機械仕掛けの最終勇者

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第七章 新たな仲間

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「とっても凄い町なのです!」

 ネィムが小さな拳を胸の前で握りしめて、驚嘆の声を上げる。そして、輝久もそんなネィムの気持ちが分からなくもない。

 大剣を背に担いだ屈強な戦士。女性ながらに筋骨隆々な者。ピエロのような道化者など――ソブラの大通りは、逞しそうな戦士や奇抜な格好をした者達でごった返していた。ドレミノの町やプルト城周辺とは全く様相が違う。賑やかで騒々しくて、難度F世界のほのぼのした穏やかさは感じられなかった。

(急に風景、変わったな。そりゃそうか。中盤まですっ飛ばしてきたようなもんだからな)

 そんなことを考えていると、行き交う者達が輝久のパーティをチラチラ見ていることに気付く。

「見ない顔だな」
「子連れか」

 奇異の視線を投げられて、輝久が居心地の悪さを感じていると、三角帽子を被った恰幅の良いピエロが明るく声を掛けてきた。

「旅の人だね! アンタ、良いところに来たよ! 明後日は年に一度の武芸大会の日なんだ!」
「武芸大会? そんなの、あるのか」
「だから皆、準備に大忙しって訳さ!」

(道理で人が溢れかえってる訳だ)

 武芸大会と聞いて、輝久の胸は少し高鳴る。おそらくトーナメント方式で戦ったりしながら、一番強い奴を決めるのだろう。

「勇者様? どうされたのです?」

 ネィムが不思議そうに輝久の顔を覗き込んでいた。照れ隠しに輝久は笑う。

「いや『一番強い奴を決める大会』とか男なら、ちょっと燃えるじゃない?」
「そういうものなのですか! なるほどなのです!」

 するとピエロが首を横に振った。

「違う、違う。お兄ちゃんが言ってるのは『武闘』大会だろ? ソブラのは『武芸』大会! 各自が持っている特技を見せ合う大会なんだ!」
「特技?」
「剣で演舞をしたり、火を吹いて皆を楽しませたり、セクシーダンスで魅了したり……そうそう、前年の優勝者は剣を口から飲んで見せたなあ! いやぁ、アレは凄かった!」
「ああ……そういう感じのアレなんだ……」

 やはり、ほのぼの世界。熱いバトルや展開が待ち受けている筈がなかったのだ。少し肩を落とす輝久をピエロはウリウリと肘で突く。

「何だかんだ言いつつ、お兄ちゃんも出るんだろ? 面白そうなカラクリ人形、連れてるもんな!」

 ピエロはマキに視線を向けていた。唐突に、マキがパカリと口を開く。

「カラクリ人形でハありまセン。マキは女神デス」
「しゃ、喋った!? それに……め、女神だってえ!?」

 ピエロは素っ頓狂な声を上げて、輝久に向き直ると、

「女神の連れ……ってことは、お兄ちゃんは勇者なのかい!?」

 こくりと頷く輝久の手を、興奮した表情のピエロが両手でしっかと握った。

「こりゃあ、たまげた! 伝承の通り、勇者と女神がソブラに現れた! ユアンとクローゼに教えてやらなくちゃあ!」
「ユアンとクローゼ――それってもしかして、俺の仲間になる予定の人?」
「ああ! 二人共、勇者と行動を共にする使命を持った、選ばれし者なんだ!」
「ふんふん。で、ちなみにだけどその二人って、年はどんな感じ?」
「勇者様と同じくらいじゃねえかな! ユアンは優男で、クローゼはなかなかの別嬪だぜ!」

(よかった! 俺のパーティ、幼女しかいなかったからな!)

 輝久は内心、喜んだ。周りの者達から、ロリコンか、人さらいみたく思われているのではないかと心配だったのだ。

「ユアンもクローゼもきっと喜ぶよ! 子供の頃から、勇者様と女神様が来るのをずっと待ってたんだから! さぁ、付いてきてくれ!」



 ピエロに案内されたのは、コロシアムを彷彿とさせる、すり鉢状の円形闘技場だった。誰も居ない観客席を見上げながら輝久は呟く。

「舞台は結構、本格的っぽいんだけどなあ」
「二日後、此処で参加者達が、歌を歌ったり、腹芸をしたりと大道芸を繰り広げるんだ!」
「大道芸かあ……」

 せっかく雰囲気のあるコロシアムが台無しだと輝久は思った。しかし、ネィムは嬉しげに言う。

「とっても楽しそうなのです!」
「テルも腹芸でもしマスか?」
「何でだよ。しねえよ」
「ほら、勇者様! こっちこっち!」

 ピエロの後を追い、コロシアム裏の舞台袖のような通路を輝久達は歩く。すれ違う者達は皆、忙しない感じで荷物を運んでいた。きっと武芸大会の準備をしているのだろう。

「おっ、いたいた! ユアン! クローゼ!」

 不意にピエロが声を張り上げた。少し離れた場所で、蒼髪の青年と、赤髪の女性が二人一緒にソファを運んでいる。蒼髪の男がホッとした顔を見せた。

「ちょうど良かった! クローゼ、少し休憩しよう!」
「ったく。だらしねえなあ、兄貴」

(兄貴? 兄妹なんだ?)

 髪色も対照的な二人が、ソファの端を各々持っている。女の方が余裕の表情で、逆に男の方が運ぶのも精一杯といった様子だった。

「何だよ、ジュペッゼのオッサン! アタシら今、準備で忙しいんだけど!」

 赤髪の女が、ピエロを睨みながら、ソファをドサッと地面に下ろした。片側の支えが無くなり「うわぁ」と男がよろめく。

 仕事を邪魔されて仏頂面を見せた女だったが、マキに視線を向けた途端、表情を明るくした。

「おおっ! 立派なカラクリ人形だな!」
「うん! とてもよくできているね! これなら入賞、間違いないよ!」

 蒼髪の青年も笑顔を見せて言う。その刹那、マキが口を開いた。

「先程も言いましタが、マキはカラクリ人形ではありまセン。女神デス」
「しゃ、喋ったあ!? オモチャじゃねえのかよ!!」
「ご、ごめん! 僕もてっきり人形かと! ん……? ま、待って! 今、確か女神って……!」

 ピエロの格好をしたジュペッゼが満面の笑みを浮かべる。

「そう! こちらが、お待ちかねの女神様と勇者様だよ!」

 少しの沈黙。打って変わって神妙な顔付きになった二人は、ようやく言葉を発する。

「で、伝承の女神様と勇者様が遂にソブラに……!」
「おいおい……! マジかよ……!」

 蒼髪の男性が慌てた様子で輝久に近付く。

「は、初めまして! 僕はユアン! 職業は魔法使いで! えっと、火系の魔法が得意で!」
「あ、ああ、そうなんだ。よろしく」

 輝久は愛想笑いしつつ、ユアンと握手する。ユアンは輝久の笑顔を見て、少し緊張が解けたようだった。

「それから、こっちは妹のクローゼだよ!」
「兄妹なんだ? けど、髪の色……」
「僕は父さんに、クローゼは母さんに似たんだよ!」

 そう言って笑うユアン。輝久は改めて二人を見る。髪の色も真逆なら、顔も性格もあまり似ていない。ユアンは穏やかな人相の通り、人懐っこい感じである。対して、クローゼは美人だが、ツンとすましているように思えた。

「ほら、クローゼ。挨拶して」

 ユアンに言われ、クローゼはまずマキの前に歩み寄り、目を細める。

「コレが女神かあ。思ってたのとだいぶ違うなあ」
「よく言われマス。よろしクお願いしマス」
「おう。じゃあまぁ、よろしく」

 マキに対してニカッと笑った後、クローゼは険しい表情に戻り、輝久の前にズイッと歩み寄る。

 輝久は長身のクローゼを見上げた。

(幼女ばっかはイヤだと思ってたけど……こ、これはこれで……!)

 クローゼは輝久より10センチ以上、背が高かった。無造作でボリュームのある赤毛は、軽装鎧から覗く、くびれた腰辺りまで伸びている。

 海外モデルのような体型のクローゼだったが、更にもう一つ、大きな特徴があった。

(で、でかい……!)

 今、輝久の目前にはクローゼの巨大な胸があった。輝久は急に恥ずかしくなって、軽くGカップを超える胸から視線を泳がせる。

 クローゼはクローゼで、ユアンとは違う鷹揚な態度のまま、輝久の頭から爪先までを見定めるように眺めていた。

「勇者っていうから、筋骨隆々の戦士タイプを想像してたんだが……腕も細いし、女みてーだな! 兄貴よりひょろいのは初めて見た!」

 クローゼはにやりと口角を上げる。ユアンが焦った表情になって、妹を窘める。

「クローゼ! 失礼だよ!」
「ハッハッハ! 魔法使いの兄貴と違って、アタシは戦士職だ! これからよろしくな!」

 快活に笑った後、バーンと背中を叩かれる。「わっ」と輝久が叫ぶと、クローゼはまた楽しそうに声を上げて笑った。

「なぁ。名前、何てんだ?」
「お、俺は……」

 長身から来る威圧感と傍若無人な態度に戸惑い、すぐに言葉を返せない輝久に変わり、マキが口を開く。

「名称は草場輝久デス。長いノで省略して、テルと呼んでくだサイ」
「いや、何でお前が言うんだよ!」

 輝久は叫ぶが、マキは既にネィムを指さしている。

「こちラの小さイお子様はネィムデス。そのままネィムと呼んでくだサイ」

 だから何でお前が言うんだ。あと、お前だってお子様だろ。輝久は思ったが、ネィムは特に気にする様子もなく、笑顔でクローゼとユアンに深々と頭を下げた。

「ネィムと言いますです! ヒーラーをしてますです! よろしくお願いしますです!」
「こちらこそ、よろしくね!」

 ユアンが優しげに微笑み、クローゼが大きく頷いた。

「人形みたいな女神がマキで、ちっこいヒーラーがネィム。そして、勇者がテルか。覚えたぜ」
「って言うか、呼び捨てで良いのかな?」

 不安げなユアンに輝久は言う。

「それは全然、構わないけど」
「じゃあ、テル! よろしく!」

 ユアンが爽やかな笑顔を見せた。愛嬌のある優しげな顔付きの好青年である。うん。ユアンとは仲良くなれそうだ。

 だが、そう思った瞬間、クローゼが馴れ馴れしく輝久に肩を回してくる。

「ちょ、ちょっと!?」

 密着されて、独特な女性の匂いと、鎧の上からでも分かる二つの柔らかな感触に戸惑う。そんな輝久の気持ちなど知る由もないように、クローゼは楽しげに笑う。

「テルは弱そうだから、アタシが守ってやるよ!」
「はぁ!? 守るとか、何でそんな!!」
「いや、テル。それが僕達の使命なんだ」
「し、使命?」

 クローゼが輝久から離れると、ユアンは少し真剣な顔付きになって言う。

「僕とクローゼはガーディアンの一族なんだ。この世界に現れる勇者を守る使命を持った一族さ」

 確か、ネィムも勇者が来るのを待っていたと輝久は聞いていた。この世界には、どうやらそういった感じの勇者伝説があるらしい。

(だからって、勝手に守るとか言われても困るんだけどな)

 自分は一応は勇者の筈。普通に考えれば、パーティのリーダー的存在だ。なのに、クローゼとの間で上下関係が決まってしまったようで、輝久は何だかやるせない。

「それでな、テル。アタシらも魔王を倒す冒険に一緒に行ってやりたいんだが、あいにくと明後日は武芸大会だ。年に一度のお祭りみたいなもんなんだよ」

 クローゼは腕組みしながら、話を続ける。

「だから、武芸大会が終わるまでソブラに残りな! ぶっちゃけ、農作物盗む魔王を倒すより、祭りの方が大事だかんな!」
「えええええ……! そんなハッキリ……!」

 輝久が驚いていると、隣のアンドロイドもコクコクと頷く。

「果物を守ルようナ、やり甲斐の少なイ旅デスからネ。後回しになるのハ、やむを得なイといっタところでショウ」
「お前が言うな!!」
「よし! じゃあ、魔王討伐は祭りが終わってからだ! それで良いよな、テル!」
「わ、分かったよ……」
「ごめんね、テル」

 ユアンは申し訳なさそうな顔だったが、クローゼはやはり快活に笑う。はぁ……こんな感じじゃ、勇者も何もあったもんじゃないよな。

 軽く落ち込む輝久に気付いたようで、ネィムが明るい声を出した。

「で、でも、勇者様は、この町で盾を手に入れなければならなかったのです! だから、ちょうど良かったのだと思いますです!」
「言われてみれば、それもそうか」
「ああ? 勇者の盾って、ひょっとしてアレじゃねえか?」

 クローゼが不意に指さした通路の端には、ゴミ袋が沢山積んであり、そこに盾っぽい物が置いてあった。輝久は驚いて叫ぶ。

「勇者の盾、随分、無造作に置いてんな!? ゴミと一緒に、埃かぶってってけど!?」
「ソレ、デカくて重くて、邪魔だったんだよ!」

 クローゼに続けて、ユアンも躊躇いがちに言う。

「前に何かの煮汁を零して、そのままで。だから、少し臭いかも知れないね」
「そんな盾、いらねえわ!!」
「ゆ、勇者様! 勇者の盾は、魔王の果汁飛ばし攻撃を防ぐ時に必要になりますです!」
「そんなの別に勇者の盾じゃなくて良いだろ! 重いわ、盾だと!」

 ネィムに叫んでいると、クローゼが、閃いたとばかりに人差し指を立てる。

「そうだ! その盾、武芸大会の賞品に加えようぜ!」
「どうしてタダで貰える筈だった物が賞品になるの!? おかしくない!?」
「だって、その方がテルだって燃えるだろ! 面白いじゃんか! なっ、なっ!」
「えええ……!」

 驚愕の輝久。ユアンが軽く輝久の肩に手を載せた。

「ま、まぁ、武芸大会には僕達も出場するから! それに、もし違う人が入賞しても、高い確率で『別にいらない』と言うと思うから、譲って貰えるよ!」
「そんな誰もいらないもん、俺だっていらないんだけど!」
「ハッハッハ! 決まりだな! 一緒に武芸大会、頑張ろうぜ、テル!」

 クローゼの悪ノリで勇者の盾が賞品にされてしまった。開いた口が、ふさがらない輝久。そんな輝久の手を、不意にクローゼが掴んでグイと引いた。

「な、何だ!?」
「準備ついでに町を案内してやるよ! 付いてきな!」



 クローゼに連れ出され、輝久達一行は円形闘技場の外にいた。闘技場の周りでも、人々が荷物の載った台車を引いたりして、慌ただしく武芸大会の準備をしている。輝久が驚いたのは、沢山の出店が通りに並んでいることだった。

 日本の夏祭りみたいだな、と輝久は思う。無論、りんご飴や射的などの出店はないが。

「当日は、酒を飲んだり、肉を食ったりしながら観覧すんだ!」

 クローゼが輝久の隣で楽しげに言う。クローゼの言った通り、酒瓶を並べて用意している店や、ケバブ屋のような装いの店もあった。ユアンがクローゼの話の後を続ける。

「食材なんかの準備も必要なんだ。もうあと二日だからね。結構、バタバタなんだよ」
「ふーん」
「なぁなぁ! ところでテルは何すんだ? 腹芸でもすんのか?」
「しねえし!」

 するとネィムがポンと手を打った。

「勇者様は、マキちゃんと一緒に出場すれば良いと思いますです!」

 言われて、輝久はマキを見る。

(そうだな。マキが首を外したり、バラバラになれば……)

 前回は、剣を飲み込むマジックを見せた者が優勝したとピエロが言っていた。それなら、マキが分解すれば、簡単に入賞できそうだ。どちらにせよユアンいわく、優勝してもしなくても盾は貰えるらしいのだが。

「ユアンとクローゼも出るんだよな?」

 輝久が尋ねると、クローゼは背負った大剣を体を傾けて見せる。

「もちろんだ! アタシは大剣で演舞! 兄貴は新しい火炎魔法を披露するんだ!」

 ユアンは笑顔で頷いた。クローゼが両拳を握りしめ、感極まったように声を振り絞る。

「ああーっ、武芸大会が楽しみだ! アタシ、血湧き、乳躍ってんぜ!」
「ち、血湧き、肉躍るだよ、クローゼ!」
「知ってるよ、兄貴! 血も肉も乳も踊ってるってこった!」

 どんなことだよ、と輝久が呆れた表情を見せると、クローゼはにやりと笑って、豊満な胸を張って見せた。

「どうだ! 触ってみるか、テル!」
「はぁっ!? い、いきなり何だよ! いいって、そんなの!」
「遠慮すんなって! 男は皆、オッパイ触りたいもんだろ!」
「俺は! べ、別にっ!」

(つーか、触れる訳ないだろ! アンタの兄貴も幼児も見てんのに!)

 だが、ジリジリ迫るクローゼ。不意にマキが間に割って入った。

「せっかクのご好意を無駄にしテはいけまセン」

 そしてマキはクローゼの胸に小さな手を近付けて、フニフニする。

(な、何やってんの、この子……!)

「大きクて張りガあルのに、柔らかいデス」
「ハッハッハ! そうだろ!」

 マキに胸を揉まれて、満足げなクローゼ。輝久が愕然としていると、何とネィムも無邪気にクローゼの胸を触りだした。

「ホントです! とってもフワフワしていますです!」
「だろ、だろ! なぁなぁ、テルも触ってみろって!」
「良いってば!」
「クローゼ。よしなよ。テルが嫌がってるよ」
「何でだよー! 金なんか取らねえからよー!」

 そしてクローゼは酔っ払いが絡むように、輝久の肩に腕を回してくる。

「だ、だから止めろって……うん?」

 先程も感じたクローゼの匂いに、輝久は顔をしかめた。クローゼも輝久の異変に気付き、不思議そうな顔をする。

「あ? どうした、テル?」
「いや……ちょっと……汗臭い……」
「んんーっ?」

 クローゼが離れて、自分の脇の辺りをクンクンと嗅ぎ出した。ユアンがクスッと笑う。

「クローゼは、武芸大会の準備で数日、湯浴みしてなかったからね」

 すると、クローゼは大声を出して笑う。

「ワーーーッハッハッハ!! アタシ、フェロモン出ちゃってたかあ!?」

(わ、ワイルドすぎる……!)

 クローゼの見た目は、胸も大きくて身長も高く、モデルのような体型である。顔だって悪くない。だが、問題は性格だ。輝久自身、これまでこういうタイプの女性に出会ったことがないのもあって、若干引いていた。

 そんなクローゼとユアンを眺めながら、マキが呟く。

「強そうナ仲間ができテ良かったデス」
「はい! 優しいお兄ちゃんと、頼れるお姉ちゃんができたみたいです!」

 ネィムもそう言う。ユアンに関しては同意だが、クローゼは苦手なタイプかも、と輝久は思った。

(ワイルドを通り越して、何かガサツなんだよな……)

 輝久の気持ちなど意にも介さぬ様子で、クローゼは誰にともなく言う。

「もし時間あるなら、準備、手伝って欲しいんだけどなあー!」
「あっ、はい! お手伝いしますです!」

 やる気満々のネィムだったが、輝久は慌てて首を横に振った。

「いやいや、ネィム! そろそろ日も落ちて暗くなる! 宿屋に行こう! マキだって疲れたろ? なっ!」
「マキは全然平気デスけどモ……」
「ダメだって! ホラ、アレだ! オイル的なものを関節に注さなきゃ!」
「今日はお股の調子もよク、オイル漏れはしテいまセンが」
「いいから行くぞ! じゃあな、ユアン、クローゼ! また明日!」
「う、うん。じゃあ、また明日」
「おう! またな、テル!」

 大きく手を振るクローゼ。ネィムとマキもクローゼに手を振り返したが、輝久はそそくさと、この場から立ち去ったのだった。
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