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4 決戦
203 王都の飲み屋にて 2
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一瞬、ケイレブの迫力に男たちは言葉を失うが、ケイレブはへらっと笑って緊張を解いた。
「わかるぞぉ?そうだよなあ。聖女様なんて、そう簡単に信じられないくらいありがたい存在だからな。疑いたくなる気持ちもわからないわけじゃない。それに、聖女様にお会いできるなんて滅多にあることじゃないからな?」
「俺だって最初は信じられなかったぜ。まあ、無理もないさ」ビルがエールを飲みながら相槌を打つ。
「でもな?噂によると、聖女様には命を狙う敵がいるらしいぞ?」
「えっ?聖女様を?それは天罰が下るんじゃないのか」別の男が言った。
「そうなんだよ。お前も運がいいぞ?まかりまちがって聖女様のことを悪く言っちまったら、どんな神罰が下るかわからんからな?」
ケイレブは男の肩に手を置いた。
「正直、俺たちにとって聖女様は恩人なんだよ。あれだけの方は二度と出ないんじゃないかってくらい、辺境にとっては大事な方なんだ。知ってるか?聖女様の力はものすごく強いんだよ。川を割って馬を渡したり、聖なる力を使って森を浄化したりするんだから。あんときは湖全体が金色に染まって、そりゃーすごかったんだよ。しかも、聖女様に浄化された湖の魚を食べたら、長年寝込んでた病人が元気になっちまった!」
「川を割った?」
「湖が金色に染まった?」
「病人が元気になった?医者なしでか?それなら俺のかーちゃんにも食わせたい」
「そんなこと有り得るのか?」
周りからどんどん野次馬が集まってくる。
「本当だよ。俺は川を割った現場は見てないが、見たってやつが大勢いるんだ。しかも、だれにも懐かなかった気性の荒い軍馬も聖女様の前じゃ、猫みたいに甘えてるときた。でもな、そんな聖女様に文句をつけてる奴らがいるらしいんだよな・・・」
ケイレブがぐっと声を潜める。
「さっき誰かが言ってた悪い噂とやらを流してる奴だよ。大きな声じゃ言えないぞ?絶対に誰にも言うなよ」
全員がグイッと体を前に乗り出した。
「さる高貴なお姫様が、自分が王妃になりたくて、身分の低い聖女様を貶めてるそうなんだよ」
「えっ?」
「噂を聞いて間に受けてたやつだっているだろ?ほとんどのやつは聖女様に会う機会なんてないから、本当のことはわからんのさ」
男たちは、そうかもしれないと顔を見合わせる。
そういえば、聞いたのは噂だけ。考えてみれば根拠なんてない。
「これほど俺たちのために心を砕いてくださる聖女様を大切にしないなんて、恩知らずどもだよ・・・そう思うだろう?あんたたちだって全員聖女様の恩恵を受けてるんじゃないのか?子供達の教育に、歌の解放・・・そう簡単にできることじゃないよ。違うか?」
「まあ、確かにそうだよな・・・」
「そういえばそうだな」
男たちからは次から次に同意の声が上がった。
「まあ、いまの国王陛下も王太子殿下も聖女様の出自にはこだわらないようなんだが、みんながそうとは限らないんだよな。自分が王妃になることしか考えていないご令嬢と聖女様のどっちがいいかなんて、俺からしたら明らかだけど、みんなはそう思わないのかな?聖女様が学校を作ってくださったり、字を教えてくださったりしたことはやっぱり身分制度には敵わないってことなのか?」
「そんな・・・聖女様が字や算数を教えてくれるようになって、俺たちの生活は便利になったんだぞ?」
また別の男が言う。
「そうだろう?おい、店主。あんただって、助かってるんじゃないのか?」
「そりゃそうさ」店主が答える。「俺はまだ字が読めないけど、うちの子供は字を読んだり書いたりできるようになったんだよ。おかげで、あんたたちがエールを何倍飲んだのかだって記録できるようになった」
「あーーー」ちょっとがっかりしている男たちもいる。それまでは適当に飲んで適当に払っていたのだ。
「ははは、そうかそうか。そうだよな、商売にゃ欠かせないよな」ケイレブが落ちかけた空気を明るくすくい上げる。
「それだけじゃないんだろ?あんたたちがさっき歌ってた歌だって聖女様が教団に掛け合って教会の外でも歌えるようになったんだろ?おかげでエールがますます美味くなったんじゃないか?」
「みなさん、飲みながら歌って楽しんでくださるので、売上も上がってるんですよ!」店主は満面の笑みだ。
「そうだろう、そうだろう。」ケイレブが店主の背をバシバシと叩いた。
「でもな。これもここだけの話なんだが」また声を潜める。
野次馬たちはまた身を乗り出して話を聞こうとする。
「聖女様が歌を解放したんだから、聖女様が陥れられて罪を着せられたら、もう、歌は金輪際歌えなくなるかもしれないな。今のうちにたくさん歌っとけ?」
「なんでだよ!なんで俺たちの楽しみを奪うんだよ。それに聖女様が何をしたって言うんだよ!」
「そうだそうだ!いつも俺たちのために色々心を砕いてくださる。聞いた話によりゃまだ、学園の生徒だって言うじゃないか。まだ子供だよ。そんな子にどんな悪事ができるってんだ。罰当たりな」
聖女を慕う声はどんどん大きくなっていった。
「俺は聖女様が教会に初めて入った時、光の柱が立つのを見たぞ!」
「俺もだ!」
「あんなこと本物じゃなきゃどうやったらできるんだよ」
「そうだそうだ!」
聖女を支持する声はどんどん大きくなっていく。
「これもここだけの話だが。本当に絶対に誰にも言うなよ?聖女様、評議会に明後日呼び出されているらしいんだ。しかも、その評議会のお偉いさんが今回聖女様を貶めている黒幕だって話がある。なんたって最初に騒ぎ出したのはそのお偉いさんの娘だしな?もう十分なほど金と権力と持っていても足りないもんなのかね?」
ケイレブは悲しそうにため息をついた。
「わかるぞぉ?そうだよなあ。聖女様なんて、そう簡単に信じられないくらいありがたい存在だからな。疑いたくなる気持ちもわからないわけじゃない。それに、聖女様にお会いできるなんて滅多にあることじゃないからな?」
「俺だって最初は信じられなかったぜ。まあ、無理もないさ」ビルがエールを飲みながら相槌を打つ。
「でもな?噂によると、聖女様には命を狙う敵がいるらしいぞ?」
「えっ?聖女様を?それは天罰が下るんじゃないのか」別の男が言った。
「そうなんだよ。お前も運がいいぞ?まかりまちがって聖女様のことを悪く言っちまったら、どんな神罰が下るかわからんからな?」
ケイレブは男の肩に手を置いた。
「正直、俺たちにとって聖女様は恩人なんだよ。あれだけの方は二度と出ないんじゃないかってくらい、辺境にとっては大事な方なんだ。知ってるか?聖女様の力はものすごく強いんだよ。川を割って馬を渡したり、聖なる力を使って森を浄化したりするんだから。あんときは湖全体が金色に染まって、そりゃーすごかったんだよ。しかも、聖女様に浄化された湖の魚を食べたら、長年寝込んでた病人が元気になっちまった!」
「川を割った?」
「湖が金色に染まった?」
「病人が元気になった?医者なしでか?それなら俺のかーちゃんにも食わせたい」
「そんなこと有り得るのか?」
周りからどんどん野次馬が集まってくる。
「本当だよ。俺は川を割った現場は見てないが、見たってやつが大勢いるんだ。しかも、だれにも懐かなかった気性の荒い軍馬も聖女様の前じゃ、猫みたいに甘えてるときた。でもな、そんな聖女様に文句をつけてる奴らがいるらしいんだよな・・・」
ケイレブがぐっと声を潜める。
「さっき誰かが言ってた悪い噂とやらを流してる奴だよ。大きな声じゃ言えないぞ?絶対に誰にも言うなよ」
全員がグイッと体を前に乗り出した。
「さる高貴なお姫様が、自分が王妃になりたくて、身分の低い聖女様を貶めてるそうなんだよ」
「えっ?」
「噂を聞いて間に受けてたやつだっているだろ?ほとんどのやつは聖女様に会う機会なんてないから、本当のことはわからんのさ」
男たちは、そうかもしれないと顔を見合わせる。
そういえば、聞いたのは噂だけ。考えてみれば根拠なんてない。
「これほど俺たちのために心を砕いてくださる聖女様を大切にしないなんて、恩知らずどもだよ・・・そう思うだろう?あんたたちだって全員聖女様の恩恵を受けてるんじゃないのか?子供達の教育に、歌の解放・・・そう簡単にできることじゃないよ。違うか?」
「まあ、確かにそうだよな・・・」
「そういえばそうだな」
男たちからは次から次に同意の声が上がった。
「まあ、いまの国王陛下も王太子殿下も聖女様の出自にはこだわらないようなんだが、みんながそうとは限らないんだよな。自分が王妃になることしか考えていないご令嬢と聖女様のどっちがいいかなんて、俺からしたら明らかだけど、みんなはそう思わないのかな?聖女様が学校を作ってくださったり、字を教えてくださったりしたことはやっぱり身分制度には敵わないってことなのか?」
「そんな・・・聖女様が字や算数を教えてくれるようになって、俺たちの生活は便利になったんだぞ?」
また別の男が言う。
「そうだろう?おい、店主。あんただって、助かってるんじゃないのか?」
「そりゃそうさ」店主が答える。「俺はまだ字が読めないけど、うちの子供は字を読んだり書いたりできるようになったんだよ。おかげで、あんたたちがエールを何倍飲んだのかだって記録できるようになった」
「あーーー」ちょっとがっかりしている男たちもいる。それまでは適当に飲んで適当に払っていたのだ。
「ははは、そうかそうか。そうだよな、商売にゃ欠かせないよな」ケイレブが落ちかけた空気を明るくすくい上げる。
「それだけじゃないんだろ?あんたたちがさっき歌ってた歌だって聖女様が教団に掛け合って教会の外でも歌えるようになったんだろ?おかげでエールがますます美味くなったんじゃないか?」
「みなさん、飲みながら歌って楽しんでくださるので、売上も上がってるんですよ!」店主は満面の笑みだ。
「そうだろう、そうだろう。」ケイレブが店主の背をバシバシと叩いた。
「でもな。これもここだけの話なんだが」また声を潜める。
野次馬たちはまた身を乗り出して話を聞こうとする。
「聖女様が歌を解放したんだから、聖女様が陥れられて罪を着せられたら、もう、歌は金輪際歌えなくなるかもしれないな。今のうちにたくさん歌っとけ?」
「なんでだよ!なんで俺たちの楽しみを奪うんだよ。それに聖女様が何をしたって言うんだよ!」
「そうだそうだ!いつも俺たちのために色々心を砕いてくださる。聞いた話によりゃまだ、学園の生徒だって言うじゃないか。まだ子供だよ。そんな子にどんな悪事ができるってんだ。罰当たりな」
聖女を慕う声はどんどん大きくなっていった。
「俺は聖女様が教会に初めて入った時、光の柱が立つのを見たぞ!」
「俺もだ!」
「あんなこと本物じゃなきゃどうやったらできるんだよ」
「そうだそうだ!」
聖女を支持する声はどんどん大きくなっていく。
「これもここだけの話だが。本当に絶対に誰にも言うなよ?聖女様、評議会に明後日呼び出されているらしいんだ。しかも、その評議会のお偉いさんが今回聖女様を貶めている黒幕だって話がある。なんたって最初に騒ぎ出したのはそのお偉いさんの娘だしな?もう十分なほど金と権力と持っていても足りないもんなのかね?」
ケイレブは悲しそうにため息をついた。
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