兄さん、あんたの望みを教えてくれよ。

藍音

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第三幕〜空白の5年間 リュカ〜

134 【リュカ】形勢逆転 ※※

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だが、色事にかけてはこの淫魔のほうが一枚も二枚も上手だった。

「リュカ様」ジュスタンは艷やかに微笑んだ。今まで蛇のようにのっぺりした顔に見えていたのに、妙に妖艶に思える。
「これだから女としか経験のない方は、単純なんですよ。男同士の性愛はもっと深いものなのです」
「・・・」俺は少しぼんやりとした頭のままジュスタンを見返した。

「即、挿入ばかりが、男同士の愛ではないのです。まあ、男女の場合はすぐにそうなりますが、とんでもない。つまらないことです。もちろん、愛の昇華であれば、それも素晴らしいものです。男の体の中には神が授けた素晴らしい器官があり、挿入で感じることもできるのです。ゆっくりお教えしますから・・・ねえ?」

このとき、ジュスタンが舌なめずりするように、唇を舐めなければ、青二才の俺はころりと手の内に落ちたに違いない。

「あ、愛なんて・・・ない」形成逆転だ。あれほど俺がリードしていたはずなのに、いつの間にか悪魔に手綱を握られている。おろおろと言葉を返す俺の声に、どれほど自分が動揺しているのかがわかり、なおさらどうしたらいいのかわからなくなってきた。

「愛していますとも!まるで神話の中の青年神のように美しい貴方様をどれほど崇めているのか、心を開いてお見せしたいぐらいです。ですが、それもままならない今・・・できることは、あなたの望みを全て聞くだけです」
「俺の、望み?」
「どうしたいですか?私に許されたのは足首まで。膝にも、ももにも、そしてももの付け根にも快感を感じるところはあるのです。さあ、どうしますか?」
「お、おれ・・・」やりたい。このまま流されてしまえばどれだけ楽か。もぞもぞと開放を求めて主張する俺の股間と腹の奥のうずきは、早く言えと俺にせっついてきた。
その時。

トントン。

遠慮がちなノックの音が響き、「リュカ?」と小声が聞こえる。「リュカ、いるのか?イヴァンだけど・・・開けてもいいかな?だめならそう言ってくれ、開けるぞ?3・・・」
イヴァンは、俺が女達を連れ込むようになってから、ドアを開けるときは極度に用心するようになっていた。実は一度女と交わってる現場を見られてしまったのがその理由だ。今はもう女を連れ込んではいないとはいえ、いつどうなるかわからないと不安に思っていたんだろう。まあ、人の情事なんて見たくもないもんな。しかもルームメイトのときたら、なおさら。

「2・・・」
俺とジュスタンは、慌てて服を直した。
「1・・・」
ジュスタンは、着衣の乱れを直し、家庭教師らしい表情を貼り付けると、窓を開けた。
ガチャ

イヴァンが部屋に入ると、そこにいたのは、公爵家の次男の仮面をかぶった俺と、弟の教育の報告にきた家庭教師だった。

「おかえり、イヴァン」窓際では、白い薄物のカーテンが揺れ、爽やかな風が流れ込んだ。
「お邪魔しております」
ジュスタンは礼儀正しく手を胸にあてて礼をすると、すっと身をかわした。「ただいま退出のご挨拶をしていたところでした」
「ああ、お疲れさまです。ジュスタン先生」
イヴァンが愛想よく返事を返すと、ジュスタンは俺を見た。
「また伺います。そのときには、また新しいご指示をいただけることを心待ちにしております」
「あ、ああ・・・」
一礼してジュスタンが部屋を出ていくと、イヴァンが「随分仕事熱心な家庭教師なんだな」とつぶやいた。

「あんなふうにしょっちゅうお前に報告に来るなんて、よっぽど熱意のある教師なのか、それとも、もしかして、お前を将来の跡取りと見込んで大事にしているのか?」
大外れだ。俺は途方に暮れてイヴァンの顔を見た。「さあな?」
「オレの妹の家庭教師探してるんだけど・・・推薦してみたらどうかな」
「それは・・・やめておけ」
「なんだよ、いい家庭教師は公爵家で独り占めか?」
「え?ま、まあそうだな。まだ、弟妹がたくさんいるからな」
「じゃ、仕方がないか」

イヴァンは一瞬口をとがらせたが、次の瞬間には忘れたらしい。

「そういえば、お前、ネルの最新スキャンダル聞いたか?」

学園の目の前で男と大もめしてたんだ。そりゃ、噂になるよな。

「へえ、どんな?」

俺は素知らぬ顔で聞き返す。

「駆け落ちだってさ、か、け、お、ち!」
「は?」
「なんでも駆け落ちしようとして、学園の誰かに止められて戻ってきたけど、すぐにまた逃げ出すんじゃないかって監視されてるらしいぞ?」
「いや・・・それは・・・どうかな」

噂とはなんといい加減なものだろう。
少なくとも、駆け落ちの相手はあの男ではないだろう。
あのとき、ネルは本当に相手を嫌悪していた。あれが演技なら、すぐに女優になれるよ。

「ネルは寮の部屋で課題三昧らしいけど、黙ってそれを受け入れているとか。やっぱりホントはまずいって思っておとなしくしてるのか、それとも機会を伺ってるのか、賭けを言い出すやつすらいてさ。おれ、機会を伺っていずれ駆け落ちする方に賭けたんだけど、お前も乘る?」
「やめとく」
「銀貨一枚からだけど」
「乗らない」
「ちぇっ、つまんねーの」

正しい選択肢がないから乘るわけない、とは思ったが、ネルのことが心配になった。
あいつ、寮で肩身狭く暮らしてんのかな。でも、学生の俺には何もしてやることできないけどなあ。
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