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第一幕〜リュカ〜
6 5歳 リュカの立場
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最後に少しだけ男女の絡みを想像させる表現があります。
苦手な方はご注意ください。
***************************************************
「あなたは自分の立場をわかっているのですか?」
「た・・・たちば?」
そのとき、おれはたったの5歳だった。
立場なんてことばも意味も分かるわけがない。
「はぁっ」男は嫌みたらしくため息をついた。「そんなことも分からないのですか。これから先が思いやられますね」
俺はおろおろと目を泳がせ、手のひらをぎゅっと握りしめた。
「あなたは、公爵様が家の外で産ませた子供です。あなたの母親は公爵様の愛人です」
「そと・・・あいじん・・・?」
家の外ってのは、中じゃないってこと?庭とか、野原とか?
しかも、あいじん?
聞いたこともない言葉と、偉そうな男の態度に困り果てた。
でも、公爵様ってものすごく身分の高い方なはずだ。俺や母ちゃんと関わり合いがあるわけもない。
何がなんだかわからない。この男も、男の言ってることも。
俺が男をじっと見つめると、男はわざとらしいほど大きなため息をついた。
「まったく・・・仕方ありませんね。今日はあなたの立場について教えることにしましょう」
男はそう言うと、手を叩いた。
「リュカ様のお着替えを」
その言葉が終わらないうちに扉が開き、2人の女が音もなく入ってきた。
「あなたの身の回りはこの2人がお世話します。身なりを整えたら今日の勉強を始めますよ」
女たちは、洗顔用のボウルを湯で満たし、俺の世話をはじめた。
いままで一度も他人にそんなことをされたことがない俺は、ただ大人しくして怒られないようにしようと身を固くしていた。
女たちは手際はいいが、思いやりも優しさもない手付きで俺を着替えさせ、10分もたたないうちにまるで御曹司のような俺が出来上がった。
一目で高級品とわかるブラウスに銀糸を織り込んだコートを汚したらどれほど怒られるだろうかとビクビクしたけれど。
俺の支度ができると見計らったように男が戻り、小さくうなずいた。
女たちは無言で部屋から出て行き、俺は男と二人で取り残された。
「あの女の子どもだけあって、顔だけはいいですね。頭の中身が似ていないといいのですが」
それだけ言うと、部屋の端にあるテーブルの横にある椅子を指差した。
背もたれには美しい彫刻が施され、座面にも見るからに高級そうな赤いベルベットが貼られている。
(椅子を自慢したいってことかな?)
俺がまごついていると男はイラついたように言った。
「さっさと座りなさい。私の時間を浪費させるのですか」
男の声に含まれた怒気におびえた俺は、素早く椅子に腰をおろした。
「いいでしょう」男は満足気にうなずき、自分も対面にある椅子に腰掛けた。「まずはあなたの母親についてです。あなたの母親は、元は公爵家のメイドでした。男爵家の縁の者と紹介されたので、ありがたくも公爵家のメイドとしてご奉公させていただくことになったのです。それは知っていますか?」
俺はブンブンと首を横に振った。母ちゃんが公爵家で働いていたなんて聞いたこともなかった。
男は片眉を上げると、話を続けた。
「お屋敷にご奉公することになって、しばらくして旦那さまからお情けをいただけることになりました。そしてありがたくもお胤を宿したので、家を与えられたのです。」
「家・・・?」
「こちらのお屋敷のことですよ」
「でも・・・俺の家はここじゃないです。やっぱり人違いです。家に帰らせてください」
男はダン!と床を踏んだ。
「話を聞く時は、手は膝に置き、相手の言葉を遮ってはなりません!次は鞭で打ちますよ!」
俺は首をすくめた。
「そして産まれたのが、あなたです。諸事情がありこちらのお屋敷からは出ることになりましたが、貴方は旦那様のお子です。そして公爵家のために尽くす義務があります。事情はわかりましたね」
さっぱり分からない。
旦那様とはやっぱりあの「旦那様」のことだろうか。
一度たりとも話したことがないあの「旦那様」が俺のとうちゃんってこと?
想像もつかない。
「お情けって何ですか?」
男は馬鹿にするように冷笑を浮かべた。
「お情けとはお情けですよ。これまで貴方たち家族はどうやって生活していたと思ってるんですか?住むところも食事も湧いて出るとでも?屋根の下であたたかい食事ができていたのは全て公爵様のおかげですよ。感謝しなさい」
「公爵様ってのは・・・『旦那様』のことですか?あの、うちに来ていた。いつも母の手を掴んでは、寝室に・・・」
「それが貴方の母親の仕事ですよ。まあ、美しい子供を産んでいるので役目は果たしていますがね。旦那様もいたく気に入っているようですし」
「あいじん・・・」
「そうです。それがあなたの母親の仕事です。着飾り、旦那様をお慰めする。見返りとして、あなたたちは生活を保障されていたのです」
その瞬間、俺の脳裏には、旦那様が来た時に聞こえてきた母の声が耳をよぎった。
「旦那様・・・ああ、旦那様・・・あっ、あっ、あああ」
あの時、母は扉の向こうで何をしていた?
俺はあの時、一体何を見た?
苦手な方はご注意ください。
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「あなたは自分の立場をわかっているのですか?」
「た・・・たちば?」
そのとき、おれはたったの5歳だった。
立場なんてことばも意味も分かるわけがない。
「はぁっ」男は嫌みたらしくため息をついた。「そんなことも分からないのですか。これから先が思いやられますね」
俺はおろおろと目を泳がせ、手のひらをぎゅっと握りしめた。
「あなたは、公爵様が家の外で産ませた子供です。あなたの母親は公爵様の愛人です」
「そと・・・あいじん・・・?」
家の外ってのは、中じゃないってこと?庭とか、野原とか?
しかも、あいじん?
聞いたこともない言葉と、偉そうな男の態度に困り果てた。
でも、公爵様ってものすごく身分の高い方なはずだ。俺や母ちゃんと関わり合いがあるわけもない。
何がなんだかわからない。この男も、男の言ってることも。
俺が男をじっと見つめると、男はわざとらしいほど大きなため息をついた。
「まったく・・・仕方ありませんね。今日はあなたの立場について教えることにしましょう」
男はそう言うと、手を叩いた。
「リュカ様のお着替えを」
その言葉が終わらないうちに扉が開き、2人の女が音もなく入ってきた。
「あなたの身の回りはこの2人がお世話します。身なりを整えたら今日の勉強を始めますよ」
女たちは、洗顔用のボウルを湯で満たし、俺の世話をはじめた。
いままで一度も他人にそんなことをされたことがない俺は、ただ大人しくして怒られないようにしようと身を固くしていた。
女たちは手際はいいが、思いやりも優しさもない手付きで俺を着替えさせ、10分もたたないうちにまるで御曹司のような俺が出来上がった。
一目で高級品とわかるブラウスに銀糸を織り込んだコートを汚したらどれほど怒られるだろうかとビクビクしたけれど。
俺の支度ができると見計らったように男が戻り、小さくうなずいた。
女たちは無言で部屋から出て行き、俺は男と二人で取り残された。
「あの女の子どもだけあって、顔だけはいいですね。頭の中身が似ていないといいのですが」
それだけ言うと、部屋の端にあるテーブルの横にある椅子を指差した。
背もたれには美しい彫刻が施され、座面にも見るからに高級そうな赤いベルベットが貼られている。
(椅子を自慢したいってことかな?)
俺がまごついていると男はイラついたように言った。
「さっさと座りなさい。私の時間を浪費させるのですか」
男の声に含まれた怒気におびえた俺は、素早く椅子に腰をおろした。
「いいでしょう」男は満足気にうなずき、自分も対面にある椅子に腰掛けた。「まずはあなたの母親についてです。あなたの母親は、元は公爵家のメイドでした。男爵家の縁の者と紹介されたので、ありがたくも公爵家のメイドとしてご奉公させていただくことになったのです。それは知っていますか?」
俺はブンブンと首を横に振った。母ちゃんが公爵家で働いていたなんて聞いたこともなかった。
男は片眉を上げると、話を続けた。
「お屋敷にご奉公することになって、しばらくして旦那さまからお情けをいただけることになりました。そしてありがたくもお胤を宿したので、家を与えられたのです。」
「家・・・?」
「こちらのお屋敷のことですよ」
「でも・・・俺の家はここじゃないです。やっぱり人違いです。家に帰らせてください」
男はダン!と床を踏んだ。
「話を聞く時は、手は膝に置き、相手の言葉を遮ってはなりません!次は鞭で打ちますよ!」
俺は首をすくめた。
「そして産まれたのが、あなたです。諸事情がありこちらのお屋敷からは出ることになりましたが、貴方は旦那様のお子です。そして公爵家のために尽くす義務があります。事情はわかりましたね」
さっぱり分からない。
旦那様とはやっぱりあの「旦那様」のことだろうか。
一度たりとも話したことがないあの「旦那様」が俺のとうちゃんってこと?
想像もつかない。
「お情けって何ですか?」
男は馬鹿にするように冷笑を浮かべた。
「お情けとはお情けですよ。これまで貴方たち家族はどうやって生活していたと思ってるんですか?住むところも食事も湧いて出るとでも?屋根の下であたたかい食事ができていたのは全て公爵様のおかげですよ。感謝しなさい」
「公爵様ってのは・・・『旦那様』のことですか?あの、うちに来ていた。いつも母の手を掴んでは、寝室に・・・」
「それが貴方の母親の仕事ですよ。まあ、美しい子供を産んでいるので役目は果たしていますがね。旦那様もいたく気に入っているようですし」
「あいじん・・・」
「そうです。それがあなたの母親の仕事です。着飾り、旦那様をお慰めする。見返りとして、あなたたちは生活を保障されていたのです」
その瞬間、俺の脳裏には、旦那様が来た時に聞こえてきた母の声が耳をよぎった。
「旦那様・・・ああ、旦那様・・・あっ、あっ、あああ」
あの時、母は扉の向こうで何をしていた?
俺はあの時、一体何を見た?
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