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第39話 理想の上司
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「おい佐藤、元気にやってるか?」
「あ、先輩!お久しぶりです!!戻ってくるなら連絡くらい下さいよー!」
「悪い悪いwただなー残念ながらアポイントでこっちに来ただけでアポ先から直帰しないといけないんだわ。飯はまた今度な。」
〇
入社直後、パワハラの権化みたいな上司の下に配属となった俺は、体力と根性だけは人並み以上にあった為か、『こいつなら大丈夫』と思われ理不尽な指導を受け続けていた。
元々メンタルに自信のあった俺は、自分に矛先が向いて周囲への被害が抑えられるなら、と文句一ついわずにサンドバッグになっていた。
そんな生活を過ごし入社から3度目の春、人事異動で上司が先輩に変わった。
環境に慣れてしまっていた俺は、パワハラ上司が異動することについて、嬉しいともなんとも思っていたかった。
先輩が俺の部署に来てすぐ、たしか先輩の机の上が片付いてなかったから移動日初日とかだったと思う。
「おーお疲れ様ー!外暑かっただろ。」
アポ先から戻ってきた俺に対して先輩から掛けられた何気ない労いの言葉。
最初自分が声を掛けられていると気付かなくて後ろを振り返った。
後ろには誰もいない。
どうやら新しい上司は俺に声を掛けているようだ。
お疲れ…様…?
理解するのに数秒を要した。
直後、
「お、おい!?どうした佐藤!」
いまいち自分でも理由はよくわからないけど俺は泣いていた。
無表情で涙を流すサラリーマンの姿は大層不気味だったと後に先輩は語っていたが、とめどなく涙が零れていたそうだ。
突然涙を流す俺に対し、咄嗟に先輩は肩を抱き外に連れ出す。
そんな気遣いもその時の俺には逆効果で、誰もいない喫煙所で俺は子供のように声を上げて泣いた。
どうやら自分でも気付かないうちに心が壊れていたようだ。
〇
どれだけの時間泣いていたのかわからないけど、その間誰も喫煙所に来なかったのは、今思えば先輩が人払いをしてくれていたんだろう。
「あーなんかすみません。お恥かしい姿を見せてしまいました。」
先輩が奢ってくれた温かくて非常に甘い缶コーヒーを飲みながら詫びを入れる。
「噂には聞いていたけどさ、前の上司が原因か?」
「………自分では認識していなかったんですが、さっきの自分のお恥かしい姿から考えると、やはりそうなんだと思います。」
「気付いてやれなくてすまなかったな…」
「…いえ……」
その日はそれ以上特に何も言われなかった。
後から知ったことだが、その日すぐに先輩は部署内で前任のパワハラ調査を始めてすぐに会社に告発した。
その上司は異動先で降格処分となったが、居ずらくなったのかその後すぐに辞めていった。
また、先輩は調査の中で部署内の同僚や後輩と1対1で話す際「助けてやれないまでも見て見ぬふりするな」と苦言を呈していたらしい。
俺は上司以外は周囲も被害者だと思っていたんだが、先輩からしたら間接的な加害者だったそうだ。
それから俺は、会社から休養を勧められもしたがそれを拒否。
厄介払いとかではなく本当に俺を心配してくれていることは伝わっていたが、そもそも俺自身自分の異変に気付いてすらいなかったくらいなので働くことを選んだ。
〇
半年後-
「「かんぱーい!」」
先輩に連れられてやっすい汚い居酒屋に連れて来られた。
「お疲れさん、A社さん受注出来て良かったなwおめでとう」
「いやー先輩に手伝ってもらったプレゼン資料のおかげですよ本当に。あんな細かく相手の気持ちがわかるのならもう少し俺にも優しく接して欲しいなと思いますけどねw」
「………」
「あ、嘘、冗談ですはい。感謝しかありませんので殴らないで下さい。」
俺は助けてくれた先輩の下で我武者羅に働いて、少しずつ心の傷も回復していった。
「憎たらしい奴め…そんな憎たらしいことが言えるんならあんな小物に負けてるんじゃねぇぞこの野郎。」
「……も、申し訳ありませんでした…す、少し調子に乗ってしまいました…」シュン
「あ、いや冗談だぞ?すまん」アセアセ
先輩が下を向き震える俺を心配そうに覗き込み、変な顔をした俺と目が合って今度こそ拳骨を落とされた。
前任にすら叩かれたことないのに!!
「大分元気になって良かったよ畜生。」
「あざすw」
この時になって初めて、あの頃の俺は壊れていたんだと自覚できるようになった。
あの頃は大変だった思い出も辛かった思い出も何も残っていない。
誰にも相談できずただただ毎日必死に生きていたんだと思う。
先輩の下で、ようやく仕事が非常に楽しいと感じられるようになった。
取引先からクレームを貰ったり、先輩にきつめに指導されることもある。なんなら指導される頻度は前任より増えたかもしれない。
でも先輩は絶対に俺の人権を否定しなかった。
その時納得できなくても一呼吸置いて考えると、全て俺の為に言ってくれている事がよくわかることばかりだ。
そうして俺は先輩に厳しくも優しく鍛え直されて、少しずつまともな社畜へと成長していった。
〇
さらに1年後-
「先輩今日は俺の奢りっすからね!今日くらいは俺出しますからね!!」ヒック
「わかったって!お前少し飲み過ぎだぞ?」
先輩の歴代最年少での次長昇進が決まった。
ちなみに先輩の後任は、先輩からの強い推薦もあり係長として俺が抜擢された。正直優秀な先輩の後釜は荷が重かったが、お世話になった先輩に恥をかかす訳にはいかない。
俺は自分のこと以上に、先輩が会社から評価されたことが本当に嬉しかった。
優秀な先輩が色々なハンデキャップを乗り越えて評価されたということは、会社としても年齢や他の問題に惑わされず正しい評価をしたことに他ならない。
先輩に対しても会社に対しても誇らしい気持ちで一杯だ。
そりゃあ飲みたくもなるわ。酒が美味い。
「佐藤よ、お前は少し責任感が強過ぎるからそれだけが不安だ。私の後任とかそんなのは気にする必要ないから、しっかり周りを頼るんだぞ?」
「大丈夫っすよー!なんてったって俺は先輩の一番弟子なんですからねー!栄転先の海外支部で俺の活躍楽しみにしてて下さい!!」ヒック
〇
またまた1年後-
「おい佐藤!しっかりしろ!!」
「しっかりしてなくてすみませんね。どうせ俺は先輩みたいに優秀じゃないですからね…。」ウィーヒック
「くさっ!お前ちょっと飲み過ぎだぞ!!」
先輩から引き継いだ部署を、俺は1年も経たないうちに業績を大幅に悪化させてしまった。
最初の上司を反面教師に、しっかり部下の話を聞きながらやっていたつもりだったのに。
俺の状況を人伝に聞いた先輩は、わざわざ貴重な有給を使って俺の元を訪れてくれた。
時差の関係で夕方日本に到着した先輩は、迷わずよく先輩に連れていかれた臭い汚い居酒屋で飲んだくれている俺を見つけてくれた。
「だーもう今日はお前飲むのやめろ!前と住所変わってねーよな?もう今日は帰るぞ!」
---
ズキッ
「あー頭いてぇ…ん?なんでコーヒーのに…おい……」
ニッコリ
「夢じゃなかった!!申し訳ありませんでしたー!!」
色々な意味で居るはずのない先輩がキッチンで優雅にコーヒーを飲みながら俺に微笑みかけている。オワタ
本気で怯える俺を見て先輩は困ったような顔をする。
「お前は相変わらずだなまったく…だからあれ程周囲を頼れと言っていたのだがな。」ヤレヤレ
自分の身の回りを見て何もコトが起きていないかを確認。胸を撫で下ろしつつ悪態をつく。
「どうせ俺は先輩みたいに器用じゃないですか…ら………」
そこでようやく俺は気付く。
先輩は俺を心配してきてくれた訳ではない。
いや、大きな括りで考えれば心配はしてくれているんだが、これは俺に対する激しい怒りだ。ちびりそう。
「私に出来てお前に出来ないことは何だ?」
「…どのお偉いさんにも平等に失礼なくらい言い返すことです……」
「……お前の方が得意な事は何がある?」
「PC全般、小規模の商談、車の運転、部下からの相談、料理、掃除、クレーム処r
「もういいやめろ。」
先輩が涙目なのは気のせいだろう。
「俺は上司として頼りなかったか?お前に仕事を押し付けたか?」
「そんなことある訳ないじゃないですか!!」
先輩ほど頼りになる上司なんかいる訳がない。
大変な時は一緒に苦労してくれて嬉しいときは一緒に喜んでくれた。
ムカつく時も山ほどあるけど、先輩は俺の恩人だ。
冗談も休み休み言って欲しい。
「自分が出来ることは部下も大体出来るんだ。間違っても自分を特別だと思うなよ?」
「あ、当たり前じゃないですかそんなこと!!だから部下とよく話をしているんです。」
「じゃあなんで仕事を部下に任せない?」
自分でも分かっている一番痛いとこを突かれた。
「お前のやっていることは過保護な毒親となんら変わりない。いわゆる『優しい虐待』だ。何でもお前が対応して何もできない部下を作り上げているだけ。お前の後任、残された部下達、全員がお前の虐待の被害者だ。」
「じゃあどうしろって言うんですか!!無理にやらせて潰してしまったらどう責任とればいいんですか!!??」
わかっている、完全に逆切れだ。
が、本気で怒っている先輩にはそんなこと全く関係ない。
「思い上がるのも大概にしろ。お前が出来ることはお前の部下も大抵できる。私が良い手本だ。」
「潰れてしまったら俺は責任取れない!!」
「そうならないように一緒に苦労してやれ。安心しろ、お前はそんな糞上司ではない。」
その一言で俺はまた先輩に泣かされてしまった。
畜生、1年経っても全くこの先輩に勝てる気がしない。
先輩の言うように俺は部下を潰したくない、という大義名分の元部下の成長するチャンスを奪い、面倒なことは全部自分で対応していた。
結果、部下は育たず俺に複数の仕事が重なると組織としての機能は崩壊。業績は悪化の一途を辿る一方だった。
そうして週末だったその日、俺はそのまま日曜日の昼過ぎまで先輩に説教を続けられた挙句力尽き泥のように眠った。
夕方目が覚めたころには『頑張れ馬鹿弟子!』のメモを残して、既に先輩は既に居なくなっていた。
もっと本当は話したい事が一杯あったはずだが何も話せなかったがそれは次回だな。
翌週からは開き直って、まず朝礼で部下に謝罪した。今まで俺の問題で、心の底から皆の事を信用しきれていなかったみたいだ、と。
頼りない上司で申し訳ないが、これからも支えてやって欲しい、と頭を下げた。
すると、部署のNO2が一言、俺らも先輩次長と佐藤係長みたいに支え合っていきたい、と言われ少し泣きそうになってしまった。
それからは俺は遠慮も躊躇もなく部下に仕事を振りまくった。
部下たちは少しは遠慮しろ!と悪態を付くが皆一生懸命働いてくれて右肩辺りで業績は回復していった。
先輩も部下達もみんな本当にありがとう。
---
--
-
アルスとセニアと話し合った夜、先輩に教わった日本酒をチビチビと飲みながら前世の記憶をしみじみと振り返る。
そういえばあれが先輩との最後か…。
また一緒に酒を飲み交わしたかったなー。それだけが前世の心残りだ。
しかしあれだ、アルスとかセニア、四天王たちに偉そうに強い組織とは―、とか話しているけど全部俺の失敗談からだな。恥ずかしい。
気の良い魔族たちに、同じ轍は踏ませないよ。
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「おい佐藤、元気にやってるか?」
「あ、先輩!お久しぶりです!!戻ってくるなら連絡くらい下さいよー!」
「悪い悪いwただなー残念ながらアポイントでこっちに来ただけでアポ先から直帰しないといけないんだわ。飯はまた今度な。」
〇
入社直後、パワハラの権化みたいな上司の下に配属となった俺は、体力と根性だけは人並み以上にあった為か、『こいつなら大丈夫』と思われ理不尽な指導を受け続けていた。
元々メンタルに自信のあった俺は、自分に矛先が向いて周囲への被害が抑えられるなら、と文句一ついわずにサンドバッグになっていた。
そんな生活を過ごし入社から3度目の春、人事異動で上司が先輩に変わった。
環境に慣れてしまっていた俺は、パワハラ上司が異動することについて、嬉しいともなんとも思っていたかった。
先輩が俺の部署に来てすぐ、たしか先輩の机の上が片付いてなかったから移動日初日とかだったと思う。
「おーお疲れ様ー!外暑かっただろ。」
アポ先から戻ってきた俺に対して先輩から掛けられた何気ない労いの言葉。
最初自分が声を掛けられていると気付かなくて後ろを振り返った。
後ろには誰もいない。
どうやら新しい上司は俺に声を掛けているようだ。
お疲れ…様…?
理解するのに数秒を要した。
直後、
「お、おい!?どうした佐藤!」
いまいち自分でも理由はよくわからないけど俺は泣いていた。
無表情で涙を流すサラリーマンの姿は大層不気味だったと後に先輩は語っていたが、とめどなく涙が零れていたそうだ。
突然涙を流す俺に対し、咄嗟に先輩は肩を抱き外に連れ出す。
そんな気遣いもその時の俺には逆効果で、誰もいない喫煙所で俺は子供のように声を上げて泣いた。
どうやら自分でも気付かないうちに心が壊れていたようだ。
〇
どれだけの時間泣いていたのかわからないけど、その間誰も喫煙所に来なかったのは、今思えば先輩が人払いをしてくれていたんだろう。
「あーなんかすみません。お恥かしい姿を見せてしまいました。」
先輩が奢ってくれた温かくて非常に甘い缶コーヒーを飲みながら詫びを入れる。
「噂には聞いていたけどさ、前の上司が原因か?」
「………自分では認識していなかったんですが、さっきの自分のお恥かしい姿から考えると、やはりそうなんだと思います。」
「気付いてやれなくてすまなかったな…」
「…いえ……」
その日はそれ以上特に何も言われなかった。
後から知ったことだが、その日すぐに先輩は部署内で前任のパワハラ調査を始めてすぐに会社に告発した。
その上司は異動先で降格処分となったが、居ずらくなったのかその後すぐに辞めていった。
また、先輩は調査の中で部署内の同僚や後輩と1対1で話す際「助けてやれないまでも見て見ぬふりするな」と苦言を呈していたらしい。
俺は上司以外は周囲も被害者だと思っていたんだが、先輩からしたら間接的な加害者だったそうだ。
それから俺は、会社から休養を勧められもしたがそれを拒否。
厄介払いとかではなく本当に俺を心配してくれていることは伝わっていたが、そもそも俺自身自分の異変に気付いてすらいなかったくらいなので働くことを選んだ。
〇
半年後-
「「かんぱーい!」」
先輩に連れられてやっすい汚い居酒屋に連れて来られた。
「お疲れさん、A社さん受注出来て良かったなwおめでとう」
「いやー先輩に手伝ってもらったプレゼン資料のおかげですよ本当に。あんな細かく相手の気持ちがわかるのならもう少し俺にも優しく接して欲しいなと思いますけどねw」
「………」
「あ、嘘、冗談ですはい。感謝しかありませんので殴らないで下さい。」
俺は助けてくれた先輩の下で我武者羅に働いて、少しずつ心の傷も回復していった。
「憎たらしい奴め…そんな憎たらしいことが言えるんならあんな小物に負けてるんじゃねぇぞこの野郎。」
「……も、申し訳ありませんでした…す、少し調子に乗ってしまいました…」シュン
「あ、いや冗談だぞ?すまん」アセアセ
先輩が下を向き震える俺を心配そうに覗き込み、変な顔をした俺と目が合って今度こそ拳骨を落とされた。
前任にすら叩かれたことないのに!!
「大分元気になって良かったよ畜生。」
「あざすw」
この時になって初めて、あの頃の俺は壊れていたんだと自覚できるようになった。
あの頃は大変だった思い出も辛かった思い出も何も残っていない。
誰にも相談できずただただ毎日必死に生きていたんだと思う。
先輩の下で、ようやく仕事が非常に楽しいと感じられるようになった。
取引先からクレームを貰ったり、先輩にきつめに指導されることもある。なんなら指導される頻度は前任より増えたかもしれない。
でも先輩は絶対に俺の人権を否定しなかった。
その時納得できなくても一呼吸置いて考えると、全て俺の為に言ってくれている事がよくわかることばかりだ。
そうして俺は先輩に厳しくも優しく鍛え直されて、少しずつまともな社畜へと成長していった。
〇
さらに1年後-
「先輩今日は俺の奢りっすからね!今日くらいは俺出しますからね!!」ヒック
「わかったって!お前少し飲み過ぎだぞ?」
先輩の歴代最年少での次長昇進が決まった。
ちなみに先輩の後任は、先輩からの強い推薦もあり係長として俺が抜擢された。正直優秀な先輩の後釜は荷が重かったが、お世話になった先輩に恥をかかす訳にはいかない。
俺は自分のこと以上に、先輩が会社から評価されたことが本当に嬉しかった。
優秀な先輩が色々なハンデキャップを乗り越えて評価されたということは、会社としても年齢や他の問題に惑わされず正しい評価をしたことに他ならない。
先輩に対しても会社に対しても誇らしい気持ちで一杯だ。
そりゃあ飲みたくもなるわ。酒が美味い。
「佐藤よ、お前は少し責任感が強過ぎるからそれだけが不安だ。私の後任とかそんなのは気にする必要ないから、しっかり周りを頼るんだぞ?」
「大丈夫っすよー!なんてったって俺は先輩の一番弟子なんですからねー!栄転先の海外支部で俺の活躍楽しみにしてて下さい!!」ヒック
〇
またまた1年後-
「おい佐藤!しっかりしろ!!」
「しっかりしてなくてすみませんね。どうせ俺は先輩みたいに優秀じゃないですからね…。」ウィーヒック
「くさっ!お前ちょっと飲み過ぎだぞ!!」
先輩から引き継いだ部署を、俺は1年も経たないうちに業績を大幅に悪化させてしまった。
最初の上司を反面教師に、しっかり部下の話を聞きながらやっていたつもりだったのに。
俺の状況を人伝に聞いた先輩は、わざわざ貴重な有給を使って俺の元を訪れてくれた。
時差の関係で夕方日本に到着した先輩は、迷わずよく先輩に連れていかれた臭い汚い居酒屋で飲んだくれている俺を見つけてくれた。
「だーもう今日はお前飲むのやめろ!前と住所変わってねーよな?もう今日は帰るぞ!」
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ズキッ
「あー頭いてぇ…ん?なんでコーヒーのに…おい……」
ニッコリ
「夢じゃなかった!!申し訳ありませんでしたー!!」
色々な意味で居るはずのない先輩がキッチンで優雅にコーヒーを飲みながら俺に微笑みかけている。オワタ
本気で怯える俺を見て先輩は困ったような顔をする。
「お前は相変わらずだなまったく…だからあれ程周囲を頼れと言っていたのだがな。」ヤレヤレ
自分の身の回りを見て何もコトが起きていないかを確認。胸を撫で下ろしつつ悪態をつく。
「どうせ俺は先輩みたいに器用じゃないですか…ら………」
そこでようやく俺は気付く。
先輩は俺を心配してきてくれた訳ではない。
いや、大きな括りで考えれば心配はしてくれているんだが、これは俺に対する激しい怒りだ。ちびりそう。
「私に出来てお前に出来ないことは何だ?」
「…どのお偉いさんにも平等に失礼なくらい言い返すことです……」
「……お前の方が得意な事は何がある?」
「PC全般、小規模の商談、車の運転、部下からの相談、料理、掃除、クレーム処r
「もういいやめろ。」
先輩が涙目なのは気のせいだろう。
「俺は上司として頼りなかったか?お前に仕事を押し付けたか?」
「そんなことある訳ないじゃないですか!!」
先輩ほど頼りになる上司なんかいる訳がない。
大変な時は一緒に苦労してくれて嬉しいときは一緒に喜んでくれた。
ムカつく時も山ほどあるけど、先輩は俺の恩人だ。
冗談も休み休み言って欲しい。
「自分が出来ることは部下も大体出来るんだ。間違っても自分を特別だと思うなよ?」
「あ、当たり前じゃないですかそんなこと!!だから部下とよく話をしているんです。」
「じゃあなんで仕事を部下に任せない?」
自分でも分かっている一番痛いとこを突かれた。
「お前のやっていることは過保護な毒親となんら変わりない。いわゆる『優しい虐待』だ。何でもお前が対応して何もできない部下を作り上げているだけ。お前の後任、残された部下達、全員がお前の虐待の被害者だ。」
「じゃあどうしろって言うんですか!!無理にやらせて潰してしまったらどう責任とればいいんですか!!??」
わかっている、完全に逆切れだ。
が、本気で怒っている先輩にはそんなこと全く関係ない。
「思い上がるのも大概にしろ。お前が出来ることはお前の部下も大抵できる。私が良い手本だ。」
「潰れてしまったら俺は責任取れない!!」
「そうならないように一緒に苦労してやれ。安心しろ、お前はそんな糞上司ではない。」
その一言で俺はまた先輩に泣かされてしまった。
畜生、1年経っても全くこの先輩に勝てる気がしない。
先輩の言うように俺は部下を潰したくない、という大義名分の元部下の成長するチャンスを奪い、面倒なことは全部自分で対応していた。
結果、部下は育たず俺に複数の仕事が重なると組織としての機能は崩壊。業績は悪化の一途を辿る一方だった。
そうして週末だったその日、俺はそのまま日曜日の昼過ぎまで先輩に説教を続けられた挙句力尽き泥のように眠った。
夕方目が覚めたころには『頑張れ馬鹿弟子!』のメモを残して、既に先輩は既に居なくなっていた。
もっと本当は話したい事が一杯あったはずだが何も話せなかったがそれは次回だな。
翌週からは開き直って、まず朝礼で部下に謝罪した。今まで俺の問題で、心の底から皆の事を信用しきれていなかったみたいだ、と。
頼りない上司で申し訳ないが、これからも支えてやって欲しい、と頭を下げた。
すると、部署のNO2が一言、俺らも先輩次長と佐藤係長みたいに支え合っていきたい、と言われ少し泣きそうになってしまった。
それからは俺は遠慮も躊躇もなく部下に仕事を振りまくった。
部下たちは少しは遠慮しろ!と悪態を付くが皆一生懸命働いてくれて右肩辺りで業績は回復していった。
先輩も部下達もみんな本当にありがとう。
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アルスとセニアと話し合った夜、先輩に教わった日本酒をチビチビと飲みながら前世の記憶をしみじみと振り返る。
そういえばあれが先輩との最後か…。
また一緒に酒を飲み交わしたかったなー。それだけが前世の心残りだ。
しかしあれだ、アルスとかセニア、四天王たちに偉そうに強い組織とは―、とか話しているけど全部俺の失敗談からだな。恥ずかしい。
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