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7.モブ役者にも、モブ役者なりのプライドがある
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東城湊斗──彼だけが僕にとっての『特別』な存在なんだと、それに気づいてしまったら、あとから涙があふれて止まらなくなった。
どうしよう、今さらこんな気持ちに気がつくなんて。
最初はただ、手のかかる後輩にすぎなくて。
それも大手芸能事務所のスター候補なのだからと、気をつかわなきゃいけない相手だった。
正直、面倒な相手でしかなかったのに。
あれから2年、すっかり当初の予定通りに国民的な大スターへとかけ上がっていった東城は、今や僕の手の届かない場所に立っていた。
あまりにも相手があのころと変わらない感じに接してきていたから、つい僕も勘ちがいしてしまったんだろうか。
たとえ立場はちがっていても、心安い相手であると。
だけど実際には、僕が気づかないだけで、アイツはずいぶん前から僕のことを下に見ていたのかもしれない。
好きなヤツに見下されたら、そりゃくやしくて涙も止まらなくなるってもんだろ。
気を遣って、そうは見せないように懐っこい後輩の顔を演じていただけなのかもなんて、疑いたくないのに疑ってしまう。
それくらい、アイツの演技は上達していたし、そう感じるくらいには、あの演技は完成していたんだ。
これまでの僕が知る東城は、演じるときには計算尽くでやるというよりも、あくまでもそのキャラクターになりきって演じていた。
ある意味で憑依型と言える演技は、その役にぴたりとハマったときの破壊力が半端ないことになる。
どちらかというと理詰めでキャラクターを分析して、演技プランを考えていく僕とは、東城は真逆の位置にいた。
だから今までなら、その役になりきってしまえば、雑念なんて入る余地はなかったんだ。
だけど今回は、『キスをしたい』という個人的な気持ちがまざっていたらしい。
僕にはまるでそんな欲望があるようには見えなかったのに、マネージャーの後藤さんにはお見通しだったようだ。
それもまた、僕にとってはくやしいことだった。
自分の演技力にはそれなりに自信があるけれど、それと同じくらい、相手が演技かどうか見る目もあると思っていたから。
その僕が見ても、あのときの東城の演技はまっすぐでひたむきな愛を感じるものだった。
しっかりと、いつものようにあの役を憑依させているんだと思っていた。
じゃなきゃ、あんなにも熱のこもった視線で僕を見て、耳もとで甘く愛をささやいたりできないはずなんだし。
その声はときに切なく、ときには熱く、耳から染み入り理性をとろかせるものだった。
それこそ、思わず自然に身を委ねてしまいそうになるくらい、真摯で燃え上がるような情熱的な愛を感じるものだった。
あれだけ気合いの入った演技ができるようになったのなら、恋愛ドラマの女王と名高い宮古怜奈にも決して見劣りしないだろう。
そう思って、安心していたのに……。
だけど実際には欲にまみれ、しかしそれを隠した演技にだまされていただけだった。
これだけ本心を隠して相手に悟らせないような演技ができるようになったってことは、役者として東城がレベルアップしたことだと素直によろこんでやればいいだけなのに、すっかりひねくれたこの心は、よけいなことを考えてしまうんだ。
───アイツにとって、僕はもう見下してもいい存在になっていて、それを隠して慕うふりをしていただけなんじゃないかって。
この2年間に仕事がかち合うことはなかったけれど、僕の前での東城は、はじめて会ったときからなにも変わっていないように見えていた。
いつだって『全力で慕っています』という空気感を出してきて、全開の笑顔を向けてきていたはずだ。
それが本心からではなく、いつの間にか演技にすり代わっていたのかもしれないと疑わなきゃいけない日が来るなんて、どうしたらいいんだろうか?
もしそれが事実なら、僕はもう東城のそばにはいられない。
疎まれてまで、隣に立とうなんて思うほど、こっちのメンタルは強くなんてないから。
キリ……と心臓が捩れるような、鋭い痛みを訴えてくる。
まるで、東城のそばにいられないことを悲しむかのように。
「~~~~っ!!」
のどの奥からは、声にならない嗚咽がもれた。
その引きつれたような叫びは、自覚する前に消されることが決まってしまったアイツへの想いが上げた、断末魔の悲鳴だったのかもしれない。
淡いその恋心は、成就するはずもない、幻のようなものだ。
ひっそりと生まれ、誰にもその存在を気づかれることもなく、そしてそのまま消えていくしかないなんて。
「まずい、泣いちゃダメだ。ただでさえ地味な顔なのに、目まで腫れぼったくなっちゃうとか、不細工すぎるだろ……」
夕方からはチョイ役とはいえ、映像のお仕事があるってのに。
だけどボロボロと頬を伝っていく涙は、止まる気配もなかった。
口に出して言えば、その事実に、さらに凹みそうになる。
そうだ、いくら演技力には自信があろうが、残念ながら地味な顔では、映像になったときに映えることはむずかしい。
個性派であれば脇役として、味のある演技をして記憶に残ることはできるかもしれないけれど、残念ながら自分にはそこまでの個性はない。
どんな役でも演じられる代わりに、なにものにも代えがたいほどの、ただひとつの存在にはなることができない。
つまりは、自分はそこら辺にいる有象無象にすぎない、ただのモブなんだ。
東城湊斗という、ひときわまぶしい存在に目がくらみ、引き寄せられたうちのひとりにすぎなかったんだ。
それがわかっているのなら、ただあきらめてその事実を受け入れて競おうとしなければ、きっと心は楽になる。
取り巻きのひとりとして、東城を崇め、ずっと見上げて過ごせばいい。
絶対に自分では敵わない存在なら、きっとそうするのが賢い生き方なんだろう。
人の身で、天に向かって挑んだどころで、むなしいだけだからな。
だけど、僕には無理だった。
幼いころから、戦隊もののヒーローにあこがれて、自分もいつかヒーローになるんだって心に決めた。
長じてそれがドラマのなかの話だと理解したあとは、今度はそれを演じる俳優になるのが夢になっていた。
そこから夢を叶えるために、ずっと努力を続けてきたし、それはすべて表現力となって僕を支えてくれるものになったと自負している。
幼いころに自分が感じた、あのキラキラと光る世界で生きていくためならば、どんな苦労も耐えられた。
だって、人に夢を与える仕事に就いている人が、自らの夢をあきらめるなんて、本末転倒だろ?
自分自身の可能性も信じられないヤツが、どうやって人に夢を与えられるんだよ。
だから僕には、僕を信じる義務がある。
そうして生きてきた僕にとっては、演じることがすべてなんだ。
役者をやれるなら、それだけでいい。
色々な役をやるのに邪魔となるなら、僕という存在がどれだけ薄くてもいい。
そう思っていたはずなのに……いつの間にか、その熱い思いは『アイツの隣に立つのにふさわしい役者でありたい』という想いへと姿を変えていたようだ。
それだけ僕にとっての『東城湊斗』という人物は、衝撃的なものだったんだろう。
ただそこにいるだけなのに、周囲の視線を集める存在感。
それが動き出したならば、目で追わずにはいられない。
これが『魅了される』ということなんだろうと、その一挙手一投足で教えてくれる。
とっくの昔にここまで心を奪われていたのに、自分にとっての東城が特別な存在になっていたと、どうして今まで気づかなかったんだろう?
己の鈍さには、ほとほと呆れる。
だって考えてもみろよ、いくら配役のバーターと言われたところで、あそこまでプライベートの時間を返上してまで、面倒みたりしないだろ。
いくらなんでも、そこまで酔狂じゃない。
それにアイツがデビューしてから、共演したドラマ以降も、今朝まで、ちょいちょい稽古につき合ってたからな。
お仕事としてなら、その共演したドラマのときだけで良かったはずだ。
もちろんド素人同然だった東城が、僕のアドバイスを素直に聞いて、そしてどんどん上手くなっていくのを見るのも楽しかったけど、上手いだけじゃない、理屈抜きで魅了されるなにかが東城にはあった。
それこそが、僕が決して持ち得ない『華』だ。
それは『スター性』と言い換えてもいいかもしれないけれど、とにかく舞台の中央に立つのにふさわしい『品格』のようなものを持って生まれるのは、ほんのひとにぎりの存在だけなんだ。
だから僕は、それを持つ東城がうらやましくて仕方ない。
でもいくら欲しいとわめいたところで、それは天性のものだ。
あとから簡単に手に入るものじゃないのは、わかっている。
もしそれに代わるものがあるとすれば、七光り───親の名声や、事務所の力くらいだろうか。
ただそう考えると、本人の華に加えて事務所の力もある東城って、本当に無敵なんじゃないだろうか?
よほどのベテランでもなければ、負けないような気が……。
うん、これは……絶望だ。
僕なんかが、勝てるわけないじゃん。
どうしてそんな相手に、『負けたくない』なんて思ってしまったんだろう。
バカ極まりないだろ、本当に。
それでも理性とかそういうのじゃなくて、感情論で負けたくないだけなんだ。
我ながら、難儀な性格してるよなぁと思うよ。
冷静に自己分析をかけているうちに、徐々に気持ちは落ちついてきた。
ウジウジと悩んでいても、なにも変わらないなら、いっそ今は無理に考えなければいい。
大丈夫、きっと夕方までには気持ちの切り替えができるようになっているから。
そう思い込まなくては、とてもじゃないけどやってられなかった。
そうしてしばらくぼんやりとしているうちに、気がつけば、止まらなかったはずの涙は止まっていた。
「やべ、もう昼近い時間になってるとか……っ!」
壁にかけられた時計を見て、あわてる。
それと同時に、ぐぅ、と小さくお腹が鳴った。
ひとしきり泣いて、落ちついてきたら、ちゃんとお腹は空いてきた。
あぁなんだ、案外僕もメンタル強いんじゃん、なんて冗談みたいに思って、自嘲気味に笑う。
せっかく後藤さんにおいしそうなサンドイッチもらったしな、ありがたく食べよう。
コーヒーは冷めきって、匂いが飛んでしまっていたけれど、それでも十分おいしかった。
これを食べ終わったら、シャワーを浴びて仮眠をしよう。
そんな風に考えられるくらいには、余裕が生まれていた。
そうして、またいつもと変わらない日常がはじまっていく───そう、思っていた。
どうしよう、今さらこんな気持ちに気がつくなんて。
最初はただ、手のかかる後輩にすぎなくて。
それも大手芸能事務所のスター候補なのだからと、気をつかわなきゃいけない相手だった。
正直、面倒な相手でしかなかったのに。
あれから2年、すっかり当初の予定通りに国民的な大スターへとかけ上がっていった東城は、今や僕の手の届かない場所に立っていた。
あまりにも相手があのころと変わらない感じに接してきていたから、つい僕も勘ちがいしてしまったんだろうか。
たとえ立場はちがっていても、心安い相手であると。
だけど実際には、僕が気づかないだけで、アイツはずいぶん前から僕のことを下に見ていたのかもしれない。
好きなヤツに見下されたら、そりゃくやしくて涙も止まらなくなるってもんだろ。
気を遣って、そうは見せないように懐っこい後輩の顔を演じていただけなのかもなんて、疑いたくないのに疑ってしまう。
それくらい、アイツの演技は上達していたし、そう感じるくらいには、あの演技は完成していたんだ。
これまでの僕が知る東城は、演じるときには計算尽くでやるというよりも、あくまでもそのキャラクターになりきって演じていた。
ある意味で憑依型と言える演技は、その役にぴたりとハマったときの破壊力が半端ないことになる。
どちらかというと理詰めでキャラクターを分析して、演技プランを考えていく僕とは、東城は真逆の位置にいた。
だから今までなら、その役になりきってしまえば、雑念なんて入る余地はなかったんだ。
だけど今回は、『キスをしたい』という個人的な気持ちがまざっていたらしい。
僕にはまるでそんな欲望があるようには見えなかったのに、マネージャーの後藤さんにはお見通しだったようだ。
それもまた、僕にとってはくやしいことだった。
自分の演技力にはそれなりに自信があるけれど、それと同じくらい、相手が演技かどうか見る目もあると思っていたから。
その僕が見ても、あのときの東城の演技はまっすぐでひたむきな愛を感じるものだった。
しっかりと、いつものようにあの役を憑依させているんだと思っていた。
じゃなきゃ、あんなにも熱のこもった視線で僕を見て、耳もとで甘く愛をささやいたりできないはずなんだし。
その声はときに切なく、ときには熱く、耳から染み入り理性をとろかせるものだった。
それこそ、思わず自然に身を委ねてしまいそうになるくらい、真摯で燃え上がるような情熱的な愛を感じるものだった。
あれだけ気合いの入った演技ができるようになったのなら、恋愛ドラマの女王と名高い宮古怜奈にも決して見劣りしないだろう。
そう思って、安心していたのに……。
だけど実際には欲にまみれ、しかしそれを隠した演技にだまされていただけだった。
これだけ本心を隠して相手に悟らせないような演技ができるようになったってことは、役者として東城がレベルアップしたことだと素直によろこんでやればいいだけなのに、すっかりひねくれたこの心は、よけいなことを考えてしまうんだ。
───アイツにとって、僕はもう見下してもいい存在になっていて、それを隠して慕うふりをしていただけなんじゃないかって。
この2年間に仕事がかち合うことはなかったけれど、僕の前での東城は、はじめて会ったときからなにも変わっていないように見えていた。
いつだって『全力で慕っています』という空気感を出してきて、全開の笑顔を向けてきていたはずだ。
それが本心からではなく、いつの間にか演技にすり代わっていたのかもしれないと疑わなきゃいけない日が来るなんて、どうしたらいいんだろうか?
もしそれが事実なら、僕はもう東城のそばにはいられない。
疎まれてまで、隣に立とうなんて思うほど、こっちのメンタルは強くなんてないから。
キリ……と心臓が捩れるような、鋭い痛みを訴えてくる。
まるで、東城のそばにいられないことを悲しむかのように。
「~~~~っ!!」
のどの奥からは、声にならない嗚咽がもれた。
その引きつれたような叫びは、自覚する前に消されることが決まってしまったアイツへの想いが上げた、断末魔の悲鳴だったのかもしれない。
淡いその恋心は、成就するはずもない、幻のようなものだ。
ひっそりと生まれ、誰にもその存在を気づかれることもなく、そしてそのまま消えていくしかないなんて。
「まずい、泣いちゃダメだ。ただでさえ地味な顔なのに、目まで腫れぼったくなっちゃうとか、不細工すぎるだろ……」
夕方からはチョイ役とはいえ、映像のお仕事があるってのに。
だけどボロボロと頬を伝っていく涙は、止まる気配もなかった。
口に出して言えば、その事実に、さらに凹みそうになる。
そうだ、いくら演技力には自信があろうが、残念ながら地味な顔では、映像になったときに映えることはむずかしい。
個性派であれば脇役として、味のある演技をして記憶に残ることはできるかもしれないけれど、残念ながら自分にはそこまでの個性はない。
どんな役でも演じられる代わりに、なにものにも代えがたいほどの、ただひとつの存在にはなることができない。
つまりは、自分はそこら辺にいる有象無象にすぎない、ただのモブなんだ。
東城湊斗という、ひときわまぶしい存在に目がくらみ、引き寄せられたうちのひとりにすぎなかったんだ。
それがわかっているのなら、ただあきらめてその事実を受け入れて競おうとしなければ、きっと心は楽になる。
取り巻きのひとりとして、東城を崇め、ずっと見上げて過ごせばいい。
絶対に自分では敵わない存在なら、きっとそうするのが賢い生き方なんだろう。
人の身で、天に向かって挑んだどころで、むなしいだけだからな。
だけど、僕には無理だった。
幼いころから、戦隊もののヒーローにあこがれて、自分もいつかヒーローになるんだって心に決めた。
長じてそれがドラマのなかの話だと理解したあとは、今度はそれを演じる俳優になるのが夢になっていた。
そこから夢を叶えるために、ずっと努力を続けてきたし、それはすべて表現力となって僕を支えてくれるものになったと自負している。
幼いころに自分が感じた、あのキラキラと光る世界で生きていくためならば、どんな苦労も耐えられた。
だって、人に夢を与える仕事に就いている人が、自らの夢をあきらめるなんて、本末転倒だろ?
自分自身の可能性も信じられないヤツが、どうやって人に夢を与えられるんだよ。
だから僕には、僕を信じる義務がある。
そうして生きてきた僕にとっては、演じることがすべてなんだ。
役者をやれるなら、それだけでいい。
色々な役をやるのに邪魔となるなら、僕という存在がどれだけ薄くてもいい。
そう思っていたはずなのに……いつの間にか、その熱い思いは『アイツの隣に立つのにふさわしい役者でありたい』という想いへと姿を変えていたようだ。
それだけ僕にとっての『東城湊斗』という人物は、衝撃的なものだったんだろう。
ただそこにいるだけなのに、周囲の視線を集める存在感。
それが動き出したならば、目で追わずにはいられない。
これが『魅了される』ということなんだろうと、その一挙手一投足で教えてくれる。
とっくの昔にここまで心を奪われていたのに、自分にとっての東城が特別な存在になっていたと、どうして今まで気づかなかったんだろう?
己の鈍さには、ほとほと呆れる。
だって考えてもみろよ、いくら配役のバーターと言われたところで、あそこまでプライベートの時間を返上してまで、面倒みたりしないだろ。
いくらなんでも、そこまで酔狂じゃない。
それにアイツがデビューしてから、共演したドラマ以降も、今朝まで、ちょいちょい稽古につき合ってたからな。
お仕事としてなら、その共演したドラマのときだけで良かったはずだ。
もちろんド素人同然だった東城が、僕のアドバイスを素直に聞いて、そしてどんどん上手くなっていくのを見るのも楽しかったけど、上手いだけじゃない、理屈抜きで魅了されるなにかが東城にはあった。
それこそが、僕が決して持ち得ない『華』だ。
それは『スター性』と言い換えてもいいかもしれないけれど、とにかく舞台の中央に立つのにふさわしい『品格』のようなものを持って生まれるのは、ほんのひとにぎりの存在だけなんだ。
だから僕は、それを持つ東城がうらやましくて仕方ない。
でもいくら欲しいとわめいたところで、それは天性のものだ。
あとから簡単に手に入るものじゃないのは、わかっている。
もしそれに代わるものがあるとすれば、七光り───親の名声や、事務所の力くらいだろうか。
ただそう考えると、本人の華に加えて事務所の力もある東城って、本当に無敵なんじゃないだろうか?
よほどのベテランでもなければ、負けないような気が……。
うん、これは……絶望だ。
僕なんかが、勝てるわけないじゃん。
どうしてそんな相手に、『負けたくない』なんて思ってしまったんだろう。
バカ極まりないだろ、本当に。
それでも理性とかそういうのじゃなくて、感情論で負けたくないだけなんだ。
我ながら、難儀な性格してるよなぁと思うよ。
冷静に自己分析をかけているうちに、徐々に気持ちは落ちついてきた。
ウジウジと悩んでいても、なにも変わらないなら、いっそ今は無理に考えなければいい。
大丈夫、きっと夕方までには気持ちの切り替えができるようになっているから。
そう思い込まなくては、とてもじゃないけどやってられなかった。
そうしてしばらくぼんやりとしているうちに、気がつけば、止まらなかったはずの涙は止まっていた。
「やべ、もう昼近い時間になってるとか……っ!」
壁にかけられた時計を見て、あわてる。
それと同時に、ぐぅ、と小さくお腹が鳴った。
ひとしきり泣いて、落ちついてきたら、ちゃんとお腹は空いてきた。
あぁなんだ、案外僕もメンタル強いんじゃん、なんて冗談みたいに思って、自嘲気味に笑う。
せっかく後藤さんにおいしそうなサンドイッチもらったしな、ありがたく食べよう。
コーヒーは冷めきって、匂いが飛んでしまっていたけれど、それでも十分おいしかった。
これを食べ終わったら、シャワーを浴びて仮眠をしよう。
そんな風に考えられるくらいには、余裕が生まれていた。
そうして、またいつもと変わらない日常がはじまっていく───そう、思っていた。
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