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夢かと思った!?残念リアルでした!!
しおりを挟むさらさらしてる白いシーツはすっきりとした清々しい花の匂いがした。遮光、と言う程の厚さは無いけど閉めれば日差しが和らぐ程よいカーテンが風で揺れる音がする。
カーテンを避けて流れ込んで来た風が心地いい。春の初めなのか、少し冷たい風。雨上がりの春の匂いも一緒に運ばれる。
その少し冷たい風で目が覚めたのだと思う。
妙に重たい瞼を、努力して押し上げてみる。白い天井が見える。天井に照明は無く、壁に間接照明がある様で壁も天井も真っ白でも目に痛い感覚はない。
すごく、見覚えのある景色。あの何度も入退院を繰り返したあの病院だ。まっさんと知り合って、仲良くなったあの病院。
なんだ……全部夢か。
そりゃあ、そうだよねー。生まれ変わりが有ったとしても、何をどうしたら『ぼくの考えた最強の攻様』になるんだか。
……しかしそうなると、私の社会的死は確定かぁ……。死にてぇ。絶対、ぶちまけた物とかは両親の手に渡って居るだろうなぁ。……ヒェェェエエ……。
「起きたか?」
……あまり聞いた覚えが無い男の人の声。新人の看護師さんかな?それにしては喋り方が荒い気がする。うーん。でも、どこかで聞いた気もする……。
私、アラームか何かをキャラの声に設定してたかな?
「おい、聞こえてるのか」
重い瞼を瞬きして、ぼんやりした風景を確り掴もうとする。せめて看護師さんの顔を確認しようと思って首を横にするけど、もうそれで疲れた。
思ったよりも、私のHPは真っ赤だったようだ。
いいや、ちゃんと病院に帰って来れたんならもう少し寝てよう。ほぼ諦めで目を閉じると、すっと頭を掬い上げられそのまま、聞き覚えの有る様な声の持ち主の胸にもたれかかる様にして支えられる。
看護師さんって結構ガチな肉体労働だけど、この人は本気のがっしり体系だなー、なんて考える。
妙にその人の鼓動が大きく聞こえた。
ぼんやりする頭でひとさまの鼓動を数えていると、また眠くなってくる。
ぼんやりしている私の口元に、ひんやりとした物が宛がわれて唇が湿るの感じる。
そのままゆっくりと流し込まれるから、特に考えずに嚥下する。
「あまい……」
物凄く、甘くて、すっきりとした飲み物の様に感じて、しばらく飲ませられるままに飲み下してると意識が鮮明になって来て、この感覚に覚えがある。
「ただの水だぞ?」
そうそう、水。ただね、これ、体調不良が極まって口から物が入れられなくなった後に回復して口に入れる白湯とかめっちゃうまいの。その感覚。
あーやっぱり私相当体調逝ってたんだー。まっさんとの薄いご本の感想発表会はかなり先に……うえ!?
水分を補給したせいか、クリアになった視界で改めて状況を見る。ベッドに乗り上げる様にして私を支えて居るのは看護師さんじゃない。恰好は随分軽いものになっているけど、あの廃工場で会った、烏みたいに真っ黒な髪に真っ赤な目のおにーさんだ。
「目が覚めたんだね?生きててよかったねぇ」
ほんわりした声のアッシュグレイの髪のお兄さんは、相変わらずの重装備のままだけど、にっこりと柔らかく笑う。
ただし夢だった、なんだ、良かった……とぽやぽやしてた私はそんな温かい笑顔に反応を返す事が出来ない。
もう一度突き付けられた現実に、軽く飛びのきそうになる。
「エル!それ、火器は怖がるからやめろ」
「ん?あーごめんね。えい」
私の飛びのく未遂に、何を勘違いしたのか赤い目のおにーさんが威嚇する様に声を上げる。
すまん!病院暮らしの喪女ッティは、人間交流経験低いから、おにーさんの大きい声の方が怖い!
あとエル、さん?銃ってそんなぞんざいに蹴っていいの!?壊れない……っていうかこう、衝撃で弾でない!?それが怖い!日本人は銃に親しみないから!あの看護師さんみたいな一部の人しか親しみないの!!
「怖がらせちゃったらごめんね?僕はエルドレッド・152b。長いからエルって呼んでね。こっちの子はレアンド・153cだよ」
エルさんはベッドよ横にしゃがみ込んで、おっとりと笑いながら自己紹介をしてくれる。
ついでにこの子、と言って私を抱えたままの黒い髪のおにーさんをまたわしゃわしゃと撫でている。
この子、なんて表現を使うんだから、エルさんの方が年上なんだろうなーそしてこの絶妙な親しさ。よき。
……もうちょっと引きでのアングルで見たい……。
いやいや、落ち着くんだよ!腐女子の魂!というか待って。多分、音の感じ的に名前が頭に来るんだよね?ファミリーネーム……どう、書くの?数字?いちごうさんって日本語で聞こえたよ……?
「おまえの名前は?」
私、の、名前……。
私の名前は、当然ある。ベッドの上にも常に名札が着いてたし、手首にも氏名と主治医とカルテ番号が入ったリストバンドを付けていた。忘れるわけはない。
でも、ここまでの全てが夢じゃないとしたら今の私は『ぼくの考えた最強の攻様』だ。
実は『彼』には名前がついていない。
まっさんとわいわい設定を考えたが、『攻め様』という概念の『彼』には名前はなく一貫して『攻め様』だった。
名乗る名前が無い。
何を思ったのか、二人は険しい顔をしてお互いを見やる。
私の不審者指数が上がったんだろうか……。名前も言えない奴とか、危なさしかないよね。何と言おう。
考えが纏まる前に繕おうとする言葉が零れる。
「あの……すいません。えっと、名前は……」
「……無い?」
エルさんが言い淀む事実をすっぱりと言い当てる。
日本語だけど、独特の名づけがされてるここが何所だ分からないけど、ひょっとして名無し何てことが良く起こる場所なのだろうか……?
良かった。直ぐにその可能性が出て来る地域なら名無しでもそこまで怪しまれない……。
安心したままに頷くと、二人がまた目くばせする。
……お二人の関係が気になりますねえ。なんです?目と目で会話が成り立つんです?相棒とかバディーとか、私そういうの大好き。
「そっかぁ。……僕先生呼んでくるから、ちょっと待っててね。大丈夫レアンドも一緒だから」
「……?はい」
やっぱりここは病院らしい……。
私の居た病院と内装がそっくりなのが気になるけど、どこもこういう感じなのかな……。
またにっこり笑って小さく手を振ってエルさんが出ていく。手を振るのは、なんだか馴れ馴れしいかと思って、小さく会釈だけしておいた。
何故かレアンドさんが背中を撫でてくれた。
もうだいぶ体調は良く成った気がするけど……、顔色悪いかな……。
それにしても、あの体調不良から考えたら回復が異様に早いきがする。
……正直、自分で自分を誤魔化している自覚はある。どう考えたっておかしい事が多すぎる。
廃工場の外に広がって居た空と、今居る病室の外に広がる空が違い過ぎる。日本語なのに名前は横文字で、でも名前に含まれる数字の様なものは日本語の読み方だし。
変な生き物がいた。変な生き物を撃ち殺す、本物の武器を持った人がいた……。
私はこんなに胡散臭いのに、親切にしてくれる。
ここが何所なのか、さっぱり分からない。
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