1 / 20
私達の考えた最強の攻め様、と言うか性癖特盛生命体
しおりを挟む
我ながらしょうもない人生だったと思う。
生まれた時から病弱まっしぐら。時々学校へ行き時々入院生活し時々自宅にいる。そんな生活。
これだけして生かしてもらって、成人しても就職できる見込みもなくここまで治療費を出し続けてくれた親の老後を支える事も、恐らく無理だろう。
多分、恐らく、絶対、私の方が先に死ぬ。
確かに罪悪感と申し訳なさを抱くが、物心ついた時点で割と死が身近にあったせいで私の思考は前向きにクズになって居た。
延命してくれる両親に全力で甘え、ベッドの上で趣味へ全力投球して居た。主にオタク趣味。主にお腐れさま。
しょうもない上に両親には迷惑かけっぱなしだたったけど、私は幸せな人生だったと思う。確かに苦しい時は、沢山あったけれど。
好きな事を全力で楽しんで、同じ趣味の入院友達が出来て仲のいい看護師さんも出来て、人生の最期付近でだけど、私の描いた物がお金になって一食だけど、親に美味しいものをごちそうする事も出来た。
……うん。まあ、一体、どんな絵を描いてたかは口が裂けても言えないけれどね……。たぶん、憤死する。あと三、四回死ぬことになると思うかなっ!
心残りと言えば、今目の前にぶちまけられた、薄くてきらきらして夢の詰まった素敵なご本の存在かな!R指定の!!
久しぶりの外出。
現世に存在される女神さま方の綴られし、至高の書を購入し、この手でお布施を納められる喜びを噛み締めてきた。そんな素敵な祭典の帰り道だった。外出許可の出なかった友人のお使いも、一部の同士たる看護師さんのご所望の品も買い漏らし無く遂行し、両手にお宝を携えほくほくと歩いてた。これでまたしばらく生きる糧(精神的にだが)を得たと青白い顔でも、精神的にはとても元気に病院への帰路についた。
ちょっとヤバイかな、とは思って居た。
お宝の詰まった鞄を持つ指先が痺れるし、呼吸が少し早く浅く成ってる。これは諸姉方々の性癖詰め合わせパラダイスを見る前に、暫く寝込みルートか……今は個室に行ってしまった友人こと、まっさんに全部貸してあげよう。布教だ。
でも実際はそんな呑気な話では無かった。
若干視界がぶれ始める。これは、無理をしてはいけない奴だ。病棟のナースステーションへ連絡。家族へ連絡。アドレス帳にある、タクシー会社へ電話……と必要な手順を並べていた。
意識がぼんやりし出して居たのか、角から飛び出す車に気づかなかった。
「……ひっ……!」
ぶつかりはしなかった。すんでんの所で停車した車に驚き、その場にへたり込み、鼓動が早まり、目が回りだし、呼吸がままならくなる。
運転手さんが慌てて飛び出し、大丈夫ですか、と尋ねて来る。
大丈夫です。ぶつかってなんて居ません、でも、揺すらないで、私ちょっと、内臓に問題がある種類の生き物で……!
……いぎゃあああ!!
驚いた際に、辺り一帯にぶち撒かれた薄い本へ目が行く。『R18』『成人向け』そんな赤い注意書きが目に入る。
うううう運転手さん、絶対に、地面に、目を向け、るなー!
意識が混濁していく。
生命的な死と、社会的な死が二人三脚で駆け寄ってくる中私は色鮮やかな表紙たちの上へ倒れ込む。
健全表紙の推し達が幸せそうに笑う顔が近い。
意識が薄れゆく中私の脳内は『積み荷を燃やしてぇ!』やら『海に捨ててぇ…!』と有名映画のセリフが反響する。
まっさん!私の病室の貴重品入れに入ってるHDDを物理的に破壊してくれ……!!そういう約束だったよね!?
目が覚めた瞬間、命が有った事に驚いて、直ぐに社会的な死を迎えた事に絶望して顔を覆った。
あれ。
顔を覆った手の指が、長い気がして、皮膚が酷くがさついている気がした。いや、体調が悪い時は基本的に酷い肌荒れを起していたけど。
顔から離し、仰向けになったまま掲げる手を見つめて、その先にある天井を見て、首を傾げてしまう。
倒れて、目覚める事が出来たのだから、きっとここは病院だと思って居た。私が入院していた場所では無いにしても。
それなのに見上げた天井は、塗装が剥がれ落ち骨組みの金属が覗いている。規則正しく並んで居たらしい照明も殆ど落下している様だ。
なにここ、廃工場……?
当然の様に、寝っ転がった背中が痛い事にも気づき慌てて起き上がる。
「っぅ、ゴホ……っはぁっ……あぁー」
あれだけ様態が悪くなったのだから、突然飛び起きればそうなるだろう。と言う様に苦しさが込み上げて来て咳き込む。……声が酷く低い。そんなに負担を掛けてしまったのだろうか。
それにしてもここは何処だろう。
上半身を起こして辺りを見回してみて、やっぱりここは廃工場みたいだ。と思う。何の工場かは分からないけれど。だって知らない機械ばっかり。しかも残骸だし。
状況を考えるに、あの車の運転手さんはぶつかったせいで私が倒れたとでも思ったのだろうか?そうして焦ってどこかの廃工場に私を遺棄……とか?
直ぐに出て来てくれて、良い人だと思ったんだけど……。残念。生きてたよ、私。
死んだもんだと思って、こんな所に放置したのなら所持品とかも一緒に捨てて行ってるだろうし。
……本日の戦利品は見当たらないけれど!!ないけれど!!往来にぶちまけっぱなしとかなの!?やめて!?
何か私物は無いかと、改めて周囲を見回し、自身を見下ろして、固まる。
服が違う。
まるで検査着みたいな、薄っぺらな白い布切れ。辛うじて服と評してやってもいいだろう。と言う程度の代物。
当然スマホもない。
いや、それ以前に見下ろす体形が明らかに違う。
手足が長い。手が大きい。見下ろす胸に厚みがない。元はあった!!あったもん!!本当!!
慌ててぺたぺたと撫でまわす手に触れる感触が、骨ばっていて、固い。
私が長い間病気で不健康鶏ガラ体型だったとしても、こんなではない。
周囲に、何か姿を映せる物は無いかと探す。
無我阿夢中で見回す。
焦りか、原因不明の息苦しさが込み上げてくる。
周囲にあるのは汚れてくすんだ金属や、コンクリートらしき残骸ばかりで姿が映りそうな物が見当たらない。
何故か上手く動かない足を半ば引きずる様にして、うろつく。
素足で、がらくたの転がる廃工場内を歩くのは、きっと正気だったら躊躇うと思う。でも今はそれどころじゃないから、足の裏を切り刻みながら進む。
ようやく見つけた、姿の映るもの。
少しこの廃工場の中では異質なもの。周りから浮いて、綺麗だ。元は何だったのだろ……。真新しい硝子。大きな容器が砕けたみたいなもの。
そこに朧気だけど『私』が映る。
そこに居た『彼』を見て、喉の奥で潰れた悲鳴が上がる。
「まっさに殺されるぅうう!!」
響いた声が、紛れもなく男性の物だった。
◇
「さーくぅ!『ぼくの考えた最強の攻様』を錬成しようぜ!」
「お、おう……」
大部屋だが、現在は私が窓際に一人っきりで使っている部屋へ点滴をガラガラ引っ張りながらまっさんが突貫してきた。
作業には向かない病室の机の上でかつかつとペンタブを動かしていた私はその勢いについて行けずに曖昧に頷く。
そうして始まった『ぼくの考えた最強の攻様』の錬成が始まった。
空白の多い病室で、歳の近いアホが二人揃ってワイワイと自分の好みの攻様の要素を出し合い、盛りに盛って行った。
性癖暴露大会ともいう様相を呈した、異空間が爆誕しそうになっていた。
「あれ!俺はロン毛よりこう…襟足だけ長いとか、前髪横だけぴょいっとしてんのツボ!」
「あ~それで不意に耳にかけたり、ちょっと掻き上げて欲しい欲」
「垂れ目!垂れ目の微笑にしようぜ!ぱっと見優しそうなのに、スイッチ入ると鬼畜な」
「まっさんがまた鬼畜攻めを出そうとするー」
「よくね?垂れ目のほにゃんってしたにぃちゃんの、S顔!おえろい!」
「あ、じゃあ紫の目とかどう?この前ネットで見たら、紫って青い色素の目で下の血の色が見えて紫なんだって。だから感情とか、血行で色味が変わるんだって。えろくね?」
「なにそろえっち!致すときに血の巡りが良く成って、紫の赤みが強く成るんです?受け君が赤みの強くなった目を見て竦むんです?最高かよ」
「それで二人でまったり寛いでると、青みが強くって、あ、気を許してくれてるって成るんでしょ?ちょっと優越感をかんじるんでしょ?」
「あー依存される、させる系攻めさまぁー!雄!って感じもありありのありだけど、菊の花みたいな……気品のある、美人なにーちゃん……」
「ヤンデレそう」
「どんなジャンルでもこなせる!オールマイティーな攻めさまぁあ!」
そんな、なんの生産性もないけど楽しい時間を過ごした。
好きな物を、隠すこともしないで、自分の好みでない事は指摘し合い、プレゼンをおっぱじめてもお互い苦に成らず、新たな扉をオープンセサミする。
楽しいかった。
病気で、同年代の人間と話す機会なんてほとんどない。友達も居ない。だからまっさんとした、この創作活動は凄く楽しかった。私が絵を描いた。まっさんは何パターンか文章を書いてくれた。
時間があれば……命が有れば、本にしたいね。そんな話もした。
色んなアイディアを出し合って、沢山たくさん話した。楽しかったモノの象徴。楽しかった記憶の集大成。唯一の友達との、思い出。
そんな『彼』がそこに写っている。
淡くて、白いに近い程の金色の髪がほっそりとした顎に沿う様に流れている。まっさんのご要望通りに。私はあまり長髪は好きではなかったから、妥協して貰い後ろは首が見える。
垂れ目気味の目は、今は不安と混乱に見開かれて紫色の虹彩が揺れている。表情も怯え切って居て2人ではしゃぎながら画いた、品の良い、余裕の伺える顔が想像できない。
私の描いた絵でも、まっさんの文章でもある白菊の様な顔立ちからのギャップでそれなりにがっしりして居た筈の身体は痩せている、不健康だ、と言っても良いほどに細い。
背が有る分、尚更、貧相に見えてしまう程。
どうして、『彼』の姿をしているのか分からない。
そうして、見た目はこんなにも『彼』なのに、やつれて、恐怖して今にも泣きそうな表情で、細い不健康そうな体で震えている。
これは駄目だ。
これではだめだ。
何で私が『彼』になって居るかは分からない。ここが何所なのかも分からない。それでもこれは駄目だ。
だって『彼』は『最強の攻様』としてまっさんと、生涯唯一の友達と作り上げた存在だ。
私のせいで、2人で作り上げたものを壊して良い筈がない。そんなのはまっさんへの裏切りだ。あの楽しかった時間を嘘にしたくない。
『彼』で有る以上、私は『最強の攻様』に成らなければいけない。
そして何より、逆CPとかリバとかモブとか解釈違いとか左右の闘争は腐女子間での戦の火種になりうる。
自称、『超雑食』と言っていたまっさんだが私のせいで要らぬもやもやを抱かせたくない。解釈違いで、生涯でたった一人の親友を失わない為にも、私は解釈違いを!起こさない……!
……と、いいなぁ。
生まれた時から病弱まっしぐら。時々学校へ行き時々入院生活し時々自宅にいる。そんな生活。
これだけして生かしてもらって、成人しても就職できる見込みもなくここまで治療費を出し続けてくれた親の老後を支える事も、恐らく無理だろう。
多分、恐らく、絶対、私の方が先に死ぬ。
確かに罪悪感と申し訳なさを抱くが、物心ついた時点で割と死が身近にあったせいで私の思考は前向きにクズになって居た。
延命してくれる両親に全力で甘え、ベッドの上で趣味へ全力投球して居た。主にオタク趣味。主にお腐れさま。
しょうもない上に両親には迷惑かけっぱなしだたったけど、私は幸せな人生だったと思う。確かに苦しい時は、沢山あったけれど。
好きな事を全力で楽しんで、同じ趣味の入院友達が出来て仲のいい看護師さんも出来て、人生の最期付近でだけど、私の描いた物がお金になって一食だけど、親に美味しいものをごちそうする事も出来た。
……うん。まあ、一体、どんな絵を描いてたかは口が裂けても言えないけれどね……。たぶん、憤死する。あと三、四回死ぬことになると思うかなっ!
心残りと言えば、今目の前にぶちまけられた、薄くてきらきらして夢の詰まった素敵なご本の存在かな!R指定の!!
久しぶりの外出。
現世に存在される女神さま方の綴られし、至高の書を購入し、この手でお布施を納められる喜びを噛み締めてきた。そんな素敵な祭典の帰り道だった。外出許可の出なかった友人のお使いも、一部の同士たる看護師さんのご所望の品も買い漏らし無く遂行し、両手にお宝を携えほくほくと歩いてた。これでまたしばらく生きる糧(精神的にだが)を得たと青白い顔でも、精神的にはとても元気に病院への帰路についた。
ちょっとヤバイかな、とは思って居た。
お宝の詰まった鞄を持つ指先が痺れるし、呼吸が少し早く浅く成ってる。これは諸姉方々の性癖詰め合わせパラダイスを見る前に、暫く寝込みルートか……今は個室に行ってしまった友人こと、まっさんに全部貸してあげよう。布教だ。
でも実際はそんな呑気な話では無かった。
若干視界がぶれ始める。これは、無理をしてはいけない奴だ。病棟のナースステーションへ連絡。家族へ連絡。アドレス帳にある、タクシー会社へ電話……と必要な手順を並べていた。
意識がぼんやりし出して居たのか、角から飛び出す車に気づかなかった。
「……ひっ……!」
ぶつかりはしなかった。すんでんの所で停車した車に驚き、その場にへたり込み、鼓動が早まり、目が回りだし、呼吸がままならくなる。
運転手さんが慌てて飛び出し、大丈夫ですか、と尋ねて来る。
大丈夫です。ぶつかってなんて居ません、でも、揺すらないで、私ちょっと、内臓に問題がある種類の生き物で……!
……いぎゃあああ!!
驚いた際に、辺り一帯にぶち撒かれた薄い本へ目が行く。『R18』『成人向け』そんな赤い注意書きが目に入る。
うううう運転手さん、絶対に、地面に、目を向け、るなー!
意識が混濁していく。
生命的な死と、社会的な死が二人三脚で駆け寄ってくる中私は色鮮やかな表紙たちの上へ倒れ込む。
健全表紙の推し達が幸せそうに笑う顔が近い。
意識が薄れゆく中私の脳内は『積み荷を燃やしてぇ!』やら『海に捨ててぇ…!』と有名映画のセリフが反響する。
まっさん!私の病室の貴重品入れに入ってるHDDを物理的に破壊してくれ……!!そういう約束だったよね!?
目が覚めた瞬間、命が有った事に驚いて、直ぐに社会的な死を迎えた事に絶望して顔を覆った。
あれ。
顔を覆った手の指が、長い気がして、皮膚が酷くがさついている気がした。いや、体調が悪い時は基本的に酷い肌荒れを起していたけど。
顔から離し、仰向けになったまま掲げる手を見つめて、その先にある天井を見て、首を傾げてしまう。
倒れて、目覚める事が出来たのだから、きっとここは病院だと思って居た。私が入院していた場所では無いにしても。
それなのに見上げた天井は、塗装が剥がれ落ち骨組みの金属が覗いている。規則正しく並んで居たらしい照明も殆ど落下している様だ。
なにここ、廃工場……?
当然の様に、寝っ転がった背中が痛い事にも気づき慌てて起き上がる。
「っぅ、ゴホ……っはぁっ……あぁー」
あれだけ様態が悪くなったのだから、突然飛び起きればそうなるだろう。と言う様に苦しさが込み上げて来て咳き込む。……声が酷く低い。そんなに負担を掛けてしまったのだろうか。
それにしてもここは何処だろう。
上半身を起こして辺りを見回してみて、やっぱりここは廃工場みたいだ。と思う。何の工場かは分からないけれど。だって知らない機械ばっかり。しかも残骸だし。
状況を考えるに、あの車の運転手さんはぶつかったせいで私が倒れたとでも思ったのだろうか?そうして焦ってどこかの廃工場に私を遺棄……とか?
直ぐに出て来てくれて、良い人だと思ったんだけど……。残念。生きてたよ、私。
死んだもんだと思って、こんな所に放置したのなら所持品とかも一緒に捨てて行ってるだろうし。
……本日の戦利品は見当たらないけれど!!ないけれど!!往来にぶちまけっぱなしとかなの!?やめて!?
何か私物は無いかと、改めて周囲を見回し、自身を見下ろして、固まる。
服が違う。
まるで検査着みたいな、薄っぺらな白い布切れ。辛うじて服と評してやってもいいだろう。と言う程度の代物。
当然スマホもない。
いや、それ以前に見下ろす体形が明らかに違う。
手足が長い。手が大きい。見下ろす胸に厚みがない。元はあった!!あったもん!!本当!!
慌ててぺたぺたと撫でまわす手に触れる感触が、骨ばっていて、固い。
私が長い間病気で不健康鶏ガラ体型だったとしても、こんなではない。
周囲に、何か姿を映せる物は無いかと探す。
無我阿夢中で見回す。
焦りか、原因不明の息苦しさが込み上げてくる。
周囲にあるのは汚れてくすんだ金属や、コンクリートらしき残骸ばかりで姿が映りそうな物が見当たらない。
何故か上手く動かない足を半ば引きずる様にして、うろつく。
素足で、がらくたの転がる廃工場内を歩くのは、きっと正気だったら躊躇うと思う。でも今はそれどころじゃないから、足の裏を切り刻みながら進む。
ようやく見つけた、姿の映るもの。
少しこの廃工場の中では異質なもの。周りから浮いて、綺麗だ。元は何だったのだろ……。真新しい硝子。大きな容器が砕けたみたいなもの。
そこに朧気だけど『私』が映る。
そこに居た『彼』を見て、喉の奥で潰れた悲鳴が上がる。
「まっさに殺されるぅうう!!」
響いた声が、紛れもなく男性の物だった。
◇
「さーくぅ!『ぼくの考えた最強の攻様』を錬成しようぜ!」
「お、おう……」
大部屋だが、現在は私が窓際に一人っきりで使っている部屋へ点滴をガラガラ引っ張りながらまっさんが突貫してきた。
作業には向かない病室の机の上でかつかつとペンタブを動かしていた私はその勢いについて行けずに曖昧に頷く。
そうして始まった『ぼくの考えた最強の攻様』の錬成が始まった。
空白の多い病室で、歳の近いアホが二人揃ってワイワイと自分の好みの攻様の要素を出し合い、盛りに盛って行った。
性癖暴露大会ともいう様相を呈した、異空間が爆誕しそうになっていた。
「あれ!俺はロン毛よりこう…襟足だけ長いとか、前髪横だけぴょいっとしてんのツボ!」
「あ~それで不意に耳にかけたり、ちょっと掻き上げて欲しい欲」
「垂れ目!垂れ目の微笑にしようぜ!ぱっと見優しそうなのに、スイッチ入ると鬼畜な」
「まっさんがまた鬼畜攻めを出そうとするー」
「よくね?垂れ目のほにゃんってしたにぃちゃんの、S顔!おえろい!」
「あ、じゃあ紫の目とかどう?この前ネットで見たら、紫って青い色素の目で下の血の色が見えて紫なんだって。だから感情とか、血行で色味が変わるんだって。えろくね?」
「なにそろえっち!致すときに血の巡りが良く成って、紫の赤みが強く成るんです?受け君が赤みの強くなった目を見て竦むんです?最高かよ」
「それで二人でまったり寛いでると、青みが強くって、あ、気を許してくれてるって成るんでしょ?ちょっと優越感をかんじるんでしょ?」
「あー依存される、させる系攻めさまぁー!雄!って感じもありありのありだけど、菊の花みたいな……気品のある、美人なにーちゃん……」
「ヤンデレそう」
「どんなジャンルでもこなせる!オールマイティーな攻めさまぁあ!」
そんな、なんの生産性もないけど楽しい時間を過ごした。
好きな物を、隠すこともしないで、自分の好みでない事は指摘し合い、プレゼンをおっぱじめてもお互い苦に成らず、新たな扉をオープンセサミする。
楽しいかった。
病気で、同年代の人間と話す機会なんてほとんどない。友達も居ない。だからまっさんとした、この創作活動は凄く楽しかった。私が絵を描いた。まっさんは何パターンか文章を書いてくれた。
時間があれば……命が有れば、本にしたいね。そんな話もした。
色んなアイディアを出し合って、沢山たくさん話した。楽しかったモノの象徴。楽しかった記憶の集大成。唯一の友達との、思い出。
そんな『彼』がそこに写っている。
淡くて、白いに近い程の金色の髪がほっそりとした顎に沿う様に流れている。まっさんのご要望通りに。私はあまり長髪は好きではなかったから、妥協して貰い後ろは首が見える。
垂れ目気味の目は、今は不安と混乱に見開かれて紫色の虹彩が揺れている。表情も怯え切って居て2人ではしゃぎながら画いた、品の良い、余裕の伺える顔が想像できない。
私の描いた絵でも、まっさんの文章でもある白菊の様な顔立ちからのギャップでそれなりにがっしりして居た筈の身体は痩せている、不健康だ、と言っても良いほどに細い。
背が有る分、尚更、貧相に見えてしまう程。
どうして、『彼』の姿をしているのか分からない。
そうして、見た目はこんなにも『彼』なのに、やつれて、恐怖して今にも泣きそうな表情で、細い不健康そうな体で震えている。
これは駄目だ。
これではだめだ。
何で私が『彼』になって居るかは分からない。ここが何所なのかも分からない。それでもこれは駄目だ。
だって『彼』は『最強の攻様』としてまっさんと、生涯唯一の友達と作り上げた存在だ。
私のせいで、2人で作り上げたものを壊して良い筈がない。そんなのはまっさんへの裏切りだ。あの楽しかった時間を嘘にしたくない。
『彼』で有る以上、私は『最強の攻様』に成らなければいけない。
そして何より、逆CPとかリバとかモブとか解釈違いとか左右の闘争は腐女子間での戦の火種になりうる。
自称、『超雑食』と言っていたまっさんだが私のせいで要らぬもやもやを抱かせたくない。解釈違いで、生涯でたった一人の親友を失わない為にも、私は解釈違いを!起こさない……!
……と、いいなぁ。
20
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜
七彩 陽
BL
主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。
この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。
そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!
ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。
友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?
オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。
※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※
攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。
慎
BL
───…ログインしました。
無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。
そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど…
ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・
『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』
「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」
本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!!
『……また、お一人なんですか?』
なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!?
『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』
なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ!
「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」
ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ…
「僕、モブなんだけど」
ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!!
───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
病んでる僕は、
蒼紫
BL
『特に理由もなく、
この世界が嫌になった。
愛されたい
でも、縛られたくない
寂しいのも
めんどくさいのも
全部嫌なんだ。』
特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。
そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。
彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最初のみ三人称 その後は基本一人称です。
お知らせをお読みください。
エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。
(エブリスタには改訂前のものしか載せてません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる