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0 序章

3 前世?

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夜が明けてから、明るくなった湖面をもう一度覗きこんだ。

(何だか、幼い‥‥‥)

月明かりだけのぼんやりとした輪郭よりもはっきりと、幼いステラが映し出された。
ゲームのイメージ画像から受ける印象よりもずいぶん年下に見える。
ゲーム開始時は16歳ぐらいだったような‥‥‥

(まだ、子どもなんだ‥‥‥一体何歳なんだろう?小学生ぐらいなのは間違いないけど‥‥‥でも面影がある。ヒロインだもん、やっぱり、美形だわ。)

自分の顔のはずなのに、なぜか他人のように見える。
前世ではもっと平凡な顔立ちだったはず。
陶磁器のように白く滑らかな肌。
卵型の顔立ち。
大きな瞳と細く高い鼻梁。
絹のように滑らかな輝きを放つプラチナブロンドの髪。
一見すると人形のように整いすぎていて冷たい印象を与えかねない顔立ちなのに、少し厚めの聖女に似つかわしくないセクシーな唇がバランスよく収まり、顔立ちに愛嬌とアンバランスな魅力を添えていた。

でも何よりも印象的なのは、その瞳。
中心部の藍色が金色で縁取られた金環の瞳は、身体のどこかに金環を持つ聖女の中でも最高位であるとされていた、はず。
一晩中痛みと寒さに苦しめられ、疲れを残す今ですら、その瞳は明るく人を癒す星のように輝き、見る人を魅了する力を持っていた。

(本当に、こんな瞳があるんだ‥‥‥今まで、黒とか茶色の目しかいなかったからな‥‥‥)

ズキン!鋭い痛みが走る。

(痛い。前世を思い出すと頭痛がするのかな)

まるで見えない存在から警告を与えられているかのように、前世に思いを馳せるのが恐ろしい。

(前世だってことだけはわかるけど‥‥‥いや、記憶があるんだから、前世ってことで合ってるんだよね?)


ゆっくりと瞼を閉じる。
そう、ここはゲームの世界。
なぜか分からないけど、確信がある。

そして、そのゲームに夢中になっていたのは‥‥‥妹?
ああ、そうだ妹だ。
高校2年生の‥‥‥ズキン‥‥‥愛理!

愛理が大好きなゲームだって言ってたな。
聖女なヒロインがあちこちのイケメンを攻略するゲームだって聞いて、それってテンプレじゃんって笑って話を聞かなかった覚えがある。
こんなことになるなら、ちゃんと話を聞いておけばよかった。
でも、イラストは綺麗だなって思ったからスチルは時々見せてもらってたんだよね。

確か全年齢版とR18版があって、年齢制限があるから代わりに買ってきてくれって頼まれたんだっけ。
お金払うからお願いって。ネットではR18版じゃないと本当のストーリーがわからないってコメが多いからとか言ってた。
お母さんにバレたら殺されるからダメ、って言って断ったなあ。
ふくれっ面してたけど、まあ、社会人的にはねぇ?

ズキン

あ、そうだ前世では社会人だった‥‥‥
そう、入社して1年?5年?それとも10年?わからない‥‥‥
彼氏もいたし、仕事も楽しいし、充実していたような、気がする。
ああ、でもそれ以上は思い出せない。

あの日、そうだ愛理と一緒に買い物に出かけたんだ。
愛理が新しい服を買いたいから付き合って、って。
可愛い愛理。年の離れた私の妹。
物心ついたときからずっとお姉ちゃん子だった。
いつも「お姉ちゃん、お姉ちゃん」ってじゃれついてきてかわいかったんだよね。
大人になったら一緒にお酒を飲もうねって約束してたんだ。
髪が‥‥‥長かったなあ。くしゃっと笑う笑顔がめちゃめちゃ愛らしくて。
そんな子がR18ゲームに興味を持つようになったんだって思ったこともあったなあ。

そう、思い出した。

あの日、私の前を白い猫が通り過ぎた。足元をすっと通り抜けられたから、よろけて‥‥‥

そうだ!よろけた時にちょうどこっちに車が突っ込んでくるのが見えたんだ。
とっさに私を支えようとした愛理を突き飛ばしたら、反動で車に向かって頭から突っ込むような形になっちゃったんだ。

ズキン。

ああ、そうだ、思い出した。
あの音、痛み、匂い。
愛理の身を裂くような叫び声。

私は車に轢かれたんだ。

「車に轢かれたら異世界転生」なんてテンプレあるわけないでしょって笑い飛ばしてたけど、現実になると笑えない。
一瞬たりとも面白いとか、ワクワクするとか思えない。
私には私の生活があったはずなのに。
家族も恋人も仕事もみんななくなってしまった。
しかも、子どもに転生するって、それはそれで、不安になる。
誰もいない小屋の中に殴られて転がされている子どもが幸せだとはとても思えない。

転生したってことは、世界も違うんだよね‥‥‥?
言葉や生活習慣とか適応できるんだろうか。

でも、何よりも。

「愛理泣いてるだろうなぁ・・・」

今まで自分が努力して築き上げてきた社会生活や仕事が全部なくなってしまったことは残念に思う。
それ以上に、家族と二度と会えないだろうことがつらい。
目の前で私が車に轢かれる瞬間を目撃してしまっただろう愛理のことを考えると、心配と悲しみで胸が潰れそうになる。

耳に残る愛理の叫び声。
助けを求めて叶わない絶望に満ちた声だけが耳に残る。
でも、もう戻れないだろう。

私がここにいるってことは、もう死んでしまったってことなんだろうな。これからはここで生きていくしかないんだ‥‥‥

陽は昇り、辺りを燦々と照らし始めていた。
湖は光り輝き、森が目覚める。
新しい1日が始まる。
風が髪を撫で、世界が新しく生まれ変わったことを知らせてくれた。

(頑張ろう。ここで頑張って生きていこう)

そう、決めたんだ。

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