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なにここ地獄?腐女子ってそんな罪深い!?

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 拝啓、親愛なる同志まっさん。ごめんなさい。解釈違い以前に私の精神と生命が危機です。むしろ介錯をお願いします。

 死んだと思った。でも目を覚ました。何も知らない場所で、何も分からない状態で。
 自分達で設定と属性と性癖をもりもり特盛にした『最強の攻め様』になって居たなんて、あり得ない事実に一周回って思考が冷え切った。
 その一周回った瞬間は、ある意味ではうちの子とでも言っていい。そんな『彼』を壊さない、と決心を固めた。
 決めたのだが、現状を把握しようとすればするほど冷えた思考がぐちゃぐちゃになって煮詰まっていく。

 てっきり、何処かの山の中にでもあるかと思って居たんだけど……。
 裸足の良く動かない足を引きずり廃工場内を彷徨った。どこかに住所とか、機械類の製造元とか書かれていないかと探してみたけど…文字がない。
 時空のおっさん案件だったらどうしよう……一度入院中に怖い話を読み漁って、見事に撃沈した事がある。
 怖いけど、外、見て見ようかな。

「……ゴホ、っぅー……空気悪いな……アスベストがどうとかなの?」

 ニュースで話題になって居たのは大分小さい頃かだから殆ど覚えてないけど。
 それにしても異様に咳がでて、息が苦しい……。入院中よりはマシだけど身体も重くてだるい。生まれたての小鹿に逆立ちさせてるレベルでふらふらする。
 気のせいか視界も曇ってぼやけてる気がする。

「変、げほっ……な化学薬品の工場とかじゃないといいな」

 いきなり姿が変わったり、文字が一切使用されていない何ていう有りない状況。誰も居ない世界だったらどうしよう……。そんな恐怖心で外は見れないでいた。

 恐る恐る割れた窓の一つから外を見る。

「……鳥取……?」

 山の中、の様な場所を想像して居たのに外は砂漠だった。砂漠……と言うより工場地帯が砂に埋まっている。
 日本でこんなに砂が有る場所なんて、鳥取の砂丘位しか思いつかなかったら、つい、呟いてしまう。

 劣化したグレーの建造物が砂に埋まっている。
 見上げた空は赤黒い雲が覆っていて陽の光が一切見えない。腐った様な籠った臭いのする風が砂ぼこりを巻き上げて過ぎていく。金糸みたいな細い髪に塵が絡まる。

 気持ちの悪い、気味の悪い場所だ……。
 ざらつく風のせいか一層咳が酷く成り、首を引っ込める。引っ込める一瞬に目撃してしまった。

 砂ぼこりが舞い、濁る空気の中を駆ける犬のようなもの。四足歩行で、中型程度の大きさなのは分かった。
 でも、本当に犬だろうか?一瞬だったけど、あの悍ましい姿はしっかりと焼き付いていた。

 犬の様なサイズ感で、四足で駆ける、何か。
 ただ首は存在せず、肩から胸にかけての部分が大きく裂け牙が並んで居る。
 まっさんが個室に移ってから、ハードを持ち込んでやって居たゲームにあんな敵が居た。
 ゲームの主人公は、鉄パイプでばっさばっさとなぎ倒して居たけれど自分にそんな事が出来るとは思えない。

 なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ……!

 ただでさえおかしな動きをしていた心臓が更に狂いだし、ざっざっと雑音を吐き出し始める。

「ぅっ!げぇっ……!」

 荒れる心拍と呼吸に後押しされて冷静ぶって押し込めて居た恐怖心に嘔吐する。
 幸いな事に、胃の中は空だった様で胃液と…良くわからない薄っすらと青みを帯びた液体を吐き出す。
 ああ、『彼』の顔を汚してしまった。
 自分の脳では処理しきれない現実と、吐いた生理的なもので涙が出て来る。
 ダメじゃん……さっき解釈違いを避けようと思ったばっかりなのに……マジでクソか私。

 ハッハッ、と動物の息遣いと砂を蹴る足音が近づいてくる。
 うそやろ、おい。

 此処はもしかして地獄かなにか?私判決すっ飛ばして即実刑になる様な悪い事をしましたか?
 しょうもない、迷惑ばかりの人生だったけど……。

 ばりん!という激しい音。首から上が無い癖に、嗅覚は鋭いのかはっはっと胸部いっぱいに開いた口から犬らしい呼吸をしながら窓を粉砕した勢いのままに飛び掛かってくる。

 もともとふらふらした身体で避ける何て出来ない。そもそも体育でさえろくに参加した事ない私に『避ける』『逃げる』なんて反射は働かない。
 ただその場で伏せて縮こまる。

 ぱん!

 と乾いた破裂音が聞こえただけで、特に衝撃も何もない。

「おい!」

 あれ?と思い顔を上げる前に、誰かに肩を掴まれて揺すられる。

「ひっ!ごめんなさっ……ゴホッ」 

 怒鳴られて、何となく怒って居るのかと思い咄嗟に謝るが、直ぐに激しい咳の連鎖で言葉が続かなくなる。

「馬鹿かお前!?なんの装備もなしで……どこのチームの奴だよ!」

 ……?やっぱり怒られてるらしいけど、言ってる意味がさっぱり分からない……。
 日本語で話してるけど……サバゲのフィールドにでも侵入しちゃったのか……。
 咳のし過ぎでちょっとくらくらする頭で考える。
 私の肩を毟り取る勢いで掴んでいる人物の、ガスマスクを着けて重そうな装備を背負って、銃……種類何て分からないけどを携えて居るい威圧感の塊みたいな存在を見上げる。
 そういえば、仲良くなった看護師さんで『ガスマスクたん萌える!ハァハァ!チハたんきゃわわ!』という方が居たなぁ。私は解らないよ……。
 ああ、そう言えばヤバそうな動物もいた。さっきの変な犬の存在を思い出し、猟友会?なんて可能性も浮かんでくる。

「所属は?」

 分からない。と首を振ると吐き気が込み上げてくる。まさか、目の前に他人が居る状態で再びリバースする訳にもいかない。第三者の目の有る所で『彼』を汚してはいけない。ばっと両手に手で口を覆って堪える。

 答えない事にイラついたのか、肩を掴んでいる、誰か、多分男の人がマスクを外す。
 真っ赤な目に睨まれて、竦む。
 髪は真っ黒だから色素が無い訳じゃないだろうに、不思議だ……。
 なんだか凄く場違いな事を考えてる自分が居る。

 私の、と言うより『彼』の姿を上から下までまじまじと見てあからさまに眉を顰めて舌打ちをする。

 うん。私、あからさまに怪しいもんね……不審者だよね……。

「エル!やばいのが居る!!」

 大学生みたいな年代の、赤い目のおにーさんが背後に向かって叫ぶ。人を変質者見たいに言いよるなー。
 あれぇ……なんか、全部が他人事に見えて来たぞぉ。ふふふ、変な笑いがでそう。

「どうかしたぁ?」

 マスク越しでも伝わる、柔らかい声が近づいてくる。……がっつり銃を構えてるけど。偽物だよね?あの、ちっちゃいびーびー弾?を打ち出すだけのやつだよね?

「うわ。何してるの。ちゃんとマスクしなきゃだめだよー」

 ちっとも注意する気が無いように、私の肩を掴んだままの黒髪のおにーさんの頭をわしゃわしゃと撫でる。黒いごつい手袋で髪をかき混ぜられて不服そうな顔をしながらも、なんだか自立してる気力が無くてずるずると崩れ落ちて来る私を顎で示す。
 いつの間にか、背中に腕を回して自立できなく成った私を支えてくれてる。
 ……設定よりも痩せてて良かった。これで他人さまに負担を掛けないで済む。

「……戻るよレアンド。その子背負って。ちゃんとマスクしてね」

 後からやって来た優し気な声のお兄さんもガスマスクを外す。アッシュグレイの髪にバンドで押さえられた癖がついてる。
 やっと見えた焦げ茶色の目が険しい。私、何か不味い事をしでかしたのかな。

「はい。ごめんね?知らない人が使ってたのとか嫌だろうけど、死ぬからね?」

 ほんやりした声でそんなどストレートに言われて、何処かに行きかけていた意識が戻って来る。
 何かを反応する前に、有無を言わせずマスクを装着させる。これは、あの看護師さんが羨むなぁ。ガスマスクたんは私の嫁!と豪語していたから。正妻はロシア軍の見るからに不穏なやつ!らしい……分からない。どんなの。
 ……また意識がどっかに行きかけた……。
 さっきから何かオカシイ。

「つかまってる位はできるか?」

 赤い目がちょっと怖いおにーさんが、返答も聞かないうちに私を担ぎ上げる。驚いた事に、手に全然力が入らずにつかまるどころか。手が持ち上がらない。

「あ。まだいた」

 先行し始めていた、アッシュグレイの後頭部が進むのをやめて横を向く。
 ぱん。とさっき聞いた乾いた破裂音がして、犬の様なものの脇腹が吹き飛ぶ。湿った音が少し遅れて届いて、ぬめる様な破片をぶちまけた。
 柔らかい声のまま、何の頓着もなしにお兄さんは銃を発砲していた。
 足元には肉の塊が汚泥みたいな体液を垂れ流しながら落ちている。

 本物?

 え、まって、え、なに?わかんない、ぜんぶわかんない。

 ふわふわして考えが纏まらない脳は混乱しかしない。正常だったなら状況的に助けてくれたのが分る筈なのに、そこに思考が辿り着かない。
 こわい、わからない、こわい、こわい……と混乱する。

「やだ……こわい……」

 それだけを呟いて、意識が途切れた。

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