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結局ここは何処なんですか?

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「……」

 エルさんが病室、の様な場所を出て行ってから直ぐに気まずい沈黙が流れる。

 さて、困ったなー……。
 現在の客観的な私はと言えば、残念ながら名無しの怪しい人だ。怪しいけど残念非力の無害生物。無害だけど、胡散臭さしかない……。
 幸い、親切な人達だったらしく病院に運び込んでもらえた。あとは我関せずと、警察の方へ引き渡して貰ったらこれ以上迷惑はかけずに済むのかな?
 
 そもそもがここが日本なのか、信じ切れないし……警察とか有るのかな……?

 現実逃避が過ぎるのは、分かってるよ……!はいはい!そいう思考の段階は過ぎましたね!ここが一体どういいう所か確認したいけど……。
 どうすりゃいいの?

 幸い、良い人みたいだけど、初対面の男子同士ってどんなテンションで話すの?
 苗字にさん付け?でも私の耳には数字にしか聞こえない物が本当に苗字?
 年齢的には、大学生位かなって感じたけどなぁ。私は死んだときに23歳で、それでも社会どころか学校もろくに通って無いから、精神年齢が低い自覚はある……。同年代、というのも怪しい……。
 くん、なんて馴れ馴れしいだろうか?呼び捨て、よりは良いかな……。

 自力で身体を起しているのが辛いのを、目ざとく察して背中に枕を積んでもらった状態でベッドに座り、もやもやと考える。

 やばい、物凄いコミュ障喪女っぷりがあふれ出てる。
 こういう時は、『最強の攻様』ならどうするかを考えるのに限る!性格とかも、まっさんと本だそうね!なんて話す程度には作り込んで……ああ!駄目だ。まず、私のクソ雑魚体力のせいでへばってしまうなんて事を想定してない!この時点で私の考えから遊離してる……。

 そ、それでも!聞ける事は聞かなきゃ!うん!何も分からない状態とか、怖い以外の何もでもないよね。

「……桜だ」

「ん?」

 よし、覚悟を決めたぞ!えいや!と思って顔を上げた。
 風に揺れていたカーテンは束ねられ、窓は開け放たれていた。その窓辺にレアンドが腰かけ、ぼんやりと外を見ている。

 澄んだ青空に、白い雲。幾本もの飛行機雲が交差していた。春みたいな色合い。それも、都会から離れた、空気の綺麗な春の色が如実現れた場所の色。
 現に、病院の中庭が有るのか、大きな桜の木が枝を広げていて薄紅色の花を沢山付けている。
 なんだか見た事のある光景。

 私の居た病室から見える景色に良く似てる。

 ただ、もう少し空は都会の汚れを含んでいて光も陰っていたし、真っ黒な髪の緋色の目をした綺麗な人間も居なかった。

「サクラ?」

 ひょっとして、これは夢?
 死んだことなんて無いから知らなかったけど、死んだら夢を見続けるのだろうか……?

 そんな夢だったらあり得ない、私の思考に反する声がする。
 外を眺めて居たレアンドが不思議そうに此方を見ている。そう言いう顔をすると、年下にみえるなぁ。『攻様』は概念的に年上だから、年齢も考えてなかったけど。

「あ、ええっと、桜が綺麗に咲いてるなって……」

 そういうと、更に不思議そうな顔をして窓から乗り出すようにして外を見る。

「咲いてるって事は……あの木の花の事言ってんの?」

 ううん?と私も首を傾げる。
 あの花は桜じゃないのかな?それとも男の子ってあんまり花の名前に興味が無いものなのかな……?
 でも桜って、日本人皆異様に好きだし、事あるごとに持ち出されるんだけど。彼が極端に花に興味ないのかな?

「桜じゃないの?」

 振り向いて、こちらを振り向く赤い目が怪訝そうにしている。

 ……んなあー!!駄目だった!コミュ障喪女お腐れには、『最強の攻様』を貫く以前に初対面の人と円滑なコミュニケーションを取れていない!

「うーっす!おまたせー!」

 己の社会不適合っぷりに、どうリカバリーするかと絶望的な気分になって居ると、ドアを勢いよくスライドさせて明るい声が入って来る。
 この妙な空気を何とかしてくれるなら、初対面が増えてもいい!そこは改めて頑張る!とあからさまなフラグを立てる。
 明るい声の方に目をやれば、うらやまけしからんボディの長身のおねえさんが立って居た。わ、わたしも有ったもん。前はあったもん……本当だもん……。
 
 明るい赤い髪に同色の赤い瞳。元気100%みたいないい笑顔で白衣の袖をぶんぶん振って居た。

「はいはい。こんにちは。あたしはセラ・152bね。お医者さんだぞー。美人女医でぼんきゅっぼんだぞー」

 お、おう……。
 このタイプのお医者さんは始めた会う。私を看ててくれた人は、だいたいおっさんだったし。

 それでもこの陽キャ感に、ちょっと引く。
 あれ?それより苗字が同じ?えー!似てない!

「エルさんのお姉さん……?」

「えー!!違う違う!!全然似てないでしょ!?これと!!」

 これ!と言われて強引に肩を組まれるエルが苦笑する。本当にすらっと足が長いから、男性と並んでもらくらく肩を組める。すごい。
 でもひとつ分かった。苗字、というかファミリーネームにあたるのは『家の名前』ではないということだ。耳に聞こえる通りの何かの番号らしい。

「うん。まあそれは置いといて。君の名前は?」

 ぽいっとエルを離して、屈み、目線を合わせて来る。ついでに屈んだが為に谷間が良く見える。
 イケメンも大好きだけど、美人なおねーさんも好きです。
 
 うん。駄目だね。現実逃避。

「よーしよし。おねーさんは怖くないぞー。よーしゃよしゃ」

 この人、動物王国の総帥を知って居るのでは?と言うぐらいに頭を撫でまわされる。
 ただ残念ながら頭を撫で倒されても名前は出てこない。即席でこの『攻様』に命名するのは無理です。

「名前、無いらしいから……」

「止めてやれ」

 控え目に止めるエルと、中々に鋭角な勢いをつけてセラの手を叩き落とすレアンド。

「……そっか。それじゃあ君の分かる事を話して貰ってもいいかな?」

 すぅん。たばかりに落ち着き、セラが優しい声で尋ねる。多少変な事を言っても許されそうな空気に、ぽつりぽつりと、目が覚めた所から離し始める。
 流石に、祭典帰りに発作が起きて同人誌が散らばるど真ん中で絶命は省かせてもらった。たぶん、死ぬまでの所は関係ないと思う。

「気づいたら……凄く空気の濁った廃工場に居ました。自分の顔も全然自分だ、って認識もないし……何処だか分からなかったんで、場所を確認したくて外を見たら変なのが居て……」

「変なの?」

「小型のノコリだ」

 腕を組み、私とセラが話しているのを見ているレアンドが細くする。あれって『ノコリ』って生き物なんだ……あんなのが普通に認知されてるんだ。こわ。静岡に追放して方が良い気がする。

「君はその変のが何か分からなかったんだね。外を見ても、何処だぴんと来なかった?」

「はい」

 しいて言えば鳥取砂丘かと思いましたよ。

「うーん……。じゃあいまここが何所かも分からない?」

「病院、ですか?」

 うんうん。と笑顔で頷いてまた頭を撫でられる。

「そうだね。ここは病院だ。それじゃあ表層とか真層って言われても分からない?」

 皮膚的な話だろうか?いや、違うか。素直に分からない、という意味で頷く。
 そっかと、セラは何処までも明るく笑う。

「君が分る事や分からない事は、後々知れば大丈夫。分からなくても大丈夫だよ。だからそんな不安そうな顔をしないんだよ」

 そんな顔……してる……?

「ただね、今直接的に問題がある、知っておかなきゃいけない事があるから聞いてくれる?」

 この人、アッパー系ハイテンション陽キャかと思ったけど、この凄く安心する。いい人、って空気が漂ってる。
 セラのその温かい空気に安心して、頷く。

「よしよし。んじゃあ、さっくりお伝えします!」



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