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番外編10 勇太 不安

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「おはよう」
挨拶すると、「うっす」と短い返事が返ってきた。
それだけ。
壮介の家に遊びに行ったあの日から、壮介は全然目を合わせてくれなくなった。
とにかく視線が合わない。いつもオレ以外を見ているような?時折どこ見てんだよと言いたくなるような、斜め上を見ていたりする。

試験の結果は、まあ、あれだけ集中できなかったんだからこんなもんかと、ある意味妥当な結果だった。違う言葉で惨敗、とも言う。
担任から、「そろそろ内申に関わってくるんだぞ」、と注意された時も壮介のことばかり考えて、上の空で幸せな気分に浸っていた。
そして、今、そのしっぺ返しを受けているところだ。

試験期間中も体力づくりのトレーニングを欠かさなかった壮介は、試験期間終了後は秋の大会に向けて集中して部活に取り組んでいた。
ここからの一試合一試合が将来の推薦に向けての重要な試合になるらしい。
一緒に帰ることもなかったし、試験が終わった後の約束もまだ果たされていなかった。

(楽しみにしていたのにな)

でも、壮介の邪魔はできない。オレからは言い出せず、秋は深まっていった。


少し前までは、俺を見ると、誰にもわからないくらいかすかに目元が緩むのが嬉しかった。
それだけで一日中幸せな気分になれたのに。
オレ、何かしちゃったんだろうか。
もしかして、それで気を悪くしてるとか?
もしそうだったら、どうしよう。

日課のメッセージアプリでのやり取りは続いているが、特にそんな話は出ていない。
おはよう、おやすみ。今日のトレーニングはきつかった。バイト忙しかったよ。その程度のやり取りの中で、オレを責めるようなメッセージを送ってくる?ありえない。
あの壮介が、そんなこと言うわけない。ましてやメッセージアプリで伝えてくるなんて。

心が、重い。
壮介に想いが通じたとはいえ、本音の部分では自信なんてない。
もしかして、オレが壮介を好きでたまらないことに気がついて、気を使ってくれただけなんだろうか。それとも同情して、クラスが変わるまでの間だけならとつきあってくれたんだろうか。
もし、そうなら申し訳ない。

日に日に不安が募る。

時々、壮介がオレを見ていることがあった。
でもオレと目があうと、さっと目をそらされてしまう。
何か言いたげに。でも、その口元は固く引き締められ、「絶対言わない」と声にならない声が伝えてくる。
もしかして・・・もしかして、後悔してるってこと?

オレに気を持たせてしまって申し訳ないとか思ってるのかな。
それとも、やっぱり、女の子の方がいいと思い直したとか?
だとしたら、本当に申し訳ない。
もしそんなこと思われていたら、消えて失くなってしまいたい。
でも、そばにいたい。
でも、迷惑かもしれない。
堂々巡りだ。

まさか、まさかだけど、女がいるって噂が本当だったってことはないよな?

(そんなことあるわけない、あいつがオレに嘘をつく理由なんてない)

オレは必死でその思いつきを打ち消す。

(だめだ、そんなこと考えるなんて、壮介を疑うなんて、そんなこと・・・絶対に、ダメだ)

こんなに心が弱いなんて、なんてダメなやつなんだオレは。
自己嫌悪と疑心暗鬼でボロボロになりそうだ。
恋ってこんなに難しいことなんだ。
世の中のカップルはどうやって暮らしているんだろう。
ラブラブカップルとか、どうやったら成立するんだろう。
そのあまりの難易度の高さに、困惑する。
それともだれでもできることなんだろうか。んだろうか。何か欠陥がある?
変な奴らを引き寄せやすいし、なにか人として重大な欠陥があるんだろうか。

オレはため息をついた。
ため息をすると幸せが逃げるって言うけど、捕まえられていない幸せも逃げて行くんだろうか。
でも、止まらない。
泣きたくなってきた。
ここは学校だから我慢しろよ、と自分に言い聞かせる。
いくらなんでも、みっともなさすぎる。

ぴこん

メッセージアプリが鳴った。
すかさずメッセージを確認する。

「今日は久しぶりのオフになった。一緒に帰ろう」

やった!

オレは秒速でOKのスタンプを送った。壮介の気が変わらないうちに!
「教室で待ってる」

嫌われたわけじゃなかったのかな!?
でも、もしかして・・・別れ話?
だめだ、ネガティブ思考退散!なんでもない風を装わないと。
いつもどおり、いつもどおりだ。

オレは嬉しさと不安が交錯する中、平静を装い、ため息を押し殺しながら壮介が教室に戻ってくるのを待った。
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