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2 学園編

65 聖女の顕現

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今日は、王太子に任されている領地で問題が起こったとのことで早朝から関係者が集まり、対応を検討していたところだった。
やっと対応の目処が立ち一息つけるかと思ったところで、ステラが街に遊びに出かけたと影の者から報告が入った。
弟が同行している様だし、コンラッド家の猛者とジェイクも護衛につけ、気に入らないが一応用心しているのだろうとあえて放っておくことにしたところ、途中で護衛と別れ教会に向かったとの報告を受けた。
まさかと思い詳細を報告させようとした瞬間に、街中に閃光が走り、全てを悟った。
聖女の存在を隠したいのでは無かったのか?
こんな派手なやり方で聖女の顕現を示してしまっては今後隠しようがないではないか。

「あんの馬鹿者が」
王太子が口の中で罵りながら慌てて部屋を出て行く様子に部屋中の者は仰天した。
あの、氷の王太子が?
鉄壁のガードを誇り、感情を一度もあらわにしたことがない王太子が?
機械ではないかと疑うものさえいる王太子が?
ある者は驚き、またある者は感動に涙したとすらいう。

ハルヴァートが側近に馬車で追いかけてくる様に言いつけて、最低限の護衛を伴い騎乗で教会に到着すると、そこはすでに何重もの人垣に囲まれ、騒然とした空気に包まれていた。
教会の中には聖女がいると口づてで情報が流れ、一目聖女を見ようと大勢の野次馬が教会を取り囲んでいた。
教会の扉の中では司祭含め全員が額づいているとのこと。
金環をまとった聖女はこの世のものとも思えないくらい美しい天使を伴い祭壇の前に立ち祝福を与えているとの情報がささやかれている。

(金環をまとった聖女に天使だと?)
若干疑わしい思いを抱きながら教会に入ると、困りきった様子のステラと弟が立ちすくんでいた。
取り急ぎその場にいた者に口止めし、ステラの顔を隠すためにマントで覆い、二人を馬車に放り込んだが、状況が判断できている様には思えない。
勝手な行動ばかりとるステラにイライラする。
一体、タチアナは何を教えてきたのだ。
いや、範疇外か、とふと冷静になる。
タチアナとて、ステラが弟のみを伴い好き勝手に出歩くなど思いもよらなかっただろう。
なぜ大人しく学園に戻らなかったのだ、無断外出に目をつぶってやろうとしていたのに。
馬車の中で二人を睨み付けると、震え上がっている様だった。
流石に余計な口を叩かないほどの知恵はあるらしい。

王宮に連れて行き詰問すると、最低限必要な知識すら詰め込んでいないというではないか。
しかも、歌を歌うと楽しい気分になるときた。
男爵家では何を教育してきたのだ。
聖女を預かることの重要性を理解しておらんのか。

本人にも聖女としての自覚がいまだに不十分だ。
100年ぶりに顕れたその身の保護の重要性すらわかっていない。

溢れそうな涙を溜めた目で見上げるステラについつい絆されそうになってしまう。
この腕に閉じ込めて王宮の奥深くに隠してしまいたい。
しかし、時はすでに遅い。
世が聖女の顕現を知ってしまった。いくら口止めしても隠しきれないだろう。
ステラは今後聖女として生きていくしかないのだ。

ハルヴァートはため息を一つつくとステラに告げた。

「お前は聖女の顕現を世に知らしめてしまったのだ。これからは今までの様な生活はできないと心得よ。お前には護衛を付ける。毎日朝食を私と摂るように。お前を教育する時間はそこでしかとれないだろうからな」

ステラが目を伏せた。

「いいか、反論は認めない!」

しょんぼりとしているステラとセオドア姉弟にハルヴァートは厳しく言いつけた。
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