなんて、ほんとうなのか!」
「どこで手に入れたんだ!」
「闇取引か?」
部屋の中は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
それはそうだ。いま、親方の手の中にある香辛料は、金と同じかそれ以上の価値がある。流通も上流階級に限られているし、それを街のパン職人が持っているなんて・・・
「ありえない!」
「なにを売って手に入れたんだ?」
「いや、どこから?」
怒号が飛び交うなか、ギルド長が片手を上げた。「静まれ」
皆、息を飲みながらギルド長を見つめている。
「リュカ。これが香辛料だというのは、ほんとうか」
「はい・・・そうです」
「どこで手に入れた」
「もらったんです」
「ふざけるな!」ギルド長の雷のような声が部屋に轟いた。「こんな高価なものをくれる人間が、いるわけ無いだろう!!」
「でも、ほんとうなんです」
「じゃあ、誰にもらったっていうんだ」
「それは・・・」
「正直に言わないと、制裁を食らわすことになるが・・・それで終わりじゃない。盗みは重罪だ。しかも、こんな高価なもの、場合によっちゃ俺の首だって飛ぶ。お前、分かってるのか」
親方の額に汗が浮いている。
小麦粉だけなら、俺を叱り倒して、罰金かペナルティを課せばいいことだ。でも、香辛料を不正な手で入手したとなると、全く意味合いが違ってくる。
「はい。すみません」俺は唇を噛んだ。公爵家からもらったと言っていいのか、こんな大勢の前で・・・いや、絶対にまずいだろう。
「事情が・・・あるんです。その・・・ギルド長だけにお話するわけにはいきませんか?」
「リュカ。お前の事情は聞いている。昨日は、養い子のレオンが母親に引き取られていったっていうし、昨夜はどこかでしこたま飲んで暴れたのか?その顔は」ギルド長は俺の顔に残るあざに目をとめた。
「だが、これはおおごとだ。ギルドを通さずに小麦粉を手に入れ、それだけじゃない。高価な香辛料をこんなにたくさん。しかもこれは」ギルト長はピンク色の塊をぺろりとなめた。「やっぱりそうだ。これは高い山の上にしかないって言われている岩塩じゃないか。こんなもの、どうやって手に入れたんだ?」
「・・・」
「お前、申し開きはできるのか?」
「え?」
「お前のしたことは、重大な規律違反だ。領主様に申し上げないわけにはいかない。正直に言えば、もしかしたら助けてやれるかもしれないが、なにも言えないでは、難しい。分かるな?」ギルド長は口元をぎゅっと引き締めた。
「場合によっては、ギルドの閉鎖にもつながる事態だ。お前を領主様のところに連れて行く。そこで申し開きをするんだな」
「待ってください!説明しますから!」
「いや、もう聞きたくない。小麦粉だけなら目をつむってやれたが、香辛料に岩塩・・・どう考えたって、密貿易じゃないか。俺達の手には余る」
「そんな・・・」
俺の後からくくっと笑う声が聞こえた。
「ギルド長。リュカの店を俺にくれませんか?」ポールがうれしそうに言った。
「なんだと」
「だって、パン屋を開かなかったらみんな困るじゃないですか。高級な小麦粉もあることだし、ここは店を開けないと」
「おまえ、俺の店を乗っ取ろうとしてたんだな!」
俺がポールに飛びかかろうとすると、皆が寄ってたかって俺を押さえつけた。だれかが腹いせに見えないように殴りつけた。俺は床に両膝をつき後手に縛られた。
「ふざけやがって!俺の店に忍び込んだのはお前だろう!それはいいのかよ!どうなんですか、ギルド長!!」
「うーん」俺の抗議の声に、ギルド長は考え込んだ。
「リュカの店の話は後回しだ。確かに、店を開けないと近所の方が困るとは思うが。うかつに動くんじゃないぞ、お前たち。そいつは・・・そうだな、部屋のすみにでも転がしておけ」
ここのところ、兄さんのことやレオンのことで頭がいっぱいで、ギルド以外から小麦粉を調達することを報告し忘れていた。違法ではないが、ルール違反だ。
ポールのやつ・・・昨夜、ジャックに殴られた腹いせか?俺のことだって、何発も殴ったくせに。
鍵の位置が変わってたように思えたのは、そのせいか。
だが、目の前のギルド長は自分のメンツが潰されたことと、ギルド内の規律を乱されたことに怒り狂っている。
俺は、頭を下げた。
「忘れてません。すみま・・・」
「じゃあ、何故この小麦粉がお前の店にあるんだ?これは、ギルドを通した品じゃない。はるかに上質な・・・そう、公爵閣下が召し上がるような小麦粉だぞ」
「そ、それは・・・」
俺がことばに窮すると、目の端でポールがニヤついた。
なんでこいつは、こんなに俺に絡んでくるんだよ。前からしょっちゅう粉をかけてくるやつだったが、軽くかわせばそれ以上のことはしなかったのに、昨夜はちがった。俺に妙な薬を飲ませて、ボコボコにしただけじゃなく、部屋に盗みに入って、ギルドに告げ口まで。
凶暴なほどの怒りが腹の底にこみ上げた。
目もくらむほどの怒りに我を忘れそうになるが、やつの思うつぼだと気がついた。
苛ついても解決にならない。ギルド長は俺に答えを促すように瞬きもせず、俺をじっと見ている。
・・・困った。公爵家から、代金のかわりに小麦粉をもらったって話をここでしていいんだろうか。
でも、あの小麦粉は俺の一日の日当と比べて高価過ぎる。公爵家に行くときにも、ギルドにも一言も言ってないし・・・本来なら、公爵家に呼ばれたなんて大事があれば、ギルド長にすぐに報告するのがあたりまえだ。どう説明したら・・・
「それだけじゃありません。リュカは他にも怪しいものを持っていました」
ポールが部屋の端から声をあげた。
「何だと?」ギルド長がにらみつけるようにポールを見る。
「こ、これです!」
ポールは懐から小さな袋を取り出した。
ギルド長が不機嫌そのものの顔で、開けるように指示すると、ゆびがもつれたのか、袋からは赤や黒の実やピンク色の塊が転がりでた。
「なんだこれは」
「わかりませんが、多分、ご禁制の品ではないかと。麻薬とか、怪しげな薬に違いありません」
そんなはずない。俺は思わず声をあげた。「違います!それは香辛料です!」
「香辛料だと!!!」
部屋にいた全員が、目を剥いて俺の顔を見た。驚きすぎて、開いた口がふさがらない、という表情だ。
・・・しまった。香辛料なんて高価なもの、俺が持ってるはずもないのに。
「香辛料だなんて、ほんとうなのか!」
「どこで手に入れたんだ!」
「闇取引か?」
部屋の中は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
それはそうだ。いま、親方の手の中にある香辛料は、金と同じかそれ以上の価値がある。流通も上流階級に限られているし、それを街のパン職人が持っているなんて・・・
「ありえない!」
「なにを売って手に入れたんだ?」
「いや、どこから?」
怒号が飛び交うなか、ギルド長が片手を上げた。「静まれ」
皆、息を飲みながらギルド長を見つめている。
「リュカ。これが香辛料だというのは、ほんとうか」
「はい・・・そうです」
「どこで手に入れた」
「もらったんです」
「ふざけるな!」ギルド長の雷のような声が部屋に轟いた。「こんな高価なものをくれる人間が、いるわけ無いだろう!!」
「でも、ほんとうなんです」
「じゃあ、誰にもらったっていうんだ」
「それは・・・」
「正直に言わないと、制裁を食らわすことになるが・・・それで終わりじゃない。盗みは重罪だ。しかも、こんな高価なもの、場合によっちゃ俺の首だって飛ぶ。お前、分かってるのか」
親方の額に汗が浮いている。
小麦粉だけなら、俺を叱り倒して、罰金かペナルティを課せばいいことだ。でも、香辛料を不正な手で入手したとなると、全く意味合いが違ってくる。
「はい。すみません」俺は唇を噛んだ。公爵家からもらったと言っていいのか、こんな大勢の前で・・・いや、絶対にまずいだろう。
「事情が・・・あるんです。その・・・ギルド長だけにお話するわけにはいきませんか?」
「リュカ。お前の事情は聞いている。昨日は、養い子のレオンが母親に引き取られていったっていうし、昨夜はどこかでしこたま飲んで暴れたのか?その顔は」ギルド長は俺の顔に残るあざに目をとめた。
「だが、これはおおごとだ。ギルドを通さずに小麦粉を手に入れ、それだけじゃない。高価な香辛料をこんなにたくさん。しかもこれは」ギルト長はピンク色の塊をぺろりとなめた。「やっぱりそうだ。これは高い山の上にしかないって言われている岩塩じゃないか。こんなもの、どうやって手に入れたんだ?」
「・・・」
「お前、申し開きはできるのか?」
「え?」
「お前のしたことは、重大な規律違反だ。領主様に申し上げないわけにはいかない。正直に言えば、もしかしたら助けてやれるかもしれないが、なにも言えないでは、難しい。分かるな?」ギルド長は口元をぎゅっと引き締めた。
「場合によっては、ギルドの閉鎖にもつながる事態だ。お前を領主様のところに連れて行く。そこで申し開きをするんだな」
「待ってください!説明しますから!」
「いや、もう聞きたくない。小麦粉だけなら目をつむってやれたが、香辛料に岩塩・・・どう考えたって、密貿易じゃないか。俺達の手には余る」
「そんな・・・」
俺の後からくくっと笑う声が聞こえた。
「ギルド長。リュカの店を俺にくれませんか?」ポールがうれしそうに言った。
「なんだと」
「だって、パン屋を開かなかったらみんな困るじゃないですか。高級な小麦粉もあることだし、ここは店を開けないと」
「おまえ、俺の店を乗っ取ろうとしてたんだな!」
俺がポールに飛びかかろうとすると、皆が寄ってたかって俺を押さえつけた。だれかが腹いせに見えないように殴りつけた。俺は床に両膝をつき後手に縛られた。
「ふざけやがって!俺の店に忍び込んだのはお前だろう!それはいいのかよ!どうなんですか、ギルド長!!」
「うーん」俺の抗議の声に、ギルド長は考え込んだ。
「リュカの店の話は後回しだ。確かに、店を開けないと近所の方が困るとは思うが。うかつに動くんじゃないぞ、お前たち。そいつは・・・そうだな、部屋のすみにでも転がしておけ」
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