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第四幕〜終わりの始まり〜
144 【リュカ】最悪 → 【マティアス】監視
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こんな再会を望んでいたわけじゃない。
もう、顔を合わせることすらできないと思っていたけど、まさかこんな最悪の形で・・・
直視できずに目を閉じた俺の顔にさっと空気が触れた。
兄が立ち去り、風呂のドアがかすかに揺れた。
「リュカ様?」
お気楽なジュスタンが不思議そうな声を出した。
そのとき。
だん!
勢いよく部屋のドアが叩きつけられた。
「うわっ。しっかり閉めておいたはずなのに、風ですかね?」
ジュスタンがのんきに聞いてくる。こいつは俺のアレをしゃぶるのに夢中になっていて、何も気づかなかったらしい。うらやましいやつだよ。
「風・・・ね。今日はもう帰れよ」
俺のアレはもうどうしようもないぐらい元気がなくなり、復帰の見込みはない。少なくとも、今日はもう無理だ。
「そうですよねえ?」
萎えきったソレを未練がましく舌先でいじくりながら、ジュスタンががっかりしたように肩を落とした。
こいつ、もっと先に進もうとしてたに違いない。
「今日はもう店じまい。おわり!帰ってくれ」
俺はジュスタンを振り切って湯船から出ると、ぶるりと身をふるわせた。
いつの間にか湯はほとんど水に変わっていたらしい。
冷たい空気に触れると寒さが身にしみた。
まあまあ、夢中になっていたらしいな、俺。
自分に呆れながら、水滴を拭うと、ジュスタンが未練がましく、俺の肩に口づけた。
「次はもっと気持ちよくしてさしあげますよ」
ついこの間までの俺だったら、そんな事言われたらゾクゾクしたにちがいない。
でも、もうだめだ。
兄に見られた。
兄の瞳に浮かぶ軽蔑や嫌悪を見たくなかった。
せめて、無事に帰還した祝いぐらい言いたかったのに。
しかも、兄の出迎えもせずに男と情事にふけっていたと思われたに違いない。
いや、むしろまさにその現場を押さえられた。
なんて情けない、汚らわしい俺。
俺は無言で服を着ると、布団にもぐり込んだ。
どうしたらいいのかわからない。
当たり前のことだが、眠りも癒やしも訪れるわけがない。
「当分来るなよ」
すっかり意気消沈した俺が小さな声で言うと、ジュスタンは肩をすくめ、静かに部屋を出ていった。
【マティアス】
いま、目にしたものが信じられなかった。
嘘に違いない。
そう思いたかったが、軍で現場を視察したときに、目に焼き付けるように訓練した目は、リュカが相手に身体を預けきっていた様子も、乱れた衣服が散乱した室内も、つぶさに記憶していた。
完全に同意だった。
その事実が胸をえぐり、今見た記憶を消し去ってしまいたいのに、消すことができなかった。
では、どうする?
一瞬たりとも迷いはない。
戦場では一瞬の迷いは死を意味する。
私は寮のそばの木陰に身をひそめた。
しばらく経つと、さっきの焦げ茶色の髪をした男がのんきそうに口笛を吹きながら寮から出てきた。
何がその男を上機嫌にさせているのかと思うと、かきむしりたくなるぐらい腹が立つ。
だが、こんな時ほど冷静になる必要がある。狩りでは冷静な判断力がものを言うのだ。
あれほど動揺していたはずなのに、私はリュカの部屋からリネンを一枚失敬してきていた。
男を待つ間に短剣で切れ目を入れ、細く裂き、両端に石と木の枝をくくりつけた。男が私が隠れている木の横を通り過ぎたとき、すかさず、足と首を狙って即席の武器を投げると、面白いように男の足と首にそれはからみついた。
「うわっ」
なにが起こったのかわからない様子の男の後ろから音を立てずに忍び寄り、頚椎に手刀を叩き込むと、男は簡単に昏倒した。
男の身体は筋肉もなくやせていて、軽い。戦場にいたらすぐに死ぬタイプだ。私は小さく舌打ちしてそいつを木立の影に転がした。
「う・・・ん」
手刀が甘かったか?男の頭の後ろから蹴りを入れると、男は静かになった。
あの程度の相手を一発で仕留められないとは、私も随分と冷静さを欠いていたらしい。
「おい、いるんだろ」
私が男を見下ろしたまま声をかけると、「はっ」と返事をして、公爵家のお仕着せを来たフットマンがひざまづいた。
私はかつて軍で目をかけていた部下を見下ろした。
年老いた母が心配だと除隊を願い出た部下に、私は除隊を認め、新しい職を斡旋していた。
かつての私の部下、ジャック。
お陰で母の臨終を看取れたと感謝していた元兵士は、私に忠誠を誓っている。
「御前に。ご帰還おめでとうございます」
「いまはいい。こいつを屋敷の地下に運び込め」
「了解いたしました」
「お前には後で聞きたいことがある。わかってるな?」
「はい。承知しております。罰はいかようにもお受けいたします」
「わかっているならいい。行け」
ジャックは音も立てずに男を担ぎ上げると、立ち去った。
(あの男は・・・確か公爵家の家庭教師だったはず。そうだ。リュカを鞭で打った男じゃないか。たしか、職を失うように手を回したはずが・・・私がいない間にまたはいりこんだのか)
これから、リュカの顔を見るべきか、それとも立ち去るべきか。
迷わないはずなのに、迷ってしまう。
「学園の敷地内では、人は殺さないでくださいよ」
後ろからかけられた声にはっと振り返る。
殺気はない。だが、気をとられすぎた。
明るく笑う顔と目立つ赤毛をみて、ふっと息をはいた。
そうだ、もうここは戦場じゃない。
人が後ろに立ったからといって、必ず命を狙われているわけじゃない。
「ご帰還おめでとうございます」
にこにこと笑う邪気のない顔に嫌味の一つも言ってやりたくなる。
「おい、何だあいつは。なぜあんな男をリュカに近づけたんだ」
男は両手を広げた。
「だって仕方ないでしょう?リュカ様のすることを止めるわけにはいかないし。一応、際どいところで止めに入っていたんですよ。ご命令以上の仕事をしてたんだから褒めてくださいよ」
「そうか。話はゆっくりと聞こうじゃないか。なあ?イヴァン」
眼の前にいる男は、イヴァン・ガルシア。リュカの同室者として送り込んだ男だ。
もう、顔を合わせることすらできないと思っていたけど、まさかこんな最悪の形で・・・
直視できずに目を閉じた俺の顔にさっと空気が触れた。
兄が立ち去り、風呂のドアがかすかに揺れた。
「リュカ様?」
お気楽なジュスタンが不思議そうな声を出した。
そのとき。
だん!
勢いよく部屋のドアが叩きつけられた。
「うわっ。しっかり閉めておいたはずなのに、風ですかね?」
ジュスタンがのんきに聞いてくる。こいつは俺のアレをしゃぶるのに夢中になっていて、何も気づかなかったらしい。うらやましいやつだよ。
「風・・・ね。今日はもう帰れよ」
俺のアレはもうどうしようもないぐらい元気がなくなり、復帰の見込みはない。少なくとも、今日はもう無理だ。
「そうですよねえ?」
萎えきったソレを未練がましく舌先でいじくりながら、ジュスタンががっかりしたように肩を落とした。
こいつ、もっと先に進もうとしてたに違いない。
「今日はもう店じまい。おわり!帰ってくれ」
俺はジュスタンを振り切って湯船から出ると、ぶるりと身をふるわせた。
いつの間にか湯はほとんど水に変わっていたらしい。
冷たい空気に触れると寒さが身にしみた。
まあまあ、夢中になっていたらしいな、俺。
自分に呆れながら、水滴を拭うと、ジュスタンが未練がましく、俺の肩に口づけた。
「次はもっと気持ちよくしてさしあげますよ」
ついこの間までの俺だったら、そんな事言われたらゾクゾクしたにちがいない。
でも、もうだめだ。
兄に見られた。
兄の瞳に浮かぶ軽蔑や嫌悪を見たくなかった。
せめて、無事に帰還した祝いぐらい言いたかったのに。
しかも、兄の出迎えもせずに男と情事にふけっていたと思われたに違いない。
いや、むしろまさにその現場を押さえられた。
なんて情けない、汚らわしい俺。
俺は無言で服を着ると、布団にもぐり込んだ。
どうしたらいいのかわからない。
当たり前のことだが、眠りも癒やしも訪れるわけがない。
「当分来るなよ」
すっかり意気消沈した俺が小さな声で言うと、ジュスタンは肩をすくめ、静かに部屋を出ていった。
【マティアス】
いま、目にしたものが信じられなかった。
嘘に違いない。
そう思いたかったが、軍で現場を視察したときに、目に焼き付けるように訓練した目は、リュカが相手に身体を預けきっていた様子も、乱れた衣服が散乱した室内も、つぶさに記憶していた。
完全に同意だった。
その事実が胸をえぐり、今見た記憶を消し去ってしまいたいのに、消すことができなかった。
では、どうする?
一瞬たりとも迷いはない。
戦場では一瞬の迷いは死を意味する。
私は寮のそばの木陰に身をひそめた。
しばらく経つと、さっきの焦げ茶色の髪をした男がのんきそうに口笛を吹きながら寮から出てきた。
何がその男を上機嫌にさせているのかと思うと、かきむしりたくなるぐらい腹が立つ。
だが、こんな時ほど冷静になる必要がある。狩りでは冷静な判断力がものを言うのだ。
あれほど動揺していたはずなのに、私はリュカの部屋からリネンを一枚失敬してきていた。
男を待つ間に短剣で切れ目を入れ、細く裂き、両端に石と木の枝をくくりつけた。男が私が隠れている木の横を通り過ぎたとき、すかさず、足と首を狙って即席の武器を投げると、面白いように男の足と首にそれはからみついた。
「うわっ」
なにが起こったのかわからない様子の男の後ろから音を立てずに忍び寄り、頚椎に手刀を叩き込むと、男は簡単に昏倒した。
男の身体は筋肉もなくやせていて、軽い。戦場にいたらすぐに死ぬタイプだ。私は小さく舌打ちしてそいつを木立の影に転がした。
「う・・・ん」
手刀が甘かったか?男の頭の後ろから蹴りを入れると、男は静かになった。
あの程度の相手を一発で仕留められないとは、私も随分と冷静さを欠いていたらしい。
「おい、いるんだろ」
私が男を見下ろしたまま声をかけると、「はっ」と返事をして、公爵家のお仕着せを来たフットマンがひざまづいた。
私はかつて軍で目をかけていた部下を見下ろした。
年老いた母が心配だと除隊を願い出た部下に、私は除隊を認め、新しい職を斡旋していた。
かつての私の部下、ジャック。
お陰で母の臨終を看取れたと感謝していた元兵士は、私に忠誠を誓っている。
「御前に。ご帰還おめでとうございます」
「いまはいい。こいつを屋敷の地下に運び込め」
「了解いたしました」
「お前には後で聞きたいことがある。わかってるな?」
「はい。承知しております。罰はいかようにもお受けいたします」
「わかっているならいい。行け」
ジャックは音も立てずに男を担ぎ上げると、立ち去った。
(あの男は・・・確か公爵家の家庭教師だったはず。そうだ。リュカを鞭で打った男じゃないか。たしか、職を失うように手を回したはずが・・・私がいない間にまたはいりこんだのか)
これから、リュカの顔を見るべきか、それとも立ち去るべきか。
迷わないはずなのに、迷ってしまう。
「学園の敷地内では、人は殺さないでくださいよ」
後ろからかけられた声にはっと振り返る。
殺気はない。だが、気をとられすぎた。
明るく笑う顔と目立つ赤毛をみて、ふっと息をはいた。
そうだ、もうここは戦場じゃない。
人が後ろに立ったからといって、必ず命を狙われているわけじゃない。
「ご帰還おめでとうございます」
にこにこと笑う邪気のない顔に嫌味の一つも言ってやりたくなる。
「おい、何だあいつは。なぜあんな男をリュカに近づけたんだ」
男は両手を広げた。
「だって仕方ないでしょう?リュカ様のすることを止めるわけにはいかないし。一応、際どいところで止めに入っていたんですよ。ご命令以上の仕事をしてたんだから褒めてくださいよ」
「そうか。話はゆっくりと聞こうじゃないか。なあ?イヴァン」
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