93 / 247
2 学園編
92 ハルヴァートの裁き
しおりを挟む
「ゴホン」ハルヴァートは咳払いをした。
「そこに座れ」ハルヴァートは目の前にある椅子を指差した。
クロードがさっと椅子を引く。
エリザベスは目をパチクリしながら、すぐに命令に従った。ここは遠慮している場合ではない。
「あー、まず。」ハルヴァートは言いづらそうに話し始めた。
「まあ、ステラは可愛いし、性格もいいし、欠点がないから‥‥‥何と言ってもあの瞳が‥‥‥」
エリザベスの目は丸くなった。
一体、この王太子は何を言い始めたのか?
私が断罪されていたのではなかったの?
なぜ急に惚気を聞かされ始めたの?
「なので、まあ、嫉妬してしまう気持ちは理解しよう」
「‥‥‥」
(いや、あのですね?私の心にあった嫉妬心とか告白するの、ものすごく恥ずかしかったし、勇気を振り絞ったんですけど?なんでそんな話に?)
エリザベスは心の中で盛大に首を傾げていた。
ただ、不敬罪になりかねないので、何を言ったら良いのかわからない。
この話はどうつながっていくの?
「ステラには、お前が泣いたことと床に跪いて謝ったことは言わないように」
ハルヴァートは懸命に威厳を取り繕うようにして話しているが、内容がショボすぎる。
「‥‥‥はあ。」ってそこ?
っていうか、もしかして、この人って‥‥
「殿下って、本当にステラ様にベタ惚れなんですね?」
ハルヴァートは飛び上がって驚いた。
「な、なんで知って‥‥‥!!」
思わず部屋にいたエリザベスとクロードは半目になった。
「バレバレでしょうよ」
「ごほん。まあ、それはちょっと置いておけ」
殿下の威厳はもうボロボロだ。
最初の氷のように厳しい雰囲気はどこへ?
「とにかくだ。ステラに害をなす者は許せん。お前はどうだ。まだ、ステラが妬ましいか?」
やっぱり、王太子殿下は昔から機械人間的なところがあったし、ちょっと人じゃないからずれてるのしら?そんなこと聞く?
ただ、エリザベスは今までの悩みがバカらしくなり始めていた。
あんなにステラを妬んでいることが苦しかったのに、この王太子ときたら。
「もちろんですよ。うらやましいに決まってるじゃないですか。でも、ご本人に対して恨みはないんです、なので二度と水をかけたりしません。本当は心から後悔していたし、そんな自分が恥ずかしかったんです。ただ、母のことを考えると、正直に水をかけたことは言えなくて‥‥‥」
「ふむ。母君のこととは?以前からお前が何かに怯えていることには気がついていた。話してみろ」
ハルヴァートの真摯な声に、エリザベスも心が決まった。
(話してみよう。道が開けるかもしれない)
エリザベスは自分の生い立ちから話し始めた。
自分は父が買い取った伯爵家の令嬢に父が生ませた私生児であること。
幼い頃から父は気に入らないことがあるとは母に暴力を振るっていたこと。
5歳の時、伯爵家に引き取られ、王太子の婚約者候補となるために教育を受けたこと。
そして、どんなことがあろうと母のためを思って耐えてきたことを正直に話した。
ハルヴァートは口を挟まず静かに相槌を打ちながら聞いていたが、伯爵が女性に暴力を振るっていたと聞いた時、不快そうに眉を顰めた。
父には何としても王太子殿下の心を掴めと繰り返し言われていたが、とてもできるとは思えなかったこと。
そして王太子殿下が男色であれば、弟を差し出そうと準備をしていたことを話すと、ハルヴァートの瞳には嫌悪するような色が浮かんだ。
一連の話を聞き終わると、ハルヴァートは少し考えた後に、
「母君は働く気があるのか?」とエリザベスに尋ねた。
「多分、働く気はあると思いますが‥‥‥」
「では、王宮でメイドとして働いてみてはどうか。元はれっきとした伯爵令嬢なのだから、高望みしなければ居場所があるだろう。宿舎もあるので、弟君も一緒に住むことができるしな。」
王宮で働けるなど、願ってもない幸運だ。
母なら今の生活を続けるよりも、王宮で働く方がいいと考えるに違いない。
エリザベスが目を輝かすと、ハルヴァートは頷いた。
「クロード、手配を」
ハルヴァートが侍従に指示を出すと、頷いた侍従が静かに部屋を出て行った。
「あいつに任せておけば、あとのことは問題ないだろう。で、次はお前だ。」
「ありがとうございます」エリザベスは椅子から降りて跪いた。
「母と弟を守っていただけるのでしたら、この身はいかようにも処分していただいて結構です。ご厚情に感謝しております。」
「そうか。」ハルヴァートは淡々と言った。
「では、お前には国の役に立ってもらおう。そもそも、この国は聖女様を信仰する国。女性蔑視はいらん。そしてお前は女でありながら、男以上に身を立てよ。そして女性を差別する者共を見返してやるのだ。お前は昨年度の首席だと聞いている。どの道でも良い。商人になるもよし、学者になるもよし。ただし、必ず、成し遂げよ。これが、お前に対する罰だ」
「えっ?」
「女が男以上に成功するということは簡単なことではない。相応の罰であろう?」
ハルヴァートはエリザベスを見ると、口角を上げてニヤッと笑った。
(わ、笑った‥‥‥!!殿下は人の心を持つ人間だったんだ!!)
「あ、ありがとうございます!!必ず、ご期待に応えてみせます!!」
エリザベスは床に頭を擦りつけた。
「伯爵がお前の邪魔をするようなら私に言え。お前が目的を達成できるように支援してやろう」
聞こえてきたハルヴァートの声は暖かかった。
もしかして、この世の中も捨てたもんじゃないかもしれない。
エリザベスの心の中にすり減り切れたはずの希望の燈がポツリと灯った瞬間だった。
「そこに座れ」ハルヴァートは目の前にある椅子を指差した。
クロードがさっと椅子を引く。
エリザベスは目をパチクリしながら、すぐに命令に従った。ここは遠慮している場合ではない。
「あー、まず。」ハルヴァートは言いづらそうに話し始めた。
「まあ、ステラは可愛いし、性格もいいし、欠点がないから‥‥‥何と言ってもあの瞳が‥‥‥」
エリザベスの目は丸くなった。
一体、この王太子は何を言い始めたのか?
私が断罪されていたのではなかったの?
なぜ急に惚気を聞かされ始めたの?
「なので、まあ、嫉妬してしまう気持ちは理解しよう」
「‥‥‥」
(いや、あのですね?私の心にあった嫉妬心とか告白するの、ものすごく恥ずかしかったし、勇気を振り絞ったんですけど?なんでそんな話に?)
エリザベスは心の中で盛大に首を傾げていた。
ただ、不敬罪になりかねないので、何を言ったら良いのかわからない。
この話はどうつながっていくの?
「ステラには、お前が泣いたことと床に跪いて謝ったことは言わないように」
ハルヴァートは懸命に威厳を取り繕うようにして話しているが、内容がショボすぎる。
「‥‥‥はあ。」ってそこ?
っていうか、もしかして、この人って‥‥
「殿下って、本当にステラ様にベタ惚れなんですね?」
ハルヴァートは飛び上がって驚いた。
「な、なんで知って‥‥‥!!」
思わず部屋にいたエリザベスとクロードは半目になった。
「バレバレでしょうよ」
「ごほん。まあ、それはちょっと置いておけ」
殿下の威厳はもうボロボロだ。
最初の氷のように厳しい雰囲気はどこへ?
「とにかくだ。ステラに害をなす者は許せん。お前はどうだ。まだ、ステラが妬ましいか?」
やっぱり、王太子殿下は昔から機械人間的なところがあったし、ちょっと人じゃないからずれてるのしら?そんなこと聞く?
ただ、エリザベスは今までの悩みがバカらしくなり始めていた。
あんなにステラを妬んでいることが苦しかったのに、この王太子ときたら。
「もちろんですよ。うらやましいに決まってるじゃないですか。でも、ご本人に対して恨みはないんです、なので二度と水をかけたりしません。本当は心から後悔していたし、そんな自分が恥ずかしかったんです。ただ、母のことを考えると、正直に水をかけたことは言えなくて‥‥‥」
「ふむ。母君のこととは?以前からお前が何かに怯えていることには気がついていた。話してみろ」
ハルヴァートの真摯な声に、エリザベスも心が決まった。
(話してみよう。道が開けるかもしれない)
エリザベスは自分の生い立ちから話し始めた。
自分は父が買い取った伯爵家の令嬢に父が生ませた私生児であること。
幼い頃から父は気に入らないことがあるとは母に暴力を振るっていたこと。
5歳の時、伯爵家に引き取られ、王太子の婚約者候補となるために教育を受けたこと。
そして、どんなことがあろうと母のためを思って耐えてきたことを正直に話した。
ハルヴァートは口を挟まず静かに相槌を打ちながら聞いていたが、伯爵が女性に暴力を振るっていたと聞いた時、不快そうに眉を顰めた。
父には何としても王太子殿下の心を掴めと繰り返し言われていたが、とてもできるとは思えなかったこと。
そして王太子殿下が男色であれば、弟を差し出そうと準備をしていたことを話すと、ハルヴァートの瞳には嫌悪するような色が浮かんだ。
一連の話を聞き終わると、ハルヴァートは少し考えた後に、
「母君は働く気があるのか?」とエリザベスに尋ねた。
「多分、働く気はあると思いますが‥‥‥」
「では、王宮でメイドとして働いてみてはどうか。元はれっきとした伯爵令嬢なのだから、高望みしなければ居場所があるだろう。宿舎もあるので、弟君も一緒に住むことができるしな。」
王宮で働けるなど、願ってもない幸運だ。
母なら今の生活を続けるよりも、王宮で働く方がいいと考えるに違いない。
エリザベスが目を輝かすと、ハルヴァートは頷いた。
「クロード、手配を」
ハルヴァートが侍従に指示を出すと、頷いた侍従が静かに部屋を出て行った。
「あいつに任せておけば、あとのことは問題ないだろう。で、次はお前だ。」
「ありがとうございます」エリザベスは椅子から降りて跪いた。
「母と弟を守っていただけるのでしたら、この身はいかようにも処分していただいて結構です。ご厚情に感謝しております。」
「そうか。」ハルヴァートは淡々と言った。
「では、お前には国の役に立ってもらおう。そもそも、この国は聖女様を信仰する国。女性蔑視はいらん。そしてお前は女でありながら、男以上に身を立てよ。そして女性を差別する者共を見返してやるのだ。お前は昨年度の首席だと聞いている。どの道でも良い。商人になるもよし、学者になるもよし。ただし、必ず、成し遂げよ。これが、お前に対する罰だ」
「えっ?」
「女が男以上に成功するということは簡単なことではない。相応の罰であろう?」
ハルヴァートはエリザベスを見ると、口角を上げてニヤッと笑った。
(わ、笑った‥‥‥!!殿下は人の心を持つ人間だったんだ!!)
「あ、ありがとうございます!!必ず、ご期待に応えてみせます!!」
エリザベスは床に頭を擦りつけた。
「伯爵がお前の邪魔をするようなら私に言え。お前が目的を達成できるように支援してやろう」
聞こえてきたハルヴァートの声は暖かかった。
もしかして、この世の中も捨てたもんじゃないかもしれない。
エリザベスの心の中にすり減り切れたはずの希望の燈がポツリと灯った瞬間だった。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる