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第二幕〜マティアス〜
48 15歳 勉強とは
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通された部屋はこじんまりとしていたが、意外にも趣味が良かった。
玄関ホールに飾られていた絵画と同じ持ち主が選んだとは思えないほど。
白く塗られた猫足のローテーブルの中央にはピンク色の花が飾られ、窓からは今ホールで起きたばかりの悲惨な出来事を全て上書きするほど強く、赤い夕日が差し込んでいた。
あの少年が全身で陽の光を浴びることができるのはいつになるのだろうかと、憂鬱になった。
「大変お待たせしてしまい、そしてあのようなお恥ずかしい場面をお見せしてしまいまして、申し訳ありませんでした」
女主人は優美に笑うと丁寧に頭を下げた。
こうしていると美しく見えなくもないが、先ほどの形相を見た後では、どうも落ち着かない。
「お口に合うようなものではございませんが・・・」
優美な鳥が描かれたティーカップで紅茶がサーブされた。
赤みを帯びた茶はおそらく最高級品だろう。
添えられた菓子も高級店のものだった。
私もベネディクトも家の外では食べ物に口はつけない。
一瞬瞳を曇らせた女主人のためにベネディクトが紅茶に口をつけるふりをして、ティーカップをソーサーに戻すと、ほっとしたというように女主人の持つ空気が和らいだ。
「あの・・・」
「今日は・・・」
「女主人・・・」
私とベネディクト、女主人の3人が同時に口を開いた。
全員が目を見合わせ、次に女主人とベネディクトが視線を交わすと、私に続きを促した。
「いや、あの・・・ここは、なんだ?」
「なんだと申されますと?」
女主人は質問の趣旨がわからなかったようだ。
「裸に近い少年が逃げようとしていたり、大男が怒鳴ったり、裸の女人の絵が玄関に飾ってあったり・・・普通の屋敷とは程遠いと思うのだが・・・先ほどの会話から、ここでは、あの少年を売っている、ということなのか?」
「おぼっちゃま・・・」
女主人はどう答えたらいいのかとベネディクトを窺い見たが、ベネディクトが静かに頷いたので、話す気になったようだ。
「左様でございます。当館のような場所を娼館といいます。女や少年が男性相手に春をひさぐ・・・つまり心を慰めていただく場所でございます」
「その割には随分乱暴な扱いをされているようだが」先ほどの少年の顔を思い浮かべ、私は先ほど感じた不快な気分をまた思い出した。
「まあ、お客様によりましては、そのようなプレイをお好みの方もいらっしゃいます。心をお慰めするためには場合により、体を使うこともあるんですよ」
「ごほん」ベネディクトが咳払いをした。「女主人」
「サビーヌとお呼びくださいな」女主人ことサビーヌはベネディクトに色を含んだ視線を投げかけた。
「サビーヌ夫人。今日のことはご内密に。事前にジュールと話をさせてもらえるように頼んだが、少し待ってほしい。しばらく私とぼっちゃんを二人きりに」
「かしこまりましてございます。当館といたしましても、先ほどの場面は忘れていただけると助かります」
サビーヌは少しはすっぱな口調で返事をすると立ち上がり、「私は奥におりますので、何かありましたらお声がけくださいな」
そう言い残し、部屋から出ていった。
残されたベネディクトと私の間には気まずい空気が残った。
「ベネディクト、一体、今日はなぜここに」
「ぼっちゃま。今日ここにきたのは・・・」ベネディクトは言葉を切ると口をつぐんだ。
しばらく逡巡した後、思い直したのか、しっかりと座り直し、私の目を見た。
「今日、ここにきたのは、勉強のためです」
「勉強のため?」なぜここで?
「閨教育は学ばれましたね」
「ああ」
「閨教育では、女性との性交渉について学んだはずです。でも、世の中には男性同士の性交渉もあるのです」
「男性同士で?」
先ほどのやりとりが暗示していたそのことは、ずっと頭の中を堂々巡りしていた。
そのようなことができるんだろうか。その時頭にうかんだのはリュカのことだった。
イネスを前にしても私の体には変化はないが、リュカのそばに行ったり、匂いを嗅ぐと体が反応してしまうことがある。最近では笑顔を思い浮かべるだけでも私の中心は固く勃ちあがり、リュカの夢を見ない日は無くなっていた。
ついこの間、傷を舐められ、初めての口づけをしてから、ますます飢えはつのり、隙を見ては唇を重ねるようになっていた。
あの時、初めてリュカと口付けた時、ベネディクトはそれを見たに違いない。
目を見開いてベネディクトの顔を見ると、ベネディクトは静かに頷いた。
「愛し合っているのであれば、いつかそうなることもあるでしょう。しかし、リュカ様はまだ子供です。体も小さい。大人と子供の性交には危険が伴います。時に取り返しがつかないほどの。それを知っていただきたくて、こちらにおいでいただいたのです」
玄関ホールに飾られていた絵画と同じ持ち主が選んだとは思えないほど。
白く塗られた猫足のローテーブルの中央にはピンク色の花が飾られ、窓からは今ホールで起きたばかりの悲惨な出来事を全て上書きするほど強く、赤い夕日が差し込んでいた。
あの少年が全身で陽の光を浴びることができるのはいつになるのだろうかと、憂鬱になった。
「大変お待たせしてしまい、そしてあのようなお恥ずかしい場面をお見せしてしまいまして、申し訳ありませんでした」
女主人は優美に笑うと丁寧に頭を下げた。
こうしていると美しく見えなくもないが、先ほどの形相を見た後では、どうも落ち着かない。
「お口に合うようなものではございませんが・・・」
優美な鳥が描かれたティーカップで紅茶がサーブされた。
赤みを帯びた茶はおそらく最高級品だろう。
添えられた菓子も高級店のものだった。
私もベネディクトも家の外では食べ物に口はつけない。
一瞬瞳を曇らせた女主人のためにベネディクトが紅茶に口をつけるふりをして、ティーカップをソーサーに戻すと、ほっとしたというように女主人の持つ空気が和らいだ。
「あの・・・」
「今日は・・・」
「女主人・・・」
私とベネディクト、女主人の3人が同時に口を開いた。
全員が目を見合わせ、次に女主人とベネディクトが視線を交わすと、私に続きを促した。
「いや、あの・・・ここは、なんだ?」
「なんだと申されますと?」
女主人は質問の趣旨がわからなかったようだ。
「裸に近い少年が逃げようとしていたり、大男が怒鳴ったり、裸の女人の絵が玄関に飾ってあったり・・・普通の屋敷とは程遠いと思うのだが・・・先ほどの会話から、ここでは、あの少年を売っている、ということなのか?」
「おぼっちゃま・・・」
女主人はどう答えたらいいのかとベネディクトを窺い見たが、ベネディクトが静かに頷いたので、話す気になったようだ。
「左様でございます。当館のような場所を娼館といいます。女や少年が男性相手に春をひさぐ・・・つまり心を慰めていただく場所でございます」
「その割には随分乱暴な扱いをされているようだが」先ほどの少年の顔を思い浮かべ、私は先ほど感じた不快な気分をまた思い出した。
「まあ、お客様によりましては、そのようなプレイをお好みの方もいらっしゃいます。心をお慰めするためには場合により、体を使うこともあるんですよ」
「ごほん」ベネディクトが咳払いをした。「女主人」
「サビーヌとお呼びくださいな」女主人ことサビーヌはベネディクトに色を含んだ視線を投げかけた。
「サビーヌ夫人。今日のことはご内密に。事前にジュールと話をさせてもらえるように頼んだが、少し待ってほしい。しばらく私とぼっちゃんを二人きりに」
「かしこまりましてございます。当館といたしましても、先ほどの場面は忘れていただけると助かります」
サビーヌは少しはすっぱな口調で返事をすると立ち上がり、「私は奥におりますので、何かありましたらお声がけくださいな」
そう言い残し、部屋から出ていった。
残されたベネディクトと私の間には気まずい空気が残った。
「ベネディクト、一体、今日はなぜここに」
「ぼっちゃま。今日ここにきたのは・・・」ベネディクトは言葉を切ると口をつぐんだ。
しばらく逡巡した後、思い直したのか、しっかりと座り直し、私の目を見た。
「今日、ここにきたのは、勉強のためです」
「勉強のため?」なぜここで?
「閨教育は学ばれましたね」
「ああ」
「閨教育では、女性との性交渉について学んだはずです。でも、世の中には男性同士の性交渉もあるのです」
「男性同士で?」
先ほどのやりとりが暗示していたそのことは、ずっと頭の中を堂々巡りしていた。
そのようなことができるんだろうか。その時頭にうかんだのはリュカのことだった。
イネスを前にしても私の体には変化はないが、リュカのそばに行ったり、匂いを嗅ぐと体が反応してしまうことがある。最近では笑顔を思い浮かべるだけでも私の中心は固く勃ちあがり、リュカの夢を見ない日は無くなっていた。
ついこの間、傷を舐められ、初めての口づけをしてから、ますます飢えはつのり、隙を見ては唇を重ねるようになっていた。
あの時、初めてリュカと口付けた時、ベネディクトはそれを見たに違いない。
目を見開いてベネディクトの顔を見ると、ベネディクトは静かに頷いた。
「愛し合っているのであれば、いつかそうなることもあるでしょう。しかし、リュカ様はまだ子供です。体も小さい。大人と子供の性交には危険が伴います。時に取り返しがつかないほどの。それを知っていただきたくて、こちらにおいでいただいたのです」
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