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59.イケメンアイドルは、やっぱり心の強さまでイケメンすぎる
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どうしよう、矢住くんを泣かせるつもりなんてなかったのに……。
もちろんここがはじめての舞台で、しかも途中に怪我のせいで代役を立てることになってしまったなんてトラブルを乗り越えて、こうしてようやく千秋楽を迎えることができたんだから、ホッとしたというのもあるかもしれないけど。
でもそれは、ここにいない相田さんやら雪之丞さんの導きがあればこそでもあって。
たしかに僕は矢住くんから『師匠』なんて呼ばれて、演技や殺陣の面倒もずいぶん見てきたつもりではあるけれど、最後の一押しをしてくれたのは、ほかならぬ共演者の人たちなんだ。
だからこの涙は、彼らとわかちあってもらわなければ!
そんな思いに突き動かされ、なんとかして泣き止ませないといけないと決意を固めたところで、僕に抱きついていた矢住くんの声が、小さく聞こえてきた。
「~~~~っで、なんで、東城さんなんだよっ!」
「え……??」
そうしてこちらの耳に飛び込んできたのは、想定外のセリフだった。
えぇっ、東城!?
なんでここで、いきなり東城の名前が出てくるんだろう??
わけがわからなくて、何度もまばたきをくりかえしてしまう。
「や、矢住くん……?」
いったいどういうことなのかと、そっと問いかけてみても、聞こえてくるのは嗚咽だけだ。
必死にしがみついてくる矢住くんのからだは、小刻みにふるえていた。
その肩は僕より華奢で、どこか頼りなささえ感じる。
でもなにか大切なことを言いたいんだろうという気配だけは伝わってくるから、黙ってつづきを待つしかなかった。
せめて少しでも落ちつけるようにと、その背中をさすっていれば、こちらに気をつかってくれたのか、スタッフさんもそっと距離をとってくれる。
「わかってます、師匠にとっての東城さんの存在が、どれだけ大きいのかってことくらい。ボクにとっても東城さんは、神にも等しい方なので!……でも……それでもあきらめたくないって、心がさけんでくるんです!」
こちらの胸に顔をうずめたまま、甘えるような涙声で話しかけてくる矢住くんから、目が離せなくなっていた。
「好きです、羽月さん……もちろんボクの想いにこたえられないことも、その理由もちゃんと知っています!でもあなたのやさしさに触れるたび、何度だって好きになってしまうから……っ!」
のどの奥から絞り出すようなその声は、情けないほどふるえている。
「矢住くん……」
だからといってそれを笑う気なんて、みじんも起きなかったけれど。
それどころか、どれほどの勇気を込めた告白なのかと、ズシッとその覚悟が重くのしかかってくる。
だって、矢住くんが本気なのは十分すぎるほどに伝わってくるから。
だからこそ、なんと言っていいのかわからなくて、とまどってしまっていた。
───彼から『師匠』と呼ばれて慕われていることはわかっていたけれど、これまでは恋愛的な意味で好かれているとは、まったく思ってもいなかったんだ。
僕にとっての矢住くんは、『最初こそ反発していたものの、すぐになついてくれたかわいい後輩』という立ち位置の存在だ。
というのも、そもそも矢住くん自体がふだんから人に甘えるのがうまくて、するりと懐に入ってくる存在で。
だから抱きつかれても、弟に甘えられているみたいで、全然そんな感じはしていなかったんだ。
特に東城とおたがいの気持ちをたしかめあってからというもの、困ったことに役に入っているとき以外、だれかに抱きつかれるのがどうにも苦手になってしまっていたけれど、矢住くんからのそれは全然問題なく受け止められていたのも事実だし。
だから相手には、そういう気持ちがみじんもないのだと思い込んでいた。
───でもそれが、すでに彼の演技だったのだとしたら───?
ふいに、そんな疑問が浮かんでくる。
もしそうなら、それは僕をだますためというよりは、自分自身をだますための演技でしかないと思う。
無邪気で無害な弟キャラを演じることで、必死に己の気持ちに気づかないふりをしようとしていたのだとしたら……。
「っ!」
ズキンッ
想像しただけで、胸が痛みを訴えてくる。
どれだけ好きになっても相手に告げることすらゆるされなくて、でも自分の心のなかで日々大きくふくれていく相手への想いは、いつの日にか、あふれてしまいそうになる日がやってくる。
そんなの、苦しくてたまらないだろ!
人を好きになるって、理屈じゃないんだ。
たとえそれが実りのない恋だとしても、どれだけガマンしようとしたところで、絶対無理に決まってる。
「好き、大好き……本当はあきらめたくない……っ!!」
「~~~~っ!!」
矢住くんの口からもれ出るかすれたような声は、やっぱりふるえていて、つい気持ちがゆらぎそうになる。
こんなとき、ふだんからモテている人なら、相手を傷つけずにスマートにお断りすることができるのかもしれない。
でも僕には無理だった。
今はなにを口にしたところで、きっと相手を傷つけてしまうだろう。
「────ありがとう、勇気をふりしぼってくれて」
結局、たっぷりの沈黙のあとに出てきたのは、己の内に秘めてきた気持ちを告げてくれたことにたいする、感謝の言葉だけだった。
少なくとも『ごめん』なんて、あやまるつもりはなかった。
だって矢住くんは、最初から僕の気持ちも、そして東城との関係もなにもかもわかったうえで、それでもなお自分の気持ちを告げてくれたんだから。
はじめから僕に断られることをわかっているというのなら、あらためて断りを入れて追い討ちをかける必要なんてないはずだろ?
だから今は、その気持ちを受け止めるのを優先させたかった。
負けるのがわかってても、必死に勝負に挑もうとしてくれた、その勇気を讃えるべきだと思ったから。
「……へへ、師匠ならそう言ってくれると思ってました……そういうやさしいところが大好きです!」
まだ泣き笑いの表情ではあったけれど、それでも矢住くんは顔をあげ、笑顔を見せてくれる。
「ありがとうございました!ボクの気持ちを聞いてくれて!羽月さんのこと、好きになってよかったです」
最後にぎゅっと抱きつくと、矢住くんはいきおいをつけて腕を離すと、身を起こした。
もはやその笑顔には、みじんも陰を感じることはない。
あぁ……本当に強いなぁ、矢住くんは。
きっとまだ、気持ちのうえでの整理なんてついてないだろうに、それでも必死に大丈夫なふりをして見せるなんて。
そりゃあ男ならだれだって、好きな人の前ではカッコつけたいものだけどさ。
たとえそれが、ものすごくツラいやせガマンだとしても。
こういうところは、見た目以上にすごく男前なんだと思う。
「もうすぐカテコでーす!皆さん準備お願いします!!」
と、そのとき、遠くにいるスタッフさんから声がかかる。
「……カーテンコール、がんばってきてね!」
「ハイッ!行ってきます!」
必死にとりつくろった僕の声は、ちゃんと他意なく相手に届いていただろうか?
ニッと白い歯を見せて、いかにもアイドルらしい笑顔になった矢住くんは、明るい声で返事をして走っていく。
「………うん、矢住くんは、いい役者になれるよ……」
元気よく走り出ていった矢住くんの背中を見送りながら、そっと小さくため息をつく。
僕だったら、おなじ立場になったとき、あんな笑顔を作れなかったかもしれない。
でも矢住くんは、内心の動揺なんて感じさせない、キラキラの笑顔を浮かべてくれた。
きっとそれは、僕に罪悪感を抱かせないための演技なんだろうってことくらいは、さすがにわかるよ……!
ギューッと胸が締めつけられているみたいに痛くて、息をするのも苦しい気さえする。
今のこの瞬間、本当に苦しくて泣きたいのは、きっと矢住くんのほうなのに。
だから僕が泣きそうになるのは、まちがってるんだ!
───そう必死に自分を鼓舞しなければ、今にも泣いてしまいそうだった。
と、そのときだ。
客席からの拍手喝采が、まるで地響きのように聞こえてきた。
それはこれまで聞こえてきた、どの日の公演よりも大きなものだった。
あぁ、とうとう舞台の幕が降りたのか。
……てことは、いよいよ最後のカーテンコール、袖に控えてるキャストの出番だ。
いつもなら主演の相田さんがあいさつをするだけだけど、千秋楽の今日はメインどころの出演者全員から、ひとことずつあいさつをする時間が設けられていた。
そしてそのあとには、いくつかの『特報』と称したお知らせがある。
そこでは、僕にも仕事が割り振られていた。
「よし、僕もがんばらなきゃ……!」
パチンと小さく音を立てて自分の両頬をたたくと、気合いを入れる。
役者として舞台のうえに立つ以上、なにがあろうと僕は『羽月眞也』という名の仮面をかぶらなくてはいけない。
「羽月さんも、スタンバイお願いします!」
「はい!」
呼びに来てくれた演出助手の人に返事をすると、渡された大きな花束をかかえた。
その瞬間、それまで落ちつくそぶりも見せなかったはずの心はふしぎと凪ぎ、スゥッと意識が仕事モードへと切り替わる。
「さて眞也くん、我々も観客の歓喜の絶叫を聞きに行こうか」
「はい、そうですね。皆さんよろこんでくれるといいんですが……」
隣に立つのは、僕とおなじく大きな花束をかかえた岸本監督だ。
「本日はご来場いただきまして、「「「誠にありがとうございました!」」」」
何度目かの大音声の歓声と拍手を終えて、キャストからのあいさつが終わったのだろう、袖に立つ僕たちからもあらためて舞台上に立つ相田さんの音頭によって、キャストが一斉に声をそろえてお礼を述べて、あたまを下げているのが見えた。
客席からは、まさに割れんばかりの拍手に送られ、終わりを告げるように舞台のメインテーマ曲が流れ、幕がふたたび降りていく。
だれもがその幕が下りるのを惜しむように、必死に手を振り拍手をするなか、僕はスッと息を吸う。
「『ちょっと待ったぁー!テメーらの本気は、そんなもんなのかよ?!』」
マイクをとおして、悠之助として劇中に出てくるセリフを叫ぶ。
その瞬間、聞きおぼえのあるセリフに客席はザワついた。
もちろんここがはじめての舞台で、しかも途中に怪我のせいで代役を立てることになってしまったなんてトラブルを乗り越えて、こうしてようやく千秋楽を迎えることができたんだから、ホッとしたというのもあるかもしれないけど。
でもそれは、ここにいない相田さんやら雪之丞さんの導きがあればこそでもあって。
たしかに僕は矢住くんから『師匠』なんて呼ばれて、演技や殺陣の面倒もずいぶん見てきたつもりではあるけれど、最後の一押しをしてくれたのは、ほかならぬ共演者の人たちなんだ。
だからこの涙は、彼らとわかちあってもらわなければ!
そんな思いに突き動かされ、なんとかして泣き止ませないといけないと決意を固めたところで、僕に抱きついていた矢住くんの声が、小さく聞こえてきた。
「~~~~っで、なんで、東城さんなんだよっ!」
「え……??」
そうしてこちらの耳に飛び込んできたのは、想定外のセリフだった。
えぇっ、東城!?
なんでここで、いきなり東城の名前が出てくるんだろう??
わけがわからなくて、何度もまばたきをくりかえしてしまう。
「や、矢住くん……?」
いったいどういうことなのかと、そっと問いかけてみても、聞こえてくるのは嗚咽だけだ。
必死にしがみついてくる矢住くんのからだは、小刻みにふるえていた。
その肩は僕より華奢で、どこか頼りなささえ感じる。
でもなにか大切なことを言いたいんだろうという気配だけは伝わってくるから、黙ってつづきを待つしかなかった。
せめて少しでも落ちつけるようにと、その背中をさすっていれば、こちらに気をつかってくれたのか、スタッフさんもそっと距離をとってくれる。
「わかってます、師匠にとっての東城さんの存在が、どれだけ大きいのかってことくらい。ボクにとっても東城さんは、神にも等しい方なので!……でも……それでもあきらめたくないって、心がさけんでくるんです!」
こちらの胸に顔をうずめたまま、甘えるような涙声で話しかけてくる矢住くんから、目が離せなくなっていた。
「好きです、羽月さん……もちろんボクの想いにこたえられないことも、その理由もちゃんと知っています!でもあなたのやさしさに触れるたび、何度だって好きになってしまうから……っ!」
のどの奥から絞り出すようなその声は、情けないほどふるえている。
「矢住くん……」
だからといってそれを笑う気なんて、みじんも起きなかったけれど。
それどころか、どれほどの勇気を込めた告白なのかと、ズシッとその覚悟が重くのしかかってくる。
だって、矢住くんが本気なのは十分すぎるほどに伝わってくるから。
だからこそ、なんと言っていいのかわからなくて、とまどってしまっていた。
───彼から『師匠』と呼ばれて慕われていることはわかっていたけれど、これまでは恋愛的な意味で好かれているとは、まったく思ってもいなかったんだ。
僕にとっての矢住くんは、『最初こそ反発していたものの、すぐになついてくれたかわいい後輩』という立ち位置の存在だ。
というのも、そもそも矢住くん自体がふだんから人に甘えるのがうまくて、するりと懐に入ってくる存在で。
だから抱きつかれても、弟に甘えられているみたいで、全然そんな感じはしていなかったんだ。
特に東城とおたがいの気持ちをたしかめあってからというもの、困ったことに役に入っているとき以外、だれかに抱きつかれるのがどうにも苦手になってしまっていたけれど、矢住くんからのそれは全然問題なく受け止められていたのも事実だし。
だから相手には、そういう気持ちがみじんもないのだと思い込んでいた。
───でもそれが、すでに彼の演技だったのだとしたら───?
ふいに、そんな疑問が浮かんでくる。
もしそうなら、それは僕をだますためというよりは、自分自身をだますための演技でしかないと思う。
無邪気で無害な弟キャラを演じることで、必死に己の気持ちに気づかないふりをしようとしていたのだとしたら……。
「っ!」
ズキンッ
想像しただけで、胸が痛みを訴えてくる。
どれだけ好きになっても相手に告げることすらゆるされなくて、でも自分の心のなかで日々大きくふくれていく相手への想いは、いつの日にか、あふれてしまいそうになる日がやってくる。
そんなの、苦しくてたまらないだろ!
人を好きになるって、理屈じゃないんだ。
たとえそれが実りのない恋だとしても、どれだけガマンしようとしたところで、絶対無理に決まってる。
「好き、大好き……本当はあきらめたくない……っ!!」
「~~~~っ!!」
矢住くんの口からもれ出るかすれたような声は、やっぱりふるえていて、つい気持ちがゆらぎそうになる。
こんなとき、ふだんからモテている人なら、相手を傷つけずにスマートにお断りすることができるのかもしれない。
でも僕には無理だった。
今はなにを口にしたところで、きっと相手を傷つけてしまうだろう。
「────ありがとう、勇気をふりしぼってくれて」
結局、たっぷりの沈黙のあとに出てきたのは、己の内に秘めてきた気持ちを告げてくれたことにたいする、感謝の言葉だけだった。
少なくとも『ごめん』なんて、あやまるつもりはなかった。
だって矢住くんは、最初から僕の気持ちも、そして東城との関係もなにもかもわかったうえで、それでもなお自分の気持ちを告げてくれたんだから。
はじめから僕に断られることをわかっているというのなら、あらためて断りを入れて追い討ちをかける必要なんてないはずだろ?
だから今は、その気持ちを受け止めるのを優先させたかった。
負けるのがわかってても、必死に勝負に挑もうとしてくれた、その勇気を讃えるべきだと思ったから。
「……へへ、師匠ならそう言ってくれると思ってました……そういうやさしいところが大好きです!」
まだ泣き笑いの表情ではあったけれど、それでも矢住くんは顔をあげ、笑顔を見せてくれる。
「ありがとうございました!ボクの気持ちを聞いてくれて!羽月さんのこと、好きになってよかったです」
最後にぎゅっと抱きつくと、矢住くんはいきおいをつけて腕を離すと、身を起こした。
もはやその笑顔には、みじんも陰を感じることはない。
あぁ……本当に強いなぁ、矢住くんは。
きっとまだ、気持ちのうえでの整理なんてついてないだろうに、それでも必死に大丈夫なふりをして見せるなんて。
そりゃあ男ならだれだって、好きな人の前ではカッコつけたいものだけどさ。
たとえそれが、ものすごくツラいやせガマンだとしても。
こういうところは、見た目以上にすごく男前なんだと思う。
「もうすぐカテコでーす!皆さん準備お願いします!!」
と、そのとき、遠くにいるスタッフさんから声がかかる。
「……カーテンコール、がんばってきてね!」
「ハイッ!行ってきます!」
必死にとりつくろった僕の声は、ちゃんと他意なく相手に届いていただろうか?
ニッと白い歯を見せて、いかにもアイドルらしい笑顔になった矢住くんは、明るい声で返事をして走っていく。
「………うん、矢住くんは、いい役者になれるよ……」
元気よく走り出ていった矢住くんの背中を見送りながら、そっと小さくため息をつく。
僕だったら、おなじ立場になったとき、あんな笑顔を作れなかったかもしれない。
でも矢住くんは、内心の動揺なんて感じさせない、キラキラの笑顔を浮かべてくれた。
きっとそれは、僕に罪悪感を抱かせないための演技なんだろうってことくらいは、さすがにわかるよ……!
ギューッと胸が締めつけられているみたいに痛くて、息をするのも苦しい気さえする。
今のこの瞬間、本当に苦しくて泣きたいのは、きっと矢住くんのほうなのに。
だから僕が泣きそうになるのは、まちがってるんだ!
───そう必死に自分を鼓舞しなければ、今にも泣いてしまいそうだった。
と、そのときだ。
客席からの拍手喝采が、まるで地響きのように聞こえてきた。
それはこれまで聞こえてきた、どの日の公演よりも大きなものだった。
あぁ、とうとう舞台の幕が降りたのか。
……てことは、いよいよ最後のカーテンコール、袖に控えてるキャストの出番だ。
いつもなら主演の相田さんがあいさつをするだけだけど、千秋楽の今日はメインどころの出演者全員から、ひとことずつあいさつをする時間が設けられていた。
そしてそのあとには、いくつかの『特報』と称したお知らせがある。
そこでは、僕にも仕事が割り振られていた。
「よし、僕もがんばらなきゃ……!」
パチンと小さく音を立てて自分の両頬をたたくと、気合いを入れる。
役者として舞台のうえに立つ以上、なにがあろうと僕は『羽月眞也』という名の仮面をかぶらなくてはいけない。
「羽月さんも、スタンバイお願いします!」
「はい!」
呼びに来てくれた演出助手の人に返事をすると、渡された大きな花束をかかえた。
その瞬間、それまで落ちつくそぶりも見せなかったはずの心はふしぎと凪ぎ、スゥッと意識が仕事モードへと切り替わる。
「さて眞也くん、我々も観客の歓喜の絶叫を聞きに行こうか」
「はい、そうですね。皆さんよろこんでくれるといいんですが……」
隣に立つのは、僕とおなじく大きな花束をかかえた岸本監督だ。
「本日はご来場いただきまして、「「「誠にありがとうございました!」」」」
何度目かの大音声の歓声と拍手を終えて、キャストからのあいさつが終わったのだろう、袖に立つ僕たちからもあらためて舞台上に立つ相田さんの音頭によって、キャストが一斉に声をそろえてお礼を述べて、あたまを下げているのが見えた。
客席からは、まさに割れんばかりの拍手に送られ、終わりを告げるように舞台のメインテーマ曲が流れ、幕がふたたび降りていく。
だれもがその幕が下りるのを惜しむように、必死に手を振り拍手をするなか、僕はスッと息を吸う。
「『ちょっと待ったぁー!テメーらの本気は、そんなもんなのかよ?!』」
マイクをとおして、悠之助として劇中に出てくるセリフを叫ぶ。
その瞬間、聞きおぼえのあるセリフに客席はザワついた。
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