兄さん、あんたの望みを教えてくれよ。

藍音

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第一幕〜リュカ〜

28 10歳 特別になりたい

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ちゃぷん。
湯船の中、湯が跳ねる。
俺たちは二、三日に一度は一緒に風呂に入るようになっていた。

「私が寄宿生活に入るから、弟は寂しいんだよ」

優しく笑う跡取り様の言葉に、使用人達は皆、微笑みを隠せない。

「リュカ様のおかげで、マティアス様もすっかりお兄さんらしくなられましたね」
「お優しいお兄さんに成長されて、頼もしい限りですな」

女官が俺たちの体を洗い終わると、兄が使用人を下がらせる。

「あとは、私がリュカの面倒を見ておくから、用事を済ませておいで」
「ありがとうございます、坊っちゃま」

「本当に、すっかりお優しくなられて」
「リュカ様がおいでになられてから頼もしくなられましたよね」

メイドたちが部屋を去りながら、語り合う声が小さくなっていく。

ほんの10分ほどのわずかな時間。
それが俺たちがふたりきりになれる時間。

兄が俺を引き寄せ、俺は兄の膝の上に座る。
優しい兄に甘える弟の俺は、それをいいことに兄にくっついていた。
にいちゃんの膝の上はあったかい。
腕のなかもあったかい。
裸のまま兄とくっついていると、自分が特別だと感じられて嬉しかった。
とくとくと鳴る兄の心臓の音に耳をすます。

「にいちゃん」俺は兄の唇に唇を寄せた。
ぬるりとした兄の舌が遠慮なく入り込み、俺の口の中を探るように動き回った。
その舌の動きを追いながら、身体を兄に預け、兄の身体に手を這わせた。
乳首、固くしまった腹筋、脇腹、そして・・・

「だめだよ、リュカ」

兄の手が俺の手をやんわりとつかんだ。
いつも兄のアレは触らせてもらえない。
リネンで隠されたそこは、パンパンに腫れ上がってるってわかるのに。

「なんで」
「ダメだから」
「だから、なんで」

この押し問答をしている間に女官が帰ってくる。そして、その時には兄の股間は静まり返っている、それがいつものパターンだった。
でも今日は何か別の用事でもあったのか、女官は帰ってこなかった。

「なんでダメなのか、教えてよ」
ふくれっ面で引く気配のない俺に、兄は観念したようだ。
「私たちは兄弟だし、お前は小さすぎる」
「そんなに小さくないよ。俺だって毎年背が伸びてるし」
「私に比べたら小さいだろう?」
「そりゃ、にいちゃんは背が高いから」

閣下も奥様も背が高かった。その子である兄は当然背が高かった。
ちなみに俺のかあちゃんは小さい。残念ながら俺は母に似たのか、兄ほど大きくはならなかった。
でも、まだ成長期にどうなるか、わからないじゃないか!

「お前を壊してしまいたくないんだよ。だから、ダメだ」

なんとか反論できないかと必死で頭を巡らせたが、その時女官が戻ってきた。時間切れだ。

「にいちゃんのケチ」

小声で言うと、体を離す。
後ろで兄が苦笑している気配がした。


一体どうしたら、兄が俺だけのものになるのだろう。
どうしても、兄が寄宿生活に入る前に、もっと近づきたい。
でもやりかたがわからない。
どうしたら、もっと近づける?あいつに、イネスに勝てる?
俺の頭にあったのはそれだけ。
でも、その方法は見当もつかなかった。

そもそも、兄はなんでも持っている。
多分持ってないのは自由な時間だけ。
でも、俺は時間なんて作り出せない。
ほんのわずかな時間を兄に割いてもらい、それにすがりついているだけだ。

その後も、他人の目を盗んでは兄との逢瀬を重ねた。
人目がなければすぐに兄にしがみつき、キスをねだる。
兄の体温も唇も気持ちがよくて、病みつきだった。

「にいちゃん」
両手で精一杯兄にすがりつく。
兄は、まるで俺を愛しいとでもいうように俺を抱きしめた。
「リュカ、可愛いリュカ」

そのまま俺の口の中に大きく舌を入れてくる。
俺は必死で兄の舌を受け止めた。
ちゅくちゅくと耳の奥に濡れた音が響き、腹の底がカッと熱くなる。どうしたらいいのか分からなくて兄に擦り付けると兄があわてて身を引いた。

「リュカ・・・リュカ。ダメだこれ以上は。お前を壊してしまいそうだ」
「にいちゃん、おれ、どうしたらいいの?」困り果てて兄を見ると、兄は答えに困ったように俺を見た。
「リュカ・・・」喉の奥でつぶやくと、激しく体を震わせ、俺を抱きしめた。
「にいちゃん?」
「ごめん」
兄は両腕を突っ張り、俺の体をつき離した。

「しばらく近づくな」

聞いたことがないほど冷たい声。
俺がことばを失っている間に、兄は逃げるように次の授業に行ってしまった。

それからというもの、徹底的に避けられた。
会いに行っても兄は顔を出さず、従者に追い払われる。
茶会でも目も合わせない。

ふたりの風呂もなし。
従者の目を盗んで図書館に忍び込みやっとふたりにきりになったときも、キスはゆるしてくれなかった。
「なんで?」
そう聞いても答えてくれない。
もしかして、俺、嫌われてしまったんだろうか。
それとも、最初から迷惑だと思われていた?

その後も、一切の接触を避けられ続け、兄は寄宿舎に行ってしまった。
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