魔王転生

鯱福

文字の大きさ
上 下
42 / 67

第40話 レジェンド級冒険者ゾラス

しおりを挟む
今日もいつものように、家庭菜園の域を超え始めた、我が自慢の畑と愛くるしい家畜たちの世話に精を出していると、珍しい客が来た。

現存する唯一のレジェンド級の冒険者であり先代魔王の相談役、現在はダークヘルムの冒険者ギルドマスターを務める魔族、ゾラスその男である。

「それでゾラスさん今日は何しにこちらへ?」

「はい、今日は魔王様にご相談したいことがあってお邪魔させていただきました~。」

ゾラスはエレナさんが用意してくれた冷たいお茶を飲みながら、いつものように軽い口調で話し始める。

「実はここ何か月か、ずっとアルスとセニアから魔王様をどうすれば働かせられるか、という相談を受けていたんです~。」

ほほぉ…あいつらは俺の敵だったか…
ムカつくから全部の奥歯に1日で治る虫歯魔法を掛けておく。ピロリーン
これであの2人は今日一日ずっと嫌な気持ちで過ごすことになるだろう。

「で、その中で魔王様の考える組織の在り方をお聞きして、何て素晴らしい考え方だろうと、非常に強い感銘を受けました~。規模は違えど、私も冒険者ギルドという組織を預かる身…魔王様の心情を私なりに考え、2人に本当の意味での自立を促した次第です~。」

ゾラスさん、どうやら俺は貴方の事を誤解していた様です。
どちらかといったらアルスとセニアに近い、危ない要注意魔族として認識していました。

「それで、私もすぐにサブマスターを呼んでマスターを辞めて来ました~」

「エレナさん、お客さんが帰られます。ダークヘルムまで送れますか?」

何を馬鹿なことをいっているんだこの馬鹿は…アルスとセニアより酷いぞ?
ギルドマスターの辞めた理由を俺のせいにされてもただただ迷惑なので、ぐるぐるに縛り上げギルドに送り返そう。

「ち、違うんです~、結局辞められなかったんです~。だけど、サブマスターもお疲れでしょう、と憐れんだ目を私に向けてきて、責任さえ取ってくれればずっと休んでて良いと言ってくれたんです~。優しい部下を持って私は幸せです~。」

分かり易くスケープゴートにされているじゃないですか…。
少しだけゾラスに優しくしてあげよう。





「で、今日突然お邪魔させていただいた用件なんですが、実は折り入って魔王様に相談がございまして…」

ソファに座りなおして真面目な表情でゾラスが話し出す。
普段適当な癖に不意に真剣に語り出すのがゾラスのズルいところだと思う。
流石先代魔王の相談役といったところか。

「元々ギルドマスターを辞めて冒険者に復帰しようと考えていたんです~。復帰して先代魔王様と果たせなかったクエストの達成を目指すつもりだったんです~」

唯一のレジェンドクラスの冒険者が電撃復帰とか胸熱すぎる展開じゃないか。しかも先代魔王と果たせなかったクエストを達成する為とか。

「ですが、辞めることは出来なくないうえ、幾ら長期的に休んで構わないと許可が出ているとはいっても、流石に休める限界はあります~」

まぁそりゃそうだわな。
こんなんでもギルドマスターだし報告だー決裁だーで色々やらなくてはならないことも沢山あるのだろう。

「で、問題のクエストですが、以前合同演習に参加するタイミングで簡単に説明したSSSランクのクエスト、『深淵の迷宮の踏破』なんです~」

確か魔族の1万年以上続く歴史の中で、まだ誰にも踏破されていない難攻不落の迷宮だ。
まだ踏破されていないので、当然どれだけ続くのかの全貌も解明されていない。

「冒険者時代に先代魔王様と2人で初めて潜った時は地下200階まで進むのに丸々1年掛かりました~。広さはフロアごとに様々ですが、広いフロアはブブラッドレイブン程の広さがありました~」

潜るタイプの迷宮か。
ブラッドレイブンと同等の広さとか無理ゲーだろ…

「ちなみに、ダンジョンの中は、階段の場所とかは毎回一緒ですか?


「あーそれは大丈夫です~。ジュエル様と私が進んだ200階までの地図は迷宮入口で販売もされています~。」

さすがにそれはそうか、1フロアが1国と同等の広さで更にローグライクダンジョンとかヘルモード過ぎるもんな。

「で、本題なんですが、魔王様深淵の迷宮に一緒に行ってくれません?」

「………」

ってなるよね。
実は正直行ってみたい気持ちはある、レイラの時(魔炎龍討伐)は冒険というよりも進行上必要なイベントって感じだったし。

ただ半年は長すぎるんだよなー。
アルスとセニアはともかく、四天王達に任せている改革を半年も放置するのはさすがにリスクが大きい。
間違っている状態で放置してしまったら取り返しがつかなくなるかもしれない。

「魔王様、もし迷っていらっしゃるのであれば、私とレイラもご一緒しましょうか?成体の上位龍である私が本気で飛べばブラッドレイブンの端から端まで半日程度で移動できますよ。」

「それは素晴らしいですレイラさん!!そのスピードであれば200階まで2週間程度でいけるかもしれません!!」

興奮したゾラスは思わず普段のふざけた話し方がなくなる。

「ちなみにゾラスさん、踏破した場合の報酬は…?」

ちなみに言っておくが金や金で何とかなる、国やギルドからの報酬に興味はない。

俺が確認しているのはゲームでいう初回報酬など、初踏破者限定のご褒美的なものだ。

「最深部で手に入るといわれている『古の魔神の心臓』ですが、どんな願いも必ず一つだけ叶う、と言われています。」

「それを俺に信じろと?」

「先代魔王様が、『予言の子』にとってそれは非常に重要だ、と言っていました~。」

何故先にそれを言わないんだゾラス君。
実はここ最近わかった事があって、俺の歴史や概念すら書き換える『万物の理』だが、まだ理由は不明だが決して万能ではなかった。

この世の理にまで関与しそうな神を冒涜するようなスキルの為、基本使用しないよう心がけていたが、人間との休戦を目的に、人間と魔族の憎しみ合う歴史自体を無かったことにしてしまおうと試みたがそれは叶わなかった。

理由を教えて貰おうと、何度も魔神を呼び掛けているのだが一向に音沙汰がない。きっと言えない何かがあるのだろう。

そんな俺に対して、先代魔王のお墨付きの『どんな願いも必ず一つだけ叶う』なんて、断れるわけはないだろう。

「俺の負けですゾラスさん、それ最初から交渉するつもりないじゃないですか…」

悪戯がばれた子供の様な表情を浮かべるゾラスを俺は苦笑しながら睨む。

「ただ半年は流石に長い、3か月で蹴りを付けましょう。そこで終わらせられなかったら諦めて次回再挑戦。それで良ければ是非手伝わせてください。」

「勿論です魔王様。宜しくお願いします~。」

そうして俺たち二人はがっしりと固い握手を交わした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。 一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。 そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。 ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!! その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。 自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。 彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう? ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。 (R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします) どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり) チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。 今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。 ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。 力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。 5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)> 5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります! 5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!

転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟
ファンタジー
 なんかよくわからないけど、神さまの不手際で転生する世界を間違えられてしまった僕は、好きなものに生まれ変われることになった。  そのついでに、さまざまなチート能力を提示されるが、どれもチートすぎて、人生が面白く無くなりそうだ。そもそも、人間であることには先の人生で飽きている。  だから、僕は神さまに願った。犬になりたいと。犬になって、犬達と楽しい暮らしをしたい。  チート能力を無理やり授けられ、犬(獣人)になった僕は、世界の運命に、飲み込まれていく。  犬も人間もいない世界で、僕はどうすればいいのだろう……まあ、なんとかなるか……犬がいないのは残念極まりないけど

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...