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第四幕〜終わりの始まり〜
150 【マティアス】衝撃 ※閲覧注意
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嘔吐シーンがあります。
ある意味閲覧注意です。
そして、ほんとうの閲覧注意もあります。
**************************************************
「よし、言え」
「本当のことは不快かもしれません」
「本当のこと以外を言えば指を刎ねる」
「・・・わかりました。リュカ様は、私が愛撫すると、いつも気持ちよくなってくださったのですが・・・ただ、後穴にだけは絶対に触らせてはくださいませんでした。
一度、そっとふれたとき、激怒なさいまして・・・二度とさわるなときつくお叱りを受けました。
ですが、その時、リュカ様は怒ってはいましたが、ガタガタと震えていらしゃったんです。あれは、心底怖がっているように見えました。
なので、私もリュカ様に触るのは我慢していたのですが・・・
リュカ様は、おそらく後穴を使った恐ろしい経験をしたに違いありません」
「どういうことだ」
「たとえば・・・ものすごく痛かったとか。同意ではないのに挿入されたとか」
心臓が暗く不穏な音をたてた。
「・・・誰だ」
「・・・」ジュスタンは目を泳がせた。
「相手は誰だ」
私の真剣な口調に、小さく息を吐くと、観念したように口をひらいた。
「わかりません。ですが、噂はありました」
「噂?」
「リュカ様が、一度シーツを巻き付けただけの格好で下屋敷でお倒れになったと。そして、そのシーツは出血で赤く染まっていたと・・・」
「なんだと・・・」
「その時一緒にいたのは、かつてリュカ様のお母様にお仕えしていたヒルダです。ヒルダはリュカ様のお母様がお住いになっていた別宅で働かせていただいておりました。そして、その別宅に入れる男は、今も昔も・・・たったひとりです」
がつんと頭を殴られたような衝撃を受けた。
そんなはずはない。そんなはずはない。
そんな報告は受けていない。
リュカは無事だと・・・
『起きてしまったことはどうにもならないからです』
ベネディクトの声が耳の奥でうなる。
『起こったことをすべてご報告したら、遠い戦地でマティアス様は平静でいられたでしょうか?』
ぐるぐると回るように、ベネディクトの静かな声が渦を巻く。
信じたくない。信じたくないが、あまりにも符合している。
『お心を乱すような・・・』
『マティアス様のご無事が・・・』
『お叱りは重々』
そういうことだったのか?
そういうことだったのか?
そういうことだったのか!!
「まさか・・・そんなことが・・・」
リュカの母が住んでいた家には、男は入れなかった。
絶対に足を踏み入れさせなかった。
初めてリュカを見たときも、馬車の中からのぞいただけ。
あの家に入れるたった一人の男は・・・
ジュスタンは目を伏せた。
「あの美しさですから・・・」
頭の中を大きな耳鳴りに支配される。
眼の前がゆがみ、足元がぐらぐらと揺れた。
リュカが、誰かに暴力的に抱かれた?そして、その相手は・・・
胸の中は何かわからない黒くもやもやとしたなにかに囚われ、時間が止まった。
ぶーんと小さな羽音を立て、目の前を蝿が横切っていく。
細かく分岐した足先。背の縦縞と羽の模様すらくっきりと見えた。
ちらりと私をみた複眼は、何も知らないと私をあざ笑っていた。
ジュスタンのおもねるような目。
足元に散らばった刎ねられた指。
血の匂い。
羽の音。
鼻をつく、アンモニアの匂い。
薄暗い部屋。
べっとりとまとわりつく湿度。
めまいとともに吐き気が込み上げてきた。
戦地で初めて死体を見て以来のことだった。
猛烈な吐き気に抵抗できず、部屋の端に駆け寄り嘔吐すると、先程の宴で出された料理が姿を変えて足元を汚した。ドロッとした吐瀉物に、また気分が悪くなる。
頭が痛い。
目が回る。
もう、耐えられない。
数度むせびながら、石の壁に手をつくと、冷たさが骨にしみ、指先まで凍るように冷たくなった。
指先から入り込んだ冷たさは、心まで伝わっていく。
「中佐・・・!」
嘔吐の匂いに異変を察知したジャックが振り向いた。
あわてて駆け寄り、どこかからかリネンを出し、使えと差し出した。
「お前・・・知っていたのか?」
ジャックの瞳孔が一瞬開き、視線をそらした。
「なんのことでしょうか」
「リュカは・・・リュカは・・・リュカの相手は父か?」
「そ、それは、ただの噂・・・」
「お前は噂を知っていたのか!」
「中佐、噂は噂です」
「それを調べるのがお前の仕事だろう!」
「・・・もうしわけありません」
ジャックは膝をつき、頭をたれた。
「お叱りは重々」
知っていた。・・・知っていたんだ。
ジャックも、ベネディクトも。屋敷中の皆が、リュカと父が関係したと、知っていた。
「うおおおおおおおおおおおお」
どこからか、雄叫びが聞こえた。
叫んでいるのは私だった。
安全な屋敷に帰ってきたはずが、戦場よりもひどい。裏切り、見て見ぬふり、沈黙。
足元から震えが広がり、ぶるぶると剣を持つ手が震えた。
「うわああああああああ!!!」
叫び声とともに、ジュスタンの首を刎ねた。
ジュスタンは、自分が死んだことにも気づかなかっただろう。
ガンと音がして、ジュスタンの首が壁にあたり、ゆっくりを床の上を転がり、排水路に沿って低い方へと転がっていった。
永遠とも思える数秒のあと、勢いよく首から血が吹き出した。
ジャックは蒼白な顔で、うつむいている。
その肩も唇も小刻みに震えていた。
こいつは命を投げ出している。
黙っていたのは私のためだ。
なんてことだ!
「後で事情を聞く。そいつの死体は処分しろ」
「御意」
私はかつてジュスタンだった肉塊には目も向けなかった。
これ以上一秒たりともこの部屋にはいられない。
悪魔に追い立てられるかのように、部屋を出る。
真っ暗な廊下は、まるで私に突きつけられた現実そのものだった。
ある意味閲覧注意です。
そして、ほんとうの閲覧注意もあります。
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「よし、言え」
「本当のことは不快かもしれません」
「本当のこと以外を言えば指を刎ねる」
「・・・わかりました。リュカ様は、私が愛撫すると、いつも気持ちよくなってくださったのですが・・・ただ、後穴にだけは絶対に触らせてはくださいませんでした。
一度、そっとふれたとき、激怒なさいまして・・・二度とさわるなときつくお叱りを受けました。
ですが、その時、リュカ様は怒ってはいましたが、ガタガタと震えていらしゃったんです。あれは、心底怖がっているように見えました。
なので、私もリュカ様に触るのは我慢していたのですが・・・
リュカ様は、おそらく後穴を使った恐ろしい経験をしたに違いありません」
「どういうことだ」
「たとえば・・・ものすごく痛かったとか。同意ではないのに挿入されたとか」
心臓が暗く不穏な音をたてた。
「・・・誰だ」
「・・・」ジュスタンは目を泳がせた。
「相手は誰だ」
私の真剣な口調に、小さく息を吐くと、観念したように口をひらいた。
「わかりません。ですが、噂はありました」
「噂?」
「リュカ様が、一度シーツを巻き付けただけの格好で下屋敷でお倒れになったと。そして、そのシーツは出血で赤く染まっていたと・・・」
「なんだと・・・」
「その時一緒にいたのは、かつてリュカ様のお母様にお仕えしていたヒルダです。ヒルダはリュカ様のお母様がお住いになっていた別宅で働かせていただいておりました。そして、その別宅に入れる男は、今も昔も・・・たったひとりです」
がつんと頭を殴られたような衝撃を受けた。
そんなはずはない。そんなはずはない。
そんな報告は受けていない。
リュカは無事だと・・・
『起きてしまったことはどうにもならないからです』
ベネディクトの声が耳の奥でうなる。
『起こったことをすべてご報告したら、遠い戦地でマティアス様は平静でいられたでしょうか?』
ぐるぐると回るように、ベネディクトの静かな声が渦を巻く。
信じたくない。信じたくないが、あまりにも符合している。
『お心を乱すような・・・』
『マティアス様のご無事が・・・』
『お叱りは重々』
そういうことだったのか?
そういうことだったのか?
そういうことだったのか!!
「まさか・・・そんなことが・・・」
リュカの母が住んでいた家には、男は入れなかった。
絶対に足を踏み入れさせなかった。
初めてリュカを見たときも、馬車の中からのぞいただけ。
あの家に入れるたった一人の男は・・・
ジュスタンは目を伏せた。
「あの美しさですから・・・」
頭の中を大きな耳鳴りに支配される。
眼の前がゆがみ、足元がぐらぐらと揺れた。
リュカが、誰かに暴力的に抱かれた?そして、その相手は・・・
胸の中は何かわからない黒くもやもやとしたなにかに囚われ、時間が止まった。
ぶーんと小さな羽音を立て、目の前を蝿が横切っていく。
細かく分岐した足先。背の縦縞と羽の模様すらくっきりと見えた。
ちらりと私をみた複眼は、何も知らないと私をあざ笑っていた。
ジュスタンのおもねるような目。
足元に散らばった刎ねられた指。
血の匂い。
羽の音。
鼻をつく、アンモニアの匂い。
薄暗い部屋。
べっとりとまとわりつく湿度。
めまいとともに吐き気が込み上げてきた。
戦地で初めて死体を見て以来のことだった。
猛烈な吐き気に抵抗できず、部屋の端に駆け寄り嘔吐すると、先程の宴で出された料理が姿を変えて足元を汚した。ドロッとした吐瀉物に、また気分が悪くなる。
頭が痛い。
目が回る。
もう、耐えられない。
数度むせびながら、石の壁に手をつくと、冷たさが骨にしみ、指先まで凍るように冷たくなった。
指先から入り込んだ冷たさは、心まで伝わっていく。
「中佐・・・!」
嘔吐の匂いに異変を察知したジャックが振り向いた。
あわてて駆け寄り、どこかからかリネンを出し、使えと差し出した。
「お前・・・知っていたのか?」
ジャックの瞳孔が一瞬開き、視線をそらした。
「なんのことでしょうか」
「リュカは・・・リュカは・・・リュカの相手は父か?」
「そ、それは、ただの噂・・・」
「お前は噂を知っていたのか!」
「中佐、噂は噂です」
「それを調べるのがお前の仕事だろう!」
「・・・もうしわけありません」
ジャックは膝をつき、頭をたれた。
「お叱りは重々」
知っていた。・・・知っていたんだ。
ジャックも、ベネディクトも。屋敷中の皆が、リュカと父が関係したと、知っていた。
「うおおおおおおおおおおおお」
どこからか、雄叫びが聞こえた。
叫んでいるのは私だった。
安全な屋敷に帰ってきたはずが、戦場よりもひどい。裏切り、見て見ぬふり、沈黙。
足元から震えが広がり、ぶるぶると剣を持つ手が震えた。
「うわああああああああ!!!」
叫び声とともに、ジュスタンの首を刎ねた。
ジュスタンは、自分が死んだことにも気づかなかっただろう。
ガンと音がして、ジュスタンの首が壁にあたり、ゆっくりを床の上を転がり、排水路に沿って低い方へと転がっていった。
永遠とも思える数秒のあと、勢いよく首から血が吹き出した。
ジャックは蒼白な顔で、うつむいている。
その肩も唇も小刻みに震えていた。
こいつは命を投げ出している。
黙っていたのは私のためだ。
なんてことだ!
「後で事情を聞く。そいつの死体は処分しろ」
「御意」
私はかつてジュスタンだった肉塊には目も向けなかった。
これ以上一秒たりともこの部屋にはいられない。
悪魔に追い立てられるかのように、部屋を出る。
真っ暗な廊下は、まるで私に突きつけられた現実そのものだった。
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