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第三幕〜空白の5年間 リュカ〜
109 【リュカ】手紙
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もうしない、と女たちに言うと、潮が引いたように、学園に来ることはなくなった。
俺をなんとか誘惑しようと粘る女もいたが、冷静になった俺は全然反応しなくなった。
俺の反応を見て、女はまるで汚い蛆虫でも見るような目で俺を見た。
まあ、いい。
俺のところに来るのは、ベネディクトの使いのフットマンだけ。しかも、用だけ済ませれば風のように去っていく。
だが、せいせいした。正直好奇心から始まった関係をどう終わらせたらいいのか、わからなかったし、どんどんつらくなるばっかりだったから。
心にはうそをつけないんだと、知った。
最初はごまかせても、最後まではごまかしきれない。
ただ体だけの関係を持つには、俺はまだ若すぎた。
イヴァンも安心したらしい。
「どこまでいっちまうのか、心配してたんだよ」ホッとした顔で俺に伝えるイヴァンに頭を下げた。
俺は兄に手紙を書いた。
今回のこと、欲に負けたこと、そして後悔したこと。
どうせ出さない手紙にならなんでも書けた。
兄さん、会いたいよ。このまま風に乗って兄さんのところまで飛んでいけたらいいのに。
風に舞うタンポポの綿毛も花びらも羨ましい。
それとも鳥になれたらいいんだろうか。
もう一度兄さんと会いたい。
そして、できるなら、心から願う。
愛していると伝えたい。
閣下は相変わらずだった。
俺の髪と目を愛でて酒を飲む。もう、帰りがけに聞こえる嬌声も気にならなくなった。
閣下は閣下、俺は俺だ。
でも、本来の目的を忘れちゃいけない。閣下はなぜ、あんなに兄を悪し様に言う?まるで憎んでいるかのように。
兄は大切な跡取りのはずなのに。
少し考えよう。俺は、立ち上がって、散歩に行くことにした。
「リュカ様、お手紙が来ていますよ」
舎監に声をかけられ、心臓が跳ね上がった。まさか、兄さんから?
まさか、まさか・・・
「どんな手紙ですか?」俺が勢いこんで聞いたので、舎監は後ろにのけぞった。
「そんなに必死にならなくてもちゃんとお渡ししますよ。はい、これ」
手のひらに乗せられた手紙は薄桃色でまるで女のもののようだった。
裏返したが、名前はない。
「なんだこれ」
「さあ、知りませんよ」
舎監はそっぽを向き、もう俺のことを意識の外に追い出したらしい。
まあ、そりゃ、嫌われるよな。あんなふしだらなことあからさまに寮でやっちゃダメだよ。
俺は舎監に心の中で謝ると、首を傾げながら部屋にもどった。
散歩は後回しだ。
もしかしたら、兄が偽装してよこした手紙かもしれない。
正直この頃には俺にもわかっていた。
駐屯地すらわからないのは、おかしい。
国外ならともかく、国内の後方支援部隊のはずなのに、いる場所がわからない。伝えられない。
それは特殊勤務に他ならないだろう。
王太子直属の特殊勤務部隊。それが兄が所属している部隊なんだろう。
王太子の部下から連絡が来ることからもそれは明らかだ。
そして、手紙すら届けられないというのもおかしい。
普通は、兵士の士気を高めるために手紙を書くことが奨励されてるからだ。
だから、兄が女のふりをして手紙をかくって考えも浮かんでも不思議はなかった。
封筒をビリビリに破くのは兄に申し訳なくおもい、レターオープナーを使って丁寧に封筒を開け中身を出す。
便箋から香水の匂いがした。
偽装工作って徹底してるんだな。そう思いながら手紙を開くと、俺の目玉は飛び出そうになった。
「愛しいリュカ
あなたが苦しみのあまりたくさんの女性と関係を持っていると聞きました。
正直信じたくはありませんでした。でも、残念ながら事実なんでしょう?
どうか、私をゆるしてください。
いままで勇気が持てませんでした。
生まれた時から婚約を定められていたマティアスとの縁を切ることができませんでした。
マティアスとの婚約は皆に祝福され決まりましたし、マティアスも私を愛してくれています。
でも、自分の心はこれ以上いつわれないことを知りました。
あなたの愛にこたえます。どうか、これ以上他の女の人を抱かないで。
私の代わりと知っていても、この身が切り裂かれそうです。
愛しています。
あなたもそうだと知っています。
きっと私たちの愛は、成就することでしょう。ともに戦えば。
どうか、勇気を持ってください。
愛を込めて
イネス」
・・・なにこれ?
俺をなんとか誘惑しようと粘る女もいたが、冷静になった俺は全然反応しなくなった。
俺の反応を見て、女はまるで汚い蛆虫でも見るような目で俺を見た。
まあ、いい。
俺のところに来るのは、ベネディクトの使いのフットマンだけ。しかも、用だけ済ませれば風のように去っていく。
だが、せいせいした。正直好奇心から始まった関係をどう終わらせたらいいのか、わからなかったし、どんどんつらくなるばっかりだったから。
心にはうそをつけないんだと、知った。
最初はごまかせても、最後まではごまかしきれない。
ただ体だけの関係を持つには、俺はまだ若すぎた。
イヴァンも安心したらしい。
「どこまでいっちまうのか、心配してたんだよ」ホッとした顔で俺に伝えるイヴァンに頭を下げた。
俺は兄に手紙を書いた。
今回のこと、欲に負けたこと、そして後悔したこと。
どうせ出さない手紙にならなんでも書けた。
兄さん、会いたいよ。このまま風に乗って兄さんのところまで飛んでいけたらいいのに。
風に舞うタンポポの綿毛も花びらも羨ましい。
それとも鳥になれたらいいんだろうか。
もう一度兄さんと会いたい。
そして、できるなら、心から願う。
愛していると伝えたい。
閣下は相変わらずだった。
俺の髪と目を愛でて酒を飲む。もう、帰りがけに聞こえる嬌声も気にならなくなった。
閣下は閣下、俺は俺だ。
でも、本来の目的を忘れちゃいけない。閣下はなぜ、あんなに兄を悪し様に言う?まるで憎んでいるかのように。
兄は大切な跡取りのはずなのに。
少し考えよう。俺は、立ち上がって、散歩に行くことにした。
「リュカ様、お手紙が来ていますよ」
舎監に声をかけられ、心臓が跳ね上がった。まさか、兄さんから?
まさか、まさか・・・
「どんな手紙ですか?」俺が勢いこんで聞いたので、舎監は後ろにのけぞった。
「そんなに必死にならなくてもちゃんとお渡ししますよ。はい、これ」
手のひらに乗せられた手紙は薄桃色でまるで女のもののようだった。
裏返したが、名前はない。
「なんだこれ」
「さあ、知りませんよ」
舎監はそっぽを向き、もう俺のことを意識の外に追い出したらしい。
まあ、そりゃ、嫌われるよな。あんなふしだらなことあからさまに寮でやっちゃダメだよ。
俺は舎監に心の中で謝ると、首を傾げながら部屋にもどった。
散歩は後回しだ。
もしかしたら、兄が偽装してよこした手紙かもしれない。
正直この頃には俺にもわかっていた。
駐屯地すらわからないのは、おかしい。
国外ならともかく、国内の後方支援部隊のはずなのに、いる場所がわからない。伝えられない。
それは特殊勤務に他ならないだろう。
王太子直属の特殊勤務部隊。それが兄が所属している部隊なんだろう。
王太子の部下から連絡が来ることからもそれは明らかだ。
そして、手紙すら届けられないというのもおかしい。
普通は、兵士の士気を高めるために手紙を書くことが奨励されてるからだ。
だから、兄が女のふりをして手紙をかくって考えも浮かんでも不思議はなかった。
封筒をビリビリに破くのは兄に申し訳なくおもい、レターオープナーを使って丁寧に封筒を開け中身を出す。
便箋から香水の匂いがした。
偽装工作って徹底してるんだな。そう思いながら手紙を開くと、俺の目玉は飛び出そうになった。
「愛しいリュカ
あなたが苦しみのあまりたくさんの女性と関係を持っていると聞きました。
正直信じたくはありませんでした。でも、残念ながら事実なんでしょう?
どうか、私をゆるしてください。
いままで勇気が持てませんでした。
生まれた時から婚約を定められていたマティアスとの縁を切ることができませんでした。
マティアスとの婚約は皆に祝福され決まりましたし、マティアスも私を愛してくれています。
でも、自分の心はこれ以上いつわれないことを知りました。
あなたの愛にこたえます。どうか、これ以上他の女の人を抱かないで。
私の代わりと知っていても、この身が切り裂かれそうです。
愛しています。
あなたもそうだと知っています。
きっと私たちの愛は、成就することでしょう。ともに戦えば。
どうか、勇気を持ってください。
愛を込めて
イネス」
・・・なにこれ?
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