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第二幕〜マティアス〜
55 13歳 リュカに迫る危険
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リュカが家に引き取られてから、「兄弟らしく」少しずつ距離が縮まっていった。
私の姿を見ると、子犬のように駆け寄り、全身で嬉しさを表現されてしまっては、私とて嫌えるはずもない。
もともと、天使のような弟を可愛がりたくてたまらなかったのだから。
「兄上」
甘えるように私の手に頭を押し付けてくる。
そっと柔らかい髪を撫でると、クスクスと陽の光のような笑いがこぼれる。
指先を伝うなめらかな感触とかすかに伝わる皮膚の暖かさに、胸の奥で光の粒がふわふわと踊りだすような気がした。
「おいしいでふ」
頬いっぱいに焼き菓子を頬張りながら、目を輝かせる。
「ゆっくりお食べ」
口元についた菓子を指先でつまみ、危うく自分の口元に持って行きそうになって我に返る。
不思議そうにみるリュカは、取り繕ったような笑みを浮かべた私のことをどう思っていたのだろう。
「兄上、今度釣りをしませんか?」
リュカの誘い文句に首を傾げた。
一度父上に釣りに連れていっていただいたことがある。
紳士の嗜みとして、釣りの名所であるレスター湖(屋敷から馬で一日かかる)まで出かけ、現地では釣りのための東屋で軽食やアルコールが振舞われていた。
紳士は湖上の船に向かい、ご婦人方は軽食と紅茶をたのしみながら噂話に精を出す。
そういえば、あの日釣ったマスはただ塩焼きにして振舞われただけなのに美味しかった。
リュカも体験したいんだろうか。
そう思って聞き返すと、リュカは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
釣りのやり方は一つではなかったらしい。
うちのリュカは可愛いだけでなく物知りなんだと鼻が高くなった。
「弟とは、可愛いものだな。君もそうか?」
母の茶会に、自分の母親のお供でやってきた同い年の友人であるガスパルに聞いたところ、怪訝な顔をされた。
「弟なんて、邪魔なだけだぞ?」
頭でも打ったのかと言わんばかりのガスパルの態度に同情する。
(ま、ガスパルの弟ならそうだろう。リュカの愛らしさは世界一だからな)
こいつは、弟という存在の愛らしさを知らないのだ。かわいそうなやつめ。
「はは、そうだな」
含み笑いで茶を飲むと、ガスパルは目を剥いた。
リュカの可愛らしさは私だけが知っていればいい。
「私だけのリュカ」そう考えるだけで、ガスパルの無礼な反応も許してやれる。
しかし、リュカを取り巻く世界の全てが彼を受け入れていたわけではない。
母は、父が自分をかえりみない恨みを全てリュカに向け、その恨みは日増しに強くなっていった。
誰にも気づかれていないと思ってリュカを見つめる視線は、まるで闇のように暗く粘ついていた。
もし、色が見えたとしたら真っ黒な恨みがリュカにまとわりついているのが見えただろう。
なぜあのように愛らしいリュカを傷つけたいと思うのか、全く理解できない。
しかも、父は無関心でリュカの安全に気を配ってやらない。
私がリュカを守ってやらなくては。
ベネディクトや私付きの使用人達に母に用心するように指示を出すと、次々にリュカを害そうとする企みが露見した。
服に仕込まれた針などは序の口で、腹下しの薬、傷薬に毒を混ぜたことも発覚した。
一度などは、階段の上から突き落とそうとしているところをすんでのところで止めた。
母の手先となっているのは、ルイスという親戚筋の男だった。
こいつはタチが悪く、複数のメイドに手を出し、言いなりにしてリュカを害するための手先として使っていた。
どうにか阻止できないかと考えていたが、ずる賢い奴で、母の親戚であることをかさにきて、いつもうまく立ち回り尻尾をつかませなかった。
ある日のこと。
母付きのメイドから菓子を渡された。
「ぼっちゃま、最近散策されながら、何かを考えられているとか。頭を使うとお腹が空くでしょう?」
気の良さそうな笑顔を浮かべたメイドから渡されたナプキンにはいつもよりもたくさんのクッキーが入っていた。
甘いものが好きなリュカが喜びそうだ。
ついうれしくなり、唇に笑みが浮かんだ。
「ありがとう」
そう伝えると、なぜかメイドが一瞬ひるみ、そしてその表情はすぐに顔全体を覆った笑みで隠されわからなくなってしまった。
その訳がわかったのは、15分後。
クッキーには毒が入っていた。
私の姿を見ると、子犬のように駆け寄り、全身で嬉しさを表現されてしまっては、私とて嫌えるはずもない。
もともと、天使のような弟を可愛がりたくてたまらなかったのだから。
「兄上」
甘えるように私の手に頭を押し付けてくる。
そっと柔らかい髪を撫でると、クスクスと陽の光のような笑いがこぼれる。
指先を伝うなめらかな感触とかすかに伝わる皮膚の暖かさに、胸の奥で光の粒がふわふわと踊りだすような気がした。
「おいしいでふ」
頬いっぱいに焼き菓子を頬張りながら、目を輝かせる。
「ゆっくりお食べ」
口元についた菓子を指先でつまみ、危うく自分の口元に持って行きそうになって我に返る。
不思議そうにみるリュカは、取り繕ったような笑みを浮かべた私のことをどう思っていたのだろう。
「兄上、今度釣りをしませんか?」
リュカの誘い文句に首を傾げた。
一度父上に釣りに連れていっていただいたことがある。
紳士の嗜みとして、釣りの名所であるレスター湖(屋敷から馬で一日かかる)まで出かけ、現地では釣りのための東屋で軽食やアルコールが振舞われていた。
紳士は湖上の船に向かい、ご婦人方は軽食と紅茶をたのしみながら噂話に精を出す。
そういえば、あの日釣ったマスはただ塩焼きにして振舞われただけなのに美味しかった。
リュカも体験したいんだろうか。
そう思って聞き返すと、リュカは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
釣りのやり方は一つではなかったらしい。
うちのリュカは可愛いだけでなく物知りなんだと鼻が高くなった。
「弟とは、可愛いものだな。君もそうか?」
母の茶会に、自分の母親のお供でやってきた同い年の友人であるガスパルに聞いたところ、怪訝な顔をされた。
「弟なんて、邪魔なだけだぞ?」
頭でも打ったのかと言わんばかりのガスパルの態度に同情する。
(ま、ガスパルの弟ならそうだろう。リュカの愛らしさは世界一だからな)
こいつは、弟という存在の愛らしさを知らないのだ。かわいそうなやつめ。
「はは、そうだな」
含み笑いで茶を飲むと、ガスパルは目を剥いた。
リュカの可愛らしさは私だけが知っていればいい。
「私だけのリュカ」そう考えるだけで、ガスパルの無礼な反応も許してやれる。
しかし、リュカを取り巻く世界の全てが彼を受け入れていたわけではない。
母は、父が自分をかえりみない恨みを全てリュカに向け、その恨みは日増しに強くなっていった。
誰にも気づかれていないと思ってリュカを見つめる視線は、まるで闇のように暗く粘ついていた。
もし、色が見えたとしたら真っ黒な恨みがリュカにまとわりついているのが見えただろう。
なぜあのように愛らしいリュカを傷つけたいと思うのか、全く理解できない。
しかも、父は無関心でリュカの安全に気を配ってやらない。
私がリュカを守ってやらなくては。
ベネディクトや私付きの使用人達に母に用心するように指示を出すと、次々にリュカを害そうとする企みが露見した。
服に仕込まれた針などは序の口で、腹下しの薬、傷薬に毒を混ぜたことも発覚した。
一度などは、階段の上から突き落とそうとしているところをすんでのところで止めた。
母の手先となっているのは、ルイスという親戚筋の男だった。
こいつはタチが悪く、複数のメイドに手を出し、言いなりにしてリュカを害するための手先として使っていた。
どうにか阻止できないかと考えていたが、ずる賢い奴で、母の親戚であることをかさにきて、いつもうまく立ち回り尻尾をつかませなかった。
ある日のこと。
母付きのメイドから菓子を渡された。
「ぼっちゃま、最近散策されながら、何かを考えられているとか。頭を使うとお腹が空くでしょう?」
気の良さそうな笑顔を浮かべたメイドから渡されたナプキンにはいつもよりもたくさんのクッキーが入っていた。
甘いものが好きなリュカが喜びそうだ。
ついうれしくなり、唇に笑みが浮かんだ。
「ありがとう」
そう伝えると、なぜかメイドが一瞬ひるみ、そしてその表情はすぐに顔全体を覆った笑みで隠されわからなくなってしまった。
その訳がわかったのは、15分後。
クッキーには毒が入っていた。
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