【完結】初恋をこじらせた殿下の溺愛日記【本編完結/番外編SS随時更新】

fatimah

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そして2人は身悶える④

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 ひとしきりイアンの顔にキスを落とすと、両頬を軽くつまんで引っ張った。
「いひゃいって、にゃにしゅりゅの・・・」
 目を閉じたまま抗議するイアンの声には嬉しさが滲んでいる。手を離すと「もうっ!」と言いながら目を開きアレキサンダーを睨むが、口元はわらっている。

 ――どうしよう、幸せだ。

 くすくす笑いじゃれ合いながら、2人は子供のころを思い出していた。

 ステップフィールド家の所有する森に建てられたお屋敷でイアンは幼少期を過ごした。かつての幼い純白のドラゴンが傷をいやし、アレキサンダーの元の戻るまでを過ごしたのもこの森だ。王宮の魔法管理塔へと移り住んでからも、自然が大好きなアレキサンダーをイアンはよく森に誘った。
 柔らかなブランケットを地面に敷き、ステップフィールド家自慢の美しく繊細なアイシングが施されたお花のクッキーをバスケットから取り出す。イアンが植物や木の実の収集をする傍らで、アレキサンダーは王宮から持ち出した図鑑を読む。ときおりクッキーをつまみ、ブランケットの上で子犬のようにじゃれ合った。

 ――あぁ、ここにクッキーがあればな…

 思い返すと、2人の『あ~ん』の原点は、あの森で食べさせ合ったクッキーだったのだろう。
 思いを巡らせながらアレキサンダーはイアンの口元に手を伸ばす。指で軽く唇をなぞると、イアンは幸せそうに瞳を閉じた。

 ――吸い込まれる。

 アレキサンダーがその唇に口づけをしようと顔を近づけた瞬間、イアンがぱっと目を開き、「明日の準備!」と言っていきなり立ち上がった。

「え・・・・?」
 ぽかんとするアレキサンダーに、「ポーション作りに使いやすい薬草と魔石のサンプル。持っていくってクラスの子たちに約束してたんだった!」

 ――嘘だろ、このタイミングでそれを思い出す?イアンらしいっちゃらしいけど。

「ねぇ・・・それ、今じゃなきゃ駄目なやつ?」
 わざと少しすねたような甘えた声で言いながらイアンの袖口を引っ張る。
「ん~、あまり遅いと管理塔の保管庫が閉まっちゃうから。」
「はぁ~、分かった。」
 少し大げさにため息をついて下を向く。
「ごめんね、アレク。ほんとはもっと一緒にいたいんだけど。」
「俺も。」

「ね、今日から恋人…ってことでいいんだよね?」
 イアンが上目遣いにアレキサンダーを覗き込んでくる。その大きな丸いアメジストの瞳に自分が映っている。
 トクン・・・と心臓が鳴る。

 ――敵わないな…・。

「よろしくな。俺の可愛い恋人さん。」
 アレキサンダーはイアンの額に軽く口づけをする。これ以上触ったら理性が吹っ飛ぶ。ギリギリの選択だった。
「おやすみ、僕の王子さま。」
 冗談めかしてそういうと、イアンは部屋を後にした。

 魔法管理塔に向かう廊下を進むと、見回りの兵士から報告を受けるノーマンの姿があった。
 イアンに気付くと、兵士に手で待つように合図を送り近づいてくる。

「おやおや、イアン様。こんな遅い時間におひとりで?アレキサンダー殿下はご一緒ではないのですか?」
「さっきまで一緒だったんだけどね、僕、ちょっと急ぎでやることができちゃって。」
 応えるイアンの表情はひどく残念そうだが、同時に幸せオーラが滲み出ていた。口角が上がっている。

 ――ほぅ。
 ノーマンはイアンの変化を敏感に感じ取るとニコリとほほ笑んだ。
「それは残念。殿下も恋人を送り届けるくらいの気が使えるといいのですがねぇ。」
「・・・恋人。」
 イアンが顔を真っ赤にして下を向く。
「さあさあ、遅いので早くお戻りください。」
 そういって先ほどの兵士を呼びつけると、イアンを魔法管理塔まで無事に送りとどけるように申し付けた。

 ――ふーん。今日のところはせいぜいキス止まりってところか。酒のつまみに、ちょっとからかいにでも行きましょうかね。
 にやりと笑うと、ノーマンはアレキサンダーの部屋に向かった。

 イアンが去ったあと、唇と舌に残るイアンの甘い後味を思い出しながらアレキサンダーは身悶えていた。
 ――はぁ、可愛かったなー。キスだけであんなエロい顔・・・あぁ、やっぱり帰すんじゃなかった。
 床に敷いたブランケットに横になったまま、さっきまでいたイアンの残り香を吸い込むと、喜びを噛みしめ自然と頬が緩む。

「殿下」
 ドアの向こうからノーマンの声がする。
 幸せな時間を邪魔され、はぁ、とため息をつくと扉を閉めたまま「何?」とぶっきらぼうに答える。
「先ほどイアン様に廊下でお会いしまして、見張りの兵士に管理塔まで送らせたのですが・・・」
 ガチャリと扉が開いた。
 アレキサンダーの顔に不愉快という文字がはっきりと見て取れる。
 ――兵士にイアンを送らせただと?俺のイアンを?

「あーあー、そんな顔するくらいなら、殿下が送って差し上げればよかったじゃないですか。何やってるんですか、ほんとに。」
 ノーマンは部屋に入ると、中央に置かれたひじ掛け付きの椅子を引き寄せる。アレキサンダーの正面に腰をかけ、すっと足を組み肩肘をつき顎を乗せる。
 つい今しがたまで床を転がり悶絶していたぼさぼさ頭の王子は、その優美な動きにちっと舌打ちをした。
 他の侍従とは異なり、ウエストウッド家とは付き合いも長く、特にノーマンとは兄弟のように育ってきた。皮肉っぽい語り口も、横柄な態度もどこか憎めない。
 王子と侍従の時間が終わり、ノーマンは、頼れる近所のお兄さんの顔になる。

「で?両想いを確認し合った2人はキスして終わりですか?」
「いいんだよ、俺たちはこれで。」
 本音を言えばもう少し一緒にいたかった。唇だけでなく体中に口づけをしたかったし、腕に抱いたまま朝を迎えられたらどんなに最高だっただろう。
 しかしアレキサンダーは、自分の10年の思いを、自覚したばかりのイアンにぶつけてしまうのが怖かった。

「まぁ確かに。イアンですもんねー。あの愛らしいきゅるるんとした純粋な瞳は汚しづらい、というか、キスの先に何が待っているかもわかっていない可能性が大いにあるでしょうね・・・かといっていつまでもお手手つないでランランラン♪じゃ今までと何も変わらない。」
「はぁーどうすっかなぁー。」
 アレキサンダーは頭を抱えてしゃがみ込む。

「まぁ、そうやってもがくのも恋愛の醍醐味ですよ。」
「恋愛・・・か。」
 アレキサンダーはそうつぶやくと勢い良く立ち上がった。

「俺、マジで恋してる。しかも両想い。ヤバい、なにこれ、幸せすぎるだろ。なぁ、ノーマン、俺ってもしかして明日死ぬとか?じゃなきゃこんな・・・・こんな幸せなことって・・・ほんとイアンが可愛くてさ。あの小さい口がさ、もう可憐っていうかなんていうか・・・聞いてる?」
 アレキサンダーがいきなり喜びを爆発させ嬉々として話し始める。
「はぁ?それ、俺に聞かせるんですか?童貞カップルの純愛物語なんて何が面白いんだか。もっと濃厚な話じゃなきゃ酒のつまみにもなりませんよ。」
 皮肉られても、アレキサンダーの語りは止まらない。脳内お花畑モードでこの部屋での出来事を興奮した様子で聞かせてくる。
 ――俺もこんなピュアな恋愛してた時期もあったよなー。
 今ではすっかり社交界一の色男として名を馳せるノーマンが、アレキサンダーを見てセンチメンタルに笑った。
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