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第2章・・・代償

42話・・・ティアマテッタ16・サバイバル訓練

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リアムは無事、ティアマテッタ軍へ入隊した。
制服で佇む姿はいつの日かのアイアスの面影を見せる。リアムの立ち姿を見て何人が思いを馳せただろうか。
敵とは云え、悲しき過去に狂わされたネストに黙祷を捧げた者。
またはアマルティアへ敵討ちを改めて誓った者。
そしてリアムを含めた彼等を守ろうと決意する者。
その日は軍が改めて気を引き締めただろう。


入隊から一ヶ月が経つ。
リアム達は基礎体力向上のため、ずっと軍服、武器、リュックのフル装備で山、川を走る訓練を行っていた。時間帯も、気候も天候も関係無い。走れと言われたら走り、休憩と言われたら休む。変則的なリズムは体力も精神も容赦なく削っていく。
九十八名いた合格者は、既に五十五名までに減っていた。
この訓練が始まってから、一度も家に帰れていない。


先導者に誘導され、辿り着いたのは山奥にある軍基地。そこにはブラッドが仁王立ちで待ち構えていた。

「全体止まれ!集合!」

ブラッドの掛け声で列が即座に形成され、番号を発声していく。それが数秒で終わると、姿勢を正す。
ブラッドは新兵を見渡すと、声を張り上げた。

「この一ヶ月間よく耐えた!ここからは部隊編入の最後の試練となる、サバイバル訓練を行ってもらう!舞台はこの山。五人一組でチームを編成、三日間過ごしてもらう。その間は全ての事柄はチームだけで全てまかなう事。当然、飲料、食料がなくなれば現地調達となる」

周りが声にならないどよめきが起きているのは肌で解る。

(うわ…マジかよ)

リアムもその一人だ。

「それと、ここからが重要だ!この三日間、ただ野山で駆けまわるだけだと思うなよ!心してかかれ!チーム編成は諸君等で好きに決めるといい。自身の心眼を磨くんだな。では話は以上。二時間後にサバイバルを開始とする。それまでは自由に過ごせ。解散!」

ブラッドが立ち去ると、緊張の糸がほどけ、皆がホッとする。
皆、二時間のうちにさっさとチームを作って風呂や飯を済ませたいだろう。考えることは同じでそれぞれが声を掛け合っていた。

(んー…中々にヘビーな訓練だな。サバイバルと…多分模擬戦かゲリラ戦か。ってことは先輩方と対峙するのか?どの階級が来るか解らねぇけど、まさかウォーカー大尉まで参戦ってことはないだろうな)

リアムが頭を悩ませていると、「おーい、リアム君!」と呼び掛けられる。マシューだ。

「おぉ、マシュー!なんか久しぶりだな」

「ずっと走ってたからね、話す元気も会いに行く体力も時間も無かったしね」
マシューが笑う。

「確かに」

「ねぇ、もう誰と組むか決めた?」

「いや、まだだ。これから考えようと思って」

「じゃあさ、僕を入れてよ!この間、宿舎で先輩から聞いたんだけど、このサバイバル訓練は連携が試されるらしくて。だからバランス良く組んだ方がいいと思うんだ。僕は金属性だからイヤーズが使える。敵が来たら感知できる!って、お勧めしとく」

マシューは単身組なので、軍の宿舎に入ったと聞いていた。宿舎とは云え、既に情報収集が始まっていると思うと、リアムは少し緊張した。

「マシュー、お前って本当に頼りがいがあるぜ」

「え?」

「おし!また俺と組んでくれ」

「喜んで!」

マシューは思わず、両手でリアムの手を取った。

「試されるのか…バランスってもな…。あと三人」

「いいえ、二人よ!私を誘わないってどういうこと?」

「ゾーイ」

「ゾーイさん!」

ゾーイが人を掻き分けてリアム達の元へやって来る。

「私は水属性だし、アイズが使えるわ。マシューとの連携も取れる。それはミラさんで実証済みよ。それに、知った顔で組む方が安心感も得られるでしょう」

「俺達は別にいいけど…いいのか?女性同士で組まなくて。野戦だし、野郎には気遣いできない場面もあるかもしれないぞ」

リアムが心配する。それもそうだ。五十五人中、女性は七名。少数ということもあってか、この一ヶ月で男性陣よりも結束が強くなっているのは雰囲気で伝わって来ていた。

「それは承知よ。でも、女性同士だけで組むと全滅の可能性があるわ。スピードや小柄な面では男性より有利になるかもれしないけれど、力や体力的には適わないもの、三日間とは云え、ならなおさら。彼女達にはバラけてもらう事にしたわ。五十五名、五人一組だから全部で十一組出来る。意外と、頼めば皆入れてくれたわ」

「仲間内より、全員生存を選んだってわけか」

「そうよ。この一ヶ月間で皆を見てきたわ。彼女達も信用を置ける人達のチームに行ったし。それに、リアムとマシューだから声を掛けたの。…貴方達なら信頼できるし」

「そりゃどうも。信頼されてるし、顔見知りの方が安心はするな。じゃあ、背中はゾーイに任せるか」

「うん。ゾーイさんの腕前なら無敵だね!」

「き、期待は裏切らないわ。よろしくね」

ゾーイはツンとするが、耳が若干赤くなっていたことをリアム達は知らない。

(情報収取といい、見極めといい、二人は凄いな。俺もボヤボヤしてらんねぇな)

リアムが周りを見て味方にスカウトできそうな人物を探していると、声を掛けられた。

「ねぇ、まだチーム編成、決まってなかったりする?」

スッと言うか。ヌルッと言うか。その男はいつの間にかリアム達の傍に立っていた。初めて会話をする相手だ。同じ新兵だから顔は知っていたが、名前までは覚えていなかった。

「まだ決まってないけど…名前は?俺はリアム・ランドルフ」

「僕はシレノ。よかったら、君のチームに入れてもらえないかな?もう皆決まっているみたいで、断られちゃったんだ」

確かに、宿舎に入っていくメンバーが多い。既に決まったのだろう。うかうかしていると置いてかれるし、時間も消費する。
リアムはマシュー、ゾーイを見る。マシューは少し困っていたが、ゾーイが頷いたので、リアムは了承する。

「解った。よろしくな、シレノ」

「ありがとう!」

「助かったよ、あと二人をどうするか迷ってたんだ。残り一人なんだが…」

「じゃあタイミングが良かったね。声をかけて正解だったよ」

シレノは安堵し笑う。
話しながら残り少ないメンバーを見ていると、さっきからチラチラと視界をチラつくオレンジ色の髪の男がいる。

(…喧しいな)

「ねぇ、アイツなんかどうかしら」

ゾーイが親指でノールックで誰かを指す。

「どいつだ?」

「おい!そこは俺だろ!!!」

若干涙目のブレイズがリアム達の目の前に飛び出てきた。
リアムとゾーイが同時に「ッチ」と舌打ちをした。

「舌打ち?!」

「ブレイズ、貴方さっきから視界に入って来て煩わしいのよ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」

ゾーイが言う。

「俺はお前等のチームに入ってやろうとしてやってんの!」

「はぁ?お前がいると騒音ですぐバレそうで危険なんだけど」

リアムが嫌そうな顔で追い打ちをかける。

「テメェ等…チーム戦の前にここで決着つけてもいいんだぜ…」

ブレイズがボキボキと拳を鳴らす。

「ま、まぁまぁ。折角仲間になれたんだし喧嘩しないで!ブレイズ君、火属性だしかなり戦力になるよ!ね?」
マシューが三人を宥める。

「ハァ。マシューの顔を立てるためにも入れるか」

「火に困ったら使えるからね」

「お前等、やっぱ今決着つけようぜ」

ブレイズの眼がイカレ始めていた。

「お、落ち着いてブレイズ君!二人は素直になれないだけだから!」

マシューは慌ててリアム、ゾーイとブレイズの間に入り止めに入る。

「リアム君と、えっと…火属性の君は仲が悪いの?」シレノが尋ねる。

「違うぜ!永遠のライバルよ!悪縁で繋がっているってことよ!」

「シレノ、気にしなくていいぜ」

「俺はなぁリアム、お前が真っ先に声を掛けてきてくれると思ってずっと待ってたのに!なんで皆からリアムに声かけるんだよ!」

実はブレイズ、リアムと組みたいがために、多くの同期から声を掛けられていたが断って、リアム達の周りをウロウロしていたのだ。
…反対にリアムは、周りから様子を見られている。試験に乱入したアマルティア軍、そして参謀のネストの親類、リアムが攻撃対象になっていると勘ぐっている者もいた。

「そりゃ、リアムといた方が面白いじゃない。リアムといた方が戦闘運は強そうだし」

ゾーイがブレイズの質問に答える。

「リアム君、頼りになるし…」

マシューも照れながら答える。

「ふははは、お前等リアムの肩持つようなら敵視してやるからな」

ブレイズが二人に牙を向いているのを呆れたリアムが溜息を吐いた。

「しゃーねぇな…じゃあブレイズ。頼んだ」

「雑だなぁ!」

「はいはい。さっさと宿舎行くぞ」

リアム達もチームが決まり、風呂と食事を済ませる。
そして二時間後。グランドに再び集合する。

「この新参が、足手まといになるなよ?」

ブレイズがシレノを威嚇していた。

「精一杯頑張るよ」

「おい、シレノに迷惑かけるなよ」リアムが注意する。

「かけてない、釘刺しただけだ」

ブレイズは誘ってもらえなかったことに拗ねているのか、風呂に入っているときから面倒臭くなっていた。

「君はリアム君のことが大好きなんだね」

「違ぇわ!俺が誰よりも先に目付けてたんだ、ポッと出の奴にぬけぬけと先手打たせてたまるかっての」

リアムは本日何度目か解らない溜息を吐くと、どう機嫌を治そうか悩ませた。

「…ブレイズなら真っ先に来ると思ってた。待たせやがって」

「お?なんだ?デレ期か?ハッハーン!俺はミラちゃんにも頼まれる程の男だぞ!俺が!面倒を見てやらないとな!」

高笑いしてご機嫌になるブレイズ。

(チョロ)そっぽを向いて舌を出すリアム。

(バカ丸出しだわ)ゾーイもジト目でブレイズを見ていた。

ざわざわと会話で溢れていたグランドに、ブラッドが現れると一斉に空気が引き締まり、ピリつく。

「全員いるな。では、これから最終訓練を行う!検討を祈る。サバイバル訓練開始!」

号令と共に、全員がグランドから走り出し森へ駆けて行く。
これから三日間のサバイバル生活が始まる。詳細なルールは説明されていないが、先輩隊員からの襲撃でリタイアすればそこで訓練は終了。編入希望先にも影響が大きく出るだろう。
ここで実力を見せなければ、希望先には行けない。

(必ず残ってみせる)

リアム達は雑木林の中へ消えて行った。


リアム達チームはまず、拠点とする川を探していた。

「足場が悪いわね」

「今まで走ってきたところはある程度道が出来てた場所だったんだね」

「転ばないように気をつけてね」

シレノがゾーイとマシューを気遣うと、二人から陽だまりみたいな柔らかい空気が漂う。なんかそれを察してブレイズがまたシレノを睨む。それを無視してリアムが予定を立てる。

「出来るなら川沿いで草むらが生い茂っている場所が良い。身を隠せるし、水も確保できる。食料缶っても、三日分とは言い難い。木の実なら兎も角、蛇やトカゲ、虫は食いたくないだろ?」

「確かにな。食うなら魚がいいや」ブレイズが言う。

「じゃあ、コンパス代わりに」

シレノが魔弾を土に向かって撃つと、木の幹が生え、根っこが迷いなくある場所を目指して伸びて行く。

「あの根っこを追いかければ川に着くと思うよ」

「助かった、ありがとう。シレノ」

シレノの言った通り、根っこは川まで伸びていた。そして希望通り草が生い茂り、木もある程度の高さがあり見張りを奥には十二分だ。おまけに、少し先には苔に覆われた岩があり、下に人が数人は入れる程の大きな隙間があった。

「しばらくは凌げそうな場所だな」

五人は草むらに隠れるように座る。

「疲れた…」

歩き、走り続け無我夢中だったが、かれこれ一時間は止まらず動いていた。
しかし安心もおちおちしてられない。

「よし。とりあえず敵に見つからない限り、ここを拠点としよう。あと、何か今回の訓練について情報があるなら教えてほしい」

「はい」

マシューが手を上げた。

「前期生や先輩方からの教訓なんだけど…。このサバイバル訓練のゲリラ戦に立って出るのは大尉クラス以上が各チームに仕掛けてくるみたい。聞いた人達からは、大尉以下クラスの人と当たらなかったって言ってたんだ。たぶん、どれだけ僕達が使えるのか見定めも兼ねているのかも。それと、ここに来るまでは大丈夫だったけど、多くの罠も設置されてるって教えてもらった。運が良かったのか、それとも時間経過と共に罠が張り巡るのかは解らないけど、迂闊に動くのは危険かも」

「なるほど。罠か…戦闘中も三百六十度、足元と頭上に気をつけろ、ってか」

「あと!皆のスキルと魔力ランクを共有、把握していたほうがいいって、教えてくれたよ。いざって時に、カバーし合えるし、誰かが咄嗟の判断で状況打破も出来るって」

「ありがとう、マシュー」

「OK!じゃあこれが俺の情報な!」

リアム達はお互いの情報をマジックウォッチに転送する。


・リアム・ランドルフ。無属性魔法。クラスA++。固有スキル・アウェイクニング(ブースト・ディフェンス使用可)。得意戦法・銃

・ゾーイ・グレイス。水属性魔法。クラスA。固有スキル・アイズ。得意戦法・銃(スナイパー)

・マシュー・トンプソン。金属性魔法。クラスA。固有スキル・イヤーズ。得意戦法・銃

・ブレイズ・ボールドウィン。火属性魔法。クラスA+。固有スキル・ブースト。得意戦法・剣

・シレノ・ダビン。木属性魔法。クラスA+。固有スキル・オフェンス。得意戦法・剣



「あ、いつの間にかA++になってる」リアムが呟く。

「ハッ!嫌味か」ブレイズが噛みつく。

「属性もバラけてて、得意戦法もバランスが良いな」

確認していたリアムが呟く。

「ねぇ、それじゃあブレイズ君とシレノ君は前方でアタッカー。ゾーイさんと僕は後衛でサポート。リアム君は真ん中で前・後衛どちらにも応援に行けるようにしたらどうかな…リアム君、一番キツイポジションで、申し訳ないんだけど…」

マシューが自信なさげに提案してきた。視線も泳ぎ、気まずそうにしている。

「どうしてリアム君を中衛に置くの?理由が知りたい」

シレノが質問してくる。シレノが自分を見てくる眼が、どこか硝子玉みたいで少し怖くなった。

「コ、コロシアムでのリアム君の戦いを見る限りではアタッカーの方がいいと思うけど、データを見ると、シレノ君の方がマジックソードの扱いに長けているみたいだったから…。後、無属性というのもある。無属性は他の属性を掻き消す効力があるし、しかもリアム君の銃は自前で、無属性専用に作ってもらってるみたいだし、それは僕達にとって物凄いアドバンテージになるはずだよ。だから、多少無理をしてもらうけれど、勝つためにはこの戦法がいいと、思う…」

マシューは自分の戦法をここまで説明したのは初めてだった。いつも誰かの意見に頼り、荒が見えても言い出せずにいることが多かった。意見を言うのが、こんなにドキドキするものだとは思わなかった。喉の奥が震えて収まらない。

「マシュー、お前、スゲェな。コロシアムでの戦いだけで色々考えてたのかよ」

ブレイズが感心する。

「解った。俺はマシューの期待に応えられるように動くよ。お前を信じる」

「あ、ありがとう」

マシューは思わず俯き照れると同時に、劣等も生まれる。

「僕、得意戦法を銃にしているけど、剣より銃の方が少し評価されたってだけだし、ランクも軍隊では平凡だし…特質したところもないし…この作戦も上手くいくか、自信なくて」

「マシュー」

「ん、何?ゾーイさん」

すると突然、ゾーイがマシューの胸倉を掴み、襟を絞め文句を垂れ始めた。

「あ・ん・た・ねぇ!魔力ランクが平凡って、じゃあ私はどうなるの?貴方と同じAなのよ!」

「ご、ごめん!そういう訳じゃ…!魔力ランクが一緒でも、その人が持っている魔力量や個体差だってあるんだ!それに女性でのAと男のAは同等じゃないよ!」

マシューの言う通りだった。女性でクラスSはほぼ居ない。クラスAもあれば、同じクラスAの男性と比較されても、女性の方が評価される。
それをマシューは理解していたし、ゾーイももどかしいと思っていた。これ以上成長する見込みが無い事を。

「ゾーイさんは試験の時見ていたけど、狙撃はトップクラスだし!それに、狙撃手がいるってことは、相手は容易に近づけないわけで、仮にブーストを使って侵入してきても、時間が経てばスキルは停止する。そこを狙えば撃ちとれることも出来るし、当然先制も、牽制にもなって…それに」

「それに?」

「金属性って戦闘向きじゃないでしょ…?今回の試験だって、アマルティア襲撃があって皆が活躍したから恩恵受けたからで。く、苦しい、から、手、放して」

「そうね。私は狙撃で遠方攻撃の方が得意よ。なら、マシューは頭を働かせればいいじゃない。作戦立てて、指示して。その分、私もリアムも必死に働くわ。今日の所は許してあげる。またネガティブ発言したら叩くわよ」

「え…?」

唐突に手を放され、よろめいた。急に酸素がドッと入って来るので咽る。
思わず、リアムは笑いだした。

「ククッ、負けん気が強い」

「は?何言った?」

「なんも。マシュー、考えすぎだ。俺もマシュー見てたら、知恵をもっと働かせなきゃとか、情報収集しなきゃとか、考えたけど…お互い、得意分野があるんだ。それを活かして伸ばしていこうぜ。俺は戦闘の方が得意だし。それに、金属性でもバカみたいな戦術編み出して大暴れした奴等を知ってる。最初はコピーみたいで抵抗あるかもしれないけど、お前が良ければ教えるよ。マシューはここまで作戦を練れたんだ。もしかしたら、作戦参謀になれるんじゃないか?」

「い、言い過ぎだよ…そこまでじゃないって」

急に褒められて、マシューは変な汗が溢れ出してきた。

「マシューはもうちょい気楽に考えた方がいいぜ。いつも気負いすぎだって!」

「ブレイズはもう少し慎重になったほうが良いと思うけどな」

「何だとリアム!」

そんなリアム達のやりとりを、シレノは微笑ましそうに眺めていた。

「マシュー君。他にも作戦があるなら、今のうちに聞いておきたい。いいかな?」

「う、うん!全チーム、生き残りをかけて川沿いの拠点を探してくると思う。良い場所が無ければ陣取り合戦になるかもしれない。だから、ここを確保できたからって安心しないように。そして、同期チームも敵になりえることも考えて行こう」

「わかった」四人は力強く頷いた。

「とりあえず、まずは直径十メートルが安全か確かめよう。で、この範囲を陣地として…基盤を固めるなり、また移動するなりを考えよう」

「おう、了解」

リアム達はマシューの指示通り、罠が無いか調べ、他チームが近くにいないか監視した。
この時間はまだ誰も動きは見せていない。運良く拠点が被らなかったのか、はたまた見えない場所で狙われているか…。

「リアム君。ちょっといい?」

「どうした、シレノ」

木の上で見張りをしていたリアムの横に、シレノが飛び乗って来た。

「少し聞きたいことが…ねぇ、アマルティアと戦った時、木属性の男がいなかったかい?」

木属性、と言われて真っ先に浮かんだのはコアだった。
確かに、シレノも木属性だ。
リアムは少しでも何か情報が掴めるかもしれないと思い、小出しにする。

「いたぜ。コア・クーパーって言ってたな」

「そっかぁ…居ちゃったか」

「何か関係でもあるのか?」

「ううん。なんかさ、同郷から悪を輩出しちゃったみたいで、複雑な心境だなって」

シレノが肩を竦めた。


「まぁ…だよな」
「だから、改めてティアマテッタ軍に入隊して正解だったよ。悪を滅ぼす。なんてね」

「シレノって、意外と冗談とか言うんだな。生真面目な奴かと思ってた」

「言うよ!リアム君とブレイズ君ほどじゃないけどね」クスクスと笑う。

(信じないわけじゃねぇけど…コアのこと訊いてきたんだ。少し様子見するか)

前回の双子の件もあり、リアムは軍内にも炙り出されていないスパイがいるのではないかと疑心していた。
そして森の中が、徐々に騒がしくなってきた。
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