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第四幕〜終わりの始まり〜
203 【マティアス】恋文
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「一度だけ、話しかけてくださったことを覚えてらっしゃいますか?」
残念ながら、記憶になかった。
「まあ、仕方ありません。お忙しい方ですから。すぐに軍役につかれたし、それどころじゃないですよね。でも私は忘れていません。あなたは私に聞いたんです。リュカが元気にしているのかって。それは心配そうな声でした。そんなあなたを信じたいと思ったんです」
「そうか」
イネスの話は、これまでリュカが私に見せてきた姿とは違いすぎて、どう受けとめたらいいのか、判断に迷った。だが、リュカの手紙を読んでから結論を出しても遅くはない。このままでいいのか、それとも・・・
「それでです。ちょっと疑問に思ったんですけど。遠縁のリュカそっくりさんに会わせていただけますか?」
弾かれたように顔をあげると、ネルが私をじっと見つめていた。
その目はすべてを知っていると語っていた。
「もちろんだよ」私は笑顔で応えた。「だが、残念なことに、あの子も流感にかかっていてね。また訪ねてくれないか?」
「ああ、そうですか・・・」ネルは残念そうに唇をかんだ。「義兄の仕事の関係で王都を訪れただけで・・・すぐに戻らなければならないんです。姉夫婦が体調を崩してしまったので、すべての予定が狂ってしまいまして・・・今日しかご訪問できないんです」
「そうか、それは残念だったね。天国にいるリュカも君が訪問してくれて喜んでいることだろう」
「・・・天国?」
「ああ、もちろん」
水のような冷たい空気が流れた。
「・・・そうですか。それでは失礼いたします」ネルは瞳にあらわれた不信を見事に消し去り、頭を下げた。
「ジュブワ男爵家、だったかな?」
「はい」
「覚えておくよ」
「ありがとうございます」
ネルはもう一度頭を下げ、去っていった。
利口な女だ。事情を察しているに違いない。だが、言わない知恵はある。イネスよりもよっぽどまともだな。
友人だろうとあんな女がそばにいたら、本当にイネスのような女を好きになるか?
ネルはそれはないと断言した。
まさか・・・
手の中で温められた手紙が存在を主張した。
他愛もない学園生活の話。
私の体調を気遣い、戦況を憂えている。
イネスについてはひと言も書かれていない。
『兄さんとイネスの仲に嫉妬して、兄さんと過ごせる学生時代を失ってしまった僕は本当に馬鹿だったと思います。
あなたは俺ひとりのものじゃない。産まれたときから高貴な身分と責任をもっている人なのに、僕はおさなすぎてそのことが分からなかった。でも、誰よりも大切な人です。
あなたがしてくれた口づけを忘れた日はありません。それが僕にとってどんなことだったか、想像つきますか?きっと無理でしょう。僕はあなたに抱きしめられていると、愛されているような錯覚を覚えました。どれほど幸せなことだったのか。今それを思い知っています。
兄さん、あなたがいない学園は恐ろしいほど広くて、空虚で耐えられません。いつか、この孤独に飲まれてしまうのではないかと恐ろしくなります。暗い夜は永遠に続き、朝が来ないのではないかとおびえながら空をながめた夜もありました。寒くてたまらないんです。手も足も凍りつき、いつか心臓まで凍ってしまうでしょう。
こんなことを書いてごめんなさい。(でも読まないから!と横にちいさなメモ)
早く戦争が終わりますように!そして兄さんが怪我をしないように祈っています。
また、明日も手紙を書きます。 リュカ
追伸 眠る前に兄さんの無事を10回祈ります。心からの口づけを。愛しています』
手が、震えた。
まさか・・・これがリュカの本心?
いや、そんなはずは・・・そんなはずはない。
でも、もしかして・・・信じてもいいのか?出来すぎてはいないか?
リュカ・・・今度こそ、お前を信じてもいいのか?
私は駆け出した。
リュカに会わなければ。リュカの本心を確かめなければ!
気がはやり、手紙が落ちたことには気づかなかった。
「リュカ!」
半地下の部屋の扉を開けると、リュカは眠っていた。
そうだ。リュカは私がいない時間はほとんど眠っていると言っていた。
足かせに目をやると、黒い鋼鉄が当たる足首は傷だらけで、血がにじんでいる。
(ああ、なんてこと・・・なんてことをしてしまったんだ。私のリュカ・・・)
私は足かせを外し、濡らしたリネンで足を清めた。新しい布を巻いてやると、少し罪悪感が薄れた。
リュカの髪をそっと撫でる。心から愛しいと、愛をこめて。
「兄さん?」リュカが目を覚ますと、私を見た。
「リュカ、足は傷むか?」
リュカは小さく目を見開くと、足かせが外されていることに気がついた。
「ああ・・・」
そうつぶやくと、私の前立てに手をかけた。
「いや、ちょっと待て。そういうことをしにきたんじゃ・・・」慌てて身をよじりリュカの手を外すと、リュカは不満そうに口をとがらせた。
「なんで?兄さんだって好きでしょう?それとも俺に飽きた?」
「そんなんじゃない。飽きたとか・・・」
「じゃあ、しようよ」
「リュカ・・・」
私達の間にあるのは、それ、だけなのか?本当に、それ、だけ?
「いや、今日は・・・」
「やらないなら戻ったら?忙しいんでしょ?どうせ俺ができるのは男娼の真似事だけだよ」
不貞腐れたリュカの言い草にかちんときた。
「なんてことを言うんだ!男娼などと!おまえはそんなんじゃない」
「へえ?そう?俺を一番男娼扱いしてるのは兄さんだろ?否定できないよな?俺を見ただけでこんなにおっ立てて」
「く・・・」
まるで条件反射のように、リュカの顔を見て声を聞き、前立てに手を伸ばされれば、反応してしまう。
今日は、話をしたいのに。
「ねえ?なんで我慢するの?兄さんの目当ては、コレでしょ?」
リュカが舌なめずりして、まるで私自身を誘い込むかのように大きく口を開けた。手で輪をつくるいやらしい仕草とともに。
「それとも、こっちかな?」
足を大きく開き、後穴を指し示すリュカの顔には、情欲と軽蔑が、まるで文字で書いてあるかのようにはっきりと浮かんでいた。
残念ながら、記憶になかった。
「まあ、仕方ありません。お忙しい方ですから。すぐに軍役につかれたし、それどころじゃないですよね。でも私は忘れていません。あなたは私に聞いたんです。リュカが元気にしているのかって。それは心配そうな声でした。そんなあなたを信じたいと思ったんです」
「そうか」
イネスの話は、これまでリュカが私に見せてきた姿とは違いすぎて、どう受けとめたらいいのか、判断に迷った。だが、リュカの手紙を読んでから結論を出しても遅くはない。このままでいいのか、それとも・・・
「それでです。ちょっと疑問に思ったんですけど。遠縁のリュカそっくりさんに会わせていただけますか?」
弾かれたように顔をあげると、ネルが私をじっと見つめていた。
その目はすべてを知っていると語っていた。
「もちろんだよ」私は笑顔で応えた。「だが、残念なことに、あの子も流感にかかっていてね。また訪ねてくれないか?」
「ああ、そうですか・・・」ネルは残念そうに唇をかんだ。「義兄の仕事の関係で王都を訪れただけで・・・すぐに戻らなければならないんです。姉夫婦が体調を崩してしまったので、すべての予定が狂ってしまいまして・・・今日しかご訪問できないんです」
「そうか、それは残念だったね。天国にいるリュカも君が訪問してくれて喜んでいることだろう」
「・・・天国?」
「ああ、もちろん」
水のような冷たい空気が流れた。
「・・・そうですか。それでは失礼いたします」ネルは瞳にあらわれた不信を見事に消し去り、頭を下げた。
「ジュブワ男爵家、だったかな?」
「はい」
「覚えておくよ」
「ありがとうございます」
ネルはもう一度頭を下げ、去っていった。
利口な女だ。事情を察しているに違いない。だが、言わない知恵はある。イネスよりもよっぽどまともだな。
友人だろうとあんな女がそばにいたら、本当にイネスのような女を好きになるか?
ネルはそれはないと断言した。
まさか・・・
手の中で温められた手紙が存在を主張した。
他愛もない学園生活の話。
私の体調を気遣い、戦況を憂えている。
イネスについてはひと言も書かれていない。
『兄さんとイネスの仲に嫉妬して、兄さんと過ごせる学生時代を失ってしまった僕は本当に馬鹿だったと思います。
あなたは俺ひとりのものじゃない。産まれたときから高貴な身分と責任をもっている人なのに、僕はおさなすぎてそのことが分からなかった。でも、誰よりも大切な人です。
あなたがしてくれた口づけを忘れた日はありません。それが僕にとってどんなことだったか、想像つきますか?きっと無理でしょう。僕はあなたに抱きしめられていると、愛されているような錯覚を覚えました。どれほど幸せなことだったのか。今それを思い知っています。
兄さん、あなたがいない学園は恐ろしいほど広くて、空虚で耐えられません。いつか、この孤独に飲まれてしまうのではないかと恐ろしくなります。暗い夜は永遠に続き、朝が来ないのではないかとおびえながら空をながめた夜もありました。寒くてたまらないんです。手も足も凍りつき、いつか心臓まで凍ってしまうでしょう。
こんなことを書いてごめんなさい。(でも読まないから!と横にちいさなメモ)
早く戦争が終わりますように!そして兄さんが怪我をしないように祈っています。
また、明日も手紙を書きます。 リュカ
追伸 眠る前に兄さんの無事を10回祈ります。心からの口づけを。愛しています』
手が、震えた。
まさか・・・これがリュカの本心?
いや、そんなはずは・・・そんなはずはない。
でも、もしかして・・・信じてもいいのか?出来すぎてはいないか?
リュカ・・・今度こそ、お前を信じてもいいのか?
私は駆け出した。
リュカに会わなければ。リュカの本心を確かめなければ!
気がはやり、手紙が落ちたことには気づかなかった。
「リュカ!」
半地下の部屋の扉を開けると、リュカは眠っていた。
そうだ。リュカは私がいない時間はほとんど眠っていると言っていた。
足かせに目をやると、黒い鋼鉄が当たる足首は傷だらけで、血がにじんでいる。
(ああ、なんてこと・・・なんてことをしてしまったんだ。私のリュカ・・・)
私は足かせを外し、濡らしたリネンで足を清めた。新しい布を巻いてやると、少し罪悪感が薄れた。
リュカの髪をそっと撫でる。心から愛しいと、愛をこめて。
「兄さん?」リュカが目を覚ますと、私を見た。
「リュカ、足は傷むか?」
リュカは小さく目を見開くと、足かせが外されていることに気がついた。
「ああ・・・」
そうつぶやくと、私の前立てに手をかけた。
「いや、ちょっと待て。そういうことをしにきたんじゃ・・・」慌てて身をよじりリュカの手を外すと、リュカは不満そうに口をとがらせた。
「なんで?兄さんだって好きでしょう?それとも俺に飽きた?」
「そんなんじゃない。飽きたとか・・・」
「じゃあ、しようよ」
「リュカ・・・」
私達の間にあるのは、それ、だけなのか?本当に、それ、だけ?
「いや、今日は・・・」
「やらないなら戻ったら?忙しいんでしょ?どうせ俺ができるのは男娼の真似事だけだよ」
不貞腐れたリュカの言い草にかちんときた。
「なんてことを言うんだ!男娼などと!おまえはそんなんじゃない」
「へえ?そう?俺を一番男娼扱いしてるのは兄さんだろ?否定できないよな?俺を見ただけでこんなにおっ立てて」
「く・・・」
まるで条件反射のように、リュカの顔を見て声を聞き、前立てに手を伸ばされれば、反応してしまう。
今日は、話をしたいのに。
「ねえ?なんで我慢するの?兄さんの目当ては、コレでしょ?」
リュカが舌なめずりして、まるで私自身を誘い込むかのように大きく口を開けた。手で輪をつくるいやらしい仕草とともに。
「それとも、こっちかな?」
足を大きく開き、後穴を指し示すリュカの顔には、情欲と軽蔑が、まるで文字で書いてあるかのようにはっきりと浮かんでいた。
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