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227 生と死の狭間

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ふわりふわり

うっすらを目を開けると、そこは・・・どこ?

周りには何もない。
白く光る雲のような不思議な物体と私がふわふわと浮いている。

鼻先をかすめるのは、天使の羽?それとも花びら?

白と薄い水色しかない単色の世界。

その中では色を持つ私は異物?

ぼんやりと目を開いて手を見る。

(は、半透明?)

突然目が覚めた。

一体何が起きてるの?
なんで半透明になっちゃったの?

オロオロしていると記憶がゆっくりと渦を巻くように私の頭の中を回転し始めた。

そうだ。私、転生して聖女になったんだった。
ゲームの世界に転生したくせに、全然内容知らなくて。
ただパッケージデザインしか知らなかった。

ううん、違う。
もっと知ってた。
そうだ。妹!
妹がいたから。
愛理。
愛理がはまってたゲームだ。R18版を買ってきてって言われて断った。あのゲーム。
R18版じゃなくてよかった。
よく知らない人とエッチするなんて嫌だもん。しかも、そんなこと、ゲームの進行に左右されるなんて・・・


何?なんかもっと大事なこと忘れてる?

そうだ。ハル様!戻らなきゃ。

突然記憶は勢いを増して私の中に流れ込んできた。

キュイーーーーーン
キュイーーーーーン
キュイーーーーーン

いやだ。あの音。痛い。頭が痛い。
やめて、やめて、やめて。

私の中を記憶が逆流する。
ハル様の叫び声。
突然駆け寄ってきたライ。
背中の痛み。
錯乱するルシアナ様。
ヴィダル先生。
タチアナ様、エリザベス様、とうさま。

どんどんと記憶が流れ込む。
聖女を応援してくれた人たち。
笑顔。
心配そうな声。
祈る姿。

ジョセフ。
ジョセフの家族の方達。

ケイレブ、リーラ、ガウデン侯
湖の浄化。
あのカニは手強かった。

リカルド。変態だけど時々頼りになる。

金属音とともに渦を巻いて回り出す記憶達。

学園の人たち
ヴィー様、デボラ。
男爵領の人たち。

お母さん・・・!
その瞬間、私の目の前で光が弾けた。

「ステラ」

はっ!!!!
目が覚めた。
ここは、一体どこ?
私を呼ぶのは誰?

「ステラ。私の愛し子よ」

頭の中に響く声。
そうだ。すっかり忘れていた。
なんで思い出さなかったんだろう。
いえ、違う。
そういう約束だった。
ここで知ったことは全て忘れるって。
忘れて新しい生を生きること、それが約束だった。
そうでしたよね?

「神様」

私は声の主に語りかけた。

「ステラ。過酷な運命の子。なぜ戻ってきたのだ?」

声が耳の奥に響く。

「何故でしょう?私にもわかりません。でも、私、お約束のとおり精一杯生きました」

そう、それが約束。
前世で事故死した私は、この世界で生きる力を失った聖女の代わりとして転生した。
私の中にいて、いつしか混ざり合っていったあの小さな女の子。
本来の聖女はあの子のはずだった。
ただ、いまはもうどちらがどちらかわからない。あの子も私も、両方私であの子。そういう存在。
転生の条件は、「精一杯生きること」
それだけ、だけど、それはそれなりに大変な条件だった。

「どうする?」

神様の声。

「どうするとは?」
「お前は私との約束を守り、精一杯生きた。ただ、不測の事態により、また命を断たれることになった。約束を必死で守ったお前に免じて一度だけ戻してやろう。時間は思いのままだ。それとも、他の世界に転生するか?」
「他の世界に転生する?」
「つまり、これまでの世界でのお前はいなくなる。このまま、死ぬ、ということだな」
「えっ?」
「何故迷う?すでにお前を害した世界だろうに」
「確かに・・・でも、全員じゃなくて!応援してくれた人も支えてくれた人もいたんです」
「ふむ。ではどうする?いつまでも永遠には迷っていられまい」
「突然すぎて、驚いているだけです。どうしたらいいのか」
「ここは、生と死の狭間。生ある人間が長くいては戻れなくなってしまう。生ある人間の世界に戻るか、それとも霊体に変化するのか決めねばならぬ。放っておけば、霊体に変化してしまうだろうな。まあ、特に悪行もしておらんし、悪霊にはなるまいが。保証の限りではないがの」

ちょっと待って。前回の私はどう答えた?
覚えてない。
でも、どこでもいいからもっと生きたいって答えたってこと?
わからない。

そうだ。新しい力と体に馴染むまで、痛みがあるって言われたんだ。
あの痛みはそういうことだったんだ。
ということは、もしかしてさっきの痛みは・・・もう始まってるってこと?
次の人生の「新しいカタチ」に慣れるための痛みが始まってるってこと?

もう戻れない?
そんなの、絶対に、イヤ!!

「戻りたい!戻して、戻してください!!私を今いた世界に戻してください!!」

私が叫ぶと、神様がくつくつと笑う声が聞こえた。
そして、次の瞬間、私は宙に放り出された。

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