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第三幕〜空白の5年間 リュカ〜

126 【リュカ】踏みつける ※※

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「さあ、お願いします」
ジュスタンは俺の足元に這いつくばった。
その背中は、かつて果てしないほど大きく思えたが、今はただのうすく平べったい男の身体だった。
「ど、どこを踏んだら?」
「どこでもいいのです。もちろん踏んでいただきたいところはありますが・・・今日ははじめてですからね。お好きなところでいいのですよ。なんなら軽く蹴っていただいても・・・」

(おー、やだ。)


こどもの頃さんざん叩かれた相手を踏みつけるってのは、ちょっとした快感だ。
しかも、恐ろしくてたまらなかった相手が、俺に踏まれてよろこぶ変態だったなんて・・・おかしくて、笑いがこみ上げてしまう。
俺はジュスタンの背中のど真ん中をグリグリと踏んでやった。

「これでいいのか?」
「あ、そう、そうです。ああっ!もっと!」
「・・・」

最初のちょっとした嗜虐心は、あっという間に吹き飛んだ。紛れもなく変態行為に加担している気しかしない。
なんだか腹が立つ。
俺はジュスタンの脇腹をつま先で軽く蹴った。

「ああっ!!」

ジュスタンの顔は真っ赤に染まり、間違いなく興奮している。
なんでこんなことで興奮するんだよ。真正の変態野郎だな。
俺は腹が立ってもう一度背中を強く踏んだ。この変態を地面にめり込ませてやろうと思いながら。

「あっ、ああっ!!」

青臭い匂いが鼻腔をくすぐる。
こいつ、射精しやがった。なんでこんなことで興奮するんだよ。

「気持ち悪いやつだ。用が終わったらさっさと帰れよな」

ジュスタンは荒く息をつき、熱のこもった目つきで俺を見た。

「リュカ・・・さま・・・、あ、ありがとう・・・ございます・・・どうか、指先・・・いえ、靴先に口づけしても・・・?」
「やめろ!」

俺はジュスタンを蹴り飛ばした。
その時の俺は、その行為がますますジュスタンを興奮させるってことに気がついてなかったんだ。

「ああ!!あなた様の下僕に罰をお与えくださったんですね。ありがとうございます」

はあはあと荒い息をつきながら這いつくばるジュスタンを見ていると、俺の中の何かがもぞもぞと動き出した。

「早く帰れよ!もう踏んでやっただろ!!」

これがどこか別の場所なら俺が立ち去ればいい。それなのにここは俺の部屋だった。
イヴァンが帰ってきたらどうするんだよ。
はあはあと劣情混じりの息を吐きながら、怪しい目つきで俺を見つめるジュスタンを追い出すにはどうしたらいいんだ?怒鳴っても、蹴っても踏んでも全てご褒美になってしまう。もし、俺が乗り気な素振りでも見せたら、こいつは容赦なく俺に喰らいつくだろう。

「や、約束だろ?守れないなら、もう、なしだぞ」

なんとかひねり出した言葉は意外にもジュスタンにはよく効いた。

「そうですよね。最初からご無理は申せません」
十分無理ばかり言ってんだよ。とは思ったが、帰る気になっているこいつをこれ以上刺激したくない。

ジュスタンは立ち上がり、膝を払うと、丁寧にお辞儀をして部屋から出ていった。

「それでは、また」
「二度とくるな!」閉じたドアに俺の部屋履きを叩きつけた。

だが、あいつの興奮は妙に俺を刺激した。

「くそっ!」

俺のアレはゆるく勃ちあがり、ジュスタンの快楽に煽られている。
嫌なのに。嫌でたまらないのに。身体の奥底から湧き上がる原始的な欲望に、心も身体も支配されてしまう。

「ああ、くそっ!」

俺は部屋の中をぐるぐると歩き回った。
そうだ、少し前なら、街なかを歩き回って発散してたのに。

今すぐ俺の中から発散しなければ、腹が爆発してしまいそうだ。
俺は耐えられず、バスルームに駆け込んだ。

真っ赤に焼けた鉄のように熱を持ったソレは、数度の刺激で爆発した。

(治まらない・・・)

手の中のドロリとした体液をまた、自分になすりつける。

(くそっ、嫌なのに。兄さん、助けて)

戦地にいる兄さんにこんなことで助けを求めるなんて、俺は頭がオカシイんじゃないだろうか。
背徳感と申し訳無さと身体を苛む劣情に引き裂かれそうになりながら、俺は狂ったように自分の性器をこすり続けた。


「ただいまー、リュカ?いないのか?」

のんびりしたイヴァンの声。
俺は慌ててシャワー室を湯で流した。
いくら男同士でも、やりすぎて、恥ずかしい。
しかも、あいつの興奮に当てられたなんて、絶対にバレたくない。

「おかえり」

俺は濡れた髪を拭きながら、必死で作り笑いをした。
自然にみえるよな?俺。

「ただいまー。あれ、なんか、妙に色っぽいけど、どうしたんだよ。お、俺は恋人がいるんだから、誘惑するなよな!」
「はは、何バカなこと言ってんだよ」
「うわー・・・リュカ様降臨かよ」

イヴァンはなんとかごまかせたが、ジュスタンに刺激された劣情は、どうにもおさまらなかった。
四六時中ソレばかり考えてしまい、自分でも呆れるが、どうにもならない。
禁欲生活の限界はそこまで来ていた。

ジュスタンにはお見通しだったに違いない。
踏んでくれと言われてから3日後、舎監に礼儀正しくランベール家の家庭教師として名乗ったジュスタンはやすやすと寮に入り込んだ。メイドたちにはうろんな目を向けていた舎監も、あいつには愛想よく接していた。完全に、騙されてる。

「また、新しい情報があるんですよ」そう微笑んだジュスタンは、俺に一歩近づいた。
「もちろん、ただというわけにはいきませんがね」










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