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寝落ちして居る間の何処かでの出来事
しおりを挟むくあぁ……、とまるで猫の仔の様な欠伸が響く。分厚いカーテンで締め切られ薄暗い室内でその部屋の主であり欠伸の出所で有る人物は大きく伸びをする。
肩より僅かに長いストロベリーブロンドの髪は寝癖がつき、所々跳ねている。
ごしごしと擦っと大きく丸い瞳は蜂蜜の様に甘く蕩ける金色。寝起きで潤むその視線は見つめられただけでこちらが蕩けそうな妖しい艶があった。
「あー……無理。眠い」
薄暗い部屋は大きく、調度品も高級感と重厚感がある。そんな部屋の中央を占めるベッドの上で、せっかく起きたばかりの人物は再び布団の中に崩れ落ちる。
フリルとレースで彩られたブラウスを一枚纏っただけの姿ではしたなく寝転がる。
少女の様な顔立ちや、すらっとした手足からは考えられない事に、どうやら男性の様で、おっぴろげた足の間にご立派なイチモツが有る。期待した人間を失意のどん底に突き落とす所業だった。
声も、寝起き、という事を差し引いても低い。
「あれもこれも全部アイツのせい。僕の不眠もアイツのせい。あとついでにお前のせい」
寝転んだまま、細い足を振り被り大きなベッドの端の方に有ったモノを蹴り落す。
どす、と鈍い音とジャリ、と冷たく鋭い音がする。
丁度何かが落ちた辺りから、呻き声の様な物が上がる。
「ねえ、煩いんだけど」
一度寝転んだのに、忙しくがばりと起き上がり、自分が蹴落とした何かに文句を言いだした。
眠い、と言ってベッドの上を転がっていたにしては俊敏な動きでベッドから飛び降りる。とす、と裸足の足は軽い足音を立てた。
薄暗いせいで金の色が殆どとび、ピンク色に見える髪をわしわしとかき混ぜながら、少女と見紛う彼はベッド脇に落下したモノを面倒臭そうに、或いは興味のない、道端のゴミを見る様に見下ろす。
「これもみーんなアイツのせい」
興味のない、冷えてる、と言うよりも何の感情もないただ落ちてる物を見るだけに向けた視線。
その視線を向けられた『人影』はびくり、と心底怯えた様に身を震わせる。
ベッドの横に蹴落とされたのは人間だ。
美少女ぶったこの気怠そうな男よりも背丈も、筋肉もあるがっしりとした青年で在りながら、この華奢な人物に心底怯えている。
自分が怖がられている何て現状にも頓着せず、寝癖がついた上に自分でかき回し盛大に跳ねている髪を揺らしながら、足元に落ちた物を拾う。
足元に落ちた、細い鎖。
その鎖の先は、転がる人物にの首元に続き、チョークチェーンへと繋がっていた。残念ながら、首輪ですらない。引けば引いただけ、鎖の輪は狭まり、内側に並んだスパイクは皮膚を裂く。
皮膚が裂け、気道を締め上げられれば突然の様に呻き声が上がる。
「アイツはなんでこういうのが好きのなの?ちっとも可愛くない」
細い腕で、大の男一人を引きずり寄せその前髪を掴みまじまじと顔を眺める。
確かに、可愛いとは言い難い。濃い青の瞳に金色の些か長い髪。可愛い、と言うよりも綺麗、と言った方が相応しい。もしも、真っ当な日の下で微笑んでも見れば大方の女性はころりと恋に落ちるかも知れない。
チッと舌打ちをし、乱雑に金髪の美人を床へ打ち付ける様に投げ飛ばし、ふらふらと部屋の隅まで行き、がさり、と何かを漁り戻って来る。
「……ぐっ……!」
打ち捨てられたままの様に横たわる人間の鳩尾を無遠慮うに踏みつければ、衝撃に呻き声が上がる。
「僕、煩いって言ってるんだけど?聞こえなかった?」
こてり、と動作だけ見れば可愛らしく首を傾げるが、その声には威圧するような意図しか込められていない。
じゃきり、と持ち出して来た大ぶりの鋏が鳴る。
「あんまり煩いなら、先に声帯を切っちゃおうか?僕は別に鳴かない相手でも文句ないよ?相手とか拘らないから。そもそも穴だけなら適当に見た目が好いの連れて来るから。あとお前の見目とか僕の好みでもなんでもないから」
完全に見下す様な瞳で、鋏の刃を首元に突き付けられた方はこの人間ならやると言ったらやるのだろう、という気迫に押され必死で口を紡ぐ。
その必死な、縋る様な顔を見ながらもちゃきりちゃきりと鋏を鳴らす。
「アイツの言う、目の色が違うし」
ふらふらと刃先が眼球に定められる。
「髪型も違うからか?」
ざくり。
なんの躊躇いもなく、鋏が金色の髪を切り落とす。迷いなく入った刃は髪と一緒に首の後ろの皮膚も切れ、赤い線が引かれる。
「やっぱりぴんと来ない。何がイイの?」
「ご、ごめんなさっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ……!」
ばらばらと雑に切られた髪が落ち、背中を生ぬるい液体が伝う感覚に耐えきれなくなったのか鎖に繋がれた青年が壊れた様に謝罪を繰り返す。
「あー!もう!!僕は煩いって言ってんの!!これだからガワだけ繕った廃棄物は!」
小さな子供の癇癪の様に怒鳴ると、鋏とは逆の手に握った注射器を振りかざし蹲るその背に乱雑に突き立てる。
針を刺す向きも何も考慮せずに突き立つ注射針に、ぎくりと背が強張るが薬液が押し込まれるにつれ徐々に震えが大きなり、息が荒くなる。
「失礼します。お目覚めですか?」
薄暗く拾い部屋に光が差し、女性の声が響く。
先程の剣幕は何処へやら、未だ寝癖の残る髪を弾ませ明るい声で振り返る。
「はいはい、起きてるますよー」
「エルドレッド・152bのチームが帰還した様ですが、表層よりなにか持ち帰った様です」
その言葉を聞いて、一瞬良く成っていた機嫌が急速に傾く。
また僕はのけものですか、そうですか、と小さくぼやく声は誰にも聞こえなかった。
「何拾って来たの?捨て犬とか?レアンドってそういうの持ち帰るの好きだよね。面倒だから僕は何も言わないけど」
「外見だけなら人間の様なもののようです」
そう言いながら示される端末の画面には、薄い金糸の髪に紫色の、酷く不健康そうな青年が映ってる。
それを見た瞬間、また機嫌が急激に良く成った様に、恋する乙女よろしく華やいだ笑顔を形作る。
「僕、ちょっと様子見て来る!」
「お待ちください。……服を着てからになさってくださいね」
「……ごめん、本気で忘れてた!ありがとう!」
どういたしまして、と苦笑する女性を置き去りに再び薄暗い部屋に舞い戻る。
相変らずベッド脇に蹲る人間と、苦し気な吐息がそこに在った。
「僕の部屋汚したら、廃棄するから。うーん、やっぱり勿体ないから中古で払い下げるから」
まぁ、もう要らないかも知れないけど。そう冷徹に付け足す。
だってアイツの好みそのものみたいな奴を見つけたし。
新しいおもちゃを貰った子供よろしく頬を紅色させながら、急いで身支度を整え、足取りも軽く薄暗い部屋を後にした。
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