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第2章・・・代償
31話・・・ティアマテッタ7・軍入隊
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最終試験当日、朝。
リアム達は軍が所持するティアマテッタコロシアムに到着する。
周りは試験を観覧しにきた人々で溢れかえっている。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。渡した関係者優先チップ、マジックウォッチにインストールしたか?」
「うん。ちゃんとインストールしたから、見せれば関係者席で応援できるよ。頑張ってね、リアム」
ミラは強気の笑顔だった。うん、これは信じている顔だ。
「敵をなぎ倒してやれ!」
マノンがカンフーアクションを見せてくる。
「リアム、ご武運を」
「リアム、お前は受験者の中でも誰よりも戦闘慣れしている…はずだ!ファイト!」
エアルがグッドと親指を立てる。
「どんな応援の仕方だよ…。おし、行ってくるから!」
リアムは受験者受付口から証明書を見せ、入っていく。
ミラ達も関係者用受付口に行き、インストールした証明書を提示し、中へ入っていく。長い廊下から出ると、開始前だというのに活気と熱気に溢れていた。
「すごい広い…」
ミラは呆気にとられて立ち尽くす。マノンも口をポカンと開け驚いている。
「ねぇ、こんな場所で戦うの?」
「そうだ。このだだっ広い闘技場でリアム達残った百人が戦う」
最終試験はバトルロイヤル式。ある種の祭として国に根付いているため、最終試験の日は一般人も応援、閲覧できるようにコロシアムが解放される。
受験者同士が戦い合う。仮に再起不能となっても試験監督、軍事関係者が採点しているため有望と認められれば採用される可能性は高い。反対に、最後の一人になったとしても規律を乱す、目に余る行為と判断されれば不採用になることもある。
当然、武器は軍から支給される物しか使用できない。銃も模擬弾。剣も模擬用の絵具が付着するようになっている。試験者達は渡された軍隊の仮軍服に着替える。その仮軍服にはセンサーが生地に組み込まれており、銃弾、魔弾、剣に当たった回数と体力など計算されて再起不能となったら連動するマジックウォッチからブザーが鳴る。また気絶しても一発でブザー判定される。
席に着くと、ミラはエアルに訪ねた。
「エアル兄、荷物大きくない?」
エアルの足元には大きなトートバックが置かれる。
「あぁ、これな」エアルは小声でミラに言う。
「リアムの銃だ。なんか胸騒ぎがしてな…一応な?」
「やだ、怖い事言わないでよ」
「大丈夫だよ。ただの俺の心配事だから。それに、なんかあってもここは軍だ」
「そうかもだけど」
「備えあれば憂いなしだ!な?」
冗談っぽく言っても、ミラはなんか不安そうでエアルの心配事を真に受けていた。
エアルが何故そんな心配事をしたのか。それは以前、マノンがショッピングモールで髪飾りを無くした時に、出会ったという紳士がエアルには一瞬で消えたように見えたことだった。油断していたら、紳士が居たということにも気づかなかった。
(なんも無きゃいいけど)
「ほら、入場してきた!」
マノンはミラの肩を叩き、リアムがコロシアムに入場したことを教える。会場には一次試験を突破した百名が勢ぞろいした。
「リアム、頑張って…」
ミラは手を組み、勝利を願う。
会場は歓声が上がる。
『これより、ティアマテッタ軍入隊最終試験を開始します』
試合開始の合図のブザーが空まで響く。
コロシアムの戦闘場は地面と岩場、塹壕がある。リアムは岩陰に隠れて様子を窺う。
(さて、どうするかな。自分から仕掛けるか、待ち受けるか…いや、ブレイズと一騎打ちする。そのためなら体力温存!)
「いた!無属性、俺と戦え!」
「うお?!」
宣言と同時に剣を振り下ろされ、リアムは咄嗟に銃で防ぐ。相手を撥ね退け、同時に自身も後ろへ下がり、通常モードで受験者に命中させていく。相手も剣術の腕が良く、銃弾を弾き、リアムと互角に戦っていく。
「いけー!リアム!そこだ!あぁ?!後ろにも居るぞぉ!」
興奮したマノンまで手足を動かしながら応援する。
リアムの背後から別の受験者が魔弾を撃ってくる。それをかわし、すかさず反撃する。二人を相手にリアムは同格に戦う。
「複数相手に互角に戦うのはポイント高いんじゃあないか?!」
エアルが興奮する。
「ヤれー!!リアム!とっちめろ!」
マノンはヒートアップし、立ち上がって片足を自分の席に足を置き応援している。
「マノン、後ろの方の邪魔になりますから、お座りなさい。あと…女性として足を大開するのはちょっと」
「え…あ、ごめんなさい」
ヘスティアに注意され、マノンは後ろの席の人に謝罪すると大人しく座るが、掛け声は物騒に加速した。
「舐められたら終わりだぞ!命を取れ!」
「マノン、口にも気をつけましょう」
「…はぁい」
ミラはミラで顔芸を披露する。そこまで露骨なものではないが、リアムが不意打ちを食らえば心配と怒りが混ざった顔。勝てば喜び、とにかくコロコロと表情が変わる。
「はぁー、リアム!頑張ってぇ!」
リアムは二人のみぞおちを殴ると、怯んだ瞬間にエンチャントモードへ移行、反撃をかわし、魔弾を撃ち見事二人の魔力を消失させた。
「すげー!無属性魔法だ!」
「初めて見た!」
「無属性に火属性、今年は大当たりじゃねぇか?!」
観客も大いに盛り上がる。無属性という珍しさからか、リアムへの応援が広がっていく。
(いい方向に流れている。応援は時に自分の力になります。そしてライバル側へのプレッシャーと心情的にマイナスにさせる。リアムなら大丈夫でしょう、正々堂々と戦ってください)
ヘスティアは祈ると、リアムの応援をまた始める。
「流石、残っただけあって猛者だらけだな」
エアルが感心していると、マノンが不思議な受験者を見つけたようで首をかしげては凝視している。
「どうした、マノン。気になる男の子でも見つけたか?終わったら、エアルお兄さんが連絡先聞いてきてやろうか?」
エアルが揶揄いながら訊くと、マノンは真っ赤になりながら答える。
「ち、違うってば!あそこ!あの双子みたいな受験者二人を見てよ」
「ぅん?双子…あぁ、アイツ等か。あー、片方は剣で、もう片方は銃か。おまけに体術も優秀だな。ブレイズに次いで注意しといた方がいいかもな」
マノンが指摘した二人…アイオとクロノだ。見ていると、確かに違和感を抱いた。何て言えばいいだろうか。アニメのコマが一、二コマ抜けたような感じ。ふと剣を上げたまま止まったと思ったら、次の瞬間には振り下ろしている。その間に入る動作が無い。
「エアル。あの双子、まるでスローモーションの様に動いています」
「スローモーション?」
双眼鏡で覗いていたヘスティアが言うには、双子は止まって見えるが、正確にはスローモーションのようになっている。よく目を凝らして見るとゆっくりと動いているのが僅かに解る。しかしそのスローモーションが解除されると、あっという間に受験者を再起不能にしている、らしい。
「もしかしたら私達が見せられているのは残像という可能性もあるのかもしれません」
「どういう仕掛けだぁ?」
「速さで言えば、ブーストなのでしょうか…」
「今年の受験生、火属性って他にいた?でも髪色もモスグリーンに近いし…」
マノンが不思議がる。
エアルが配布されている最終試験受験者リストを見る。
「いた、コイツ等だ。アイオ・スチュアート、クロノ・スチュアート。双子で木属性。はぁ?オフェンスってそんな器用な動き出来るのか?」
「少なくとも私は知りません」
エアルとヘスティアの頭にはコアが思い浮かぶ。彼のせいで、オフェンスは攻撃に特化した固有スキルというイメージが強烈に埋め付けられている。
「ミラ、どうしたの?」
マノンが様子の可笑しいミラに気づき声をかける。
「ううん、なんでもない。さ、応援に集中しよう!」
ミラは不安になった。息の合った攻撃、左右対称、剣と銃の番。
(どうしよう…メイラ達姉妹のこと思い出しちゃった…。エアル兄達に伝えたほうがいい、よね。伝えておいて、もし無関係でも相手に迷惑かけるわけじゃないし疑ったことを心の中で謝ればいいし、もし関係あったら…その時の方が怖い)
「ねぇ、エアル兄達、」
ワァー!とドッと観客が湧く。
「見ろ、ミラ!すげぇぞ!ブレイズの奴、一気に五人もやりやがった!」
「…どうでもいいわ」
「オラァァァァ!!雑魚はとっとと消えろや!」
アイオはどんどんと受験者をぶった切っていく。そこをクロノが銃で撃ちダメージを追加していく。
「アイオ。あんまり悪目立ちするのは良くないよ」
「俺に指図すんなや」
「はぁ…早ければもう僕達のスキルに疑問を持つ奴等が出てくるよ」
「解ったところで俺達を止められる奴なんざいねーよ!それよりも出来る限り狩ろうぜ。邪魔なのは消しといた方がいいだろ?」
「そうしたいのは山々なんだけど…」
クロノが小声でアイオに囁く。
「ネスト様に僕達の位置を知らせているよ。空間転移の余波に巻き込まれないように安全な場所で無難に戦っとかないと。いくら父様が天才で開発したからって、未完成だからね。実験でも見ただろ?余波に巻き込まれて上半身がどっかに行っちゃったまま消えちゃった奴のこと」
アイオは当時の光景を思い出したのか、冷や汗を掻き黙る。
「わかった…お前の言う通りにする」
「流石アイオ!聞き訳が良い所もカッコイイね」
双子は徐々に戦闘ペースを落とし、守りを中心とした戦略を装い戦う。
「彼、三〇四番。凄いね。冷静かつ肝っ玉も据わっている。そして控えているようで前線に出る力。私は彼にも注目しようかな」
軍事関係者席で見ていたブラッドが呟いた。
「ウォーカー大尉は無謀な人物がお好きなようだな」
モルガンが揶揄い笑う。
「無謀ではありませんよ。切り込み隊長みないな奴等が好きなんです。ハンプシャー少佐は?お眼鏡にかなった受験者はいましたかな?」
「そうだなぁ。私は三〇四番にやられ再起不能になった二七八番かな。リアム氏とアスレチック障害物で手を組んだ彼。空間認識に優れている。さっきも避けきればまだ行けただろうが、あと一歩が足りない。リアム氏との行動を見ていたが、彼は仲間がいると強くなれるかもしれない。私は磨けば輝くダイヤの原石は好きだよ」
「確かに、彼はフィジカルが少々欠ける。あ、あそこの…一六九番。彼女は長距離攻撃型だね。それに二、三手先を読み攻撃をしている。アタッカーとして楽しみだ。では、私は叩けばそれ以上に響き返す鐘が好きですね」
「ふふ。似ている様で違うな、私達は。リアム氏は安定に戦っているね。襲撃してくる相手を的確に模擬弾と魔弾を上手く使い魔力消費を抑えながら戦っている。お利口な戦い方だが、それではつまらんし、生き残ることはできん。さて、どうするリアム氏」
「俺と戦え!」
「っぐ!ほんっとう、次から次へと!」
激しい銃撃戦になる。
少なくともCグループでリアムのエンチャントモード移行を目撃した受験者達は魔力を少々消費してでも時間短縮をするために、この一日で習得してきている。
今襲ってきた奴もCクループにいた。エンチャントモードへの移行も早い。
「シュート!」
「シュート!」
水の魔弾と無の魔弾が衝突し相殺されるが、その真後ろから無の魔弾が受験者を撃つ。
『マリョクゼロ。リタイア』
ブザーが鳴り、マジックウォッチも赤く点滅する。
「クソ。無属性って本当チートだよな。属性関係無く相殺、魔力が強ければ上回るし。周りからもチヤホヤされてよ。つうか、無属性ってだけで入隊できるんじゃねぇの、お前」
「…」
相手からの嫌味にリアムは黙る。ここで言い返しても、相手は全部嫌味に聞こえるだろう。
「再起不能はとっとと退きな!自分の腕の無さを属性のせいにすんなや!」
岩の上に仁王立ちするブレイズがいた。
「お前、そこにいると危ないぞ」
リアムが注意したとたん、ブレイズに模擬弾が掠る。撃ったのは、ブラッドが注目していた一六九番。ブレイズは飛んできた方向を向き怒鳴る。
「コラー!これから俺はリアムと戦うんだ!邪魔するなぁ!」
「うるさ」
一六九番は面倒臭そうな顔をするが、ブレイズの言う通り違う受験者を狙い始めた。厄介な属性同士で潰し合ってくれた後に、残った一人を倒せば労力も減る。
リアムに敗れた受験者は舌打ちをするとそそくさと退場していく。
「これで邪魔されずに戦えるな」
「なぁ、火属性。俺と手組んで無属性をやらないか?」
「うっせー!俺の話聞いてたか?!俺は一対一!タイマンがしたいの!あっち行け!」
「火属性だからって調子に乗んなよ!」
その時、一六九番の魔弾が割って入って来た受験者に当たり、連射し模擬弾が辺り、退場の指示が出る。
「クソ!」
「ハン!油断してるからだバーカ!さぁ、リアム。邪魔者は消えた。決着付けようぜ!」
「はぁ。面倒だが、俺もお前と戦いたかった。ブレイズ!」
「ハハ!お前のその顔が見たかったぜ!」
ここで初めて、リアムが戦闘を心から楽しむ表情を見せた。リアムは背負っていた剣を装着し、銃から剣へと返る。
ブレイズはマジックソードにし、剣に炎を纏う。リアムも無属性魔法を発動し、刃に黒い雷が走る。
二人の剣がぶつかりあい、火の粉と火花が散る。相殺されても魔力が供給され消えることの無い炎と黒い雷。
激しい斬撃戦を繰り広げ観客席も熱量が上がり歓声がドッと沸き上がる。
「スゲー!今回の目玉二人が激闘してらぁ!」
「火属性のあんちゃん気張れやぁ!」
「リアムくん頑張ってぇ!」
二人に集中する歓声に、エアルは苦笑いをする。
「こりゃ他の連中はやりにくいな」
「リアムー!頑張って!絶対勝って!!」
ミラが拳を握り前のめりになって、更に応援に熱が入る。それを見たエアルは、反対に冷静になれた。
平行線を辿る戦いに、先に勝負を仕掛けてきたのはブレイズだった。
「お前を倒すためにとっておきを見せてやらぁ!」
ブレイズは剣を八の字に振り始めると、炎が周りに浮き、次第に小さな渦巻きが四つ出来る。
「あれは!」思わずヘスティアが立ち上がる。
「俺の尊敬する方の最大の技の小規模版だ!本気でやったら俺の独り勝ちになるからな!」
ブレイズの周りには小さな炎の竜巻が出来上がり、リアムに襲い掛かる。
「お前がそのつもりなら、俺だって負けてられっかよ!」
リアムは剣先を地面に突き刺すと、魔力を一気に放出、剣を振り切る。すると地面を抉り、切り裂かれた箇所から黒い光が稲妻のように走り、炎の竜巻に衝突する。
炎の竜巻と黒い稲妻は反応し合って空高くへと光り伸びる。
それを見たクロノが不気味にほくそ笑む。
「あれだ」
炎と雷が入り乱れる中、それでもリアムとブレイズの戦いは止まらない。中には二人の戦闘に巻き込まれて再起不能になった受験者もいる。
「すごい、二人とも…」
ブレイズの攻撃に敗れた、二七八番は救護室からモニターで戦いぶりを見ていた。
「アイツ等、バカじゃないの。あの調子なら終わる頃には消耗するじゃん」
一六九番は呆れながらもスコープから二人を覗き観察している。
でも。
「「楽しそう」」
二人は違う場所にいたが、その言葉は重なった。
「激闘だな。あそこまで見せつけたら流石に軍のお偉いさん方の目にも止まるだろ」
「二人だけの世界になりすぎて、規律を乱すと思われ外されなければいいですけどね」
「ヘスティア。お前、リアムのこと応援しているのか?落ちてほしいのか?」
「私は事実を言っただけです」
「ちょ、ちょっと、エアルもティア姉も喧嘩してないで、あれ見てよ!」
マノンの指さす方向に、空気が熱気で揺らめいているような現象が起きている。
「…ブレイズの炎の熱気って訳じゃなさそうだな」
嫌な予感がしたとき、それは的中する。
瞬間、空間を裂くように赤い光がビリッと走る。
「リアム、逃げろ!!!」
エアルの大声は観客の歓声の隙間を這うようにリアムにハッキリと届く。
「ブレイズ!」
「あ、なんだ!な?!」
リアムはブレイズを引っ張り塹壕の中へ隠れる。
そこは空間に亀裂が入り、歪んだ中から謎の軍服を着た兵士がぞろぞろと現れ、コア、エルド、メイラ…そして見たことの無い顔ぶれまでが現れる。
「なんだ、新しい演出か?」
「んな訳ねーだろ!ひとまず休戦だ。アイツ等、ヴェネトラで散々…」
「…エルド様?」
「は?」
ブレイズは困惑し、エルドの方を見つめていた。
ここで思い出す。ブレイズが火属性でヘスティアを尊敬していた。つまり、必然的にエルドを敬愛していても可笑しくないことを。
一方、観客席も動揺していた。
「すぐ避難を!」
隊員が誘導しようとするが、観客は理解できていないのか、まだ座ったままで観戦している。
軍関係者の席も避難指示を出すが、観客が移動しないことに怒号が飛び交う。そしてブラッドとモルガンは彼等を見た瞬間、瞬時に闘技場へ向かい走る。
「お兄様!」ヘスティアの情緒が乱れ始める。
「ティア姉、落ち着いて!」
「こりゃ、また厄介なことになったな」
「嘘…なんで。やっぱり、あの双子が関係してたの?」
ミラは絶望し蹲る。
「ミラ、双子が関係とは?」
ミラの状態を見て、ヘスティアは多少の冷静さが戻った。
「私、あのスチュアート兄弟が、メイラ姉妹に似てるって、思ってて。エアル兄達に話そうと思ったんだけど、観戦してるうちに、言い逃しちゃって…ごめんなさい」
「謝ることじゃねぇよ、ミラ。よく気づいたぜ。大丈夫。俺達がなんとかする」
エアルはミラを励ますと、トートバックを持つ。
「おい、逃げるフリしてリアムに合流しよう」
「え、でも。軍隊だよ?通してもらえる?戦うならここに居て紛れた方がよくない?」
マノンが止める。
「大丈夫、俺のコネを信じろ」
「…うーん」
「マノン、疑うより行動に移しましょう。今、ここに居る皆さんはパフォーマンスかなんかだと思い半信半疑で見ています」
「そうだよね、うん。わ、私達は逃げます~!」
ミラが叫ぶと、四人は急いで観客席から出る。それを見た一部が徐々に避難し始めるが、まだ大半は残っている。次第に群集心理が働き、また一人、またグループが一組と非難を開始すると大勢がゆっくりと非難を開始し始める。
コロシアム闘技場の岩場に、マントを翻した男が立つ。
「我々はアマルティア。今日は祝祭にお邪魔させていただこうと思い馳せ参じた。我が名はソイル・サンドバーグ。そしてこちらのお方はネスト・ランドルフ。さて…ここにいる皆様方で我々の名前を聞いたことのある者はいますかな?」
その言葉に、土属性出身者は驚愕し、ネストと聞いた一部の軍人、市民は顔を青ざめさせる。
それを聞いていたコロシアムにまだいた人々が顔を青ざめさせる。
「ネストって、言ったか…今」
「嘘、嘘でしょ?!」
「逃げろ、やべぇぞ!」
落ち着いて避難が出来ていた会場は一気に混乱に陥る。
「アイオ、クロノ。良くやった」
ネストが褒めると、近くに寄って来たアイオとクロノが跪き頭を下げる。
「はっ、作戦通り行動に移したまでです」
「俺達はこれからが本番です。もっとネスト様達のご期待以上の結果をお見せしますよ」
「…期待している」
今この瞬間、ティアマテッタ軍とアマルティアの戦争が幕を開けようとしていた。
リアム達は軍が所持するティアマテッタコロシアムに到着する。
周りは試験を観覧しにきた人々で溢れかえっている。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。渡した関係者優先チップ、マジックウォッチにインストールしたか?」
「うん。ちゃんとインストールしたから、見せれば関係者席で応援できるよ。頑張ってね、リアム」
ミラは強気の笑顔だった。うん、これは信じている顔だ。
「敵をなぎ倒してやれ!」
マノンがカンフーアクションを見せてくる。
「リアム、ご武運を」
「リアム、お前は受験者の中でも誰よりも戦闘慣れしている…はずだ!ファイト!」
エアルがグッドと親指を立てる。
「どんな応援の仕方だよ…。おし、行ってくるから!」
リアムは受験者受付口から証明書を見せ、入っていく。
ミラ達も関係者用受付口に行き、インストールした証明書を提示し、中へ入っていく。長い廊下から出ると、開始前だというのに活気と熱気に溢れていた。
「すごい広い…」
ミラは呆気にとられて立ち尽くす。マノンも口をポカンと開け驚いている。
「ねぇ、こんな場所で戦うの?」
「そうだ。このだだっ広い闘技場でリアム達残った百人が戦う」
最終試験はバトルロイヤル式。ある種の祭として国に根付いているため、最終試験の日は一般人も応援、閲覧できるようにコロシアムが解放される。
受験者同士が戦い合う。仮に再起不能となっても試験監督、軍事関係者が採点しているため有望と認められれば採用される可能性は高い。反対に、最後の一人になったとしても規律を乱す、目に余る行為と判断されれば不採用になることもある。
当然、武器は軍から支給される物しか使用できない。銃も模擬弾。剣も模擬用の絵具が付着するようになっている。試験者達は渡された軍隊の仮軍服に着替える。その仮軍服にはセンサーが生地に組み込まれており、銃弾、魔弾、剣に当たった回数と体力など計算されて再起不能となったら連動するマジックウォッチからブザーが鳴る。また気絶しても一発でブザー判定される。
席に着くと、ミラはエアルに訪ねた。
「エアル兄、荷物大きくない?」
エアルの足元には大きなトートバックが置かれる。
「あぁ、これな」エアルは小声でミラに言う。
「リアムの銃だ。なんか胸騒ぎがしてな…一応な?」
「やだ、怖い事言わないでよ」
「大丈夫だよ。ただの俺の心配事だから。それに、なんかあってもここは軍だ」
「そうかもだけど」
「備えあれば憂いなしだ!な?」
冗談っぽく言っても、ミラはなんか不安そうでエアルの心配事を真に受けていた。
エアルが何故そんな心配事をしたのか。それは以前、マノンがショッピングモールで髪飾りを無くした時に、出会ったという紳士がエアルには一瞬で消えたように見えたことだった。油断していたら、紳士が居たということにも気づかなかった。
(なんも無きゃいいけど)
「ほら、入場してきた!」
マノンはミラの肩を叩き、リアムがコロシアムに入場したことを教える。会場には一次試験を突破した百名が勢ぞろいした。
「リアム、頑張って…」
ミラは手を組み、勝利を願う。
会場は歓声が上がる。
『これより、ティアマテッタ軍入隊最終試験を開始します』
試合開始の合図のブザーが空まで響く。
コロシアムの戦闘場は地面と岩場、塹壕がある。リアムは岩陰に隠れて様子を窺う。
(さて、どうするかな。自分から仕掛けるか、待ち受けるか…いや、ブレイズと一騎打ちする。そのためなら体力温存!)
「いた!無属性、俺と戦え!」
「うお?!」
宣言と同時に剣を振り下ろされ、リアムは咄嗟に銃で防ぐ。相手を撥ね退け、同時に自身も後ろへ下がり、通常モードで受験者に命中させていく。相手も剣術の腕が良く、銃弾を弾き、リアムと互角に戦っていく。
「いけー!リアム!そこだ!あぁ?!後ろにも居るぞぉ!」
興奮したマノンまで手足を動かしながら応援する。
リアムの背後から別の受験者が魔弾を撃ってくる。それをかわし、すかさず反撃する。二人を相手にリアムは同格に戦う。
「複数相手に互角に戦うのはポイント高いんじゃあないか?!」
エアルが興奮する。
「ヤれー!!リアム!とっちめろ!」
マノンはヒートアップし、立ち上がって片足を自分の席に足を置き応援している。
「マノン、後ろの方の邪魔になりますから、お座りなさい。あと…女性として足を大開するのはちょっと」
「え…あ、ごめんなさい」
ヘスティアに注意され、マノンは後ろの席の人に謝罪すると大人しく座るが、掛け声は物騒に加速した。
「舐められたら終わりだぞ!命を取れ!」
「マノン、口にも気をつけましょう」
「…はぁい」
ミラはミラで顔芸を披露する。そこまで露骨なものではないが、リアムが不意打ちを食らえば心配と怒りが混ざった顔。勝てば喜び、とにかくコロコロと表情が変わる。
「はぁー、リアム!頑張ってぇ!」
リアムは二人のみぞおちを殴ると、怯んだ瞬間にエンチャントモードへ移行、反撃をかわし、魔弾を撃ち見事二人の魔力を消失させた。
「すげー!無属性魔法だ!」
「初めて見た!」
「無属性に火属性、今年は大当たりじゃねぇか?!」
観客も大いに盛り上がる。無属性という珍しさからか、リアムへの応援が広がっていく。
(いい方向に流れている。応援は時に自分の力になります。そしてライバル側へのプレッシャーと心情的にマイナスにさせる。リアムなら大丈夫でしょう、正々堂々と戦ってください)
ヘスティアは祈ると、リアムの応援をまた始める。
「流石、残っただけあって猛者だらけだな」
エアルが感心していると、マノンが不思議な受験者を見つけたようで首をかしげては凝視している。
「どうした、マノン。気になる男の子でも見つけたか?終わったら、エアルお兄さんが連絡先聞いてきてやろうか?」
エアルが揶揄いながら訊くと、マノンは真っ赤になりながら答える。
「ち、違うってば!あそこ!あの双子みたいな受験者二人を見てよ」
「ぅん?双子…あぁ、アイツ等か。あー、片方は剣で、もう片方は銃か。おまけに体術も優秀だな。ブレイズに次いで注意しといた方がいいかもな」
マノンが指摘した二人…アイオとクロノだ。見ていると、確かに違和感を抱いた。何て言えばいいだろうか。アニメのコマが一、二コマ抜けたような感じ。ふと剣を上げたまま止まったと思ったら、次の瞬間には振り下ろしている。その間に入る動作が無い。
「エアル。あの双子、まるでスローモーションの様に動いています」
「スローモーション?」
双眼鏡で覗いていたヘスティアが言うには、双子は止まって見えるが、正確にはスローモーションのようになっている。よく目を凝らして見るとゆっくりと動いているのが僅かに解る。しかしそのスローモーションが解除されると、あっという間に受験者を再起不能にしている、らしい。
「もしかしたら私達が見せられているのは残像という可能性もあるのかもしれません」
「どういう仕掛けだぁ?」
「速さで言えば、ブーストなのでしょうか…」
「今年の受験生、火属性って他にいた?でも髪色もモスグリーンに近いし…」
マノンが不思議がる。
エアルが配布されている最終試験受験者リストを見る。
「いた、コイツ等だ。アイオ・スチュアート、クロノ・スチュアート。双子で木属性。はぁ?オフェンスってそんな器用な動き出来るのか?」
「少なくとも私は知りません」
エアルとヘスティアの頭にはコアが思い浮かぶ。彼のせいで、オフェンスは攻撃に特化した固有スキルというイメージが強烈に埋め付けられている。
「ミラ、どうしたの?」
マノンが様子の可笑しいミラに気づき声をかける。
「ううん、なんでもない。さ、応援に集中しよう!」
ミラは不安になった。息の合った攻撃、左右対称、剣と銃の番。
(どうしよう…メイラ達姉妹のこと思い出しちゃった…。エアル兄達に伝えたほうがいい、よね。伝えておいて、もし無関係でも相手に迷惑かけるわけじゃないし疑ったことを心の中で謝ればいいし、もし関係あったら…その時の方が怖い)
「ねぇ、エアル兄達、」
ワァー!とドッと観客が湧く。
「見ろ、ミラ!すげぇぞ!ブレイズの奴、一気に五人もやりやがった!」
「…どうでもいいわ」
「オラァァァァ!!雑魚はとっとと消えろや!」
アイオはどんどんと受験者をぶった切っていく。そこをクロノが銃で撃ちダメージを追加していく。
「アイオ。あんまり悪目立ちするのは良くないよ」
「俺に指図すんなや」
「はぁ…早ければもう僕達のスキルに疑問を持つ奴等が出てくるよ」
「解ったところで俺達を止められる奴なんざいねーよ!それよりも出来る限り狩ろうぜ。邪魔なのは消しといた方がいいだろ?」
「そうしたいのは山々なんだけど…」
クロノが小声でアイオに囁く。
「ネスト様に僕達の位置を知らせているよ。空間転移の余波に巻き込まれないように安全な場所で無難に戦っとかないと。いくら父様が天才で開発したからって、未完成だからね。実験でも見ただろ?余波に巻き込まれて上半身がどっかに行っちゃったまま消えちゃった奴のこと」
アイオは当時の光景を思い出したのか、冷や汗を掻き黙る。
「わかった…お前の言う通りにする」
「流石アイオ!聞き訳が良い所もカッコイイね」
双子は徐々に戦闘ペースを落とし、守りを中心とした戦略を装い戦う。
「彼、三〇四番。凄いね。冷静かつ肝っ玉も据わっている。そして控えているようで前線に出る力。私は彼にも注目しようかな」
軍事関係者席で見ていたブラッドが呟いた。
「ウォーカー大尉は無謀な人物がお好きなようだな」
モルガンが揶揄い笑う。
「無謀ではありませんよ。切り込み隊長みないな奴等が好きなんです。ハンプシャー少佐は?お眼鏡にかなった受験者はいましたかな?」
「そうだなぁ。私は三〇四番にやられ再起不能になった二七八番かな。リアム氏とアスレチック障害物で手を組んだ彼。空間認識に優れている。さっきも避けきればまだ行けただろうが、あと一歩が足りない。リアム氏との行動を見ていたが、彼は仲間がいると強くなれるかもしれない。私は磨けば輝くダイヤの原石は好きだよ」
「確かに、彼はフィジカルが少々欠ける。あ、あそこの…一六九番。彼女は長距離攻撃型だね。それに二、三手先を読み攻撃をしている。アタッカーとして楽しみだ。では、私は叩けばそれ以上に響き返す鐘が好きですね」
「ふふ。似ている様で違うな、私達は。リアム氏は安定に戦っているね。襲撃してくる相手を的確に模擬弾と魔弾を上手く使い魔力消費を抑えながら戦っている。お利口な戦い方だが、それではつまらんし、生き残ることはできん。さて、どうするリアム氏」
「俺と戦え!」
「っぐ!ほんっとう、次から次へと!」
激しい銃撃戦になる。
少なくともCグループでリアムのエンチャントモード移行を目撃した受験者達は魔力を少々消費してでも時間短縮をするために、この一日で習得してきている。
今襲ってきた奴もCクループにいた。エンチャントモードへの移行も早い。
「シュート!」
「シュート!」
水の魔弾と無の魔弾が衝突し相殺されるが、その真後ろから無の魔弾が受験者を撃つ。
『マリョクゼロ。リタイア』
ブザーが鳴り、マジックウォッチも赤く点滅する。
「クソ。無属性って本当チートだよな。属性関係無く相殺、魔力が強ければ上回るし。周りからもチヤホヤされてよ。つうか、無属性ってだけで入隊できるんじゃねぇの、お前」
「…」
相手からの嫌味にリアムは黙る。ここで言い返しても、相手は全部嫌味に聞こえるだろう。
「再起不能はとっとと退きな!自分の腕の無さを属性のせいにすんなや!」
岩の上に仁王立ちするブレイズがいた。
「お前、そこにいると危ないぞ」
リアムが注意したとたん、ブレイズに模擬弾が掠る。撃ったのは、ブラッドが注目していた一六九番。ブレイズは飛んできた方向を向き怒鳴る。
「コラー!これから俺はリアムと戦うんだ!邪魔するなぁ!」
「うるさ」
一六九番は面倒臭そうな顔をするが、ブレイズの言う通り違う受験者を狙い始めた。厄介な属性同士で潰し合ってくれた後に、残った一人を倒せば労力も減る。
リアムに敗れた受験者は舌打ちをするとそそくさと退場していく。
「これで邪魔されずに戦えるな」
「なぁ、火属性。俺と手組んで無属性をやらないか?」
「うっせー!俺の話聞いてたか?!俺は一対一!タイマンがしたいの!あっち行け!」
「火属性だからって調子に乗んなよ!」
その時、一六九番の魔弾が割って入って来た受験者に当たり、連射し模擬弾が辺り、退場の指示が出る。
「クソ!」
「ハン!油断してるからだバーカ!さぁ、リアム。邪魔者は消えた。決着付けようぜ!」
「はぁ。面倒だが、俺もお前と戦いたかった。ブレイズ!」
「ハハ!お前のその顔が見たかったぜ!」
ここで初めて、リアムが戦闘を心から楽しむ表情を見せた。リアムは背負っていた剣を装着し、銃から剣へと返る。
ブレイズはマジックソードにし、剣に炎を纏う。リアムも無属性魔法を発動し、刃に黒い雷が走る。
二人の剣がぶつかりあい、火の粉と火花が散る。相殺されても魔力が供給され消えることの無い炎と黒い雷。
激しい斬撃戦を繰り広げ観客席も熱量が上がり歓声がドッと沸き上がる。
「スゲー!今回の目玉二人が激闘してらぁ!」
「火属性のあんちゃん気張れやぁ!」
「リアムくん頑張ってぇ!」
二人に集中する歓声に、エアルは苦笑いをする。
「こりゃ他の連中はやりにくいな」
「リアムー!頑張って!絶対勝って!!」
ミラが拳を握り前のめりになって、更に応援に熱が入る。それを見たエアルは、反対に冷静になれた。
平行線を辿る戦いに、先に勝負を仕掛けてきたのはブレイズだった。
「お前を倒すためにとっておきを見せてやらぁ!」
ブレイズは剣を八の字に振り始めると、炎が周りに浮き、次第に小さな渦巻きが四つ出来る。
「あれは!」思わずヘスティアが立ち上がる。
「俺の尊敬する方の最大の技の小規模版だ!本気でやったら俺の独り勝ちになるからな!」
ブレイズの周りには小さな炎の竜巻が出来上がり、リアムに襲い掛かる。
「お前がそのつもりなら、俺だって負けてられっかよ!」
リアムは剣先を地面に突き刺すと、魔力を一気に放出、剣を振り切る。すると地面を抉り、切り裂かれた箇所から黒い光が稲妻のように走り、炎の竜巻に衝突する。
炎の竜巻と黒い稲妻は反応し合って空高くへと光り伸びる。
それを見たクロノが不気味にほくそ笑む。
「あれだ」
炎と雷が入り乱れる中、それでもリアムとブレイズの戦いは止まらない。中には二人の戦闘に巻き込まれて再起不能になった受験者もいる。
「すごい、二人とも…」
ブレイズの攻撃に敗れた、二七八番は救護室からモニターで戦いぶりを見ていた。
「アイツ等、バカじゃないの。あの調子なら終わる頃には消耗するじゃん」
一六九番は呆れながらもスコープから二人を覗き観察している。
でも。
「「楽しそう」」
二人は違う場所にいたが、その言葉は重なった。
「激闘だな。あそこまで見せつけたら流石に軍のお偉いさん方の目にも止まるだろ」
「二人だけの世界になりすぎて、規律を乱すと思われ外されなければいいですけどね」
「ヘスティア。お前、リアムのこと応援しているのか?落ちてほしいのか?」
「私は事実を言っただけです」
「ちょ、ちょっと、エアルもティア姉も喧嘩してないで、あれ見てよ!」
マノンの指さす方向に、空気が熱気で揺らめいているような現象が起きている。
「…ブレイズの炎の熱気って訳じゃなさそうだな」
嫌な予感がしたとき、それは的中する。
瞬間、空間を裂くように赤い光がビリッと走る。
「リアム、逃げろ!!!」
エアルの大声は観客の歓声の隙間を這うようにリアムにハッキリと届く。
「ブレイズ!」
「あ、なんだ!な?!」
リアムはブレイズを引っ張り塹壕の中へ隠れる。
そこは空間に亀裂が入り、歪んだ中から謎の軍服を着た兵士がぞろぞろと現れ、コア、エルド、メイラ…そして見たことの無い顔ぶれまでが現れる。
「なんだ、新しい演出か?」
「んな訳ねーだろ!ひとまず休戦だ。アイツ等、ヴェネトラで散々…」
「…エルド様?」
「は?」
ブレイズは困惑し、エルドの方を見つめていた。
ここで思い出す。ブレイズが火属性でヘスティアを尊敬していた。つまり、必然的にエルドを敬愛していても可笑しくないことを。
一方、観客席も動揺していた。
「すぐ避難を!」
隊員が誘導しようとするが、観客は理解できていないのか、まだ座ったままで観戦している。
軍関係者の席も避難指示を出すが、観客が移動しないことに怒号が飛び交う。そしてブラッドとモルガンは彼等を見た瞬間、瞬時に闘技場へ向かい走る。
「お兄様!」ヘスティアの情緒が乱れ始める。
「ティア姉、落ち着いて!」
「こりゃ、また厄介なことになったな」
「嘘…なんで。やっぱり、あの双子が関係してたの?」
ミラは絶望し蹲る。
「ミラ、双子が関係とは?」
ミラの状態を見て、ヘスティアは多少の冷静さが戻った。
「私、あのスチュアート兄弟が、メイラ姉妹に似てるって、思ってて。エアル兄達に話そうと思ったんだけど、観戦してるうちに、言い逃しちゃって…ごめんなさい」
「謝ることじゃねぇよ、ミラ。よく気づいたぜ。大丈夫。俺達がなんとかする」
エアルはミラを励ますと、トートバックを持つ。
「おい、逃げるフリしてリアムに合流しよう」
「え、でも。軍隊だよ?通してもらえる?戦うならここに居て紛れた方がよくない?」
マノンが止める。
「大丈夫、俺のコネを信じろ」
「…うーん」
「マノン、疑うより行動に移しましょう。今、ここに居る皆さんはパフォーマンスかなんかだと思い半信半疑で見ています」
「そうだよね、うん。わ、私達は逃げます~!」
ミラが叫ぶと、四人は急いで観客席から出る。それを見た一部が徐々に避難し始めるが、まだ大半は残っている。次第に群集心理が働き、また一人、またグループが一組と非難を開始すると大勢がゆっくりと非難を開始し始める。
コロシアム闘技場の岩場に、マントを翻した男が立つ。
「我々はアマルティア。今日は祝祭にお邪魔させていただこうと思い馳せ参じた。我が名はソイル・サンドバーグ。そしてこちらのお方はネスト・ランドルフ。さて…ここにいる皆様方で我々の名前を聞いたことのある者はいますかな?」
その言葉に、土属性出身者は驚愕し、ネストと聞いた一部の軍人、市民は顔を青ざめさせる。
それを聞いていたコロシアムにまだいた人々が顔を青ざめさせる。
「ネストって、言ったか…今」
「嘘、嘘でしょ?!」
「逃げろ、やべぇぞ!」
落ち着いて避難が出来ていた会場は一気に混乱に陥る。
「アイオ、クロノ。良くやった」
ネストが褒めると、近くに寄って来たアイオとクロノが跪き頭を下げる。
「はっ、作戦通り行動に移したまでです」
「俺達はこれからが本番です。もっとネスト様達のご期待以上の結果をお見せしますよ」
「…期待している」
今この瞬間、ティアマテッタ軍とアマルティアの戦争が幕を開けようとしていた。
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