60 / 279
第二幕〜マティアス〜
59 13歳 母の脅威
しおりを挟む
私にとって今大切なのはリュカだった。可愛いリュカ。私が守ってやらなけれは母に殺されてしまうかもしれない。
私は、この秋からは学園に入学し、寄宿舎に入ることが決まっている。公爵家の嫡男として生徒会に入るよう、すでに要請を受けていた。
しかし、そんな場合ではない。
平日のほとんどの時間を不在にしたら、母はいつかリュカを殺してしまうだろう。
その未来には耐えらえれない。
「リュカに毒を盛るのはおやめください」
私は正面から母に抗議した。
母はとぼけるかもしれない。だが、牽制にはなるだろう。
母はデイルームで優雅に紅茶を口に運びながら、私をちらりと見た。
「なんのこと?」
「知られていないと思っているのですか?何度もリュカに薬を盛ったでしょう?これ以上、リュカに薬を飲ませようとするのなら、父上に言いますからね」
母はカップをソーサーにおいた。
「勝手な憶測でものを言ってはなりませんよ。あなたらしくもない」
微笑んだ母は完璧な貴婦人に見えた。しかし、その中身は真っ黒だ。
「その通りですね」
「子を殺すことも人の道に外れていますよ。お忘れなく。たとえそれが・・・遠縁の子であってもね」
「ふふふ、おかしなことを。当たり前でしょうに」
「ははは、そうですね」
私は紅茶を口に含んだ。
なぜかほろ苦く、哀しい味がした。
そして、父だ。
「この秋から寄宿舎に入るのは取りやめにします」
私は父に宣言した。
父は執務の手を止め私を見上げた。私は、あの机に向かう父を冷めた目で見返した。
「しかし、第二王子殿下が同級にいらっしゃるのだ。お前がお側で世話をすることを期待されている」
「いとこのメイソンにやらせてください」
「第二王子殿下の側近に取り立てられるチャンスを他の者に譲るというのか?」
「必要ありません」
私はイライラして父を見た。
「側近など。そのようなコネではなく実力で認められればいいのです。私は第一王子の側近になります」
「うむ・・・」
父は反応に困ったらしく黙り込んだ。
今の第一王子は優秀で母方の家柄もよく、当然のように立太子を期待されている。
第二王子も優秀だが、王位を継ぐチャンスは少ない。
そして、側近になるのなら、将来の王である王太子の側近の方がはるかにメリットが大きい。
「父上は、母上がリュカを傷つけているのをご存知ないのですか」
「リュカ?」
「あなたの二番目の息子ですよ。それすら覚えていないんですか?」
父はきまり悪げに視線を反らした。
「もちろん覚えている。アディに似た黒髪の子だ。だが、グウェンが?」
思わず舌打ちしてしまう。この人は一体何を見ているのか。関心がなさすぎる。
「このままでは殺されてしまいます。アディは自分の息子が殺されたら許さないでしょうね。随分と愛情深いたちなようですし」
「お前は何を知っているんだ?」
父の瞳が光った。
「別に。必要なこと以外は何も。ですが、寄宿舎には入りません。ここから通います。いいですね」
「・・・わかった」
父は折れるしかなかった。
あんな人でもアディのことは愛しているらしい。その子どものことはどうだか知らないが。
リュカに万一のことがあってアディを悲しませるのは嫌なのだ。
「ただし、中等部のみだ。3年。その間になんとかしろ」
「わかりました」
私が頷くと、父は目で了解を知らせ、指先をドアに向けて振り、書類に目を移した。
もう、私は父の意識から追い出されたらしい。
私は静かに書斎を出た。
だが、その数日後、事件が起きた。
後で聞いた話だが、アディが出産時に大量出血し、命が危ないと連絡があったらしい。
家族で夕食をとっていた父は蒼白になり、黙ってナプキンで口元を拭うと、そのままアディの元に駆けつけた。
母は苛立ちの全てをリュカにぶつけた。
「この、身持ちの悪い娼婦の息子風情が!」
小さなリュカの体がゴムまりのように跳ねた。
リュカは必死で体を丸め、小さくなっているが、狂乱した母は加減を知らず、リュカを蹴り続けた。
(リュカが殺されてしまう・・・!)
私は必死で母を止めた。ベネディクトも母を説得しようとしたが、興奮した母は聞く耳を持たなかった。
仕方がない。私は切り札を出した。
リュカは遠縁ではなく、父の愛人の子だと私が知っていることを母に伝えたのだ。
母が静かになった時には、リュカは傷だらけになっていた。
母の靴についていた飾りのビジューがリュカの柔らかい肌を傷つけ、身体中のあちこちから出血していた。
「リュカ、大丈夫か?」
私が聞くと、リュカは笑った。
まるで、大丈夫だ、と告げるように。
このままではダメだ。いつか必ずリュカは母に殺されてしまう。
なんとかしなければ。
私は、この秋からは学園に入学し、寄宿舎に入ることが決まっている。公爵家の嫡男として生徒会に入るよう、すでに要請を受けていた。
しかし、そんな場合ではない。
平日のほとんどの時間を不在にしたら、母はいつかリュカを殺してしまうだろう。
その未来には耐えらえれない。
「リュカに毒を盛るのはおやめください」
私は正面から母に抗議した。
母はとぼけるかもしれない。だが、牽制にはなるだろう。
母はデイルームで優雅に紅茶を口に運びながら、私をちらりと見た。
「なんのこと?」
「知られていないと思っているのですか?何度もリュカに薬を盛ったでしょう?これ以上、リュカに薬を飲ませようとするのなら、父上に言いますからね」
母はカップをソーサーにおいた。
「勝手な憶測でものを言ってはなりませんよ。あなたらしくもない」
微笑んだ母は完璧な貴婦人に見えた。しかし、その中身は真っ黒だ。
「その通りですね」
「子を殺すことも人の道に外れていますよ。お忘れなく。たとえそれが・・・遠縁の子であってもね」
「ふふふ、おかしなことを。当たり前でしょうに」
「ははは、そうですね」
私は紅茶を口に含んだ。
なぜかほろ苦く、哀しい味がした。
そして、父だ。
「この秋から寄宿舎に入るのは取りやめにします」
私は父に宣言した。
父は執務の手を止め私を見上げた。私は、あの机に向かう父を冷めた目で見返した。
「しかし、第二王子殿下が同級にいらっしゃるのだ。お前がお側で世話をすることを期待されている」
「いとこのメイソンにやらせてください」
「第二王子殿下の側近に取り立てられるチャンスを他の者に譲るというのか?」
「必要ありません」
私はイライラして父を見た。
「側近など。そのようなコネではなく実力で認められればいいのです。私は第一王子の側近になります」
「うむ・・・」
父は反応に困ったらしく黙り込んだ。
今の第一王子は優秀で母方の家柄もよく、当然のように立太子を期待されている。
第二王子も優秀だが、王位を継ぐチャンスは少ない。
そして、側近になるのなら、将来の王である王太子の側近の方がはるかにメリットが大きい。
「父上は、母上がリュカを傷つけているのをご存知ないのですか」
「リュカ?」
「あなたの二番目の息子ですよ。それすら覚えていないんですか?」
父はきまり悪げに視線を反らした。
「もちろん覚えている。アディに似た黒髪の子だ。だが、グウェンが?」
思わず舌打ちしてしまう。この人は一体何を見ているのか。関心がなさすぎる。
「このままでは殺されてしまいます。アディは自分の息子が殺されたら許さないでしょうね。随分と愛情深いたちなようですし」
「お前は何を知っているんだ?」
父の瞳が光った。
「別に。必要なこと以外は何も。ですが、寄宿舎には入りません。ここから通います。いいですね」
「・・・わかった」
父は折れるしかなかった。
あんな人でもアディのことは愛しているらしい。その子どものことはどうだか知らないが。
リュカに万一のことがあってアディを悲しませるのは嫌なのだ。
「ただし、中等部のみだ。3年。その間になんとかしろ」
「わかりました」
私が頷くと、父は目で了解を知らせ、指先をドアに向けて振り、書類に目を移した。
もう、私は父の意識から追い出されたらしい。
私は静かに書斎を出た。
だが、その数日後、事件が起きた。
後で聞いた話だが、アディが出産時に大量出血し、命が危ないと連絡があったらしい。
家族で夕食をとっていた父は蒼白になり、黙ってナプキンで口元を拭うと、そのままアディの元に駆けつけた。
母は苛立ちの全てをリュカにぶつけた。
「この、身持ちの悪い娼婦の息子風情が!」
小さなリュカの体がゴムまりのように跳ねた。
リュカは必死で体を丸め、小さくなっているが、狂乱した母は加減を知らず、リュカを蹴り続けた。
(リュカが殺されてしまう・・・!)
私は必死で母を止めた。ベネディクトも母を説得しようとしたが、興奮した母は聞く耳を持たなかった。
仕方がない。私は切り札を出した。
リュカは遠縁ではなく、父の愛人の子だと私が知っていることを母に伝えたのだ。
母が静かになった時には、リュカは傷だらけになっていた。
母の靴についていた飾りのビジューがリュカの柔らかい肌を傷つけ、身体中のあちこちから出血していた。
「リュカ、大丈夫か?」
私が聞くと、リュカは笑った。
まるで、大丈夫だ、と告げるように。
このままではダメだ。いつか必ずリュカは母に殺されてしまう。
なんとかしなければ。
0
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる