魔王転生

鯱福

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第61話 初代魔王の記憶⑤

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「「はっけよい………残ったぁぁああ!!」」

恐らくこの世界で初めて取られている相撲、当然行事などいる訳がない。
俺達は互いにタイミングを併せ開始する。

この世界では俺の見た目は少年で止まっている為、勇者との体格的なハンデはほぼない。

なんなら普通の服の上からローブを羽織っているやや軽装な俺に対し、フルプレートの鎧に身を包む勇者の方が有利かもしれない。
そもそも魔族の兵隊相手に大立ち回りを繰り返してきた人間側の最大戦力である。

そのぶつかりの威力たるや相当なものである。

ガンッ

一気に土俵の端まで押し込まれ、何とか土俵際で耐えるがもう後がない。

イケーユウシャサマー!オシダセー!!
マオウサマノコタノコタ!!

ちなみにこの取組は勇者たっての希望により、八百長なしの真剣勝負である。
日本では勝負にならなかったが、この世界だったら男女関係なく対等に勝負ができ、もしかしたら勝てるかもしれないと。

勇者は勝った暁には俺をお姫様抱っこする、と鼻息が非常に荒くなっていた。

土俵際まで押し込まれはしたが、俺が負けるとしたら立ち合いでの変化か、立ち合い直後一気に押し出すかの2パターンしかなかっただろう。

現代日本では女性はあまり相撲を取らない。当然勇者も例外ではないだろうから、きっとこれが初めての相撲のはずだ。
フィジカルが互角であれば、経験と技術の勝負である。
そうなれば日本の男の子として育った俺の方が断然有利である

勇者が真剣勝負を望んだ以上、俺も男として負けられない。

がぶり四つの体勢から勇者を左に振ると、すかさず勇者は力を込め耐えようとする。
そこを見越して俺はすぐさま勇者の力を利用して右に振ると、今度は簡単に勇者のバランスが崩れる。

何とか耐える勇者だが、体勢は完全に俺が有利。

体勢を立て直そうとする勇者だったが、俺が勇者の軸足を引っ掛けると勇者はあっけなく土俵上を転がるのだった。


「「「「「………………」」」」」


相撲のルールなど理解してないだろうこの世界の魔族と人間が、土俵上の俺と勇者を固唾を飲んで見守る中………

ガシッ

俺は倒れている勇者の手を掴み立ち上がらせる。

「…勇者よ、紙一重の良い勝負だった。また貴様とは相撲を取りたいものだな!!」

「魔王!次は絶対に負けないからな!!!」

ザワザワザワザワ……
オ…オオ……オオオオオオオオオオオオ!!!

「「「「ま、魔王様…ゆ、勇者様…ばんざーい!!!」」」」

観戦者達から自然と種族の壁を越えた歓声が上がり始める。

『タイマン張ったらマブダチ』作戦、ここまで上手くいくとは思わなかった。
真剣勝負を望んだ勇者のお陰かもしれない。出来レースではここまで他者の心を動かせないだろう。


それまで数千年の間殺し合いを続けてきた両者が、この日を境に急に仲良く手を取り合って、とはならなかったが一旦休戦の条約が結ばれ、終戦の為の話し合いが持たれるようになるのだった。





「大ちゃん、早く一緒に暮らしたいよぉぉおおお!」

終戦に向けた長時間にわたる重苦しい会議の合間、2人になると勇者が弱音をはく。
大分ストレスが溜まっているようだ。

「勇者よ、外では魔王と呼べと言っているだろう。それでなくても面倒臭い会議が、以前からの繋がりを疑われてしまえば益々ややこしいことになる」

「…あいつら、どいつもこいつも争ってる理由すら分かっていないのに互いに譲ろうとしない…全員頭が固すぎる……その癖、相撲大会だけは仲良く盛り上がるし意味がわからない」

こればっかりは根が深いんだよなー。
日本でも近隣諸国と100年に満たない歴史の中で、互いの憎しみは解消されてない。
若者同士は仲良くやれても国が絡むと途端に上手くいかなくなる。

終戦の折り合いを付けさせるのは互いの上層部同士に任せて、俺と勇者は自分達にしかできないことをやっていこう。
仮に上層部同士折り合いがついたとしても、実際絡むことになる国民達がいがみ合っていては元も子もない。

俺と勇者に出来る事、それは魔族と人間のシンボルとして手を取り合い、それを周囲に広げていくこと。

ただ単純に俺達2人が仲良くするのではなく、今まで長い間戦争によって苦しめられてきた国民達を、魔族と人間が手を取り合って対応することが重要だ。

俺達が平穏に暮らすのはまだまだ先になりそうだ。





「おーい魔王さん!こっちの舗装はこんなもんでいいかい!?」

「おぉ!立派なもんじゃないか!!これなら馬車馬も気持ちよく走ってくれそうだな!」

今俺と勇者は復興活動として、魔族側、人間側双方に王都と村や町を繋ぐ街道の整備を始めた。恐らく完成までは俺達の子や孫の世代まで掛かるであろう超大型プロジェクトだ。

しかし道の整備はそれだけの意味がある上、魔族と人間の有志に協力してもらう事によって自然と協力するようになる。

まだこのプロジェクトを開始して半年くらいだが、プロジェクトメンバー達は最初こそギクシャクしていたものの、今では肩を組んで酒を飲み冗談を言い合うくらいの仲である。

その光景を見ながら俺は胸を撫でおろす。
終戦がまだ先になろうとも、俺達の世代で街道が完成しなくても、国民たちが手を取り合えるようになれば、俺と勇者がやってきたことは無駄ではない。
次の世代へ遺恨を残すこともなくなるだろう。

まだまだ道半ばではあるものの、一種の達成感を感じつつ俺は酒を飲む。
この調子であれば世間に俺と勇者の結婚を発表しても良いかもしれないな。

むしろ両者のシンボルとして、益々和平に向けて拍車が掛かるかもしれない。
何よりも前世で出来なかった、愛した女性と幸せに暮らす、シンプルな願いではあるがそれがようやく叶えられるところまで近付いてきているのが分かり、自然と顔が綻んでしまう。

「魔王、何をニヤニヤしている?一人で楽しんでいるのはズルい」

「いやいや、何でもないよ。ただただ幸せを噛みしみているだけだ。あー、本当に幸せだ……」


---


出来る事ならば、この頃の自分の元を訪れぶん殴ってやりたい。



フラグを立てるのはやめろ…。
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