58 / 67
第56話 深淵の迷宮⑭
しおりを挟む
引き続き俺は一人防戦一方の状態で虚無の魔神を引き付ける。
視界の端に龍型となったエレナさんが見えるが相も変わらず大きい、全長30m以上はありそうだ。
深淵の迷宮では基本龍の姿で戦うことはなく、主に我々を乗せて飛んでいるだけの状態だったので、もしかしたらストレスが溜まっていたのかもしれない。
あれ?なんか憎しみのこもった目でこっち見てない?
あ、いや?俺の後ろの虚無の魔神ですよね?
およそ仲間に向ける視線ではない、爬虫類がキレた時に見せる理性を一切感じさせない無機質な目で俺と俺の奥にいる虚無の魔神を見据え大きく息を吸い込む。
え?これ俺も対象になってないかな?
「Grrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!」
ちょっとこのままの位置だと直接ブレスの攻撃範囲に巻き込まれそうだから、虚無の魔神とエレナさんの対角線上からずれようかな。
……なんでエレナさんの炎零れる口元が俺の動きに合わせてずれてくるんだろうか?
違うな、これ完全に俺を狙ってやがる!
「Grrrrrrrrrrrrrrrrrr!死ねぇぇぇえええええ!!」
あ、いつものエレナさんの優しい声ではなく、龍の体躯に見合った野太い声で俺を睨みつけつつ死ねって言いながら俺にブレスを打とうとしている…これは自分でコントロールするしかないじゃないか。
俺は再びエレナさんと虚無の魔神の対角線上に入り、龍型のエレナさんが凶悪な表情で放つブレスを紙一重で躱す。
まぁどちらにせよコンマ数秒で虚無の魔神を通して俺に向かってくるんだがね。
予想通りというべきな狙い通りというべきか、虚無の魔神に直撃する瞬間今までと比べ物にならない程大きく俺の目の前の空間が大きく切り裂かれ、そこから極太の魔炎龍の本気のブレスが俺を襲う。
あ、これ避けられない奴だ。
こんなことであればエレナさんではなくて龍型のレイラのブレスの方が良かったかもしれないなと考えながらも、取りあえず虚無の魔神を倒すことを優先する。
俺はエレナさんのブレスを、もろに全身に受けながら深く腰を落とし刀の切っ先を切り裂かれた空間に向ける。
元々不殺を目的にスミスさん達ドワーフに作ってもらった逆刃刀ではあるが、突きであればそれも関係ない。
見た目は俺の知っている魔神と同じだが、良くも悪くもあいつはこんな無感情な奴ではないので、これは魔神とは別物と判断する。
仮に本物の魔神だとしたら、それはそれできっとこれくらいじゃ死なないだろうからどちらにせよ問題はないだろう。
俺はブレスの身体が焼ける痛みに耐えつつ、力を込めて思い切り逆刃刀を切り裂かれた空間を突く。
ブレスを全身に浴びているの視認は出来ないが確実に何かを捉えた感覚が手に伝わるとその直後、およそ刀の直撃とは思えない衝撃音が辺りに響き渡る。
土煙が晴れるのを待つ俺、俺を心配そうに見つめるゾラスとレイラ、その横でじっとお座りの姿勢で佇む豆柴。その後方に口から炎をこぼしながら俺を見つめる大型の龍。
ようやく煙が晴れると…
そこに虚無の魔神の姿はなく、魔神のいた位置には『臓器』というようりも宝石の輝きに違い心臓が浮いていた。
恐らくあれが『魔神の心臓』だろう。
「ふぅ、やっと終わりましたね」
流石にドロップアイテムがあるので、まだ虚無の魔神が生きているようなフラグにはならないだろう。
「魔王様お疲れ様です~」
「魔王様、次のボスはあたしが倒すからね!」
レイラさん、もうダンジョン攻略はどちらにせよお終いですからね?
「……………」
エレナさん、龍の姿のままモジモジされていますけど早く人型に戻って下さい。
「あ、あの、龍型になって魔王様を見ていたら、以前全く攻撃が通用しなかったことを思い出して…少し理性が飛んでしまったみたいで…」
人型に戻って必死に言い訳をしているけど、やはりレイラの母親である。
やっていることはレイラより酷い。
「ま、まぁ結果オーライですね。次……からは気を付けて下さいね?」
「は、はい///」
よし、取りあえずやることはやったので早くアイテムを拾って家に帰ろう。
そうして俺は『魔神の心臓』に向かって近付くと、その目の前にはちべえがお座りの姿勢で俺を見つめている。
「……魔王様、この心臓を手にした時点で、恐らく魔王様が望む安定した日常を送る人生は手に入らなくなると思います…」
どうしたはちべえ?いつになく真剣な表情をして…なんて茶化すことが出来ない程真剣な表情の豆柴。
これが人の言葉を発していないアフレコみたいなものであれば非常に可愛らしいのだがそうではない。
「…それでも宜しいですか?」
「いや、それは困るな。では諦めよう」
そういって俺は踵を返し、他のパーティーメンバーの元に戻る。
ワープに入って温泉に……
「ちょ、ちょっと魔王様!」
初めて焦ったはちべえを見たわ。他の仲間たちもドン引きしているし…
だって明らかに面倒なことになるじゃないか……
「なんだよはちべえ?俺に触らせたいのか触らせたくないのかどっちなんだよ…俺はただ俺に必要だと言われたから来ただけなんだぞ?」
「あ、いや、まぁそれはそうなんですが…。先代の魔王様の意図は私にはわかりませんけど、『魔神の心臓』とは、初代魔王様の記憶の塊なんです」
ほぉ?
なんでそれを先代魔王が知っていて俺に必要だと思ったんだろうか?
そういえば先代魔王は予知夢の能力があったな……あーもう、そんなの触って確認するしかないじゃないか!
畜生、なんか誰かの手の平の上で踊らされれている気がして面白くないけど仕方ないな。
もうどうにでもなれだ!
そして俺はそっと宙に浮かぶ『魔神の心臓』に手を触れる。
ー刹那
膨大な量の初代魔王の記憶が俺に流れ込む。
視界の端に龍型となったエレナさんが見えるが相も変わらず大きい、全長30m以上はありそうだ。
深淵の迷宮では基本龍の姿で戦うことはなく、主に我々を乗せて飛んでいるだけの状態だったので、もしかしたらストレスが溜まっていたのかもしれない。
あれ?なんか憎しみのこもった目でこっち見てない?
あ、いや?俺の後ろの虚無の魔神ですよね?
およそ仲間に向ける視線ではない、爬虫類がキレた時に見せる理性を一切感じさせない無機質な目で俺と俺の奥にいる虚無の魔神を見据え大きく息を吸い込む。
え?これ俺も対象になってないかな?
「Grrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!」
ちょっとこのままの位置だと直接ブレスの攻撃範囲に巻き込まれそうだから、虚無の魔神とエレナさんの対角線上からずれようかな。
……なんでエレナさんの炎零れる口元が俺の動きに合わせてずれてくるんだろうか?
違うな、これ完全に俺を狙ってやがる!
「Grrrrrrrrrrrrrrrrrr!死ねぇぇぇえええええ!!」
あ、いつものエレナさんの優しい声ではなく、龍の体躯に見合った野太い声で俺を睨みつけつつ死ねって言いながら俺にブレスを打とうとしている…これは自分でコントロールするしかないじゃないか。
俺は再びエレナさんと虚無の魔神の対角線上に入り、龍型のエレナさんが凶悪な表情で放つブレスを紙一重で躱す。
まぁどちらにせよコンマ数秒で虚無の魔神を通して俺に向かってくるんだがね。
予想通りというべきな狙い通りというべきか、虚無の魔神に直撃する瞬間今までと比べ物にならない程大きく俺の目の前の空間が大きく切り裂かれ、そこから極太の魔炎龍の本気のブレスが俺を襲う。
あ、これ避けられない奴だ。
こんなことであればエレナさんではなくて龍型のレイラのブレスの方が良かったかもしれないなと考えながらも、取りあえず虚無の魔神を倒すことを優先する。
俺はエレナさんのブレスを、もろに全身に受けながら深く腰を落とし刀の切っ先を切り裂かれた空間に向ける。
元々不殺を目的にスミスさん達ドワーフに作ってもらった逆刃刀ではあるが、突きであればそれも関係ない。
見た目は俺の知っている魔神と同じだが、良くも悪くもあいつはこんな無感情な奴ではないので、これは魔神とは別物と判断する。
仮に本物の魔神だとしたら、それはそれできっとこれくらいじゃ死なないだろうからどちらにせよ問題はないだろう。
俺はブレスの身体が焼ける痛みに耐えつつ、力を込めて思い切り逆刃刀を切り裂かれた空間を突く。
ブレスを全身に浴びているの視認は出来ないが確実に何かを捉えた感覚が手に伝わるとその直後、およそ刀の直撃とは思えない衝撃音が辺りに響き渡る。
土煙が晴れるのを待つ俺、俺を心配そうに見つめるゾラスとレイラ、その横でじっとお座りの姿勢で佇む豆柴。その後方に口から炎をこぼしながら俺を見つめる大型の龍。
ようやく煙が晴れると…
そこに虚無の魔神の姿はなく、魔神のいた位置には『臓器』というようりも宝石の輝きに違い心臓が浮いていた。
恐らくあれが『魔神の心臓』だろう。
「ふぅ、やっと終わりましたね」
流石にドロップアイテムがあるので、まだ虚無の魔神が生きているようなフラグにはならないだろう。
「魔王様お疲れ様です~」
「魔王様、次のボスはあたしが倒すからね!」
レイラさん、もうダンジョン攻略はどちらにせよお終いですからね?
「……………」
エレナさん、龍の姿のままモジモジされていますけど早く人型に戻って下さい。
「あ、あの、龍型になって魔王様を見ていたら、以前全く攻撃が通用しなかったことを思い出して…少し理性が飛んでしまったみたいで…」
人型に戻って必死に言い訳をしているけど、やはりレイラの母親である。
やっていることはレイラより酷い。
「ま、まぁ結果オーライですね。次……からは気を付けて下さいね?」
「は、はい///」
よし、取りあえずやることはやったので早くアイテムを拾って家に帰ろう。
そうして俺は『魔神の心臓』に向かって近付くと、その目の前にはちべえがお座りの姿勢で俺を見つめている。
「……魔王様、この心臓を手にした時点で、恐らく魔王様が望む安定した日常を送る人生は手に入らなくなると思います…」
どうしたはちべえ?いつになく真剣な表情をして…なんて茶化すことが出来ない程真剣な表情の豆柴。
これが人の言葉を発していないアフレコみたいなものであれば非常に可愛らしいのだがそうではない。
「…それでも宜しいですか?」
「いや、それは困るな。では諦めよう」
そういって俺は踵を返し、他のパーティーメンバーの元に戻る。
ワープに入って温泉に……
「ちょ、ちょっと魔王様!」
初めて焦ったはちべえを見たわ。他の仲間たちもドン引きしているし…
だって明らかに面倒なことになるじゃないか……
「なんだよはちべえ?俺に触らせたいのか触らせたくないのかどっちなんだよ…俺はただ俺に必要だと言われたから来ただけなんだぞ?」
「あ、いや、まぁそれはそうなんですが…。先代の魔王様の意図は私にはわかりませんけど、『魔神の心臓』とは、初代魔王様の記憶の塊なんです」
ほぉ?
なんでそれを先代魔王が知っていて俺に必要だと思ったんだろうか?
そういえば先代魔王は予知夢の能力があったな……あーもう、そんなの触って確認するしかないじゃないか!
畜生、なんか誰かの手の平の上で踊らされれている気がして面白くないけど仕方ないな。
もうどうにでもなれだ!
そして俺はそっと宙に浮かぶ『魔神の心臓』に手を触れる。
ー刹那
膨大な量の初代魔王の記憶が俺に流れ込む。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
戦場に跳ねる兎
瀧川蓮
ファンタジー
「ママ……私はあと……どれだけ殺せばいいの……?」
科学と魔法が混在する世界で覇権を狙うネルドラ帝国。特殊任務を専門に担う帝国の暗部、特殊魔導戦団シャーレ、最強と呼ばれる『鮮血』部隊を率いる15歳の少女リザ・ルミナスは、殺戮の日々に嫌気がさし戦場から行方をくらました。そんな彼女に手を差し伸べたのが、世界一の戦上手と評される兎獣人(アルミラージュ)のレイナだった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる