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第2章・・・代償

43話・・・ティアマテッタ17・サバイバル訓練2

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休憩を挟みつつ、話し合った結論はここを本拠点として陣地にすることに決めた。
もっといい場所を見つけるとしても、移動するにしても無駄な労力はなるべく控えたかった。
また、逃げることになってもテントは五人分ある。テントは捨てて、食料と武器だけでも死守することに決める。

「それじゃあリアム君、シレノ君、ゾーイさんはテントの設営をお願いするね。僕とブレイズ君は罠を設置してくるから」

「罠仕掛けるのに二人で大丈夫?」シレノが心配する。

「うん。少ない方が見つかった時にすぐ行動に移せるし、統率も取りやすいし…僕等が囮になっている間に三人は攻撃なり逃げるなりできるし。それに陣地を襲撃されたときの方が三人でいた方が強力だと思って」

「そうだな。マシューにブレイズが着いてりゃ馬力にはなるか」

「それは褒めているのか?バカにしているのか?どっちだリアム」

ブレイズがリアムに向かいフシャ―!と威嚇する。

「し、信頼してくれてるんだよ、ブレイズ君。じゃあ、行ってくるね。罠の配置については戻ってきたらデータで送るね」

「おぉ、頼んだ」

マシューとブレイズは簡易スコップや軍から支給されたトラップ品と自前のトラップグッズが入った袋を持ち森の中へ進んでいった。

「マシューの奴、自前で罠持ち込んでたな」

「自分が弱いと理解している子の方が自衛意識は強いかもね。迎え撃つより、逃げ道や生き延び方を計算する。…マシューを見てたら、荷物が多くなるのがネックだと思うけど」

「そういうなって。もしかしたらプラマイゼロになるように工夫してるかもだろ。アイツ、金属性だし」

「まぁ、そうね」

「それじゃあリアム君、ゾーイさん、テント設営始めようか」

「そうだな。あー…ゾーイは見張りを頼んでいいか?」

「あら、力仕事は任せちゃっていいの?」

ゾーイが揶揄い気味に訪ねてくる。

「見張りがいないと困るだろ。テント設営に気取られてて背後から襲われるとか嫌だろ」

「確かに」シレノが笑う。

「冗談よ。見張りは任せて。テント設営より得意だから」

そう言うと、ゾーイは木に登り、双眼鏡、小型カメラを反対側の幹に装着させた。
暫く沈黙が続き、リアムもシレノも黙々とテント設営に励む。時々、合っているかの確認する声だけが聞こえる。
ゾーイは沈黙が苦手な訳ではなかったし、見張りに専念しなければならないことも重々承知だ。しかし、この一ヶ月間常に緊張状態にあり、今も模擬戦とはいえ気が許せるメンバーしかいない。
そうなると、多少の余裕も出てくるし、今まで喋ってこなかった意欲が湧いてくるもので。

「…ねぇ、男性って物事に集中すると黙る、二つのことが出来ないって訊いたことあるんだけど、どうなの?今もテント設営に熱心だけど」

「え?あー、どうなんだろう、意識した事ねぇな。シレノはどうだ?」

「僕は…苦手かも。集中したい方だし」

「ふーん…。じゃあ、セックスする時もだんまりな訳?」

男子二人は吹きだす。

「急にどうした?????」

リアムが動揺する。こんなこと言うキャラには見えなかったからだ。

「気になるじゃない。二人はちゃんと女の子を褒めてあげるの?それとも無心に腰を振っているの?」

「言い方」

「そういうゾーイさんは?マグロとかじゃないから質問してくるの?恋人に愛でも囁かれたりするの?」

シレノが言い返す。

「私は処女だもの。だから二人に訊いたのよ」

突然の告白に二人はたじろいだ。

「…ノーコメント」

「お、俺もノーコメント」

「え、リアムはミラさんがいるじゃない。いつもどうしているのよ」

「彼女いるの?」

シレノがゾーイの話に乗っかって来る。自分から注意を逸らす気だ。

「か、彼女ですけども…」

「じゃあ一ヶ月以上会えなくて寂しいでしょ。その…ミラさん?も待ってるんだね、帰りを」

「ま、まぁな。でもアイツも仕事始めたし。忙しく過ごしてるはずだよ」

「じゃあ、リアムはミラさんとする時どうしているの?」

「個人の蜜月について聞くのはどうかと思うぞ」

「え…まさかまだ清らかなお付き合いなの?」

ゾーイの言い方に、シレノがふふんと鼻で笑う。

「そうだよ!悪いかよ!ついこの前恋人になったんだよ!それからすぐに訓練だ!親密度増す機会なんて無かったわ」

「ミラさんとリアム君っていつからの付き合いなの?属性は同じなの?」

「故郷も属性も同じだよ。幼馴染だ」

「幼馴染…?ミラさん、ずっとリアムの事好きな様子だったけど、最近まで放っておいたの?よく横恋慕が入らなかったわね」

「それに関しては、本当にミラに頭が上がりません」

「ふふ、長年飽きもせず想ってくれたミラさんのこと、大事にしなよ」

「シレノの言う通りです」

無駄話をしているうちに、設営は完了した。
久しぶりにアホな会話をしたとリアムは思った。訓練中は世間話する元気も無いし、このゲリラ戦に関しては、ずっと作戦は周囲の変化に気を張り詰めていた。
精神的にもリラックスできたし、リフレッシュした感じだった。若干のダメージはあったけど。


「ただいま」

「オラ、ブレイズ様が帰って来たぞ」

「お疲れ」

リアムは軍から支給されていた飲料水をブレイズ、マシューに渡した。

「ブレイズ、後で水の沸騰頼んでもいいか?今携帯浄水器で濾過してんだけど、殺菌までは出来ないから」

「いいぜ、別に」

(やけに素直だな…)

疑惑の眼を向けながらも、リアムはブレイズと共に川辺まで来る。そこにはシレノが浄水器で濾過中だった。
一方、マシューはゾーイと見張りの交代をする。

「ゾーイさん、見張りお疲れ様!交代するよ」

「そっちも、罠の設置お疲れ様」

ゾーイは木から降りると、双眼鏡を渡す。

「ここの赤いボタンあるでしょう?ここを押せば後ろ側にカメラを設置して背後からの様子も監視できるようにしてあるわ。設置してあるカメラは人感センサーで反応するから頻繁に見なくても大丈夫かも。音や気配がしたら確認する程度で大丈夫よ」

「ありがとう、ゾーイさん!休憩してて。主な見張り役は僕等になるから。休めるうちに、しっかり休んで」

「わかったわ」

マシューは木に登り見張りに着くと、罠の位置情報と罠の目印が入ったデータをチームで共有する。
ゾーイは伸びをすると、念のため焚火が出来るように木の枝を近場で集め始めた。


山内にある軍施設。

その一室…モニタールームにブラッドはいた。

「今年の入隊生はまだしぶといほうだな」

ブラッドの他にもう一人いる。しぶといと評価した彼…エンキだ。行儀が悪く、椅子に片足を置き膝を立てている。膝に肘を置き、不敵な笑みを見せながら各モニターを眺めていた。

「もう各々が陣営を築いてる。よう解らんが、多数は安全牌取にいってんな、つまらん」

エンキは太々しい態度を取る。

「だが、もう既に一班が潰れている。鍛え直しだ」

「おー恐っ。潰し合いでもしてくれないと、遣り甲斐が無い」

「はぁ…お前は全く。お、見てみろ。お前の期待通り、動き始めたぞ」

モニターに映るのは、とあるチーム。向かう先は、リアム陣営がある方向だった。


場面を変えるが、同じ施設内には救護班も集まっていた。
看護長が班員に説明をする。

「今日から入隊新期生のゲリラ模擬戦が始まります。模擬とはいえ、怪我を負う者が終盤にかけて増えてきます。そして新人の皆さん。本格的な戦地へ赴く前に、ここで訓練をしてもらうために集まってもらいました。初の模擬戦勤務、厳しいと思いますが戦闘の空気を肌で感じ取り、慣れてください。本拠地での救護はこれから目にする場面よりも過酷です」

はい!と全員が返事をする。
そこには、ミラもいた。
ミラもこの一ヶ月で医療について多くを学んだ。救護班も新体制に向け、まずは希望者のみが集い、銃撃戦にも対応できるよう、夕方からはモルガンによる射撃訓練も行った。
患者を軍人に頼らず救出する。それがこれからの医療班の目標だった。

「ミラちゃん、頑張ろうね」

「うん」

同じバイト仲間が声をかけてくれる。

「二人とも、あんまり気負わなくていいからね。今回は救出の護衛訓練もないし、手当てに専念してね」

先輩も眼を掛けてくれている。

「はい!」

(リアム、頑張ってね。私も頑張るから!)

ミラは配給されたMedical Detachmentと刺繍された上着を羽織った。


マシューが見張りをしていると、双眼鏡が急に小さく振動する。思わず吃驚して双眼鏡を確認すると、赤いボタンが点滅している。
赤いボタンを押し、もう一度双眼鏡を覗くが、誰も見当たらない。

「…皆、静かに」

マシューの一声に、四人は黙り、顔付きも変り緊張を高める。

「イヤーズ」

マシューは固有スキルを使い、ありとあらゆる角度からの音を拾う。
所々でチーム潰し合いが始まっているのか、悲鳴や罵倒が聞こえるなか、微かに聞こえる、地面を静かにあるく足音。銃を持っているのか、たまに無機質なカチンという音も聞こえる。

――あとどれくらいだ?
――あの川を越えたらです
――無属性を倒せたら評価あがるかなぁ?
――火属性の野郎もぶち倒したい。俺達の誘い断りやがって

マシューは敵だと判断し、飛び降り全員に伏せるようハンドジェスチャーをする。
リアム達は指示に従い身を顰める。

「敵か?」小声で確認する。

「うん。リアム君狙いと…ブレイズ君のこと逆恨みしてる」

「なんでだよ!」小声で怒るブレイズ。

「南西、川の向こう側、意表を突かれない限りそこからやって来る。戦闘準備を。ブレイズ君とシレノ君は川向うに行って東方面へ。着いたら足音を三回立てて。挟み撃ちにする」

「了解」

「ゾーイさんは木の上で射撃体勢にて待機。なるべく敵に見つかりにくい所にいてほしいけど…射撃に支障が出ない範囲の場所に隠れていて」

「わかった」

「リアム君は僕とここで待機、戦闘準備」

「OK」

「それじゃあ、罠の場所も考慮しながら…皆、よろしくね」

ブレイズとシレノは川岸の向こうへ。ゾーイも素早く木の上に身を潜ませた。
リアムとマシューも茂みに隠れ、気配を消す。
リアム達に近付こうとしているのは、とあるチーム。大柄な男。ぶりっているが顔に嫌味が滲み出ている女。そして大柄の男の腰巾着男…。
茂みに隠れ、同行を窺い始める。

「どうだ、あいつ等の様子は」

「ヘイ、しばしお待ちを。アイズ!」

腰巾着は水属性のようだ。アイズを使い、リアム陣営を観察する。

「えー、野郎が二人。うち一人は黒髪なんで無属性の奴ですよ。で、木の上にライフル持った女が一人…。三人しかいません。他の二人は居ないっす」

「そうか。丁度俺等と同じ三人…」

「ライフル持った女って言ったぁ?それゾーイかもぉ。あの女仕切りたがり屋でムカついてたんだよねぇ。なのに、女子は皆私の意見聞かないでゾーイの言う事ばっかり聞くの!本当、あぁいう女嫌い。ねぇ、ゾーイから殺しちゃおうよ」

女は大男にあからさまなボディタッチをし、自慢の胸を押し付ける。
大男の眼に色欲が走る。

「別にいいぜ、女殺すくらい。だけど、もちろん対価は払ってくれるんだろう?その身体でよぉ?」

「ちゃんと殺れたらね?そしたら頭の天辺からつま先まで好きにしていいんだから…でも痛くしたり怪我するようなことはダメだよ?」

女は胸を自分で揉み、尻を突き出しアピールする。
大男は舌なめずりをし、満足気にほくそ笑む。

「し、しかしですねぇ…こっちは役立たず二人が負傷して置いてきちまったし、三人で無属性相手にするのは…作戦練りませんか?」

「うっさいわね!黙ってなさいよ!」

「ヒィッ!」

女はヒステリックな声を上げ、腰巾着に蹴りを入れる。

「大体ねぇ!ちゃんと陣地考えないで動き回ったせいで弱そうな奴等から奪おうとしたら失敗して!挙句に負傷して役に立たないし!本当はさっきの所で水浴びしたかったのに!滝で泉が出来て水も豊富で泳げるくらい好立地だったのに!もう汗と土汚れで最悪よ!」

「で、でもここで負けでもしたら希望の配属先に行けないかもですぜ…」

「お黙り!」

女はベルトに装着していた鞭を取ると、腰巾着に叩きつける。

「や、やめてくださいぃ、ヒー」

腰巾着は思う。本来ならこんな女の顔色を窺う意味なんて無いのに。だが、大男の愛人気取りでいるこの女をぞんざいに扱うと、大男にボコボコにされるから逆らえない。

「大丈夫だって。あんなヒョロッちぃ奴等なんか俺が捻りつぶしてやるよ。なんなら、ゾーイって女ブチ犯したっていいぜ!」

「アハハ!それおもしろーい!あのバカ女がプライドズタズタになる姿みたいかもぉ!」

「リアムさえ警戒しておけば、女にひ弱そうな男一人。なんも心配する必要は無ぇ!行くぞ、正面突破だ!」

三人は銃を構えると、突撃するため走り出す。
その様子を見ていたリアムは眉を顰める。

「なんだアイツ等、玉砕でもする気か?しかも三人しかいないし」

「気をつけて、他二人はどこかに潜んでいるかもしれない!ゾーイさん、威嚇射撃を!」

ゾーイはスコープを覗きながら対応する。

「げ、あの女がいる。アイツ、輪を乱して嫌いだったのよね。このままやっちまいましょうよ。こっちも正面突撃よ」

女に標準を合わせ、いつでも撃てるようにする。

「私怨はいいから!リアム君も二発威嚇射撃をお願い!いいね、全員威嚇射撃で!」

「ッチ、解ったわよ」

「しゃーねぇ。参謀の言う事だ。やろうぜ、ゾーイ」

「ゴム弾じゃなくて、魔弾でお願い」

「了解。エンチャント・オメガ!」

「来た!そこで止まれ!」

マシューが叫ぶと同時に、リアムとゾーイが水の魔弾を放つ。

「誰が止まるかよ!相殺して終わり…!」

威嚇射撃のはずが、相手があまりにも猛スピードで突進してくるので魔弾計三発は見事三人に命中した。

「ギャーーーーーーー!」

「ぐぁおおおおおおお!!!」

「ギャン?!」

三人は呆気なく倒れ、水浸しになり白目を向いて痙攣している。

「えっ?え?!」

マシューは混乱する。一体どういう事なのか。罠なのか、気絶する作戦なのか、本当にのびているのか。

「え…?何、ギャグ?」

ゾーイも戸惑う。

「えっと、えぇ…」

リアムも訳が分からず頭を掻く。

「えぇい!いつまで待たせるんだ!ブレイズ様参上!テメェ等を剣の錆にしてやらぁ!」

「ちょっと!ブレイズ君、マシュー君の合図を待たないと…」

自前の剣を華麗にさばきながら登場するブレイズを制止させようと追いかけてくるシレノ。しかし、二人が見た光景は予想もしていない、マヌケな光景だった。

「え??」とブレイズとシレノの声が重なる。

五人は眼を合わせると、一度やってみたかったことをやってみることにした。

「えーーーーーーーーーーー!?!?!??!?!?」

五人の声が山に木霊すると、後からケラケラと笑い声も聞こえてきたとか。後に別チームが話している。


リアムとブレイズが三人の手首と足首にロープを巻き捕獲する。まだ起きる気配は無い。
マシューが上層部に脱落者の回収願いを連絡する。

「にしてもなぁ。もうちょっと骨のある奴等が襲撃してくると思ったぜ。拍子抜けだ、拍子抜け!」

ブレイズが爪先で大男を突きながら話す。

「俺もそう思ったんだけどな。まさかそのまま突進して突っ込んでくるとは思わなくてな。まさか威嚇射撃が当たるなんて誰が想像するよ」

リアムも呆れ、溜息を吐く。

「威嚇射撃に当たったのかよ!んだよ、コイツ等。よく一ヶ月の地獄の訓練に着いてこれたな…不正か入れ替わりでもしたか?」

「まあまあ、ブレイズ君。そんな可哀想なこと言ってあげないで。彼等も皺の少ない脳みそで頑張って考えた作戦だったかもしれないし」

「シレノ、お前結構酷いこと言ってるな」

「それに、明日は我が身。ゲリラ戦訓練も始まったばかりだし。僕達もいつ彼等みたいに脱落するか解らないよ」

それを聞いたブレイズは鼻で笑い、切り返す。

「いいや!俺達は生き残るね!最後まで、絶対にだ!」

「何を根拠に」リアムが言う。

「勘だ!!」

少し、静寂が訪れる。

「…訊いた俺が悪かった」

「アンタの勘って…頼りにしていいの?信じがたいわ」

「お前等…俺の事罵る同盟でも組んでんのか??あぁ?」

ブレイズが青筋立てながらリアムとゾーイににじり寄る。

「ステイ、ステイ。ブレイズ君。あんまりムキになっちゃダメだよ。冷静さも必要」

シレノが宥める。
そこに連絡を終えたマシューが戻って来る。

「お待たせ。あと数分で医療班が到着するって。今のうちに武器の手入と、夕食の準備に取り掛かろうか。もう日も落ちてきてるし、またいつ攻撃があるか解らない。落ち着けるときに出来ることは済ませちゃおう」

「OK」

「じゃあ、夕飯は僕が作るよ。チームに入れてもらったお礼も兼ねて」

シレノが調理を申し出る。

「いいの?それじゃあシレノ君、お願いします!」


シレノが料理をしている間、リアム達は武器の手入れを済ませる。シレノの銃はリアムが責任を持って手入れをした。マスタング商会で教わった手入れの仕方。
具材はシレノが持っていた分で足りるらしく、リアム達から足すことは無かった。この調子なら、三日間の食料はなんとか維持できるかもしれない。

「じゃーん。イグドラヴェ郷土料理、ほうれん草たっぷりの野菜シチュー」

ペーストされた、ほうれん草が入った緑色のシチュー。鶏肉の代わりにベーコンが代用されている。良い匂いがする。
あとは缶パンを五等分に切り分ける。これが今夜の食事。

「いただきます」

五人は食べ始めると、どっと緩い空気が流れる。

「は~、美味しい」

「やっぱり食事の時間っていいわね。ホッとする」

マシューとゾーイは温かいシチューにご満悦だ。

「緑色のシチュー…」

「ブレイズ、野菜嫌いなのか?」

「き、嫌いじゃねぇぜ。ただ食欲減退色だなって!」

「そうか?美味いぞ。つうか、お前そんなデリケートだったか?」

「うるっせぇぞ!食えるわい!」

イキると、ブレイズはガツガツと食べ始める。だけど、途中で苦そうに舌をだしウエーっとしている。

「ブレイズ君、ほうれん草とか苦手なの?従兄んちの赤ちゃん今離乳食なんだけど、ほうれん草のペースト食べさせると、拒否するんだって。可愛いよね」

マシューが嬉しそうに話す。

「赤ちゃんと同じ」ゾーイが笑う。

「赤ちゃんと一緒にすんなや!」

リアムは煩い、と思うと同時に賑やかな食事が凄く久しぶりに感じた。ついこの前まで、ミラ達と一緒に食事をし、マノンが騒ぎ、エアルも酒を飲み、それを叱咤するヘスティアがいてとても賑やかだった。なんなら懐かしささえ感じる程に昔に感じる。

「シレノは自炊できるんだな」

「うん。一人暮らしが長いから」

「そっか。俺も料理できるようにしなきゃなぁ」

ミラも働き出したことで、リアム宅の環境も変わった。あのヘスティアが料理を習い始めたという。少しでもミラの負担を減らしたいようだ。マノンも積極的に家事をするようになった。エアルはやったり、ふらっと出かけたり…。相変わらず自由な面もあるが、ゼーロに居た頃に比べれば、随分家庭に対し向き合ってくれている気はする。


食事も終わると、もう空は真っ暗だ。

「さてと。もういい時間だし、夜の見張りのことだけど、二人体勢の交代制でいこうと思う。二人で二時間交代。一人は四時間眠れることになる。それを今日と明日の夜でローテションしていく」

「四時間寝れるのは有り難いな」

「最初は僕とリアム君。次はブレイズ君とゾーイさん。次はリアム君とシレノ君…て感じでいいかな?」

四人は同意する。

「じゃあ、さっき就寝と見張りのシフトを作ったんだ。それを今皆に送るから」

「ありがとうな。なんか、マシューに負担掛かり過ぎか?」

リアムが心配する。

「ううん、全然!楽しいから大丈夫」

「そうか。あんま無理するなよ」

リアムとマシューは見張りを。他三人はテントに入り、眠りにつく。

「…二時間睡眠。昼間の労力考えると、結構キツイかもな」

「うん。明日の様子見だけど、大丈夫そうならこのまま続けようと思うんだ。いいかな?」

「賛成だ。俺もそれが良いと思う。疲れたままだと、いざって時に怪我を負いかねない」

「だよね」

そして、このまま問題無くブレイズ・ゾーイに見張りを引き継ぐ。
心配していた夜の襲撃は無く、朝を迎えた。
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