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第四幕〜終わりの始まり〜
185 【リュカ】出口
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「嘘だろう?これで終わり?」
なんでだよ。なんで書いておいてくれないんだよ。
目の前に差し出されたごちそうをかっさらわれた犬みたいにしょんぼりと肩を落とす。
だが、大公妃は、自分の気持を書き残していただけで、脱出方法を教えようなんて考えてもいなかっただろう。
大公妃はどうなったのかな?ちらりと思う。もしかしたら、「あの人」と逃げたのか、それともバレて殺されたのか・・・まあ、今の俺にはどうしようもないことだ、と気にしないことにした。
どっちにしろ、死んでるだろう。
クローゼットだとばかり思ってたのは、外への玄関口だった。
ならば、出口は奥にあるはずだ。
クローゼットの扉を開けると、その奥にはまったいらな白い壁。そうだ、だから作り付けのクローゼットだと思ったんだ。
(うーん)
指でたどってみても、どこにも隙間はない。
どこかに隠し扉が細工してあるなんて、思いもよらない真っ白な壁だ。
(・・・白すぎる)
おかしいだろ、これ。全部石造りの壁なのに、なんでここだけたいらなんだよ。
もしかして・・・
俺はほうきの柄で右上の角をガツンと押してみた。
もろくなっているのか、ピシッと音をたて、しっくいにヒビが入った。
もう一度ほうきの柄で強く叩くと、しっくいはボロボロと音をたててくずれ、足元に雪のように降り注いだ。
ゴシゴシとしっくいをこするとその下には木材が見えた。
(なあんだ)
答えはここにあったんだ。鉄格子の奥のぼろぼろになった木材。
同じ時期に作られてものなのか、劣化した木材なら、天井にはめ込まれた木と同じようにくずれてくれるだろう。
ギシギシと扉の向こうから、かんぬきを外す音がする。
俺は素早く「クローゼット」の扉を閉め、ベッドに座った。
「リュカ、食事を持ってきたよ」
兄さんの声だ。俺は微笑みを顔に貼り付けた。
******************
「クローゼット」の奥に貼り付けられた木をはがすまでに、一週間かかった。
すこしずつ丹念にほうきの柄を使ってしっくいと木材をはがしていく。しっくいを剥がすと、木材が何枚か貼り付けられていることがわかった。俺の足かせをてこにして木を浮き上がらせようとすると、ミシミシと音をたて木材が剥がれた。その後ろには、扉があった。
(やった・・・!!)
でも、俺は足かせで繋がれている。どうしたら・・・
足かせを外すための妙案は思いつかない。
でも、木材をはがすために無理を重ねた俺の足は傷つき、血が流れていた。
(痛え・・・でも、扉が見つかったんだからいいじゃないか)
その夜、食事を運んできた兄は、俺の足を見て眉をひそめた。
「ひどいな」
そう言うと、ポケットからちいさな鍵を取り出し、俺の足を両手で包むとそっと足かせを外した。
「今日はこれ以上時間がとれないんだ・・・かわいそうに。明日は薬をもってきてやろう」
兄は首元のタイを外し、俺の足首に巻き付けた。
「明日まで我慢できるか?血が出てるじゃないか」
「う・・・うん、大丈夫。全然痛くないから」
「痛くないわけないだろう」
「どうでもいい社交さえなければ、すぐにクスリをもってきてやるのに」
「い・・・いい!社交、社交に行ってください」
兄は俺を見たが、小さくため息をついた。
「すまないな」
兄の言葉にずきりと大きく心臓が鳴った。
兄さんがどうしたいのかわからない。俺をここに閉じ込め、誰にも会わせずただ食事だけをさせている。一体何が目的なのかわからない。それなのに、兄に優しくされると、すぐに俺の心は揺らいだ。
困り果てて兄を見ると、兄は小さくほほえみ食べ終わった食器をもって部屋から出ていった。
心を落ち着けて耳をすます。兄の足音がすこしずつ遠ざかっていった。
いま、俺の足かせは外れている。
逃げるなら、今しかない。
100かぞえた後、俺はこっそり扉から抜け出した。
夜風が頬をなで、草の匂いが漂ってきた。
久しぶりだ。
体の底から喜びがわきあがる。
ここがどこだかわからない。だが、暗闇に身を潜めながら建物に沿って歩いていくと、公爵邸の裏手についた。
以前、兄さんはここが公爵邸だって言ってたけど、本当にそうだったんだ。
広大な公爵邸で限られた場所にしか行かなかったから、分からなかった。
まずは、服と馬がほしい。
こっそりと馬小屋に近づき、干しっぱなしになっていた服を失敬した。
ついでにぼろぼろになった靴も見つけたのでそれもいただいた。贅沢は言ってられない。
俺はお礼の代わりに俺が着ていた寝間着を置いた。シルク製だから売ればもらった服と靴ぐらいの金にはなるだろう。
ちょうど、公爵夫妻がどこかに出かけるらしく、馬丁も下働きの小僧も出払っていた。
扉付近の馬にこっそりと鞍をのせ、静かに馬を引き裏口から下町に向かった。
力になってくれそうな人はおじさんしかおもいつかない。
一体どれほどの時が経ったのかもわからない。どうしてこんなにあたまがぼんやりしているのかもわからない。
でも、とにかく、逃げるしかない。
なんでだよ。なんで書いておいてくれないんだよ。
目の前に差し出されたごちそうをかっさらわれた犬みたいにしょんぼりと肩を落とす。
だが、大公妃は、自分の気持を書き残していただけで、脱出方法を教えようなんて考えてもいなかっただろう。
大公妃はどうなったのかな?ちらりと思う。もしかしたら、「あの人」と逃げたのか、それともバレて殺されたのか・・・まあ、今の俺にはどうしようもないことだ、と気にしないことにした。
どっちにしろ、死んでるだろう。
クローゼットだとばかり思ってたのは、外への玄関口だった。
ならば、出口は奥にあるはずだ。
クローゼットの扉を開けると、その奥にはまったいらな白い壁。そうだ、だから作り付けのクローゼットだと思ったんだ。
(うーん)
指でたどってみても、どこにも隙間はない。
どこかに隠し扉が細工してあるなんて、思いもよらない真っ白な壁だ。
(・・・白すぎる)
おかしいだろ、これ。全部石造りの壁なのに、なんでここだけたいらなんだよ。
もしかして・・・
俺はほうきの柄で右上の角をガツンと押してみた。
もろくなっているのか、ピシッと音をたて、しっくいにヒビが入った。
もう一度ほうきの柄で強く叩くと、しっくいはボロボロと音をたててくずれ、足元に雪のように降り注いだ。
ゴシゴシとしっくいをこするとその下には木材が見えた。
(なあんだ)
答えはここにあったんだ。鉄格子の奥のぼろぼろになった木材。
同じ時期に作られてものなのか、劣化した木材なら、天井にはめ込まれた木と同じようにくずれてくれるだろう。
ギシギシと扉の向こうから、かんぬきを外す音がする。
俺は素早く「クローゼット」の扉を閉め、ベッドに座った。
「リュカ、食事を持ってきたよ」
兄さんの声だ。俺は微笑みを顔に貼り付けた。
******************
「クローゼット」の奥に貼り付けられた木をはがすまでに、一週間かかった。
すこしずつ丹念にほうきの柄を使ってしっくいと木材をはがしていく。しっくいを剥がすと、木材が何枚か貼り付けられていることがわかった。俺の足かせをてこにして木を浮き上がらせようとすると、ミシミシと音をたて木材が剥がれた。その後ろには、扉があった。
(やった・・・!!)
でも、俺は足かせで繋がれている。どうしたら・・・
足かせを外すための妙案は思いつかない。
でも、木材をはがすために無理を重ねた俺の足は傷つき、血が流れていた。
(痛え・・・でも、扉が見つかったんだからいいじゃないか)
その夜、食事を運んできた兄は、俺の足を見て眉をひそめた。
「ひどいな」
そう言うと、ポケットからちいさな鍵を取り出し、俺の足を両手で包むとそっと足かせを外した。
「今日はこれ以上時間がとれないんだ・・・かわいそうに。明日は薬をもってきてやろう」
兄は首元のタイを外し、俺の足首に巻き付けた。
「明日まで我慢できるか?血が出てるじゃないか」
「う・・・うん、大丈夫。全然痛くないから」
「痛くないわけないだろう」
「どうでもいい社交さえなければ、すぐにクスリをもってきてやるのに」
「い・・・いい!社交、社交に行ってください」
兄は俺を見たが、小さくため息をついた。
「すまないな」
兄の言葉にずきりと大きく心臓が鳴った。
兄さんがどうしたいのかわからない。俺をここに閉じ込め、誰にも会わせずただ食事だけをさせている。一体何が目的なのかわからない。それなのに、兄に優しくされると、すぐに俺の心は揺らいだ。
困り果てて兄を見ると、兄は小さくほほえみ食べ終わった食器をもって部屋から出ていった。
心を落ち着けて耳をすます。兄の足音がすこしずつ遠ざかっていった。
いま、俺の足かせは外れている。
逃げるなら、今しかない。
100かぞえた後、俺はこっそり扉から抜け出した。
夜風が頬をなで、草の匂いが漂ってきた。
久しぶりだ。
体の底から喜びがわきあがる。
ここがどこだかわからない。だが、暗闇に身を潜めながら建物に沿って歩いていくと、公爵邸の裏手についた。
以前、兄さんはここが公爵邸だって言ってたけど、本当にそうだったんだ。
広大な公爵邸で限られた場所にしか行かなかったから、分からなかった。
まずは、服と馬がほしい。
こっそりと馬小屋に近づき、干しっぱなしになっていた服を失敬した。
ついでにぼろぼろになった靴も見つけたのでそれもいただいた。贅沢は言ってられない。
俺はお礼の代わりに俺が着ていた寝間着を置いた。シルク製だから売ればもらった服と靴ぐらいの金にはなるだろう。
ちょうど、公爵夫妻がどこかに出かけるらしく、馬丁も下働きの小僧も出払っていた。
扉付近の馬にこっそりと鞍をのせ、静かに馬を引き裏口から下町に向かった。
力になってくれそうな人はおじさんしかおもいつかない。
一体どれほどの時が経ったのかもわからない。どうしてこんなにあたまがぼんやりしているのかもわからない。
でも、とにかく、逃げるしかない。
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