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OUT OF DAY7 【晴れのちブルーボーイ】 言いたい事はヤシの実のなかあー

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 クルーエル帝国、地下牢獄。一人の若者が首に隷属の首輪をつけ、体育座りで項垂れていた。

「僕は何をしているんだ、早くうちに帰りたい……」

 そこに国王の側近、シリウスが姿を見せる。

「勇者“イツキ”よ私と一緒に来るのだ」

 そう、彼の名前は有海 樹ありうみ いつき日本から無理召喚された勇者である。

(行きたくなくてもなぜか逆らえないんだよな魔法かな?)

 樹は隷属の首輪せいで逆らえず、牢をでてシリウスについていく。そして帝国軍一万の兵が待っている広場へとやって来る。そこで樹はミスリル銀のプレートメイルに着替えさせられ、原稿を渡される。

「これを皆に向かって読むのじゃ、そしてリオン資本主義連合国に出兵するのじゃ!」

(今から戦争するっての? 嫌なのに逆らえない)

 抵抗を試みるが、声も体も言う事を聞かず、壇上へ足が勝手に動いていく。

「皆のもの! リオン資本主義連合は我々、帝国を滅ぼそうと進軍している! このままでは我が帝国の民衆が犠牲になってしまう。いまこそ帝国軍の力を発揮するときだ! 私とともにリオンを止めようではないか! この勇者と共に国民を悪鬼から守ろうぞ!」

「「オオーー!!」」

 スラスラと言葉が出てくる自分に嫌気がさすのだが、まったく体は反応してくれない。樹はそのまま壇を降りた。
 リオン資本主義連合国は帝国と西大森林を挟んだ向かい側にある小国群が商業を基盤として一つにまとまり国家を形成している。決して他の国を侵略するような国ではないのである。だが帝国は経済的に潤沢なその国を欲していた。

 クルーエル帝国はもともと小さな国に過ぎなかったが侵略により西大森林の北側の小国群を次々に吸収し大国にまでなったのだが、豊国の為の政策をしていなかった。商工業を発展させ流通による利益を得ようとはせず、利益は他国から奪えばよいという考え方だった。

 国民にとっては、国が大きくなっても生活は何も変わらず貧しい暮らしを強いられる事に不満を募らせるだけであった。その不満が国王たちに向く前に他の国を悪者にしておうという考えもあったのだ。
 そして、進軍が始まる。勇者を先頭に、帝国中央軍一万人と市民軍二万人の大軍による行進が始まった。



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「大変です! 首相! 帝国軍が大森林に向かって進軍始めたそうです」

 リオン資本主義連合国は、技術と生産を発展させ商業的にこの世界では一番の国である。言うところの地球の先進国に近い形なのだ。各小国は郡となり各郡を納める代表がおり、その上に国会があり首相がいる。

 報告しているのは防衛軍の大将である。

「我が軍のワイバーン部隊の哨戒によると帝国首都より三万の軍勢が出立したとのこと、尚、先頭に勇者らしき者がいるとのことです」
「それは本当の事なんだな? 我々の勢力で彼らの撃退は可能なのかね?」
「魔導銃は使えますが、すべての兵士には割り当てられません。魔導砲はまだ実用段階ではありません。そして、大森林側に向かえる兵は一万五千が限度です」
「それはまずいですね、樹園からの大使とマリオン王国の大使に連絡してください。できれば救援をと」
「わかりました」

 大将が出て行く。首相はすぐに内閣の招集にはいった。

「なぜこんなことになったのでしょうね……」

 事態は急を要する方向へと向かっていた。未だ透たちは勇者が誰か知らない、それが桜の弟であるという事はまったく考えていなかった。そればかりか戦争に向かって動いていることもまだ知らないのだった。

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