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第三幕〜空白の5年間 リュカ〜
114 【リュカ】本当のともだち
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「俺がバカだったんだよ」
「リュカ、自分を責めないで」
「いや、本当に、俺がバカだったんだ。閣下は危ないってわかってたのに。兄さんにも閣下には気をつけろって言われてたのに。本当にバカだよな。飛んで火に入る夏の虫ってやつだよ。わかってたくせに、近寄りすぎて、焼け死んだんだ」
「リュカ、あんたは死んでない。生きてる。言葉に気をつけて」
「ちっ。でも、本当に、自分がバカすぎて腹が立つんだ、本当に、本当に・・・」
「リュカ。あんたは被害者なのよ。自分を責めないで、あなたは悪くない」
ぼろっと一滴、涙がこぼれた。
なぜ、こんなに傷つくんだろう。
尻の穴が裂けただけだ。痛みは自業自得。
ただそれだけのことなのに、胸が痛く、自分の存在が根本から否定されたような気になる。
男のくせにみっともない。
そう思っても、心は辛く、両目から涙があふれてとまらなくなった。
「こ、こんなの、なんでもない、なんでもないことなんだ。それなのに・・・」
声が震えて言葉にならない。
「リュカ」
いつの間にか、ネルがベッドの上掛けの上に腰掛け、俺の肩に手を回していた。
「なんでもなくはない。なんでもなくないから、そんなに傷ついているんでしょう?」
言葉が出なかった。ただ、涙があふれ、止まらなくなった。
喉の奥から絞り出すうめき声と、滝のように流れる涙に自分でも驚きながら、涙が枯れるまで泣き続けた。
そうか、俺はどこかで知っていたんだ。
ネルなら、俺をたすけてくれるって。
ネルなら、俺を責めたり批判したりしない。ただ、寄り添ってくれるって知ってたんだ。
だから、無意識にネルを呼んだんだ。
ネルはぎゅっと俺を抱きしめた。
「そばにいるから、泣きたいだけ泣いていいんだよ。ずっと一緒にいるから」
俺はネルを抱きしめた。
ネルの体は温かい。俺にとって、ネルは相変わらずまるで近い親戚か兄弟のような存在で、抱きしめた感触は妹に近い。だが、妹にはこんな話はできないし、泣くなんてとんでもない。今は、友達として寄り添ってくれるネルがいてくれてよかった。
「どうして近づいたの?理由があったんでしょう?」
ネルはトントンとあやすように俺の背中をたたいた。
俺は体を離し、ネルが俺の肩を抱くような姿勢に落ち着いた。
お互いの顔が見えず、でも温かさが伝わるこのポジションが一番いい。
「んー。最初は、兄さんが軍役を2年で終えられなかったのが始まりだったんだ」
「うん」
「公爵家が抗議すれば、兄さんの軍役を終わらせることはできるはずだろう?約束の期間が過ぎたんだから。それなのに、何も教えてもらえないまま、軍役を伸ばされたのが納得いかなかったんだ。でも、結局何もさぐれず、こんなことになって。ほんと、ばかだよな」
「自分を責めない」ネルが優しく合いの手を入れた。
「起きてしまったことはなかったことにはできないけど。忘れることもできるし、何かの役に立てていたのかもしれないし・・・」
「そうかな」
「きっとそうよ」
「それで?一体何をしていたの?」
「閣下が、公爵家の役に立つために俺に酌をしろって」
「は?」
「意味わからないよな。あの人の頭の中では整理がついているのかもしれないけど。俺が一番母に似ているんだよ。あの人も、母のことは愛していたのか、単なる執着なのかわからないけど、とにかく今でも母に会いたがっているんだ。俺は酒を2杯注いで、愛人にバトンタッチして終わり。その時に何か聞き出せないかと思ったんだよ。もしかしたら、兄さんを戻してくれるように頼めるかもしれないとも思ったんだ。甘い考えだったよ」
「そうなのね。収穫はなかったの?」
「なかったなあ。閣下は兄上のことをすごく怒ってるってことがわかったぐらい?それと、毎回閣下が愛人とヤってるもんだから、俺もついつい刺激されて、あのとおり、ってわけ」
「はあ?そこはちょっと呆れるわ。なんでお兄さんのことを探りに行ってそうなるのよ」ネルは目をぐるりと回した。
「いやあ。おれだって男だから、やっぱ、なあ?あんな風に刺激されると興味がわくんだよ」
「まあ、いいわ。先に進めて」
「それで。なぜか俺が女と寝たことが閣下にバレて、兄さんがどんな顔するんのか見たいって言われたんだ。その時かな。閣下が兄さんを憎んでるってはっきりと感じたのは」
「憎んでいる?自分の息子を?」
「そう」
「なぜ?」
「わからない。だが、そうだ。今思い出した。閣下は俺を襲った日、めちゃめちゃ荒れてた。そして、これはあいつへの仕返しだって言ったんだ」
「あいつ?」
「兄さんのことだと思う。閣下は兄さんが俺に惚れてるって思い込んでた」
「お兄さんがあんたに惚れてる?それは本当なの?」
「まさか」
俺は、即、否定した。いくらネルでも、兄さんに悪い噂を立てるわけにはいかないから。
「なんか腑に落ちないのよね」ネルが顎に手をやった。
「理屈じゃなくって・・・なんとなく、すっきりしないの。なんで、お兄さんを憎むの?優秀な方なんでしょ?しかも、軍役について国を守ってくださっている人を?それに、なんでお兄さんへの仕返しであんたに暴力を振るうの?全然繋がらないんだけど」
「そうなんだよなあ」
「うーん。閣下はなぜそんなに荒れてたの?」
「知らない」
「多分、そこから調べてみるべきじゃないかしら。なんとなくだけど。知りたくない?」
「別に」
「でも、お兄さんを家に戻したくて始めたことなんでしょ?理由がわからないと、先に進まないわよね」
「そうか。確かにそうだ。俺だってなんで閣下がそんなに兄さんを憎むのか、理由を探ろうとしてたのに、いつの間にか目的がぼやけてた」
俺たちは顔を見合わせ、うなずきあった。
「リュカ、自分を責めないで」
「いや、本当に、俺がバカだったんだ。閣下は危ないってわかってたのに。兄さんにも閣下には気をつけろって言われてたのに。本当にバカだよな。飛んで火に入る夏の虫ってやつだよ。わかってたくせに、近寄りすぎて、焼け死んだんだ」
「リュカ、あんたは死んでない。生きてる。言葉に気をつけて」
「ちっ。でも、本当に、自分がバカすぎて腹が立つんだ、本当に、本当に・・・」
「リュカ。あんたは被害者なのよ。自分を責めないで、あなたは悪くない」
ぼろっと一滴、涙がこぼれた。
なぜ、こんなに傷つくんだろう。
尻の穴が裂けただけだ。痛みは自業自得。
ただそれだけのことなのに、胸が痛く、自分の存在が根本から否定されたような気になる。
男のくせにみっともない。
そう思っても、心は辛く、両目から涙があふれてとまらなくなった。
「こ、こんなの、なんでもない、なんでもないことなんだ。それなのに・・・」
声が震えて言葉にならない。
「リュカ」
いつの間にか、ネルがベッドの上掛けの上に腰掛け、俺の肩に手を回していた。
「なんでもなくはない。なんでもなくないから、そんなに傷ついているんでしょう?」
言葉が出なかった。ただ、涙があふれ、止まらなくなった。
喉の奥から絞り出すうめき声と、滝のように流れる涙に自分でも驚きながら、涙が枯れるまで泣き続けた。
そうか、俺はどこかで知っていたんだ。
ネルなら、俺をたすけてくれるって。
ネルなら、俺を責めたり批判したりしない。ただ、寄り添ってくれるって知ってたんだ。
だから、無意識にネルを呼んだんだ。
ネルはぎゅっと俺を抱きしめた。
「そばにいるから、泣きたいだけ泣いていいんだよ。ずっと一緒にいるから」
俺はネルを抱きしめた。
ネルの体は温かい。俺にとって、ネルは相変わらずまるで近い親戚か兄弟のような存在で、抱きしめた感触は妹に近い。だが、妹にはこんな話はできないし、泣くなんてとんでもない。今は、友達として寄り添ってくれるネルがいてくれてよかった。
「どうして近づいたの?理由があったんでしょう?」
ネルはトントンとあやすように俺の背中をたたいた。
俺は体を離し、ネルが俺の肩を抱くような姿勢に落ち着いた。
お互いの顔が見えず、でも温かさが伝わるこのポジションが一番いい。
「んー。最初は、兄さんが軍役を2年で終えられなかったのが始まりだったんだ」
「うん」
「公爵家が抗議すれば、兄さんの軍役を終わらせることはできるはずだろう?約束の期間が過ぎたんだから。それなのに、何も教えてもらえないまま、軍役を伸ばされたのが納得いかなかったんだ。でも、結局何もさぐれず、こんなことになって。ほんと、ばかだよな」
「自分を責めない」ネルが優しく合いの手を入れた。
「起きてしまったことはなかったことにはできないけど。忘れることもできるし、何かの役に立てていたのかもしれないし・・・」
「そうかな」
「きっとそうよ」
「それで?一体何をしていたの?」
「閣下が、公爵家の役に立つために俺に酌をしろって」
「は?」
「意味わからないよな。あの人の頭の中では整理がついているのかもしれないけど。俺が一番母に似ているんだよ。あの人も、母のことは愛していたのか、単なる執着なのかわからないけど、とにかく今でも母に会いたがっているんだ。俺は酒を2杯注いで、愛人にバトンタッチして終わり。その時に何か聞き出せないかと思ったんだよ。もしかしたら、兄さんを戻してくれるように頼めるかもしれないとも思ったんだ。甘い考えだったよ」
「そうなのね。収穫はなかったの?」
「なかったなあ。閣下は兄上のことをすごく怒ってるってことがわかったぐらい?それと、毎回閣下が愛人とヤってるもんだから、俺もついつい刺激されて、あのとおり、ってわけ」
「はあ?そこはちょっと呆れるわ。なんでお兄さんのことを探りに行ってそうなるのよ」ネルは目をぐるりと回した。
「いやあ。おれだって男だから、やっぱ、なあ?あんな風に刺激されると興味がわくんだよ」
「まあ、いいわ。先に進めて」
「それで。なぜか俺が女と寝たことが閣下にバレて、兄さんがどんな顔するんのか見たいって言われたんだ。その時かな。閣下が兄さんを憎んでるってはっきりと感じたのは」
「憎んでいる?自分の息子を?」
「そう」
「なぜ?」
「わからない。だが、そうだ。今思い出した。閣下は俺を襲った日、めちゃめちゃ荒れてた。そして、これはあいつへの仕返しだって言ったんだ」
「あいつ?」
「兄さんのことだと思う。閣下は兄さんが俺に惚れてるって思い込んでた」
「お兄さんがあんたに惚れてる?それは本当なの?」
「まさか」
俺は、即、否定した。いくらネルでも、兄さんに悪い噂を立てるわけにはいかないから。
「なんか腑に落ちないのよね」ネルが顎に手をやった。
「理屈じゃなくって・・・なんとなく、すっきりしないの。なんで、お兄さんを憎むの?優秀な方なんでしょ?しかも、軍役について国を守ってくださっている人を?それに、なんでお兄さんへの仕返しであんたに暴力を振るうの?全然繋がらないんだけど」
「そうなんだよなあ」
「うーん。閣下はなぜそんなに荒れてたの?」
「知らない」
「多分、そこから調べてみるべきじゃないかしら。なんとなくだけど。知りたくない?」
「別に」
「でも、お兄さんを家に戻したくて始めたことなんでしょ?理由がわからないと、先に進まないわよね」
「そうか。確かにそうだ。俺だってなんで閣下がそんなに兄さんを憎むのか、理由を探ろうとしてたのに、いつの間にか目的がぼやけてた」
俺たちは顔を見合わせ、うなずきあった。
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