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後日譚〜あれから〜

番外編1 【マティアス】ナタリー ※175話と176話の間とその後のお話です。

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BL大賞が始まりました。一応参加してますので、よろしければ応援お願いいたします。
番外編、というよりは続編がこのあと続きます。あんまり長くしたくないので、期間内の終了を目指していますが、すでに弱気です。
3本ほど、本編からカットした番外編を掲載して、その後続編になります。

それでは、はじまります!

ちなみに番外編は、BL臭がうすすぎるため、本編からカットした話になります。
若干、本編とダブりますが、あったほうが後日譚の意味がわかるので掲載することにしました。
こちらは、175話と176話の間を埋める部分とその後です。

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リュカとイネスの本当の関係を知ってしまった日。

私は、医師が止めるのも聞かず、リュカを寮から屋敷に連れ帰った。
リュカは一度目を開けたが、かすみがかかったような焦点が合わない視線を私に向け、すぐにまた眠りに落ちてしまった。
このまま、どうなってしまうかわからない。

頭の傷は塞がらず、屋敷に着くまでにはまた出血が始まっていた。
公爵家の御用医師は「こんな状態の患者を動かすなんて」と憤慨していたが、私がひと睨みすれば口を閉じた。
一進一退が続く中、たちまち月日は過ぎ去り、リュカの命が失われずにすんだとはっきりわかるまで、一月以上かかった。それ以降も怪我の場所が場所なので、慎重に、との医師の指示のもと屋敷での静養が続いていた。

そんな日々のなか、ベネディクトが言いづらそうに口を開いた。

「かつて、下屋敷でお世話になっていたメイドがリュカの子を身ごもっている」と。

まだ、16になったばかりの娘は、リュカの相手をしたことから当家を首になったが、腹が出てしまい新しい勤め先を追い出されたと。娘の親はすでになく、頼れる身よりもないことから、ベネディクトに相談に来たそうだ。
娘はリュカ以外とは関係を持ったことがなく、父親は明らかである、と。

「どこかで面倒を見てやれ」

私が指示すると、ベネディクトは安心したように息をついた。

「ただし、私の目に触れないように。そして、この話をイネスの耳に入れろ」
「了解いたしました」

それまでイネスは「真実の愛」だとか「運命の恋」だとか戯言ばかりを繰り返していたが、リュカの子を身ごもったのは自分だけではなかったと知り、あっさりと私の手に落ちた。

「私は、騙されたんです!」

涙ながらに訴えたイネスに呆れたが、父親の伯爵は事業を管理する能力はないが、野心もなく好人物だ。結局は都合のいい相手であることに代わりはない。
しかもすでに腹に子がいる。すべての面倒が避けられる相手だった。
まだ、腹が目立たない時期だったことも幸いした。

「情熱が先走ってしまいましてね」

そう伯爵に説明し、頬を赤らめれば、盛大な祝福とともに肩をたかれシャンパンが開けられた。
万事解決。
だが、父はなくなったばかり、弟は療養中。さらにイネスは妊娠中。
すべての状況が落ち着いてから結婚式を上げることでおさまり、イネスと私は司祭に簡単な祝福を受け、結婚が認められた。
これで、万一リュカが目を覚まし、元気になってもイネスと結婚することはできない。
白い結婚にしないためにだけ、一度イネスを抱いた。
一度抱けば十分だった。


*************************************


リュカは私を罰するように目を覚まさない。
ただ、こんこんと眠り続け、時が過ぎていく。
毎日顔を見に行っても、二度と私を見てくれることはなかった。

しばらくしたある日、リュカが「死んだ」。
流行り病だ。
不幸な知らせを聞くと、イネスは卒倒し、ナタリーは涙をひと粒こぼした。
葬儀を行い、日々は淡々と過ぎていった。

いつしか時はたち、ナタリーが子を産んだ。
誰の子かひと目でわかる、黒髪に若草色の瞳を持つ娘だった。

その子をひと目見た瞬間魅せられた。
まるでリュカの生まれ変わりのような・・・
ぐらりと目の前が歪み、父がアディに、そしてリュカへと向けた執着を思い出す。

いや、私は違う。
いとおしい、ちいさな存在。
床に落とせば簡単に死んでしまう、もろくあわれな、だが大切な存在。
性の対象になどなるはずもない。父とは違う。

ナタリーは、リュカを愛していたようだ。
子を出産するときも、そして産後の肥立ちが悪く、もう死ぬとわかったときにも、呼んだのはリュカの名だった。
彼女は、子を産んで2週間しか持たなかった。

「ナタリー」

そっと元メイドの手をとる。永遠にリュカを追い求め、報われない私達はまるで同志のようだ。
ナタリーは痩せこけた頬を涙で濡らした。

「リュカ様・・・ごめんなさい・・・お子を授かったのに・・・育てられなくて・・・旦那様・・・あの方はいつも誰かを愛していたんです・・・私じゃなかったけど・・・好きだったんです」
「そうか」
「私のことだって・・・少しはお情けをかけてくださったんですよ。もうしないっておっしゃったのに、お屋敷を追い出される私に最後の思い出をくださるくらいには・・・おかげさまで子を授かれて・・・ほんとうに・・・本当に幸せでした・・・」
物狂おしいほどの片想い。
その時私とナタリーの心は友情のようなもので結ばれたと思う。
「旦那様もリュカ様のことがお好きでしょう?」

何故知っているんだろう。どきりと胸が鳴る。だが、このおとなしいメイドは、静かに人を観察しているようなところがある。

「わかりますよ。だって、同じ人を愛していたんだもの」かすかに笑う声には、蔑みは含まれていない。ただ、同じ人間に魅せられてやまない共感を感じていたように思う。
「・・・そうだな。愛していたよ」
「ふふふ。私達、同じひとに片想いしていたんですね。大丈夫。誰にも言いませんから」

ナタリーは弱々しく頬の筋肉を上げたが、急に目がうつろになった。
空に向けて手を伸ばし、何かをつかもうとした。

「リュ・・・さ・・・」

差し伸べた手から力が抜け、ぽとりとシーツの上に落ちた。

「ナタリー・・・?」

命が消えたことはわかっていた。死に顔は穏やかだった。
最後にリュカの幻を見たんだろうか。死んだ相手に嫉妬しても仕方がないのに、胸の奥で青白い炎が踊った。
リュカの子を産むことができたこのメイドが羨ましくすらあった。子という、未来永劫消えない絆を築けたではないか。

私はその夜もリュカの姿を見に行った。
まるで罰するかのように眠り続けるリュカ。
私のことを恨んでいるだろう。
子にも一度も会えずに、死んだことにされてしまった愛しい弟。

(だが・・・誰にも渡せない。渡さない)
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