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Another Day 2 【こんばんは~泥棒じゃないです】

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 透たちは桜とペギーたっての希望により、自動車の運転の練習をしていた。日が傾いた頃には二人共、かなり上達していた。

「馬よりは全然楽ではないか」
「意外に簡単よ、透」
「まあ、この辺じゃクランクとかS字なんて無いから楽だろうけど、お前ら運動神経良すぎ! ボルボでブレーキドリフトとかできんの? 始めてみたわ!」

 透のツッコミが終了した頃、ルーが戻ってきた。

「いいって、父さんが!」
「そうか、もうすぐ日が暮れそうだから、車で行こう。ルーも乗ってけ一人ぐらい大丈夫だよ」
「うーん!」

 ルーは一番後ろのユイとナインのいる席に座った、体が小さい三人なので特に問題は無いようだった。ユイとルーはしっぽを振りながら、ジブリを見ている。

「すごーい、箱の中で絵が動いてる!」
「ああ、アニメな、これ、首にかけなユイみたいに、言葉が解るようになるから」

 透は助手席に座り?ユイに骨伝導通信機を渡す。ユイはそれを受け取りルーにつけてあげる。
 ちなみに運転は桜が担当している。アリスの探査によってアップデートされたナビが集落の場所までの道程を案内している。

「すごいすごい! 何言ってるのかわかるようになった!」

 ルーはぴょんぴょん跳ねながら後部モニターに釘付けになっていた。

「こらこら、あんまりはねんな! 危ないぞ」
「はーい、ごめんなさい」

 しゅんとするルーに、透はやられていた。しかしやられているのは透だけではなかった。

「ルーちゃんかーいーわ、可愛すぎるのですわ!」
「まさかの女王様にセリフ取られた!」

 そんな他愛もない会話をしながら、一行は白狼族の集落へと入っていく。林の中の少し開けた場所に集落はあった。茅葺屋根のような木造の住宅が何件か建ち並んでいた。透たちが着いたのはもうすぐ夜になる頃で、白狼族の人たちは仕事を片付け家へと帰る所だったのだろう、何人かの狼が二足歩行でせわしなく動いていた。そこにやって来た見た事もない乗り物に驚いて、足を止める者もいた。
 透たちは車を停め、ドアを開け外に出ると、ルーが勢いよく駆け出していき、

「とうさーん! 友達連れてきたよー! ワオーン、オーン」

 途中から人化をとき、狼の姿になって走っていく。

「こんばんは~」
「どろぼうなのです! ガオーーン! グオオオン! オン!」

 いきなりユイは嬉しくて獣化した。3メートル以上ある銀狼に、白狼の者たちは恐れ多き、しっぽを丸め震え始めた。

「ユイ! 泥棒じゃないから! みんな怖がっちゃってるから! やめてあげて! て言うかユイもかよ! ジブリすげーなホント」

「おおん? 泥棒じゃないです! お友達なのです!」

 もとに戻ったユイは、ルーと手を繋いで、ルーの父親に挨拶をする。
 透たちも一緒に来たことで、ルーの父親も人化して出迎える。

「魚と干し肉ありがとうございます。助かります」
「いやいや、こちらこそ急にお仕掛けて申し訳ない。族長の方はどなたですか? ご挨拶させてください」
「ああ、私です。 ルーの父親でこの白狼族の族長ルーパといいます。」
「あそうですか、申し訳ない。俺は透、でこちらがエルフ族の女王陛下アライア様です。そして隣が王女様アリエル。それからマーガレット男爵様、隣が桜とナイン。そんでこの小さいのがアリス。さっきでっかくなったのが銀狼族族長の娘さんのユイですねっと……なんかよく考えたらすごいメンツだなオレら」
「ホントすごいわよね! 今更だけど。でもいつも知り合うのが属長の娘ってのはどうなの?」

「そこはほれ、テンプレってやつだな」
「便利ね、その言葉」
「まあ確かに」
「でも銀狼族とは初めて見ました。あんなに大きいとは驚きです」
「おとさんはもっと大きいのです!」

 何気ないユイの言葉にルーパは空いた口が塞がらなかった。

「父さん、家に招待していーい?」
「は、そうでした、私の家でよろしければ、どうぞお上がりください」

 一行はルーパに連れられ、この集落では大きめの家へと案内される。入り口を開け、中にはいると銀狼族とは違い洋風の作りになっており、透たちもブーツの底を拭いてそのまま入っていく。

「ワオ、ワオーン」中から一人の狼人が出てくる。透たちに気付き、自身も人化し、
「おかえりなさい、お客様ですのね、ようこそいらっしゃいました。狭いところですけど、ごゆっくりしてください」
「お構いなくですわ」
「そうでござる、突然で申し訳ないでござる」

 アライアとアリエルがそう答える。

「私は、ルーポと申します。ルーの母でございます。どうぞ、こちらに」

 そう言って比較的大きめのテーブルが置かれている部屋に通され、思い思いの場所に着席する。

「お茶をお出ししますね」

 ルーポは奥の台所であろう部屋へと消え、ルーパとルーもイスに座った。

「このような所にどういったご要件ですかな?」

 ルーパに聞かれるとユイが、

「同じ狼族の人に会ってみたかったのです!」
「そそ、ユイの希望でこちらにお邪魔したんですよ、リザード族のヌータウさんに聞いたんです」
「ヌータウ殿か、なるほど、あちらは大丈夫でしたかな? 何やら南の種族と争いの真っ最中だったのではないですか?」
「多分、暫くは向こうも被害が大きかったんで攻めてこないと思いますよ」
「おお、それは良かった」

 そんな会話をしていると、ルーポさんが陶器の湯呑ぽい物と急須のような物を持って戻ってきた。

「あれ? 陶器じゃない? これはこちらでつくっているんですか?」

 桜は陶器がある事に驚き、そう尋ねる。

「はい、私たちで作っていますのよ、大きな窯がありますの」
「ヘー、すごいですね。結構文化的なんですね、皆さん」
「それほどでもないですわよ」

 そう言いながら、ルーポは湯呑にお茶を注いでいき、透たちへと振る舞われる。

「こ、これは!」
「ええ、これは! 緑茶ね!」

 日本人の二人は久しぶりの緑茶に驚き、喜んだ。

「まさか異世界で緑茶に出会うとは!」
「ホント、久しぶりだわ」
「確かに変わったお茶だな、爽やかな味だ」
「ええ、そうですわね」
「ユイのところにもないです! うちのはこの葉っぱを煎るのです」
「ほうじ茶だね、それってやっぱりユイちゃんのとこも和風だね」
「ですです」
「皆さん、今日は家に泊まられますかな?」
「もしよろしければですけどね?」

 ルーパの問いに透が答える。

「よろしいも何もルーのお友達ですから、遠慮なさらずに」
「では遠慮なくお言葉に甘えさせて頂きますわ」

 アライアもそう答え、そこで透が、

「では、そのお礼と言う訳ではないけど、夕食を俺とさくらが作りましょう!」
「それいいですです! ユイも手伝うですです」
「んじゃ、そういうこって、台所少し借りていいですか?」
「構いませんけど、よろしいのですか?」
「大丈夫ですよ、透はこう言うの好きだから」

 そう桜は言って三人で台所へと歩いていった。

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