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2 学園編
69 聖女の役割
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ヴィダル先生は私を見つめるとにっこりと微笑んだ。
「まさか、生きている間に本物の聖女様に相見える機会があるとは思ってもおりませんでした。ですが、当代の聖女様は何かお悩みがある様子ですな」
私は思わず先生の目を見つめ返してしまう。聞いてもいいんだろうか?
でも聞くしかない?
「先生‥‥私。聖女であるということが怖いです」
「ほう、怖いとは?」
「私にはなんの力もありません。なのに金環の瞳を持っているという理由だけで聖女として崇められているのです。これっておかしくないですか?ただの子どもなのに。」
「なるほど。ごもっともですな」
ヴィダル先生はその優しそうな黒い瞳で私のことをじっと見た。
「確かに聖女とは、何か?それは大きなテーマですな。聖女だからと言われてすぐに納得できるものではありますまい」
「そもそも、私は本当に聖女なのでしょうか。そして、聖女とはなんなのでしょうか」
「ふむ。それはまさに真理の追求に他なりませぬ。では、まずこの国の聖女のあらましを簡単にお話ししましょう」
ヴィダル先生は落ち着いた声で語り出した。
白い衣装に金糸で縫取りのされた刺繍が眩しく輝いている。
「まずは、本当に聖女なのか、という問題についてです。
状況証拠からいうと、確かに聖女様であらせられましょう。金環の瞳はそう簡単に顕れるものではありません。また、教会の入られた時に教会が強く光を放つという奇跡もすでに起こっております。教団の者たちの証言によると、聖女様のお言葉には従わざるを得ないような強い力があったとも聞いております。これだけ証拠が揃っているのに、聖女ではない、という証明はかえって難しいですね。」
「ああ‥‥‥」がっかりしてしまう。
やっぱり聖女としての運命からは逃げられないのか。
教授は私を見るとさらに優しく語りかけた。
「聖女とは、定まった形はありません。
ただ、この国の建国の際に王妃が聖女として大きな役割を果たしたことから、国を安定させるための大きな役割を持つものとして大きな信頼と尊敬を受けるようになりました。
歴代の聖女たちが同じ役割を果たしたわけではありません。
医術の進歩に大きな役割を果たした方もいれば、孤児院を起こし、全国に広めた方もおります。
貧しきものに心を寄せ、力になることに尽力した方もいらっしゃいます。
そうは言っても、皆が皆そのような偉大な働きをした方ばかりではありません。
一介の母としての人生を貫いた方もいらっしゃいますし、何もしなかった方だっていらっしゃいます。
教会と連絡を断ち、どこかに行方知らずになった方さえもいらっしゃったのです。
ただ、間違いなく言えることは、聖女がご存命の間は、この国は安定し栄えるのです。
存在しているだけで、聖女様は我々に恵を与える存在。
堂々としていらっしゃれば良い。
御身の安全は国の安全と心得、自分を大切にして生きていかれれば良いのです。
あなたがどのような聖女になるかは、あなたが決めること。
あなたの人生はあなたが決めることなのです。
聖女だから何かをしなければならない、してはならないということはないのですよ。」
「聖女だから、何かをしなければならない、してはならないということはない‥‥‥」
目が覚めたような気がする。
自分は聖女だから何かをしなければならない、何者でなければならない、と自分で決めてしまっていたのではないか?
私は、自分で自分の世界を狭めてしまっていた?
「先生‥‥‥私は自分で自分の道を決めてもいい‥‥‥?」
「そうです。」ヴィダル先生は黒い目を細めて優しく微笑んだ。
「自分の道は自分で切り開くのです。何かを成すもよし、成さぬのもまた人生です。生きて、生を全うしてくださればそれで良いのです。今のこの悩みも苦しみも全てがあなた様の糧となりましょう」
私は生きて、生を全うすればいい。
悩みも苦しみも全てが私の糧になる‥‥‥
目が、開かれたように感じる。
私はパッケージデザインのセンターに描かれたヒロインだから、聖女だから、その勤めを果たさなければならないと考えていたが、それは大きな間違いだったのかもしれない。
私の人生は私のもの。
ゲームの世界とは違う、ここはリアルな世界に変わっていたのだ。
自分で生きる道を選びとってもいいんだ。
いつの間にか、そうなっていたんだ。
「まさか、生きている間に本物の聖女様に相見える機会があるとは思ってもおりませんでした。ですが、当代の聖女様は何かお悩みがある様子ですな」
私は思わず先生の目を見つめ返してしまう。聞いてもいいんだろうか?
でも聞くしかない?
「先生‥‥私。聖女であるということが怖いです」
「ほう、怖いとは?」
「私にはなんの力もありません。なのに金環の瞳を持っているという理由だけで聖女として崇められているのです。これっておかしくないですか?ただの子どもなのに。」
「なるほど。ごもっともですな」
ヴィダル先生はその優しそうな黒い瞳で私のことをじっと見た。
「確かに聖女とは、何か?それは大きなテーマですな。聖女だからと言われてすぐに納得できるものではありますまい」
「そもそも、私は本当に聖女なのでしょうか。そして、聖女とはなんなのでしょうか」
「ふむ。それはまさに真理の追求に他なりませぬ。では、まずこの国の聖女のあらましを簡単にお話ししましょう」
ヴィダル先生は落ち着いた声で語り出した。
白い衣装に金糸で縫取りのされた刺繍が眩しく輝いている。
「まずは、本当に聖女なのか、という問題についてです。
状況証拠からいうと、確かに聖女様であらせられましょう。金環の瞳はそう簡単に顕れるものではありません。また、教会の入られた時に教会が強く光を放つという奇跡もすでに起こっております。教団の者たちの証言によると、聖女様のお言葉には従わざるを得ないような強い力があったとも聞いております。これだけ証拠が揃っているのに、聖女ではない、という証明はかえって難しいですね。」
「ああ‥‥‥」がっかりしてしまう。
やっぱり聖女としての運命からは逃げられないのか。
教授は私を見るとさらに優しく語りかけた。
「聖女とは、定まった形はありません。
ただ、この国の建国の際に王妃が聖女として大きな役割を果たしたことから、国を安定させるための大きな役割を持つものとして大きな信頼と尊敬を受けるようになりました。
歴代の聖女たちが同じ役割を果たしたわけではありません。
医術の進歩に大きな役割を果たした方もいれば、孤児院を起こし、全国に広めた方もおります。
貧しきものに心を寄せ、力になることに尽力した方もいらっしゃいます。
そうは言っても、皆が皆そのような偉大な働きをした方ばかりではありません。
一介の母としての人生を貫いた方もいらっしゃいますし、何もしなかった方だっていらっしゃいます。
教会と連絡を断ち、どこかに行方知らずになった方さえもいらっしゃったのです。
ただ、間違いなく言えることは、聖女がご存命の間は、この国は安定し栄えるのです。
存在しているだけで、聖女様は我々に恵を与える存在。
堂々としていらっしゃれば良い。
御身の安全は国の安全と心得、自分を大切にして生きていかれれば良いのです。
あなたがどのような聖女になるかは、あなたが決めること。
あなたの人生はあなたが決めることなのです。
聖女だから何かをしなければならない、してはならないということはないのですよ。」
「聖女だから、何かをしなければならない、してはならないということはない‥‥‥」
目が覚めたような気がする。
自分は聖女だから何かをしなければならない、何者でなければならない、と自分で決めてしまっていたのではないか?
私は、自分で自分の世界を狭めてしまっていた?
「先生‥‥‥私は自分で自分の道を決めてもいい‥‥‥?」
「そうです。」ヴィダル先生は黒い目を細めて優しく微笑んだ。
「自分の道は自分で切り開くのです。何かを成すもよし、成さぬのもまた人生です。生きて、生を全うしてくださればそれで良いのです。今のこの悩みも苦しみも全てがあなた様の糧となりましょう」
私は生きて、生を全うすればいい。
悩みも苦しみも全てが私の糧になる‥‥‥
目が、開かれたように感じる。
私はパッケージデザインのセンターに描かれたヒロインだから、聖女だから、その勤めを果たさなければならないと考えていたが、それは大きな間違いだったのかもしれない。
私の人生は私のもの。
ゲームの世界とは違う、ここはリアルな世界に変わっていたのだ。
自分で生きる道を選びとってもいいんだ。
いつの間にか、そうなっていたんだ。
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