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第四幕〜終わりの始まり〜
195 【マティアス】愛人
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今回は、マティアスが愛人といたしています。
とっても苦手な方は避けてくださいね。
********************
リュカのいとこ、という娘のことは覚えてはいるが・・・
大口を開けてないていた姿しか思い出せない。
(真っ赤な顔で泣いていたような・・・?)
美人だったかブサイクだったかすらよくわからない。ただ、感情表現が素直な少女だと思っただけだ。
あんなふうにまっすぐに悲しみを表せたら、楽だろうな、と。
私とはかけ離れた存在だった。
調べさせたところ、娘の父親の恋人は、かつて父が必死に探し、殺そうとしていた、医者の見習いだとわかった。
であれば、見習いは本当は王都にいたくはないのではないか?私の気が変わり、いつ殺されるともわからない。だが、恋人のいる王都を離れたくない、ということなんだろう。
そして、娘の父親とて、恋人とともに王都を去りたくとも、適齢期の娘が嫁ぐまでは、と思っているのでは?
なにもかもが好都合だった。
うるさい血縁者はいない。しかも、末端ではあるが貴族の血筋。
正妻でなければ、なんとでもなる程度の身分も持っている。
おそらく、あの娘の何かはリュカを思い出させてくれるに違いない。
それから一月通い詰め、娘は私の愛人におさまった。
父と恋人は王都を去り、ミラは私が与えた家に住むことになった。
ちいさな屋敷だが、使用人を使う立場に恐縮し、落ち着くまでには時間がかかりそうだ。
ミラは、美しい黒髪と笑った顔が、リュカに似ていた。
娘は・・・ミラは、私の唯一の愛人になるならと、了承した。
「もう、裏切られるのは嫌なんです。リュカは私のこと好きだって言ったのに・・・他に何人も女の人がいて・・・」ミラは唇をかみ、涙をこぼした。
私はミラを引き寄せ、額に口づけた。まるで、私のようではないか。手の届かないリュカに恋をして破れ、そして裏切りに傷ついている。
その夜、ミラを抱いた。私は、ミラのはじめての男だった。
「リュカは手を出さなかったのか?」
無粋だが、腕の中のミラに聞かずにいられなかった。
「そ、そんな。そんな関係じゃなかったです。ただ・・・今となっては何だったのかもわからない・・・単なるきまぐれだったのかも。それに、今は公爵様・・・いえ、マティアス様のものですから」
真っ赤にほほを染めたミラは可愛らしかった。
そうか、この子が本命だったのか。
腹の底から笑いがこみ上げてきた。
ナタリーもイネスも皆遊びだ。ミラにだけは告白しても手を出せなかった。
『愛したのはひとりだけです』
そうか、リュカ。お前の愛する人は、私の愛人だ。
昏い喜びが腹の底からわきあがってくる。
「な、なにかおかしかったですか?」ミラが腕の中で戸惑っている。「ごめんなさい、私、分からなくて。これから勉強しますから」
「いや?そのままでいい。約束するよ。これから抱く女は君だけだ」
「マティアス様」
「うれしいだけさ。君の大切なものをくれてありがとう」
ミラの全身が赤く染まった。
それはそれで、私の劣情を誘った。
ふた月もしないうちに、ミラは懐妊した。
それを知ったベネディクトは、涙を流して喜んだ。
紛れもない私の子だからだ。
私もほっとした。無事に生まれてくれるまではなんとも言えないが、だが、責任を果たした気がする。
自分で思っていたよりも、必ず子をなさねばならないという責務は重圧になっていたようだ。
子は男をふたりは作れと言われている。ミラとならもうひとりぐらいたやすく作れるだろう。
*******************
「マティアス」
翌朝、ミラの家から屋敷に戻ると、イネスが目を吊り上げて待っていた。
その腹は大きく、今にも子どもが生まれそうなほどだ。
一晩中まんじりともしなかったのか、目は充血し、真っ黒なくまに縁取られていた。
寝間着のまま、正面玄関に両足を踏みしめて立つ姿はとても公爵夫人とは思えない。
「あなた、女がいるのね」
思わずため息がこぼれる。当然だろう。まさか私が単なる楽しみのために女を抱いているとでも?
それを誰からも見えるところで責め立てるとは・・・
「それが何か?」
私が冷静に返すと、イネスが爆発した。
「なんでよ!なんでなのよ!裏切りだわ!こんなのってない」
「おやおや」
私は片眉を上げた。
「書斎で続きを聞こう。私は使用人全員に私達夫婦の真相を伝える趣味はないのでね」
するりと横を通り抜けて書斎に向かうと、イネスが叫びながら追いかけてきた。
「私は!もうすぐあなたの子を産む妻なのよ!それなのに、どういうこと!」
「黙れ。ベネディクト!」
「お前たち!仕事をサボるんじゃない!」私を迎えに出たベネディクトが大声で指示すると、家中あちこちから顔を出していた使用人の首が引っ込んだ。当然だ。こんな面白い騒ぎを見逃したくはないだろう。そんなことにも気づかないとは、本当に・・・
「イネス。君は女主人だろう。そんな姿を見せてどう敬えと?」
「な、なによ!」
「いい加減にしろ」
私はイネスを書斎の中に押し込んだ。
「ジャック」腹心の名を呼ぶと、目で承知したと応えてきた。
「さて」背中の後ろで扉が閉まった。おそらくジャックが誰も近づけないようににらみを聞かせてくれることだろう。
「忘れているようだが。私達の結婚は、私以外の子を妊娠した君を助けるために行った。違うか?」
「マティアス!」
「しかも、私が何をしようと文句は言わないと条件付きだ」
「マティアス・・・でも・・・」
「君は君の仕事をしっかりすべきだろう。家政を取り仕切り、社交をしっかりやるのが君の勤めだ。友達ばかりと遊び回るのが社交ではないぞ」
「マティアス、だって・・・」イネスは泣き出した。「だって、この子はあなたの子なのよ?未来の公爵が生まれるのに、他の女なんて・・・」
「いい加減にしろ。誰の子かは自分が一番良くわかっているだろう?それとも、修道院にでも行くか?」
「ひどいじゃない!」
イネスが真っ赤になって叫んだ。「淑女としての嗜みもあったもんじゃないな」と思うと同時にイネスの足元にしゃーっと水が流れ出した。
「おいおい、失禁とは・・・」
「ち、ちがう・・・マティアス・・・これはちがう・・・お医者さんを呼んで」
「ジャック!」
ジャックが素早く部屋に入ると状況を見て取った。
「医者を呼べ!奥様が産気づかれた!」
とっても苦手な方は避けてくださいね。
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リュカのいとこ、という娘のことは覚えてはいるが・・・
大口を開けてないていた姿しか思い出せない。
(真っ赤な顔で泣いていたような・・・?)
美人だったかブサイクだったかすらよくわからない。ただ、感情表現が素直な少女だと思っただけだ。
あんなふうにまっすぐに悲しみを表せたら、楽だろうな、と。
私とはかけ離れた存在だった。
調べさせたところ、娘の父親の恋人は、かつて父が必死に探し、殺そうとしていた、医者の見習いだとわかった。
であれば、見習いは本当は王都にいたくはないのではないか?私の気が変わり、いつ殺されるともわからない。だが、恋人のいる王都を離れたくない、ということなんだろう。
そして、娘の父親とて、恋人とともに王都を去りたくとも、適齢期の娘が嫁ぐまでは、と思っているのでは?
なにもかもが好都合だった。
うるさい血縁者はいない。しかも、末端ではあるが貴族の血筋。
正妻でなければ、なんとでもなる程度の身分も持っている。
おそらく、あの娘の何かはリュカを思い出させてくれるに違いない。
それから一月通い詰め、娘は私の愛人におさまった。
父と恋人は王都を去り、ミラは私が与えた家に住むことになった。
ちいさな屋敷だが、使用人を使う立場に恐縮し、落ち着くまでには時間がかかりそうだ。
ミラは、美しい黒髪と笑った顔が、リュカに似ていた。
娘は・・・ミラは、私の唯一の愛人になるならと、了承した。
「もう、裏切られるのは嫌なんです。リュカは私のこと好きだって言ったのに・・・他に何人も女の人がいて・・・」ミラは唇をかみ、涙をこぼした。
私はミラを引き寄せ、額に口づけた。まるで、私のようではないか。手の届かないリュカに恋をして破れ、そして裏切りに傷ついている。
その夜、ミラを抱いた。私は、ミラのはじめての男だった。
「リュカは手を出さなかったのか?」
無粋だが、腕の中のミラに聞かずにいられなかった。
「そ、そんな。そんな関係じゃなかったです。ただ・・・今となっては何だったのかもわからない・・・単なるきまぐれだったのかも。それに、今は公爵様・・・いえ、マティアス様のものですから」
真っ赤にほほを染めたミラは可愛らしかった。
そうか、この子が本命だったのか。
腹の底から笑いがこみ上げてきた。
ナタリーもイネスも皆遊びだ。ミラにだけは告白しても手を出せなかった。
『愛したのはひとりだけです』
そうか、リュカ。お前の愛する人は、私の愛人だ。
昏い喜びが腹の底からわきあがってくる。
「な、なにかおかしかったですか?」ミラが腕の中で戸惑っている。「ごめんなさい、私、分からなくて。これから勉強しますから」
「いや?そのままでいい。約束するよ。これから抱く女は君だけだ」
「マティアス様」
「うれしいだけさ。君の大切なものをくれてありがとう」
ミラの全身が赤く染まった。
それはそれで、私の劣情を誘った。
ふた月もしないうちに、ミラは懐妊した。
それを知ったベネディクトは、涙を流して喜んだ。
紛れもない私の子だからだ。
私もほっとした。無事に生まれてくれるまではなんとも言えないが、だが、責任を果たした気がする。
自分で思っていたよりも、必ず子をなさねばならないという責務は重圧になっていたようだ。
子は男をふたりは作れと言われている。ミラとならもうひとりぐらいたやすく作れるだろう。
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「マティアス」
翌朝、ミラの家から屋敷に戻ると、イネスが目を吊り上げて待っていた。
その腹は大きく、今にも子どもが生まれそうなほどだ。
一晩中まんじりともしなかったのか、目は充血し、真っ黒なくまに縁取られていた。
寝間着のまま、正面玄関に両足を踏みしめて立つ姿はとても公爵夫人とは思えない。
「あなた、女がいるのね」
思わずため息がこぼれる。当然だろう。まさか私が単なる楽しみのために女を抱いているとでも?
それを誰からも見えるところで責め立てるとは・・・
「それが何か?」
私が冷静に返すと、イネスが爆発した。
「なんでよ!なんでなのよ!裏切りだわ!こんなのってない」
「おやおや」
私は片眉を上げた。
「書斎で続きを聞こう。私は使用人全員に私達夫婦の真相を伝える趣味はないのでね」
するりと横を通り抜けて書斎に向かうと、イネスが叫びながら追いかけてきた。
「私は!もうすぐあなたの子を産む妻なのよ!それなのに、どういうこと!」
「黙れ。ベネディクト!」
「お前たち!仕事をサボるんじゃない!」私を迎えに出たベネディクトが大声で指示すると、家中あちこちから顔を出していた使用人の首が引っ込んだ。当然だ。こんな面白い騒ぎを見逃したくはないだろう。そんなことにも気づかないとは、本当に・・・
「イネス。君は女主人だろう。そんな姿を見せてどう敬えと?」
「な、なによ!」
「いい加減にしろ」
私はイネスを書斎の中に押し込んだ。
「ジャック」腹心の名を呼ぶと、目で承知したと応えてきた。
「さて」背中の後ろで扉が閉まった。おそらくジャックが誰も近づけないようににらみを聞かせてくれることだろう。
「忘れているようだが。私達の結婚は、私以外の子を妊娠した君を助けるために行った。違うか?」
「マティアス!」
「しかも、私が何をしようと文句は言わないと条件付きだ」
「マティアス・・・でも・・・」
「君は君の仕事をしっかりすべきだろう。家政を取り仕切り、社交をしっかりやるのが君の勤めだ。友達ばかりと遊び回るのが社交ではないぞ」
「マティアス、だって・・・」イネスは泣き出した。「だって、この子はあなたの子なのよ?未来の公爵が生まれるのに、他の女なんて・・・」
「いい加減にしろ。誰の子かは自分が一番良くわかっているだろう?それとも、修道院にでも行くか?」
「ひどいじゃない!」
イネスが真っ赤になって叫んだ。「淑女としての嗜みもあったもんじゃないな」と思うと同時にイネスの足元にしゃーっと水が流れ出した。
「おいおい、失禁とは・・・」
「ち、ちがう・・・マティアス・・・これはちがう・・・お医者さんを呼んで」
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