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3 ヒロインへの道
138 逃走
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そのまま、3時間ぐらいぶっ続けで馬を走らせ、途中の宿場町で馬を替えた。
リーラに促されて、今まで着ていたドレスを乗馬用のシャツとズボンに着替えた。
私達が着ていたデイドレスは、後でコンラッド領まで届けてくれるそうだ。
街道沿いにある一見寂れた宿は、リーラの実家に近隣の情報を提供したり、こうして馬を手配してくれたりしているらしい。
当たり前のように、馬を替えたり、私たちの痕跡を消すように指示するリーラの横顔を見ると、いつも学園で見せているのは彼女のほんの一部なのだと改めて思った。
「まだ、この辺りはアドランテ家の勢力範囲なんです。なので、油断はできません」
振り返って告げるリーラの顔は、いつになく緊張しているように思えた。
ルシアナ様の実家のアドランテ家は、王家を除いて最も古く高貴な家柄として知られている。
建国以来、政略結婚を繰り返し、姻戚関係や取引先など強い影響を持っている範囲は、国内貴族の3分の1にまで及ぶのではないかと言われている。
ルシアナ様のプライドの高さも、理由があるのだ。
「嬢ちゃんから連絡があってすぐ、こいつらを用意したんですよ」
赤ら顔をして、一見ただの飲んだくれのような風貌の、でも視線だけは妙に鋭い宿のおじさんが言う。
連れてこられた馬は、王都から乗ってきた馬とは全然違う軍馬だった。
足も太いし、全然大きさが違う。
例えるなら、普通の乗用車とスポーツカーぐらいの違いって言ったらいい?
筋肉の張りや毛ヅヤを見ただけで、軍馬と言うものはこれまで乗っていた普通の馬とは種類も違えば鍛え方が違うってわかる。
こんな山みたいに大きな馬に乗れるのかな?と思った瞬間、一番大きい黒い馬がいなないて、私に向かって頭を寄せてきた。
「こんにちは。初めまして。乗せてくれるの?」
私が尋ねると、馬がヒヒンとないた。
乗ってもいいみたい。
「私がこの馬に乗ってもいいのかな?」
振り返ってリーラを見ると、顔が引きつっている。
「アイザック、これは・・・」
「嬢ちゃんなら乗りこなせるかなと」
「いや、私でもきついけど」
リーラと宿のおじさんがひそひそと話している。
「時間がなくて、これしか集められなかったんですよ。でも、乗りこなせれば最高の馬ですから」
「それはそうだけど、乗りこなせればでしょ?」
「あのー」私は二人に話しかけた。
「乗せてくれるみたいだから、私乗ってもいいかな?」
リーラとおじさんは顔を見合わせた。
「お嬢さんには、芦毛をご用意していたんですがね?」
とおじさんが少し大人しそうな雌馬を指差した。
芦毛の雌馬は目をキラキラさせながらこっちをみている。
この子も可愛い。
私が芦毛を撫でようとすると、黒い馬が威嚇するように喉を鳴らし、頭をぐいっと押し付けてきた。
「この子の背が高いので、踏み台さえ用意してくれれば、乗れますから」
私がそう言うと、黒い馬が膝を折って、私が乗りやすいように体を低くしてくれた。
「ありがと」私がたてがみを撫でると、嬉しそうにしている。
「多分大丈夫そうじゃないか?」
ジョセフが声をかけてきた。
「そうね、多分大丈夫よ」
リーラが諦めたように言うと、宿のおじさんも頷いた。
「こいつのこんな姿は見たことありませんよ。大人しくて、まるで別の生き物みたいだ」
おじさんはそう言うと、感心したように笑った。
「皆さん、ご無事で。こいつらは、足の強い馬ばかりなんで、今日中に宿までたどり着けますよ」
「ありがとうございます。乗せてきてくれた子達にも、たくさん水と飼葉をやってくださいね。できれば砂糖も舐めさせてもらえると嬉しいんですけど」
「お綺麗なお嬢さん、わかりました。どうぞご無事で」
「ありがとうございました」
「アイザック、世話になったわね。それでは、また!」
リーラが声をかけ、私たちは次の目的地に向けて出発した。
目的地は、アドランテ家の勢力圏からはずれたところにある宿だ。
リーラの実家のコンラッド家までは、馬で4日、馬車だと1週間もかかるんだって。
「この馬達なら、あと3時間ぐらいですかね!」
リーラの明るい声が響いた。
最近は乗馬の授業でちょっと乗るぐらいだったから、すっかり鈍っている。
リーラもジョセフも手馴れていて、私は二人におんぶにだっこで本当に申し訳ない。
弱音を吐かずに頑張ろう。
*****************************************************
これから、1週間程度更新が不安定になります。
できる限り、1日1話は更新したいのですが、ちょっと状況による感じです。
それが終われば、また定時更新できる予定です。
しばらくの間、ご容赦ください。
リーラに促されて、今まで着ていたドレスを乗馬用のシャツとズボンに着替えた。
私達が着ていたデイドレスは、後でコンラッド領まで届けてくれるそうだ。
街道沿いにある一見寂れた宿は、リーラの実家に近隣の情報を提供したり、こうして馬を手配してくれたりしているらしい。
当たり前のように、馬を替えたり、私たちの痕跡を消すように指示するリーラの横顔を見ると、いつも学園で見せているのは彼女のほんの一部なのだと改めて思った。
「まだ、この辺りはアドランテ家の勢力範囲なんです。なので、油断はできません」
振り返って告げるリーラの顔は、いつになく緊張しているように思えた。
ルシアナ様の実家のアドランテ家は、王家を除いて最も古く高貴な家柄として知られている。
建国以来、政略結婚を繰り返し、姻戚関係や取引先など強い影響を持っている範囲は、国内貴族の3分の1にまで及ぶのではないかと言われている。
ルシアナ様のプライドの高さも、理由があるのだ。
「嬢ちゃんから連絡があってすぐ、こいつらを用意したんですよ」
赤ら顔をして、一見ただの飲んだくれのような風貌の、でも視線だけは妙に鋭い宿のおじさんが言う。
連れてこられた馬は、王都から乗ってきた馬とは全然違う軍馬だった。
足も太いし、全然大きさが違う。
例えるなら、普通の乗用車とスポーツカーぐらいの違いって言ったらいい?
筋肉の張りや毛ヅヤを見ただけで、軍馬と言うものはこれまで乗っていた普通の馬とは種類も違えば鍛え方が違うってわかる。
こんな山みたいに大きな馬に乗れるのかな?と思った瞬間、一番大きい黒い馬がいなないて、私に向かって頭を寄せてきた。
「こんにちは。初めまして。乗せてくれるの?」
私が尋ねると、馬がヒヒンとないた。
乗ってもいいみたい。
「私がこの馬に乗ってもいいのかな?」
振り返ってリーラを見ると、顔が引きつっている。
「アイザック、これは・・・」
「嬢ちゃんなら乗りこなせるかなと」
「いや、私でもきついけど」
リーラと宿のおじさんがひそひそと話している。
「時間がなくて、これしか集められなかったんですよ。でも、乗りこなせれば最高の馬ですから」
「それはそうだけど、乗りこなせればでしょ?」
「あのー」私は二人に話しかけた。
「乗せてくれるみたいだから、私乗ってもいいかな?」
リーラとおじさんは顔を見合わせた。
「お嬢さんには、芦毛をご用意していたんですがね?」
とおじさんが少し大人しそうな雌馬を指差した。
芦毛の雌馬は目をキラキラさせながらこっちをみている。
この子も可愛い。
私が芦毛を撫でようとすると、黒い馬が威嚇するように喉を鳴らし、頭をぐいっと押し付けてきた。
「この子の背が高いので、踏み台さえ用意してくれれば、乗れますから」
私がそう言うと、黒い馬が膝を折って、私が乗りやすいように体を低くしてくれた。
「ありがと」私がたてがみを撫でると、嬉しそうにしている。
「多分大丈夫そうじゃないか?」
ジョセフが声をかけてきた。
「そうね、多分大丈夫よ」
リーラが諦めたように言うと、宿のおじさんも頷いた。
「こいつのこんな姿は見たことありませんよ。大人しくて、まるで別の生き物みたいだ」
おじさんはそう言うと、感心したように笑った。
「皆さん、ご無事で。こいつらは、足の強い馬ばかりなんで、今日中に宿までたどり着けますよ」
「ありがとうございます。乗せてきてくれた子達にも、たくさん水と飼葉をやってくださいね。できれば砂糖も舐めさせてもらえると嬉しいんですけど」
「お綺麗なお嬢さん、わかりました。どうぞご無事で」
「ありがとうございました」
「アイザック、世話になったわね。それでは、また!」
リーラが声をかけ、私たちは次の目的地に向けて出発した。
目的地は、アドランテ家の勢力圏からはずれたところにある宿だ。
リーラの実家のコンラッド家までは、馬で4日、馬車だと1週間もかかるんだって。
「この馬達なら、あと3時間ぐらいですかね!」
リーラの明るい声が響いた。
最近は乗馬の授業でちょっと乗るぐらいだったから、すっかり鈍っている。
リーラもジョセフも手馴れていて、私は二人におんぶにだっこで本当に申し訳ない。
弱音を吐かずに頑張ろう。
*****************************************************
これから、1週間程度更新が不安定になります。
できる限り、1日1話は更新したいのですが、ちょっと状況による感じです。
それが終われば、また定時更新できる予定です。
しばらくの間、ご容赦ください。
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