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第四幕〜終わりの始まり〜

143 【リュカ】星 ※※

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学園に帰ると、寮の入り口でイネスが待ち受けていた。
兄の出迎えに出なかった不実な婚約者に苛立つとともに、その道を断ってやった事実に思い至り、ホッとする。
人のこころは複雑だ。

「リュカ!マティアスが帰ってきたの」
「ええ、よろこばしいことです。大変ご立派でした」

もう、こいつは用心することはやめたのだろうか。本気で兄のことを諦めてくれたんだろうか。

「イネス。こんなところで目立ってしまうのでは?」
「なんで?リュカ?どうしてそんな他人行儀にするの?私達恋人同士なのに・・・」

イネスが俺にすがり付こうとしたので、俺は微笑みをはりつけ、その手をやんわりとはらった。

「しいっ。僕たちは他人でしょう?人の目にご用心ください」
「リュカ・・・」
「あなたの婚約が正式に破断にならなければ、僕たちに未来はないんですよ?わかっているでしょう?」

イネスは困ったように目を泳がせた。

「あなたを信じていますよ、イネス。ちゃんと話しますよね?」
「ええ、ええ、もちろん。お父様にお話するわ。わたし、結婚はできないって。だってもう・・・あなたの妻ですもの」
「しっ、イネス。声が大きいです。どうか。お静かに。今日はお帰りください。二人のためですよ」
「え、ええ、わかったわ・・・」

優しい抱擁も愛の言葉もなく、がっかりした様子のイネスに目配せし、俺は寮に入った。

疲れた。
なにも考えたくない。
俺は風呂に湯を運んでもらうことにした。
大抵の使用人は戦勝パレードを見に行っていせいで人が少ない。
だが、チップを弾めばよろこんで部屋に湯を運んでくれた。

部屋に誰もいないのをいいことに、服を脱ぎ散らかし、湯に身体を沈めた。
少し熱めの湯は俺の身体を包み、癒やしてくれる。

(これからどうなるんだろう)

ついこの間まで、俺の人生はもっとシンプルだった。
公爵家から少し金を用立ててもらって、部屋を借り、どこかの商店で働こうと思っていた。
おじさんに良さそうな勤め先がないか探してもらっているし、場合によってはギルドを頼ってもいい。
なんならギルドそのものに勤めるのもありだ。

かわいい恋人がいて、数年のうちには結婚して子どもが産まれて・・・贅沢はできないけど、笑いと愛があればいい。そんな普通の生活を考えていたのに、全く先が見えなくなった。
でも、そのすべてをなげうっていいほど、イネスと兄の結婚を阻止したかった。
許せなかった。簡単に兄を裏切る女との結婚なんて。

男と女がいれば寝るなんて簡単だ。でもそうじゃない。
最初から裏切りが目に見えている関係なんて、破綻してるじゃないか。

でも、兄のためを思ってしたはずなのに、なぜかずっと気が重い。あの日から一日たりとも気持ちが晴れる日はなかった。
目をつむっても、兄の顔が思い出せなかった。
兄さん、兄さん・・・やっぱり兄さんは俺にとって星だったんだな。ネルの言うことは正しいよ。

「どれだけ美しく輝いて、やさしくささやきかけても絶対に俺のものにはならない・・・か」

さっき、凱旋パレードで輝いていた兄はまさに黒く輝く美しい星だった。濃い金髪がかぶとからこぼれ落ち、輝いていた。星、そのものだ。

「リュカ様?」

短いノックの後、ジュスタンが顔を出した。

「そちらにおいででしたか。ご一緒しても?」

何ふざけたこと言ってんだよ。

「だ・・・」
「お疲れでしょう?癒やしてさしあげますよ?」

どうせもう汚れきった身体だ。
もうどうでもいい。

「癒せるのかよ」
「もちろんですとも」

ここでジュスタンがいつものように舌なめずりしたら、俺は無視して風呂を上がっただろう。
なのに、今日に限ってジュスタンは静かだった。

「好きにしろ」

俺が投げやりに言うと、ジュスタンは素早く服を脱ぎ捨て、湯船にはいってきた。
一人分の体積に、ざあっと湯が流れた。

「おい、湯がなくなるじゃないか」
「すぐに気にならなくなりますよ」

そう言うと、ジュスタンは俺の足先からマッサージを始め、緩やかに俺の性感を刺激しはじめた。
悔しいことに、こいつは俺の足の性感帯をすべて熟知している。当たり前だ。足ばっかりずっといじくり回してたんだから。

ジュスタンは俺が心の底から弱っていると気づいていたんだろう。
そして、攻めるなら今だと知っていたのだ。

「何も考えなくていいんですよ。ただ、私に身を委ねていただければ。お嫌なことは決してしませんから」

なだめながら、俺が弱い膝の裏をやわやわと刺激されると、俺の分身はぐっと勃ちあがった。

「よろしいですよね?」

返事の隙すら与えず、俺を口に含むと、ジュスタンは俺を口内で刺激しはじめた。
久しぶりの快感にたまらなくなる。ぎゅっと陰嚢があがり、思わず声が漏れた。

きもちいい。ただ、それしか考えられない。
誘うように俺の竿と亀頭を刺激しながら吸い上げられ、思わず射精した。

キィ・・・

蝶番がきしみ、浴室のドアがひらいた。

(イヴァン?)

ドアに目を向けると、そこにいたのは・・・兄だった。
鎧と鎖帷子を外し、チュニックを上に被っただけの軽装。
髪は風にあおられ、乱れたまま。
まさか、戦争の英雄が、パレードが終わってすぐに俺のもとに駆けつけるなんて、誰が思う?

(ああ、もう、笑うしかない)
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