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第一幕〜リュカ〜
14 8歳 兄弟の遊び
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それからは2~3日に一度、兄は俺に会いにきてくれるようになった。
「内緒だよ」
そう言いながら頭を撫でてくれる。
そしていつも何か甘いお菓子を持ってきてくれた。
優しい兄と甘い菓子。
幸せすぎて、信じられない。
そして、楽しい時間はいつも一瞬だった。
「俺・・・僕、兄上ともっと遊びたい」
つい甘えてしまうと、兄は少し困った様子を見せた。
「そうだね。私も勉強ばかりではなくて、弟と遊んでみたいものだが。父上はお許しくださるだろうか」
兄は考え込んでいた。
愚かな俺は、この願いがどんな波紋を呼ぶかなんて考えもせず、ただ大好きな兄と一緒にいたい、それしか考えていなかった。
翌日、兄は父に交渉したらしい。なんと1日に1時間の自由時間をもぎ取ってきたのだ。
俺は有頂天だった。
さすが俺の兄上。なんでもできないことはないんだ!
こんなすごい人の半分でも弟だってことが誇らしくてたまらなかった。
その日から毎日、午前中に1時間だけ兄と遊びまわった。
庭園の中や森、近くの湖にも一緒に行った。
ただの原っぱも二人で裸足になって駆けまわれば特別な場所に変わった。
足の裏に感じる土の湿った感触と草の匂い。
兄といると全てがいきいきと俺にその姿を表す。
俺の媚薬。
俺の魔法。
冷たく厳しい家の中でたったひとつだけ灯った明かりが兄だった。
突然母から離され、わきまえることばかりを痛みとともに教えられた俺に、突然与えられた光であり希望。
俺が生きていくためには兄がいなければならないと思い込むまでには、時間はかからなかった。
優しい兄、甘い兄。
いつも俺にわけてくれる菓子のように。
甘ったれでさみしがりやの俺は兄に依存し、離れられなくなっていった。
もっと一緒にいたい。
もっと近づきたい。
話がしたい。
そばにいたい。
遠慮がちに俺の頭を撫でる手。
そっと手を差し入れると、繋いでくれた兄の大きな手。
兄に、触れたい。
もっと、もっと。
兄弟愛?
他の兄弟達にこんな感情を抱いたことがあっただろうか?
すでにうっすらと忘れかけている妹も弟も、こんな風に心のそこから渇望することはなかった。
一度たりとも、なかった。
兄一人が地上に現れた星。俺を優しく照らす唯一の星だ。
そして俺はその星に手を伸ばしても、届かない哀れな一匹の虫にすぎない。
兄の勉強部屋の前で、毎日兄を待つ。
兄が部屋から出てきそうになると、急に忙しそうに何かに熱中しているふりをする。
優しい兄はいつも俺の邪魔をしてはいけないと少し遠慮がちに声をかける。
このルーティンがうれしかった。
そのあとは、毎日いろいろなことをして遊ぶ。
俺は体を動かして遊ぶのが好きだったし、兄とすることは全て楽しかった。
二人で駆け廻ればどこもかけがえのない思い出が刻まれる。
生臭い魚の匂いがする湖は、未来への船出ができる場所。
うっそうとした森は二人だけの秘密基地。
恐ろしい奥様が丹精込めている庭園ですら、いいにおいがする素敵な場所に変わった。
俺には兄さえいればよかった。
そして兄にもそう思ってもらいたかった。
俺にとっての世界が兄であるように。
兄にとっての世界になりたい。
子供の独占欲と笑うなら笑え。でも、本気でそう思っていたんだ。
ただ、兄が勝ち取ったのは、”自然の中で思索する”ための自由時間だった。
ガキだった俺は、二人で遊んでいることは秘密だってことすら理解していなかったし、勉強漬けの兄と不憫な弟に同情した使用人達がこっそり協力してくれていたってこともわかってなかった。
そして、俺たちが仲良くすることを面白く思わない存在がいるってことも。
大切な時間を壊すものはいつもゆっくりと忍び寄ってくる。
音もなく、静かに。
気付いた時にはもうがんじがらめで逃げられない。
そう、俺たちの関係みたいに。
「内緒だよ」
そう言いながら頭を撫でてくれる。
そしていつも何か甘いお菓子を持ってきてくれた。
優しい兄と甘い菓子。
幸せすぎて、信じられない。
そして、楽しい時間はいつも一瞬だった。
「俺・・・僕、兄上ともっと遊びたい」
つい甘えてしまうと、兄は少し困った様子を見せた。
「そうだね。私も勉強ばかりではなくて、弟と遊んでみたいものだが。父上はお許しくださるだろうか」
兄は考え込んでいた。
愚かな俺は、この願いがどんな波紋を呼ぶかなんて考えもせず、ただ大好きな兄と一緒にいたい、それしか考えていなかった。
翌日、兄は父に交渉したらしい。なんと1日に1時間の自由時間をもぎ取ってきたのだ。
俺は有頂天だった。
さすが俺の兄上。なんでもできないことはないんだ!
こんなすごい人の半分でも弟だってことが誇らしくてたまらなかった。
その日から毎日、午前中に1時間だけ兄と遊びまわった。
庭園の中や森、近くの湖にも一緒に行った。
ただの原っぱも二人で裸足になって駆けまわれば特別な場所に変わった。
足の裏に感じる土の湿った感触と草の匂い。
兄といると全てがいきいきと俺にその姿を表す。
俺の媚薬。
俺の魔法。
冷たく厳しい家の中でたったひとつだけ灯った明かりが兄だった。
突然母から離され、わきまえることばかりを痛みとともに教えられた俺に、突然与えられた光であり希望。
俺が生きていくためには兄がいなければならないと思い込むまでには、時間はかからなかった。
優しい兄、甘い兄。
いつも俺にわけてくれる菓子のように。
甘ったれでさみしがりやの俺は兄に依存し、離れられなくなっていった。
もっと一緒にいたい。
もっと近づきたい。
話がしたい。
そばにいたい。
遠慮がちに俺の頭を撫でる手。
そっと手を差し入れると、繋いでくれた兄の大きな手。
兄に、触れたい。
もっと、もっと。
兄弟愛?
他の兄弟達にこんな感情を抱いたことがあっただろうか?
すでにうっすらと忘れかけている妹も弟も、こんな風に心のそこから渇望することはなかった。
一度たりとも、なかった。
兄一人が地上に現れた星。俺を優しく照らす唯一の星だ。
そして俺はその星に手を伸ばしても、届かない哀れな一匹の虫にすぎない。
兄の勉強部屋の前で、毎日兄を待つ。
兄が部屋から出てきそうになると、急に忙しそうに何かに熱中しているふりをする。
優しい兄はいつも俺の邪魔をしてはいけないと少し遠慮がちに声をかける。
このルーティンがうれしかった。
そのあとは、毎日いろいろなことをして遊ぶ。
俺は体を動かして遊ぶのが好きだったし、兄とすることは全て楽しかった。
二人で駆け廻ればどこもかけがえのない思い出が刻まれる。
生臭い魚の匂いがする湖は、未来への船出ができる場所。
うっそうとした森は二人だけの秘密基地。
恐ろしい奥様が丹精込めている庭園ですら、いいにおいがする素敵な場所に変わった。
俺には兄さえいればよかった。
そして兄にもそう思ってもらいたかった。
俺にとっての世界が兄であるように。
兄にとっての世界になりたい。
子供の独占欲と笑うなら笑え。でも、本気でそう思っていたんだ。
ただ、兄が勝ち取ったのは、”自然の中で思索する”ための自由時間だった。
ガキだった俺は、二人で遊んでいることは秘密だってことすら理解していなかったし、勉強漬けの兄と不憫な弟に同情した使用人達がこっそり協力してくれていたってこともわかってなかった。
そして、俺たちが仲良くすることを面白く思わない存在がいるってことも。
大切な時間を壊すものはいつもゆっくりと忍び寄ってくる。
音もなく、静かに。
気付いた時にはもうがんじがらめで逃げられない。
そう、俺たちの関係みたいに。
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