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第四幕〜終わりの始まり〜
182 【リュカ】なぜ、閉じ込めた?
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「死んだ・・・?」
呆然とする俺に、兄がにやりと笑った。
「私の弟のリュカは、何者かに襲われて怪我を負った後、寝たきりになっていたんだが、流行り病であっけなく・・・ね」
「な、何だそれ」
「もう葬式も済んだ。そう、かれこれ・・・半年にはなるな。いろいろあったよ。あれからね」
「ど、どういうこと・・・」
「おまえ、不思議に思わないのか?記憶ははっきりとしているのか?私達が最後に会ったときのことは?」
「・・・覚えてるよ」本当は全部覚えているわけじゃない。ところどころもやがかかったようになっているが、いまそう答えるのは不利な気がした。
「兄さんが俺を殺そうとしたことも」
「まさか。そんなことするわけないだろう。口が悪いぞ。リュカ」
「後ろから頭を殴られたことは覚えている」
「本気で殴ったらお前は生きてはいないよ。ちょっと止めようとしただけさ」
「ちょっと・・・?」
「いや、そこは詫びよう。正直、お前のいのちを奪ってしまったと思った時は、本当に恐ろしかった。私も生きた心地がしなかった。殺す気はなかったんだ。だが・・・」
いま、俺はどう答えたらいいんだろう。
目の前の男は、俺をどうとでもできる立場なんだ。
なぶり殺しでも、餓死でも。
腰にはいている剣を一振りすれば、俺の頭は床に転がっているだろう。しかも、おとがめなしで。
それに、こいつは俺がここにいることをだれにも知らせていないだろう。
嫡男しか知らない隠し部屋。鍵をかけて放置して一週間もすれば、手を下すまでもない。死体の出来上がりだ。
「・・・ここはどこだ?」
「さっきも言ったろう?ここは、大公妃のために作られた特別な部屋だよ」
「幽閉先ってことか?」
「大公はね、大公妃を愛していたんだ。裏切られても手放せないほどにね。大公妃はここで3人の子を身ごもったそうだよ。最後は産褥で亡くなってしまったと伝わっているが・・・お前に子が産めなくてよかった」
「おい」ゾクリと寒気が背中から走り抜けた。
まさか・・・妙に不似合いなほど大きなベッド。
ふかふかで寝心地がよく、まるで・・・公爵が寝てもいいほどの高級なしつらえ・・・まさか・・・
「安心しろ。私はそこまで鬼畜ではない。お前はまだ目覚めたばかりで体調も悪いだろう?待てるから、療養に専念しなさい」
「ちょっと、待ってくれ、一体何を・・・」
「お前はここにいるんだよ。永久にな」
「嘘だ・・・嘘だろう?」
「そんなに心配することはない。まずは食事をきちんと取って体力を回復させるんだ。いいな?それにお前が死んだあとのことも心配しなくていい。お前の子は・・・娘だったよ。黒髪の可愛い子だ。今、下屋敷で育てさせている」
子は無事に生まれたのか・・・黒髪なら苦労するだろう。
両親が金髪なら、不貞を暴露しているようなものだからな・・・結局、俺のしたことは何もかもが無駄だったのか。
会ったこともない子には、気の毒な気もしたが、親としての情のかけらもわかなかった。
「ああ、それから。お前の弟・・・私の弟でもあるが、シモンが立派に育ってくれた。私を支えると一生懸命勉強してくれているよ。まあ、あいつは顔だちも公爵家の系統だし・・・お前もそのほうがいいと思っていたんだろう?」
矢継ぎ早に与えられた情報に、返す言葉が見つからない。
俺がパクパクと口を開け、言葉を探していると、兄は小さく笑って俺に口づけた。
「相変わらず、かわいいな。愛してるよ、リュカ。ここで私の帰りだけを楽しみにしていてくれ。毎日お前の元に帰ってくるよ。ずっとそばにいたいけど、そうもいかないのは知っているだろう?」
まるで、愛しいとでも言うように、俺の頬をなで、すっと身を引いた。
「だが、二度と騙されない。少しでも私を愛しているふりをしたら殺す。覚えておけ」
兄は瞳が氷のように冷たくなり、返事を待たずに扉の外に消えた。
頑丈な扉は重い音をたてて閉まり、外では鍵とかんぬきをかける音が響いた。
なぜ・・・なぜ?兄はあんなに俺のことを怒っているんだ?記憶はあいまいで、はっきりしたことはわからない。ただ、兄に抱かれた幸せな記憶は鮮明に残っている。それなのに、愛しているふりをするな?
「ふり」じゃない。でもそういった瞬間に殺されそうなほど冷たい声だった。
なぜ俺をここに閉じ込めた?なぶり殺しにするつもりなのか、それとも、餓死させるつもりなのか。
まさか・・・背中の後ろには、何かを主張するように大きなベッド。
にわかには、信じられない。
もしかして本当に、兄は俺をこの部屋で抱くためだけに俺を閉じ込めたのか?
ならなぜ死んだことに?
・・・生きて外に出すつもりがないからだ。
その意図を理解すると、背筋が凍った。
逃げなければ。
理屈なんかない。
とにかく、逃げなければ。
呆然とする俺に、兄がにやりと笑った。
「私の弟のリュカは、何者かに襲われて怪我を負った後、寝たきりになっていたんだが、流行り病であっけなく・・・ね」
「な、何だそれ」
「もう葬式も済んだ。そう、かれこれ・・・半年にはなるな。いろいろあったよ。あれからね」
「ど、どういうこと・・・」
「おまえ、不思議に思わないのか?記憶ははっきりとしているのか?私達が最後に会ったときのことは?」
「・・・覚えてるよ」本当は全部覚えているわけじゃない。ところどころもやがかかったようになっているが、いまそう答えるのは不利な気がした。
「兄さんが俺を殺そうとしたことも」
「まさか。そんなことするわけないだろう。口が悪いぞ。リュカ」
「後ろから頭を殴られたことは覚えている」
「本気で殴ったらお前は生きてはいないよ。ちょっと止めようとしただけさ」
「ちょっと・・・?」
「いや、そこは詫びよう。正直、お前のいのちを奪ってしまったと思った時は、本当に恐ろしかった。私も生きた心地がしなかった。殺す気はなかったんだ。だが・・・」
いま、俺はどう答えたらいいんだろう。
目の前の男は、俺をどうとでもできる立場なんだ。
なぶり殺しでも、餓死でも。
腰にはいている剣を一振りすれば、俺の頭は床に転がっているだろう。しかも、おとがめなしで。
それに、こいつは俺がここにいることをだれにも知らせていないだろう。
嫡男しか知らない隠し部屋。鍵をかけて放置して一週間もすれば、手を下すまでもない。死体の出来上がりだ。
「・・・ここはどこだ?」
「さっきも言ったろう?ここは、大公妃のために作られた特別な部屋だよ」
「幽閉先ってことか?」
「大公はね、大公妃を愛していたんだ。裏切られても手放せないほどにね。大公妃はここで3人の子を身ごもったそうだよ。最後は産褥で亡くなってしまったと伝わっているが・・・お前に子が産めなくてよかった」
「おい」ゾクリと寒気が背中から走り抜けた。
まさか・・・妙に不似合いなほど大きなベッド。
ふかふかで寝心地がよく、まるで・・・公爵が寝てもいいほどの高級なしつらえ・・・まさか・・・
「安心しろ。私はそこまで鬼畜ではない。お前はまだ目覚めたばかりで体調も悪いだろう?待てるから、療養に専念しなさい」
「ちょっと、待ってくれ、一体何を・・・」
「お前はここにいるんだよ。永久にな」
「嘘だ・・・嘘だろう?」
「そんなに心配することはない。まずは食事をきちんと取って体力を回復させるんだ。いいな?それにお前が死んだあとのことも心配しなくていい。お前の子は・・・娘だったよ。黒髪の可愛い子だ。今、下屋敷で育てさせている」
子は無事に生まれたのか・・・黒髪なら苦労するだろう。
両親が金髪なら、不貞を暴露しているようなものだからな・・・結局、俺のしたことは何もかもが無駄だったのか。
会ったこともない子には、気の毒な気もしたが、親としての情のかけらもわかなかった。
「ああ、それから。お前の弟・・・私の弟でもあるが、シモンが立派に育ってくれた。私を支えると一生懸命勉強してくれているよ。まあ、あいつは顔だちも公爵家の系統だし・・・お前もそのほうがいいと思っていたんだろう?」
矢継ぎ早に与えられた情報に、返す言葉が見つからない。
俺がパクパクと口を開け、言葉を探していると、兄は小さく笑って俺に口づけた。
「相変わらず、かわいいな。愛してるよ、リュカ。ここで私の帰りだけを楽しみにしていてくれ。毎日お前の元に帰ってくるよ。ずっとそばにいたいけど、そうもいかないのは知っているだろう?」
まるで、愛しいとでも言うように、俺の頬をなで、すっと身を引いた。
「だが、二度と騙されない。少しでも私を愛しているふりをしたら殺す。覚えておけ」
兄は瞳が氷のように冷たくなり、返事を待たずに扉の外に消えた。
頑丈な扉は重い音をたてて閉まり、外では鍵とかんぬきをかける音が響いた。
なぜ・・・なぜ?兄はあんなに俺のことを怒っているんだ?記憶はあいまいで、はっきりしたことはわからない。ただ、兄に抱かれた幸せな記憶は鮮明に残っている。それなのに、愛しているふりをするな?
「ふり」じゃない。でもそういった瞬間に殺されそうなほど冷たい声だった。
なぜ俺をここに閉じ込めた?なぶり殺しにするつもりなのか、それとも、餓死させるつもりなのか。
まさか・・・背中の後ろには、何かを主張するように大きなベッド。
にわかには、信じられない。
もしかして本当に、兄は俺をこの部屋で抱くためだけに俺を閉じ込めたのか?
ならなぜ死んだことに?
・・・生きて外に出すつもりがないからだ。
その意図を理解すると、背筋が凍った。
逃げなければ。
理屈なんかない。
とにかく、逃げなければ。
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