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15 それぞれの戦い

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 聖女クレアを欠く戦いは苛烈を極めた。


 押し寄せる敵のため迷宮の奥には進めず、一瞬でも油断するとわらわらと集団攻撃を受けてまた退く。

 アルスの斬撃やミサの範囲魔法も狭いところでは効果が今一つで、退却を余儀なくされた。


 ミサが風魔法で敵をふきとばし、鉄の門を閉じる。


「はあ、はあ、なんだよ!あの馬鹿げた数は?」


 ジョナスが忌々しげに怒鳴る。

 複数の敵を苦手とする槍では、思うように戦えないのだ。


 上級治癒士達が回復に当たるが「足りない」とアルスは歯を食いしばる。


 聖女の性能が良すぎたのだ。

 ジョナスを欠いた戦いすら、実は大苦戦だった。

 だから彼らは仲間を大切にする。

 五人なら強い。自分が弱いことを知っているのだ。


「今日は退きましょう。作戦が必要よ」


 ミサが促す。

 後衛の彼女すら下級魔族からの打撃を受け、腕に血を滲ませている。


「作戦ってどんなだ?火とか、毒ガスとか、共食いさせるとかか?」


「わからないわ」


「おいおい・・・」


 ジョナスは天を仰ぐ。

 ミサを責めるつもりはない。

 だがミサから何のアイデアもでないということは、うつ手がないということだ。


「失礼します。勇者様、選抜隊員一名、死亡いたしました」


「・・・済まない」


「いえ!勇者様のせいでは!」


「いや、済まない・・・」


 アルスはうなだれた。


 厚い鉄の扉の向こう、魔物達の気配が途絶えることはなかった。



「探知魔法の結果、最も近い召喚陣は入り口より100m付近。迷宮の規模からして相当数あるかと」


「魔族の量からしてすでに迷宮はパンク寸前です。いつ決壊してもおかしくありません」


「あの扉が破れると?」


「それもありますし、広大ですからどこか外につながっていないとも限りません。現状では扉の決壊のみを想定し、外部にもう一枚扉を作るとか」


「随分消極的な対策だな」


「・・・以上、報告を終わります」


 選抜隊隊長が席に戻る。



 勇者一行と共に前線の教会に移動した諸国連合会議、その会場は重い空気に包まれる。


「アルス殿、手応えはどうだったね?」


 ある首脳が問いかける。どこかの国の副宰相だったか。


「正直良くありません。戦闘の気配を嗅ぎ付けると下級魔族が押し寄せます。囲まれるというより魔族に浸ってるような感覚になる量です」


「魔法攻撃は?」


「枝分かれする細い迷宮ですので、範囲魔法は効率が悪い。強力な攻撃魔法は術士にも危険が及び、崩落の危険があります。入り口付近が潰れれば迷宮攻略は進まない。それは破滅です」


「むう、だがまだ上級魔族との交戦はないと?」


「わかりませんぞ、上級は知恵を持つ者も多い。奥に潜み何か謀っているやも」


 立ち上がったのはオウェテ帝国外務卿ゼンダ。

 軍の指揮で頭角を表した諸国連合の軍師的な存在だ。


「勇者殿らは戦力としては頼もしいが、戦術はお苦手のようだ。ここは一度、我々首脳陣が指揮を取りましょう

 」

「お前らの指示に従った結果だがな」


「ジョナス!」


 吐き捨てるように言うジョナスと諌めるミサ。

 ゼンダは「ふん」と鼻を鳴らす。


「ならば量には量です。軍を投入しましょう。戦闘できる数は少ないが昼夜を問わず攻撃できる。召喚陣の破壊が可能になるまで下級を削りましょう」


「兵士への被害が測り知れん」


「戦うのが彼らの仕事。それとも他に対策が?」


「大した戦術だな?お前はふんぞり返って兵士には死んでこいか?」


「あなた方がもっと強ければ、手は有ったのですが」


「てめえ!」


 ジョナスとゼンダが一触即発になる。

 二人の母国同士の関係の悪さもあるのだろうが


「仲間割れしている場合ではない」


 議長のファグル国王が諌める。


「打つ手が無いのは確かじゃ。ならばここはゼンダ卿に指揮権を託し、状況の打破を狙うと言うことで如何かの?」


 異論は出なかった。

 ゼンダは早速軍の出動を命じ、会議が散開になる


 そのとき、一人の神官が駆け込んで来た。


「ご報告します。『教会に小鳥がとまりました』」


 一部にはわからない符丁。

 メンテルブの代表者やその支持者にはわからない暗号"レイが到着した"という報告だ。

 教会主導の隠密作戦のため、アルス達を含む一部にしか知らされていない。


「来たか!」


 勇者一行は喜んだ。

 これでクレアが回復すれば状況は大きく好転するはずだ。だが


「うむ、届きましたか。ならばすぐここに連行しなさい。」


 とゼンダは言い放つ。


「ゼンダ卿、お待ちを!」


「なに、諸国連合の一員として小鳥を見定めるだけですよ。乙女に会わせるに問題ないかどうか」


「急ぎの事態、一刻も早くクレ、いえ、乙女に小鳥を届けるべきですわ!」


 ミサが珍しく怒気をはらんで抗議する。

 オウェテ帝国はジョナスのアイナズとは隣接した大国同士で冷戦状態にあった。


 勇者一行がこれ以上功績を上げないよう、ゼンダが手を打つ腹積もりなのは明白だ。


 首脳陣の中にも知らされていない者が多い。

 ゼンダがなぜ知ったのかは不明だが、伏せられた事実をアルス達が口に出来ない状況すら利用する腹積もりらしい。

 ここで激しく反論すれば事が露見し、諸国連合に亀裂が生じるかも知れない。


 もちろん事態はそんな場合ではないが、ゼンダは真顔で返す。


「指揮権はたった今、私がいただきました。火急の事態です。速やかに行動させねば。そうそう小鳥を締め上げ鳴き声を聞かせれば、優しい乙女は目覚めるやもしれませんね?」


 



「させねえ!」


 ジョナスがバンッと立ち上がった。

 手には槍を構えている。

 場内が騒然とし、警備の教会騎士達がジョナスを取り囲む。


「おやジョナス様、この場で武力の行使はいただけませんな。世界の国々を敵に回しますぞ?」


 ゼンダが嘲笑う。

 この策士はここまで考えていたのだろうか?


「関係ねえ」


 だがジョナスは仁王立ちになり周囲に凄む。

 放つ殺気がビリビリと周囲を威圧している。


(ジョナス、お前は本当に・・・)


 アルスの胸が熱く震えた。


 バカで扱いやすいが、トラブルメイカーでアルスを散々困らせてくれた。


(でも俺はやっぱりお前が大好きだよ、ジョナス)


「あいつの再会は誰にも邪魔させねえ!文句が有るならこの雷槍を倒してみせろ!」


 ジョナスの後ろにアルス、ミサ、トマスが並び身構える。

 最強の一行が一歩も引かない強固な意思を示す。



 睨み合いはゼンダが折れるまで続いた。



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