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就職先が決まってほっとした人です
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私がぐしゃぐしゃに開けたままのカーテンを、ユマは綺麗に束ねて、二人揃ってベッドの上に座る。
編み上げのブーツを雑に脱いで、蹴り飛ばすようにしてユマと、裸足で床を歩いてしまったので、ぱっぱと足裏を払う。ちょっと汚いかな……と思ったので、私は腰かけるだけ。
「さく何か食べれる?」
ユマは躊躇なく、スカートで胡坐をかく。可愛いからって理由でそんな恰好なのに、いいのかそれ?
部屋に駆け込んで、直ぐにジュリアの背中を引っぱたきに来たわりに、荷物をちゃんと床に置く分別は有った様で、窓際に置かれたマットレスもないベッドに置かれた荷物に視線を向けながら尋ねる。
その荷物の置かれたベッドの上に大人しく腰掛けたジュリアがその荷物を漁り、紙の包みを一つ引っ張り出す。
もさもさと、包みを開く様子を見ていると中身はサンドイッチ……というよりケバブに近い。それにそのまま直接かぶり付く事も無く、箸を使って中身のレタスだけを器用に摘まんで引っ張り出している。メインの肉を無視してそのレタスだけをもぐもぐと食べている。
顔立ちとか、東洋系っぽくないのにちまちまと箸を動かすジュリアの姿は何だか違和感を感じる。
「おかゆとか、スープジャーに入れて来たけど……多分止めた方がいいよな」
「あーうん。昨日の感じだと胃がびっくりしそう。……お米、有るんだね。お箸の文化なの?」
流石、入院仲間。体調の悪さの認識が同じだ。しばらく点滴をしていた様だし、特に空腹も感じない。それよりも気になる事を聞いて見た。
今度はスライスされたトマトのみを引き摺りだして食べている。お箸、上手だけどお行儀が悪いジュリアへ目をやりながら首を傾げる。
「文化的にはフォークとかみたいだね。ただ俺がお箸使いたいから作ったらさ、ジュリア、あっと言う間にマスターしてアレだよ。器用だよな。米も食べたくて作った」
「作ったの!?」
「あ。違うぞ?だっしゅてきなアレで土地から作った訳じゃねーよ」
びっくりした……。元気になったのが嬉しくて稲作でも始めたのかと思った。
「じゃあお茶飲んどけ。玄米茶」
玄米茶……あるんだ。
「ジュリアもお茶欲しいです」
「勝手に出して飲め」
なんだかユマのジュリアの扱い方がかなり雑だ。
塩対応にもめげずに……というか、気にした風もなく保温ポットを出してお茶を注ぎ、ふぅ、と一人でほっこりしている。
かなりマイペースな人らしい。
野菜だけ抜き出し、メインの肉とパンのみが残った物をユマに押し付けていた。
「わーいにくだぁ。朝からおめぇ。サラダ食えよ。わざわざ抜くなよ」
無視して二つめの包みを開いて、また野菜類だけを食べてる。
「ほーいさくお茶」
「ありがとう」
温かい温度を持ったカップを受け取る。
「んでさ、昨日じゃ全然訳わかんなくて困ってるかなぁって思ってさ!さぁ!先輩に何でも聞くがよきよ!」
ふんすとユマが胸を張る。無い胸を……あ、無くて当然なのか。口元にサンドイッチに入って居たソースが付いてる。
そういえば病院でも、まっさんが先輩だったなぁ。
歳は私の方が二つ上だし、病院の外の学校に行った日数は私の方が多かった。言わば、私の方がお姉さんだ。
ちょっと笑いながら、手を伸ばしてユマの口元を指先で拭い、手についたソースを特に意識せずに口元に運ぶ。
玉ねぎの味が強くて、ちょっとしょっぱい。死ぬ前は病院食。昨日目が覚めてから水のみと言う私の味覚的には、今朝の光位鮮明な情報だ。はっきり言おう。美味しい。病院食……私の疾患の問題も有ったけど、味が薄かった。
焼肉とかめっちゃ食ってみたい、20代でした……虚しい。
「……」
何故かポカーンとしたユマがこっちを見ている。
「どうしたの?」
いや、と一つ呟いてからまじまじと此方を見つめる。
「さく今の、めっちゃイイ絵だったよ。やばい。これはトキメわ。一昔前の少女漫画とか乙女ゲーとかゲロるわと思ってたし、自分を世界に埋め込もうとする夢女子ってなんなん?だったけど今のはありだは。トゥクンってなるわ。さくの夢女子になるわー」
……!私は今『最強の攻様』の外見だった!ついついお姉さんぶって意識せずユマに手を伸ばした訳だが、それは、つまり。
「あああ!私が私なのが口惜しい!見たい!凄い見たい……!第三者視点でみたぁい!ね、ね、私ぽかった?ちゃんとぽかった!?」
「ぽいぽい。めっちゃぽかった」
ひょー!やったぜ!生きる勇気が湧くよね!
それはそうと夢と腐を掛け合わせ、地雷なしとかそれなんてクリーチャー?
そこまではしゃいだ後に、こっちをじぃっと見ている第三者の存在を思い出す。
あんまりにも静かにステルスしているジュリアの存在を忘れて居た……。さぞかし不審者を見る目に成っているのだろうと、恐る恐るそちらを向くが興味無さそうにレタスの消費に勤しんでいた。
「アイツは自分が興味無い事はとことん興味無いよ。俺が西暦の話しても、『ほーん』ってく来で面白そうって思わない事はどうでも良いみたいだし」
ただ、気になった事にかんしてはえげつねぇ知識欲を見せるけどな……と付け足す。
付き合いが長そうな人がそういうなら、それで大丈夫なのだろう……。
「そんな事よりささ、何でも聞くがよかろーよ!」
先程は口元にソースをつけ、今一決まらなかったが今度こそはと再び胸をはる。
「う……うん。聞きたいのはやまやまナノデスガ……正直意味が分からな過ぎて何を聞いて良いのかが分からない」
かっこ白目。正にそんな感じ。
「そういえば今ってどういう暦なの?」
さっき西暦、という言葉出た訳だから気になって聞いて見た。季節は四月の頭位な気がする。
「あー。無いんだよ。年号みたいのとか、日付みたいの。年齢なんかは、脳がどれくらいの容量使ったかで見てるし。俺は気持ち悪いから、一応一週間区切りで曜日だけ設定してみた」
年号どころか、日付もないの!?え、だってそれ、不便じゃないのかな!?
というかね、昨日の時点でちょっとあれって成ってたんだけど『持ち物の土地』とか言ったり今も『曜日を設定した』といったり……。
「ユマって実は都知事みたいなもの?」
「どっちかてーとばりばり独裁な絶対王政の王様」
まじか。
ちょっと理解が追い付かないで、背景を銀河にされた猫の様な顔で固まる。
何だか……途方もない話だ……。
「まぁ、広さは体感で東京から本州の終わり、よりちょっと広いかな?遠出した事ないから分からないけど」
別に実態は大した事じゃないんだよなーとユマは呟く。
面倒な法律を整備する必要もない、財政の心配もない。ただ、自分の手に入れた土地に好きなように好きな置物を並べるだけの様な物らしい。
「空がドーム状なのも思うと、スノードームみたいだよね」
季節まで固定、天候も数分単位変更可能だけど、ユマ、と言うか私と同じ時代に生きて居たまっさんにとってはそれは気持ちが悪い様で、ランダムに変わる、という事を設定しているらしい。
「何か……本当に作り物見たいだね」
「どう言えば良いんだろう……この国、世界、時代……?の人ってあんまり過去とか未来とか自分に遠い場所環境に興味が無い、のか……俺らと感覚が結構ズレてる。宇宙には何があるの?なんで海は青いの?とか探求しない人種。統治者も自分の土地以外に興味ないしねー」
俺はよその土地、見に行ったりしてみたいなとは思うけどね。と笑う。
ああ、いいかもね。海外旅行。海が無いから『海外』というのか分からないけど。
私の生涯の旅行は、例の死ぬに至る祭典への参加位だ。
それにしても、本当に変な場所……。
ユマの言う通りスノードームの中見たい。ひっくり返せば、また同じ雪が降って来ていつまでも同じ景色が続く。人間の寿命も長いから、焦りがないのかな……?
んー。と唸り、ユマは自身の米神をぐりぐりともみほぐす様な動作をする。
「なんでも教えるよ!とは言って見たけど、さっき言ったみたいに皆自分達の歴史と、世界にも固執しないからさぁ……歴史もハッキリしなくて、『どういう場所』って聞かれると俺も困る……今、正に探索中って感じ」
あれと一緒に。
あれ、と言ってジュリアの方を顎でしゃくる。
示されされたジュリア当人は、全てのサンドイッチから野菜を抜き出し終わった様でマットレスもないベッドにひっくり返って天井を眺めて……というか寝ている。
私も、話を聞いても理解できない。
何となく『西暦』という言葉が出たので、始まった会話だったがいまここに生きる人立ち自身が、この世界の成り立ちも、地理も歴史も知らないなら、私も知らなくても良いんじゃなかろーか、と。
それなら、もっと直接的な、今、正に私に身に迫る問題でありそれこそ先にここで産まれた『先輩』に御すがりする事だ……!
「ぶっちゃけ……私の入院費ってどうすべきでしょうか、先輩。住所不定処か身元不明人間が、バイトとか出来ますかね!?」
「血とか売ったら良いんじゃないですか?生きて居れば製造されますし」
寝て居たと思ったジュリアが、体勢はそのままに目と口だけを開く。
「……なんだろう。私そういうのドラマで見た……。やっちゃいけない奴のあれだ……」
昔は売血とか有ったみたいだけど、今はやってない。この『今』はあくまでも『私』の生きて居た時間だ。
「消化酵素が有っても効果があるなら唾液でも、尿でもいいと、とても低コストですね」
「おいこら。俺の前で完全違法な話してんじゃねーよ!怒るよ!薬物だめ、絶対」
超物理的な身売りを推奨さっれたんじゃなく、薬物売買を提案されていた様だ。
そしてやっぱり駄目なんだね。良かったよ駄目で……!
「いくら何も出来ないくずでも犯罪行為流石にしないですよ?人類の汚染源にはなりたく無いです……」
「じゃあ取り合えずジュリアが買います。売ってください。むしろ全身買います。売ってください」
何やら寝転んだままに恐ろしい事を言う。
ファーストインパクトで頭を開けて良いかと言われた身としては、何する気だと恐怖しかない……。
「どぅあーと!!」
至極真面目な声で言われて、どう返すか……冗談か何かでコミュニケーションを図っているのかと答えに窮している内にユマが靴下のままベッドからベッドへ掛け声と共に飛び移る。
というか……、ジュリアの上に飛び移る。
着地点にされた当人はびくともして居ない。やっぱり体格差のお陰だろうか。
「お前に渡すとか悪用一直線じゃねーか!いっちゃんやべぇ選択肢じゃねーか!させるか!んなこと!」
「使いません。調べるだけです」
「その調べるの段階がヤバイの!分かりさい!めっ!」
「あなたも良く買って来るじゃ、痛いです」
馬乗りになったまま胸倉掴んで揺さぶっている。その拍子で後頭部を打った様でちょっとだけ不服そうな声が上がる。
言葉が途切れるレベルでいい音がしていた……。
なかいいーなー。
「もー!さく!この馬鹿のいう事は気にしないでいいから」
「う、うん。流石に剖検されたりしたら、私も嫌だし……。でも、そうするとどう生きて行こうかなぁ……」
そもそも、昨日のセラの話を思い出すに、私は生きていていいのかという問題が有るし……。
さっきジュリアが言って居た様な、違法な荒稼ぎをする可能性のせいで、と言うなら、私は絶対そんな事は致しませんとも。
用法容量、大事!
「籍は昨日作ったぞ!」
ジュリアの上で胡坐をかいたユマがサムズアップをする。
「籍ってそんなに勝手に作っていいものなの?」
「使わないで何が権力だ!そしてオレがルールだ!あ、今の俺は我て書いて俺ね!」
「ユマ。そろそろ苦しい気がします。退いてください」
口頭では分かり辛いボケをかますユマを、やっぱりそれなりに重かったらしいジュリアが背中を叩いて抗議している。
「でだ。籍はもう作ったから、体調が整ったら俺と一緒に考古学しよう!よくわかんないこの時代を一緒に調べようぜ!……不穏分子なコレも付いてくるけど」
自分がお尻の下に敷いている人間を示す。そろそろ可哀想に成って来たんだけど……。
「ちゃんと仕事ととしてだからさ、お賃金出すし、それまでは俺が立て替える」
本当は返さなくても良いけど、さくはそれ嫌でしょ?俺も嫌だし。
やっぱりまっさんは良く分かってる。短い人生で長い時間を傍にいた親友だった。
何も出来ないで、ただ生かして貰って死んだからね、お互い。
働いた事も無ければ、臓器の機能さえ自力で維持出来なかったから、あと、うん……腐った絵の生成とか……。
私に何かできるか不信感しか無いけれど、もし何かを成せたら……と思うと、凄くそわそわして、どきどきする。
「まっさ、ユマあのね、私ちゃんと出来るか分からないけど、頑張ります……!」
いえーい!人員確保ーと喜ぶユマが、どこまで本気で喜んでくれているのか分からないけど、居ても良いんだって少し気が楽になる。
「ユマ。そろそろ振り落としても良いですか?」
私達がはしゃぐ横、と言うか下で未だに下敷きになって居たジュリアがユマを転げ落とした。
にゃっと吃驚して跳び退る猫の様な声を上げて、ベッドの下にユマが転がる。でも直ぐにこのやろー!と言ってジュリアにじゃれ掛かりに行く。
本当に仲いいなぁ。
……ちょっと、複雑……。
「お取込み中悪いけど、ユマって昨日の……レアンドやエルの連絡先知らないかな。ちゃんとお礼言えて無くてさ」
ジュリアの背後に回り、ヘッドロック宜しく頭を抱えているユマがん?とこちらに視線を向ける。
「連絡先もなにも……昨日さくを見つけたアレでもっかい表層の調査行って貰ったからまた報告に来るよ」
まぁ、かなりの人数動かしたからあいつ等が来るかは分かんないけど。性格的にはレアンドが来そうだし。そう続ける。
お礼なら私が出向いた方が良いんだろうけど……。今じゃろくに動けないから迷惑になりそうだし。
ちゃんともう一度会えるチャンスが有るなら、良かった。
編み上げのブーツを雑に脱いで、蹴り飛ばすようにしてユマと、裸足で床を歩いてしまったので、ぱっぱと足裏を払う。ちょっと汚いかな……と思ったので、私は腰かけるだけ。
「さく何か食べれる?」
ユマは躊躇なく、スカートで胡坐をかく。可愛いからって理由でそんな恰好なのに、いいのかそれ?
部屋に駆け込んで、直ぐにジュリアの背中を引っぱたきに来たわりに、荷物をちゃんと床に置く分別は有った様で、窓際に置かれたマットレスもないベッドに置かれた荷物に視線を向けながら尋ねる。
その荷物の置かれたベッドの上に大人しく腰掛けたジュリアがその荷物を漁り、紙の包みを一つ引っ張り出す。
もさもさと、包みを開く様子を見ていると中身はサンドイッチ……というよりケバブに近い。それにそのまま直接かぶり付く事も無く、箸を使って中身のレタスだけを器用に摘まんで引っ張り出している。メインの肉を無視してそのレタスだけをもぐもぐと食べている。
顔立ちとか、東洋系っぽくないのにちまちまと箸を動かすジュリアの姿は何だか違和感を感じる。
「おかゆとか、スープジャーに入れて来たけど……多分止めた方がいいよな」
「あーうん。昨日の感じだと胃がびっくりしそう。……お米、有るんだね。お箸の文化なの?」
流石、入院仲間。体調の悪さの認識が同じだ。しばらく点滴をしていた様だし、特に空腹も感じない。それよりも気になる事を聞いて見た。
今度はスライスされたトマトのみを引き摺りだして食べている。お箸、上手だけどお行儀が悪いジュリアへ目をやりながら首を傾げる。
「文化的にはフォークとかみたいだね。ただ俺がお箸使いたいから作ったらさ、ジュリア、あっと言う間にマスターしてアレだよ。器用だよな。米も食べたくて作った」
「作ったの!?」
「あ。違うぞ?だっしゅてきなアレで土地から作った訳じゃねーよ」
びっくりした……。元気になったのが嬉しくて稲作でも始めたのかと思った。
「じゃあお茶飲んどけ。玄米茶」
玄米茶……あるんだ。
「ジュリアもお茶欲しいです」
「勝手に出して飲め」
なんだかユマのジュリアの扱い方がかなり雑だ。
塩対応にもめげずに……というか、気にした風もなく保温ポットを出してお茶を注ぎ、ふぅ、と一人でほっこりしている。
かなりマイペースな人らしい。
野菜だけ抜き出し、メインの肉とパンのみが残った物をユマに押し付けていた。
「わーいにくだぁ。朝からおめぇ。サラダ食えよ。わざわざ抜くなよ」
無視して二つめの包みを開いて、また野菜類だけを食べてる。
「ほーいさくお茶」
「ありがとう」
温かい温度を持ったカップを受け取る。
「んでさ、昨日じゃ全然訳わかんなくて困ってるかなぁって思ってさ!さぁ!先輩に何でも聞くがよきよ!」
ふんすとユマが胸を張る。無い胸を……あ、無くて当然なのか。口元にサンドイッチに入って居たソースが付いてる。
そういえば病院でも、まっさんが先輩だったなぁ。
歳は私の方が二つ上だし、病院の外の学校に行った日数は私の方が多かった。言わば、私の方がお姉さんだ。
ちょっと笑いながら、手を伸ばしてユマの口元を指先で拭い、手についたソースを特に意識せずに口元に運ぶ。
玉ねぎの味が強くて、ちょっとしょっぱい。死ぬ前は病院食。昨日目が覚めてから水のみと言う私の味覚的には、今朝の光位鮮明な情報だ。はっきり言おう。美味しい。病院食……私の疾患の問題も有ったけど、味が薄かった。
焼肉とかめっちゃ食ってみたい、20代でした……虚しい。
「……」
何故かポカーンとしたユマがこっちを見ている。
「どうしたの?」
いや、と一つ呟いてからまじまじと此方を見つめる。
「さく今の、めっちゃイイ絵だったよ。やばい。これはトキメわ。一昔前の少女漫画とか乙女ゲーとかゲロるわと思ってたし、自分を世界に埋め込もうとする夢女子ってなんなん?だったけど今のはありだは。トゥクンってなるわ。さくの夢女子になるわー」
……!私は今『最強の攻様』の外見だった!ついついお姉さんぶって意識せずユマに手を伸ばした訳だが、それは、つまり。
「あああ!私が私なのが口惜しい!見たい!凄い見たい……!第三者視点でみたぁい!ね、ね、私ぽかった?ちゃんとぽかった!?」
「ぽいぽい。めっちゃぽかった」
ひょー!やったぜ!生きる勇気が湧くよね!
それはそうと夢と腐を掛け合わせ、地雷なしとかそれなんてクリーチャー?
そこまではしゃいだ後に、こっちをじぃっと見ている第三者の存在を思い出す。
あんまりにも静かにステルスしているジュリアの存在を忘れて居た……。さぞかし不審者を見る目に成っているのだろうと、恐る恐るそちらを向くが興味無さそうにレタスの消費に勤しんでいた。
「アイツは自分が興味無い事はとことん興味無いよ。俺が西暦の話しても、『ほーん』ってく来で面白そうって思わない事はどうでも良いみたいだし」
ただ、気になった事にかんしてはえげつねぇ知識欲を見せるけどな……と付け足す。
付き合いが長そうな人がそういうなら、それで大丈夫なのだろう……。
「そんな事よりささ、何でも聞くがよかろーよ!」
先程は口元にソースをつけ、今一決まらなかったが今度こそはと再び胸をはる。
「う……うん。聞きたいのはやまやまナノデスガ……正直意味が分からな過ぎて何を聞いて良いのかが分からない」
かっこ白目。正にそんな感じ。
「そういえば今ってどういう暦なの?」
さっき西暦、という言葉出た訳だから気になって聞いて見た。季節は四月の頭位な気がする。
「あー。無いんだよ。年号みたいのとか、日付みたいの。年齢なんかは、脳がどれくらいの容量使ったかで見てるし。俺は気持ち悪いから、一応一週間区切りで曜日だけ設定してみた」
年号どころか、日付もないの!?え、だってそれ、不便じゃないのかな!?
というかね、昨日の時点でちょっとあれって成ってたんだけど『持ち物の土地』とか言ったり今も『曜日を設定した』といったり……。
「ユマって実は都知事みたいなもの?」
「どっちかてーとばりばり独裁な絶対王政の王様」
まじか。
ちょっと理解が追い付かないで、背景を銀河にされた猫の様な顔で固まる。
何だか……途方もない話だ……。
「まぁ、広さは体感で東京から本州の終わり、よりちょっと広いかな?遠出した事ないから分からないけど」
別に実態は大した事じゃないんだよなーとユマは呟く。
面倒な法律を整備する必要もない、財政の心配もない。ただ、自分の手に入れた土地に好きなように好きな置物を並べるだけの様な物らしい。
「空がドーム状なのも思うと、スノードームみたいだよね」
季節まで固定、天候も数分単位変更可能だけど、ユマ、と言うか私と同じ時代に生きて居たまっさんにとってはそれは気持ちが悪い様で、ランダムに変わる、という事を設定しているらしい。
「何か……本当に作り物見たいだね」
「どう言えば良いんだろう……この国、世界、時代……?の人ってあんまり過去とか未来とか自分に遠い場所環境に興味が無い、のか……俺らと感覚が結構ズレてる。宇宙には何があるの?なんで海は青いの?とか探求しない人種。統治者も自分の土地以外に興味ないしねー」
俺はよその土地、見に行ったりしてみたいなとは思うけどね。と笑う。
ああ、いいかもね。海外旅行。海が無いから『海外』というのか分からないけど。
私の生涯の旅行は、例の死ぬに至る祭典への参加位だ。
それにしても、本当に変な場所……。
ユマの言う通りスノードームの中見たい。ひっくり返せば、また同じ雪が降って来ていつまでも同じ景色が続く。人間の寿命も長いから、焦りがないのかな……?
んー。と唸り、ユマは自身の米神をぐりぐりともみほぐす様な動作をする。
「なんでも教えるよ!とは言って見たけど、さっき言ったみたいに皆自分達の歴史と、世界にも固執しないからさぁ……歴史もハッキリしなくて、『どういう場所』って聞かれると俺も困る……今、正に探索中って感じ」
あれと一緒に。
あれ、と言ってジュリアの方を顎でしゃくる。
示されされたジュリア当人は、全てのサンドイッチから野菜を抜き出し終わった様でマットレスもないベッドにひっくり返って天井を眺めて……というか寝ている。
私も、話を聞いても理解できない。
何となく『西暦』という言葉が出たので、始まった会話だったがいまここに生きる人立ち自身が、この世界の成り立ちも、地理も歴史も知らないなら、私も知らなくても良いんじゃなかろーか、と。
それなら、もっと直接的な、今、正に私に身に迫る問題でありそれこそ先にここで産まれた『先輩』に御すがりする事だ……!
「ぶっちゃけ……私の入院費ってどうすべきでしょうか、先輩。住所不定処か身元不明人間が、バイトとか出来ますかね!?」
「血とか売ったら良いんじゃないですか?生きて居れば製造されますし」
寝て居たと思ったジュリアが、体勢はそのままに目と口だけを開く。
「……なんだろう。私そういうのドラマで見た……。やっちゃいけない奴のあれだ……」
昔は売血とか有ったみたいだけど、今はやってない。この『今』はあくまでも『私』の生きて居た時間だ。
「消化酵素が有っても効果があるなら唾液でも、尿でもいいと、とても低コストですね」
「おいこら。俺の前で完全違法な話してんじゃねーよ!怒るよ!薬物だめ、絶対」
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そしてやっぱり駄目なんだね。良かったよ駄目で……!
「いくら何も出来ないくずでも犯罪行為流石にしないですよ?人類の汚染源にはなりたく無いです……」
「じゃあ取り合えずジュリアが買います。売ってください。むしろ全身買います。売ってください」
何やら寝転んだままに恐ろしい事を言う。
ファーストインパクトで頭を開けて良いかと言われた身としては、何する気だと恐怖しかない……。
「どぅあーと!!」
至極真面目な声で言われて、どう返すか……冗談か何かでコミュニケーションを図っているのかと答えに窮している内にユマが靴下のままベッドからベッドへ掛け声と共に飛び移る。
というか……、ジュリアの上に飛び移る。
着地点にされた当人はびくともして居ない。やっぱり体格差のお陰だろうか。
「お前に渡すとか悪用一直線じゃねーか!いっちゃんやべぇ選択肢じゃねーか!させるか!んなこと!」
「使いません。調べるだけです」
「その調べるの段階がヤバイの!分かりさい!めっ!」
「あなたも良く買って来るじゃ、痛いです」
馬乗りになったまま胸倉掴んで揺さぶっている。その拍子で後頭部を打った様でちょっとだけ不服そうな声が上がる。
言葉が途切れるレベルでいい音がしていた……。
なかいいーなー。
「もー!さく!この馬鹿のいう事は気にしないでいいから」
「う、うん。流石に剖検されたりしたら、私も嫌だし……。でも、そうするとどう生きて行こうかなぁ……」
そもそも、昨日のセラの話を思い出すに、私は生きていていいのかという問題が有るし……。
さっきジュリアが言って居た様な、違法な荒稼ぎをする可能性のせいで、と言うなら、私は絶対そんな事は致しませんとも。
用法容量、大事!
「籍は昨日作ったぞ!」
ジュリアの上で胡坐をかいたユマがサムズアップをする。
「籍ってそんなに勝手に作っていいものなの?」
「使わないで何が権力だ!そしてオレがルールだ!あ、今の俺は我て書いて俺ね!」
「ユマ。そろそろ苦しい気がします。退いてください」
口頭では分かり辛いボケをかますユマを、やっぱりそれなりに重かったらしいジュリアが背中を叩いて抗議している。
「でだ。籍はもう作ったから、体調が整ったら俺と一緒に考古学しよう!よくわかんないこの時代を一緒に調べようぜ!……不穏分子なコレも付いてくるけど」
自分がお尻の下に敷いている人間を示す。そろそろ可哀想に成って来たんだけど……。
「ちゃんと仕事ととしてだからさ、お賃金出すし、それまでは俺が立て替える」
本当は返さなくても良いけど、さくはそれ嫌でしょ?俺も嫌だし。
やっぱりまっさんは良く分かってる。短い人生で長い時間を傍にいた親友だった。
何も出来ないで、ただ生かして貰って死んだからね、お互い。
働いた事も無ければ、臓器の機能さえ自力で維持出来なかったから、あと、うん……腐った絵の生成とか……。
私に何かできるか不信感しか無いけれど、もし何かを成せたら……と思うと、凄くそわそわして、どきどきする。
「まっさ、ユマあのね、私ちゃんと出来るか分からないけど、頑張ります……!」
いえーい!人員確保ーと喜ぶユマが、どこまで本気で喜んでくれているのか分からないけど、居ても良いんだって少し気が楽になる。
「ユマ。そろそろ振り落としても良いですか?」
私達がはしゃぐ横、と言うか下で未だに下敷きになって居たジュリアがユマを転げ落とした。
にゃっと吃驚して跳び退る猫の様な声を上げて、ベッドの下にユマが転がる。でも直ぐにこのやろー!と言ってジュリアにじゃれ掛かりに行く。
本当に仲いいなぁ。
……ちょっと、複雑……。
「お取込み中悪いけど、ユマって昨日の……レアンドやエルの連絡先知らないかな。ちゃんとお礼言えて無くてさ」
ジュリアの背後に回り、ヘッドロック宜しく頭を抱えているユマがん?とこちらに視線を向ける。
「連絡先もなにも……昨日さくを見つけたアレでもっかい表層の調査行って貰ったからまた報告に来るよ」
まぁ、かなりの人数動かしたからあいつ等が来るかは分かんないけど。性格的にはレアンドが来そうだし。そう続ける。
お礼なら私が出向いた方が良いんだろうけど……。今じゃろくに動けないから迷惑になりそうだし。
ちゃんともう一度会えるチャンスが有るなら、良かった。
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───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
病んでる僕は、
蒼紫
BL
『特に理由もなく、
この世界が嫌になった。
愛されたい
でも、縛られたくない
寂しいのも
めんどくさいのも
全部嫌なんだ。』
特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。
そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。
彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。
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最初のみ三人称 その後は基本一人称です。
お知らせをお読みください。
エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。
(エブリスタには改訂前のものしか載せてません)
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
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