144 / 279
第四幕〜終わりの始まり〜
143 【リュカ】星 ※※
しおりを挟む
学園に帰ると、寮の入り口でイネスが待ち受けていた。
兄の出迎えに出なかった不実な婚約者に苛立つとともに、その道を断ってやった事実に思い至り、ホッとする。
人のこころは複雑だ。
「リュカ!マティアスが帰ってきたの」
「ええ、よろこばしいことです。大変ご立派でした」
もう、こいつは用心することはやめたのだろうか。本気で兄のことを諦めてくれたんだろうか。
「イネス。こんなところで目立ってしまうのでは?」
「なんで?リュカ?どうしてそんな他人行儀にするの?私達恋人同士なのに・・・」
イネスが俺にすがり付こうとしたので、俺は微笑みをはりつけ、その手をやんわりとはらった。
「しいっ。僕たちは他人でしょう?人の目にご用心ください」
「リュカ・・・」
「あなたの婚約が正式に破断にならなければ、僕たちに未来はないんですよ?わかっているでしょう?」
イネスは困ったように目を泳がせた。
「あなたを信じていますよ、イネス。ちゃんと話しますよね?」
「ええ、ええ、もちろん。お父様にお話するわ。わたし、結婚はできないって。だってもう・・・あなたの妻ですもの」
「しっ、イネス。声が大きいです。どうか。お静かに。今日はお帰りください。二人のためですよ」
「え、ええ、わかったわ・・・」
優しい抱擁も愛の言葉もなく、がっかりした様子のイネスに目配せし、俺は寮に入った。
疲れた。
なにも考えたくない。
俺は風呂に湯を運んでもらうことにした。
大抵の使用人は戦勝パレードを見に行っていせいで人が少ない。
だが、チップを弾めばよろこんで部屋に湯を運んでくれた。
部屋に誰もいないのをいいことに、服を脱ぎ散らかし、湯に身体を沈めた。
少し熱めの湯は俺の身体を包み、癒やしてくれる。
(これからどうなるんだろう)
ついこの間まで、俺の人生はもっとシンプルだった。
公爵家から少し金を用立ててもらって、部屋を借り、どこかの商店で働こうと思っていた。
おじさんに良さそうな勤め先がないか探してもらっているし、場合によってはギルドを頼ってもいい。
なんならギルドそのものに勤めるのもありだ。
かわいい恋人がいて、数年のうちには結婚して子どもが産まれて・・・贅沢はできないけど、笑いと愛があればいい。そんな普通の生活を考えていたのに、全く先が見えなくなった。
でも、そのすべてをなげうっていいほど、イネスと兄の結婚を阻止したかった。
許せなかった。簡単に兄を裏切る女との結婚なんて。
男と女がいれば寝るなんて簡単だ。でもそうじゃない。
最初から裏切りが目に見えている関係なんて、破綻してるじゃないか。
でも、兄のためを思ってしたはずなのに、なぜかずっと気が重い。あの日から一日たりとも気持ちが晴れる日はなかった。
目をつむっても、兄の顔が思い出せなかった。
兄さん、兄さん・・・やっぱり兄さんは俺にとって星だったんだな。ネルの言うことは正しいよ。
「どれだけ美しく輝いて、やさしくささやきかけても絶対に俺のものにはならない・・・か」
さっき、凱旋パレードで輝いていた兄はまさに黒く輝く美しい星だった。濃い金髪がかぶとからこぼれ落ち、輝いていた。星、そのものだ。
「リュカ様?」
短いノックの後、ジュスタンが顔を出した。
「そちらにおいででしたか。ご一緒しても?」
何ふざけたこと言ってんだよ。
「だ・・・」
「お疲れでしょう?癒やしてさしあげますよ?」
どうせもう汚れきった身体だ。
もうどうでもいい。
「癒せるのかよ」
「もちろんですとも」
ここでジュスタンがいつものように舌なめずりしたら、俺は無視して風呂を上がっただろう。
なのに、今日に限ってジュスタンは静かだった。
「好きにしろ」
俺が投げやりに言うと、ジュスタンは素早く服を脱ぎ捨て、湯船にはいってきた。
一人分の体積に、ざあっと湯が流れた。
「おい、湯がなくなるじゃないか」
「すぐに気にならなくなりますよ」
そう言うと、ジュスタンは俺の足先からマッサージを始め、緩やかに俺の性感を刺激しはじめた。
悔しいことに、こいつは俺の足の性感帯をすべて熟知している。当たり前だ。足ばっかりずっといじくり回してたんだから。
ジュスタンは俺が心の底から弱っていると気づいていたんだろう。
そして、攻めるなら今だと知っていたのだ。
「何も考えなくていいんですよ。ただ、私に身を委ねていただければ。お嫌なことは決してしませんから」
なだめながら、俺が弱い膝の裏をやわやわと刺激されると、俺の分身はぐっと勃ちあがった。
「よろしいですよね?」
返事の隙すら与えず、俺を口に含むと、ジュスタンは俺を口内で刺激しはじめた。
久しぶりの快感にたまらなくなる。ぎゅっと陰嚢があがり、思わず声が漏れた。
きもちいい。ただ、それしか考えられない。
誘うように俺の竿と亀頭を刺激しながら吸い上げられ、思わず射精した。
キィ・・・
蝶番がきしみ、浴室のドアがひらいた。
(イヴァン?)
ドアに目を向けると、そこにいたのは・・・兄だった。
鎧と鎖帷子を外し、チュニックを上に被っただけの軽装。
髪は風にあおられ、乱れたまま。
まさか、戦争の英雄が、パレードが終わってすぐに俺のもとに駆けつけるなんて、誰が思う?
(ああ、もう、笑うしかない)
兄の出迎えに出なかった不実な婚約者に苛立つとともに、その道を断ってやった事実に思い至り、ホッとする。
人のこころは複雑だ。
「リュカ!マティアスが帰ってきたの」
「ええ、よろこばしいことです。大変ご立派でした」
もう、こいつは用心することはやめたのだろうか。本気で兄のことを諦めてくれたんだろうか。
「イネス。こんなところで目立ってしまうのでは?」
「なんで?リュカ?どうしてそんな他人行儀にするの?私達恋人同士なのに・・・」
イネスが俺にすがり付こうとしたので、俺は微笑みをはりつけ、その手をやんわりとはらった。
「しいっ。僕たちは他人でしょう?人の目にご用心ください」
「リュカ・・・」
「あなたの婚約が正式に破断にならなければ、僕たちに未来はないんですよ?わかっているでしょう?」
イネスは困ったように目を泳がせた。
「あなたを信じていますよ、イネス。ちゃんと話しますよね?」
「ええ、ええ、もちろん。お父様にお話するわ。わたし、結婚はできないって。だってもう・・・あなたの妻ですもの」
「しっ、イネス。声が大きいです。どうか。お静かに。今日はお帰りください。二人のためですよ」
「え、ええ、わかったわ・・・」
優しい抱擁も愛の言葉もなく、がっかりした様子のイネスに目配せし、俺は寮に入った。
疲れた。
なにも考えたくない。
俺は風呂に湯を運んでもらうことにした。
大抵の使用人は戦勝パレードを見に行っていせいで人が少ない。
だが、チップを弾めばよろこんで部屋に湯を運んでくれた。
部屋に誰もいないのをいいことに、服を脱ぎ散らかし、湯に身体を沈めた。
少し熱めの湯は俺の身体を包み、癒やしてくれる。
(これからどうなるんだろう)
ついこの間まで、俺の人生はもっとシンプルだった。
公爵家から少し金を用立ててもらって、部屋を借り、どこかの商店で働こうと思っていた。
おじさんに良さそうな勤め先がないか探してもらっているし、場合によってはギルドを頼ってもいい。
なんならギルドそのものに勤めるのもありだ。
かわいい恋人がいて、数年のうちには結婚して子どもが産まれて・・・贅沢はできないけど、笑いと愛があればいい。そんな普通の生活を考えていたのに、全く先が見えなくなった。
でも、そのすべてをなげうっていいほど、イネスと兄の結婚を阻止したかった。
許せなかった。簡単に兄を裏切る女との結婚なんて。
男と女がいれば寝るなんて簡単だ。でもそうじゃない。
最初から裏切りが目に見えている関係なんて、破綻してるじゃないか。
でも、兄のためを思ってしたはずなのに、なぜかずっと気が重い。あの日から一日たりとも気持ちが晴れる日はなかった。
目をつむっても、兄の顔が思い出せなかった。
兄さん、兄さん・・・やっぱり兄さんは俺にとって星だったんだな。ネルの言うことは正しいよ。
「どれだけ美しく輝いて、やさしくささやきかけても絶対に俺のものにはならない・・・か」
さっき、凱旋パレードで輝いていた兄はまさに黒く輝く美しい星だった。濃い金髪がかぶとからこぼれ落ち、輝いていた。星、そのものだ。
「リュカ様?」
短いノックの後、ジュスタンが顔を出した。
「そちらにおいででしたか。ご一緒しても?」
何ふざけたこと言ってんだよ。
「だ・・・」
「お疲れでしょう?癒やしてさしあげますよ?」
どうせもう汚れきった身体だ。
もうどうでもいい。
「癒せるのかよ」
「もちろんですとも」
ここでジュスタンがいつものように舌なめずりしたら、俺は無視して風呂を上がっただろう。
なのに、今日に限ってジュスタンは静かだった。
「好きにしろ」
俺が投げやりに言うと、ジュスタンは素早く服を脱ぎ捨て、湯船にはいってきた。
一人分の体積に、ざあっと湯が流れた。
「おい、湯がなくなるじゃないか」
「すぐに気にならなくなりますよ」
そう言うと、ジュスタンは俺の足先からマッサージを始め、緩やかに俺の性感を刺激しはじめた。
悔しいことに、こいつは俺の足の性感帯をすべて熟知している。当たり前だ。足ばっかりずっといじくり回してたんだから。
ジュスタンは俺が心の底から弱っていると気づいていたんだろう。
そして、攻めるなら今だと知っていたのだ。
「何も考えなくていいんですよ。ただ、私に身を委ねていただければ。お嫌なことは決してしませんから」
なだめながら、俺が弱い膝の裏をやわやわと刺激されると、俺の分身はぐっと勃ちあがった。
「よろしいですよね?」
返事の隙すら与えず、俺を口に含むと、ジュスタンは俺を口内で刺激しはじめた。
久しぶりの快感にたまらなくなる。ぎゅっと陰嚢があがり、思わず声が漏れた。
きもちいい。ただ、それしか考えられない。
誘うように俺の竿と亀頭を刺激しながら吸い上げられ、思わず射精した。
キィ・・・
蝶番がきしみ、浴室のドアがひらいた。
(イヴァン?)
ドアに目を向けると、そこにいたのは・・・兄だった。
鎧と鎖帷子を外し、チュニックを上に被っただけの軽装。
髪は風にあおられ、乱れたまま。
まさか、戦争の英雄が、パレードが終わってすぐに俺のもとに駆けつけるなんて、誰が思う?
(ああ、もう、笑うしかない)
0
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
平凡な研究員の俺がイケメン所長に監禁されるまで
山田ハメ太郎
BL
仕事が遅くていつも所長に怒られてばかりの俺。
そんな俺が所長に監禁されるまでの話。
※研究職については無知です。寛容な心でお読みください。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる