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第?章 黒の長卓
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それは端の見えない漆黒の長卓だった。周囲が薄暗いこともあって、先の方は全く窺い知れない。卓の端に近付く程に闇は深くなっている。
覇王と呼ばれる異形の者達が、卓の色と同じ黒き椅子に腰掛けていた。邪悪に満ちた声が行き交うようにして聞こえる。
「よもや不死公ガガが倒されるとは」
「かつて一つの世界を牛耳っていた覇王が倒されるなど、本来ありえぬことだ」
「つまり、そこから導かれる結論は一つ」
「勇者と女神は、繰り返しの時を知悉している」
姿の見えぬ者達のざわめきが高まっていく。何者かが怒声を張り上げた。
「時の覇王! どうなっている! 決して気付かない筈ではなかったのか!」
少しの沈黙の後。長卓の奥の方から、女性の微かな笑い声が聞こえた。
「ご安心を。『可逆神殺の計』が、順調に推移しているからこその結果です。これは予想していたこと。追い詰められた鼠の、死に際の抵抗に他なりません」
静かで冷徹。それでいて自信に満ちた声に周囲の喧噪は鳴りを潜める。女の声が続く。
「今が何度目の繰り返しの世界なのか――詳細は『天動地蛇の円環』のみが把握しており、この私にも知ることはできません。しかし、おそらくは六万回を超えていると思われます」
「六万……!」
覇王の一人が驚嘆の声を上げた。またもや、ざわめきが起きたが、先程とは違い、歓喜が入り交じっている。
「我らの悲願に近付いているということか!」
「ああ! 66666回が待ち遠しい!」
「そうだ! そうなれば……!」
愉悦の声を遮るように、女の声が暗闇から響く。
「六万を超える繰り返しの世界で死を繰り返せば、勇者の魂も罅割れる。罅割れ出来た魂の傷に、残らぬ筈の記憶が残滓として残った――今回のことはそういうことなのでしょう」
そして女――『時の覇王』は押し殺したような声で笑う。
「あと、ほんの一押しです。終わりは近い。これは大変に喜ばしいことです」
時の覇王の言葉に、乾いた拍手をする者もあったが、中には疑心の声を上げる者もいた。
「勇者と女神が繰り返しの時を知悉しているなら、何らかの対策が必要なのではないか?」
「あああああん!? そんなもん、関係あるかよおおおおおおお!!」
時の覇王が答えるより先に、卓の末端に腰掛けている者が下卑た声で叫ぶ。
「オデは今すぐ、勇者と女神を殺したくて殺したくて仕方ねえんだあああああああ!!」
暗闇に僅かに浮かび上がったのは、泥色の醜い巨体だった。その周りの席からも、血気盛んな覇王達の声が木霊する。
「私も見たい! 勇者の血が! 女神の裂ける肉が! 見たい、見たい、見たい!」
「そうだ! 早く『目玉』を転がせ!」
時の覇王は、くぐもったような笑い声の後、
「分かりました。それでは……」
――ことり。深い闇に包まれた、黒の長卓の端で小さな音がした。続けて、球体が転がる音が聞こえてくる。
「児戯の如し。しかし、公平です」
時の覇王が言う。長卓には溝があり、そこを陶器でできた目玉が転がっていた。
やがて目玉は先程、声を張り上げた泥色の怪物の前で止まる。
「ぐひひひひひひひ! 俺の番だあああああああああああ!」
歓喜の満ちた声とは逆に、他の覇王達の舌打ちが聞こえた。時の覇王が言う。
「ご安心を。知覚は出来ませんが、六万回もの繰り返しの世界では既に皆様、勇者と女神を何度も殺している筈ですので」
「おぉん? そうなのかあああああ? オデは、あんまり言ってること、よく分かんねえなああああ! けどよおおおおおおお!」
黒の長卓の末端。泥の巨体が、のそりと漆黒の椅子から立ち上がった。
「この侵食のボルベゾが!! 勇者と女神を!! いいや、世界丸ごと!! 全部、全部、全部、侵食してやるうううううううう!!」
覇王と呼ばれる異形の者達が、卓の色と同じ黒き椅子に腰掛けていた。邪悪に満ちた声が行き交うようにして聞こえる。
「よもや不死公ガガが倒されるとは」
「かつて一つの世界を牛耳っていた覇王が倒されるなど、本来ありえぬことだ」
「つまり、そこから導かれる結論は一つ」
「勇者と女神は、繰り返しの時を知悉している」
姿の見えぬ者達のざわめきが高まっていく。何者かが怒声を張り上げた。
「時の覇王! どうなっている! 決して気付かない筈ではなかったのか!」
少しの沈黙の後。長卓の奥の方から、女性の微かな笑い声が聞こえた。
「ご安心を。『可逆神殺の計』が、順調に推移しているからこその結果です。これは予想していたこと。追い詰められた鼠の、死に際の抵抗に他なりません」
静かで冷徹。それでいて自信に満ちた声に周囲の喧噪は鳴りを潜める。女の声が続く。
「今が何度目の繰り返しの世界なのか――詳細は『天動地蛇の円環』のみが把握しており、この私にも知ることはできません。しかし、おそらくは六万回を超えていると思われます」
「六万……!」
覇王の一人が驚嘆の声を上げた。またもや、ざわめきが起きたが、先程とは違い、歓喜が入り交じっている。
「我らの悲願に近付いているということか!」
「ああ! 66666回が待ち遠しい!」
「そうだ! そうなれば……!」
愉悦の声を遮るように、女の声が暗闇から響く。
「六万を超える繰り返しの世界で死を繰り返せば、勇者の魂も罅割れる。罅割れ出来た魂の傷に、残らぬ筈の記憶が残滓として残った――今回のことはそういうことなのでしょう」
そして女――『時の覇王』は押し殺したような声で笑う。
「あと、ほんの一押しです。終わりは近い。これは大変に喜ばしいことです」
時の覇王の言葉に、乾いた拍手をする者もあったが、中には疑心の声を上げる者もいた。
「勇者と女神が繰り返しの時を知悉しているなら、何らかの対策が必要なのではないか?」
「あああああん!? そんなもん、関係あるかよおおおおおおお!!」
時の覇王が答えるより先に、卓の末端に腰掛けている者が下卑た声で叫ぶ。
「オデは今すぐ、勇者と女神を殺したくて殺したくて仕方ねえんだあああああああ!!」
暗闇に僅かに浮かび上がったのは、泥色の醜い巨体だった。その周りの席からも、血気盛んな覇王達の声が木霊する。
「私も見たい! 勇者の血が! 女神の裂ける肉が! 見たい、見たい、見たい!」
「そうだ! 早く『目玉』を転がせ!」
時の覇王は、くぐもったような笑い声の後、
「分かりました。それでは……」
――ことり。深い闇に包まれた、黒の長卓の端で小さな音がした。続けて、球体が転がる音が聞こえてくる。
「児戯の如し。しかし、公平です」
時の覇王が言う。長卓には溝があり、そこを陶器でできた目玉が転がっていた。
やがて目玉は先程、声を張り上げた泥色の怪物の前で止まる。
「ぐひひひひひひひ! 俺の番だあああああああああああ!」
歓喜の満ちた声とは逆に、他の覇王達の舌打ちが聞こえた。時の覇王が言う。
「ご安心を。知覚は出来ませんが、六万回もの繰り返しの世界では既に皆様、勇者と女神を何度も殺している筈ですので」
「おぉん? そうなのかあああああ? オデは、あんまり言ってること、よく分かんねえなああああ! けどよおおおおおおお!」
黒の長卓の末端。泥の巨体が、のそりと漆黒の椅子から立ち上がった。
「この侵食のボルベゾが!! 勇者と女神を!! いいや、世界丸ごと!! 全部、全部、全部、侵食してやるうううううううう!!」
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