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第1章・・・旅立ち

23話・・・飛行艦

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「おはよー」

皆より少し遅れてマノンが起きてきた。昨日はティアマテッタへの行先登録や進路確認、操作確認、洗濯できなかった私服を洗濯機で回して干し、食材が何を用意されているかの確認。なんだかんだしていたら夜になり、夕飯食べて、それぞれの部屋でゆっくりして一日が終わった。
今日こそは船内探検をすると決めていた。
マノンは朝の支度をしようと洗面所のドアを開けた時だった。

「おーマノン、おはよう」

そこには上半身裸で、濡れた髪を掻き上げて少し乱した、風呂上りのエアルがいた。

「っ?!?!?!?!?ギャー!!!!!!居るなら言ってよ!!」

「え?!ワリィ!!」

マノンは慌ててドアをドシャンと閉めた。

(えぇ…野郎の半裸くらい、プールとかでもいるだろ。そんなに嫌がることかぁ…いや、でも、マノンの年頃なら俺なんかおっさんに見えて、おっさんの半裸なんか見せられたらそら嫌か…。俺もおっさんと呼ばれる域に入ったのか…)

ちょっと傷心していると、ふと過る。

(もしかして、娘を持つってこんな感じなのか?!父親なら、誰しもが通る道なのか?!)

脳裏には姪のアイリスが過り、成長したアイリスが「エアルおじちゃん近寄らないで!」とぷいっとそっぽを向く光景が容易に想像できた。そして姉のエマが「貴方、最近加齢臭するわよ、気をつけなさい」と傷口を抉ってくる。

(…未来のために、気をつけよう)

エアルはキリッと顔を引き締めると、ドライヤーで髪を乾かし始めた。
一方、マノンはドアにしゃがみこんでいた。顔を真っ赤にさせていた。孤児院に居た頃は、六才を過ぎたらもう男女別々に分けられて、異性の裸なんて見ることはなかった。メルカジュールランドでは、あれは男性がちゃんと水着穿いているから、そんな意識していなかった。でも、さっきのエアルは腰にバスタオル巻いただけで、ほぼ裸体と言ってもいい。しかも、しかも!

(は、はわわわわわわわわ!!!!)

マノンは顔面から火が噴きそうで、耳からは水蒸気が出そうになりながら、悲鳴を上げリビングへ走った。
リビングではミラとヘスティアが朝食の準備をしていた。料理はミラ、皿を並べるのはヘスティア。リアムは庭で銃の練習。リビングには、スクランブルエッグとトーストの香りが漂う。

「皆さん、紅茶でいいかしら」

「はい!マノンは兎も角、リアムとエアル兄は毒じゃなければ何も文句言わずに飲みますよ!」

「そ、そう」

ヘスティアは、レンから餞別に頂いた白と青を基調としたティーセットを用意し、紅茶を蒸し、ティーカプに注いでいく。

「わうあああああ!ミラ、ティア姉!朝から酷いモン見ちゃったよぉ!」

「どうしたのです?」

「洗面所に行ったらエアルが全裸でいたぁ」

それを聞いたヘスティアは頭を抱えた。

「あの馬鹿は…」

「まったく、エアル兄は…。どうせ面倒になるんだからお酒飲む前にお風呂入れって言ったのに。マノンになんてもん見せてんのよ」

「朝シャワー浴びるから平気と言ってアホみたいにお酒を飲んでいましたからね。後で灸をすえておきます」

久しぶりの晩酌でベロンベロンになったエアルを思い出す。快気祝いと飛行艦に浮かれてベラベラと車や飛行艦について熱く語っていたのを、向かいに座って一緒に飲んでいたヘスティアに一方的に喋っていた。

「すみません…エアル兄、私やリアムだと華麗にかわすっていうか、聞く耳持たなくて。ヘスティアさんは?二日酔いとか大丈夫ですか?」

「私は嗜む程度でエアルに付き合っただけですから、全然。マノン、後でエアルにデリカシーについてみっちり説明しておきます」

「うぅ…ありがとう」

マノンがシクシクと泣き真似をする。

「マノン、キッチンで良ければ顔洗って平気だよ。あれ、顔赤い…もしかして熱ある?」

ミラがおでこに手を当てようとすると、マノンが慌てる。

「熱は無いよ!本当!寝痕だよ!」

「そう?ならいいんだけど…」

朝から騒がしく始まった。リアム一行のティアマテッタへの旅、二日目の出来事。


「まさか、ついにエアル兄が女の子に全裸見せるとは思わなかったぜ。良かったな、飛行艦の中で。ヴェネトラでやらかしたらラードナー家に捕まって私刑だったかもな」

「全裸じゃないって。ちゃんとパンツ穿いた上にバスタオル巻いてたから」

「パッと見全裸だろ、それ」

朝食後、リアムとエアルは食器を洗いながら今朝の出来事について話していた。女性陣は洗濯物を干している。

「さて、洗い物終わりっと。リアム、俺は格納庫に行くけど、お前も来るか?」

「いや、俺は部屋に戻るよ。ちょっと調べ事もしたいし」

「了解」

エアルはウィンクをすると、軽快な足取りで格納庫へと向かった。

(後でヘスティアさんからの説教が待っているのに、呑気だなぁ…)

エアルは頼れる兄貴分だが、どこかマヌケというか、適当な所がある。
庭の方を見ると、洗濯物を干し終えた女性陣が晴れた中、楽しそうにお喋りをしていた。
リアムは幼い頃を思い出す。母、クロエの手伝いを何でもしたがった。料理をするときも卵を割りたがった挙句、上手く割れず殻が入り、黄身も潰れた。洗濯物を干すときも、バスタオルが引きずれているのを気にせず干そうと届かない物干し竿に背伸びをした。ただ褒めてほしくて。笑顔になってほしくて。
今思えば、足手纏いだっただろう。邪魔だったかもしれない。でも、母はありがとうと微笑んだ。

「リアム、お皿洗いありがとうね」

ミラの声に、我に返る。

「おぉ…ミラ達も、洗濯物お疲れ」

「これからヘスティアさんに格闘技や体力作り教わるの。しばらくはそのメニューで、ティアマテッタについて落ち着いたら銃の訓練も始める予定!向こうには銃の射撃訓練教室もあるんだって。何かあったら、国民全員が戦うらしいよ」

ティアマテッタは世界唯一の軍事大国。世界に何かあったとき、軍隊も戦争に出る。軍が留守の間は国民が一丸となり敵襲と対峙する。しかし、ティアマテッタを狙った襲撃や戦争は過去の記録上、情報戦の末、先制制圧され全て未遂に終わっている。
ミラの表情は生き生きとしていた。新しい挑戦に気合が入っていた。

「あんま気張りすぎるなよ」

「ありがとう。あ、お昼はちゃんと作るからね!食材に触らないでよ」

そうだ。ここの調理担当はミラに全てがかかっている。何故なら、残りの四人は料理が下手くそ、もしくは壊滅的だからだ。


マノンは、船内を探検していた。ドアを開けては一つ一つ確認しては満足していく。
誰もいないリビングで冷凍庫を開け、アイスを発見するとこっそり食べた。
失礼だと解っていたが、皆の部屋もこっそり覗いた。全部同じデザインで変り映えしなかった。ちょっとつまらなかった。
リアムの部屋を覗こうとしたが、鍵がかかっていて開かなかった。たぶん中にいる。
道場に行くと、運動着に着替えたヘスティアとミラが手合わせをしていた。手ほどきを受け、実践し、ヘスティアに投げ飛ばされては受け身を取る。

「初めてにしては動けていると思います」

「ありがとうございます」

大粒の汗が流れ、タオルで拭く。教わるミラの姿勢はいつもと違って雄々しく、逞しい顔付きをしていた。

(かっこいいな、ミラ)

「では、サンドバッックを使ってやってみましょう。私が指示を出しますので、遠慮なく、渾身の力で挑んでください」

「はい!」

サンドバッックにはマノンが描いてあげたコアの似顔絵が貼られていた。

(ちゃんと使ってくれてる!)

マノンはシシシと笑うと、次へ向かう。
最後にやって来たのは、格納庫だった。こっそり覗くとエアルが車を見つめ、ニヤニヤと笑いながらマジックウォッチを操作している。

「いやぁ…ジョーイさんのチューンナップメニュー…最高だなぁ…はぁ、キスしたいくらいだぜ」

マノンはさっきのドキドキを忘れ、ジト目でエアルを見届けると、そっとドアを閉めた。
多分、あのときめきに近い鼓動は錯覚か幻だ。そこにいたのはいつものダメ男だった。

「はぁ~。殆ど見おわっちゃったなぁ…暇になっちゃった」

マノンはとりあえずリビングに戻ることにした。


リアムは部屋に籠り、固有スキルについて悩んでいた。発動条件が解らない。父は発動条件については触れていなかった。アイアス自身が固有スキルを使用できるまでに到達していたのか、していなかったのか。それすら解らない。

(Aクラス…発動条件の一つは満たしている。でも、それだけじゃ足りないんだ。一体何が足りない)

エアルは守りたいという一心で発動したと語った。自分にはまだ覚悟が足りないのか?

(…なら、アーレント家の子孫なら、エマ姉も使えるのか?いずれアイリスもAクラスまで成長すれば可能性があるってことか)

リアムは考える。コアに勝つためには固有スキルは絶対必須だ。それはエアルを見て解っている。それに、自分が全属性のスキルを使えるなら圧倒的な有利にも立てるかもしれない。

「あー!親父、なんで…せめてヒントでも残していってくれぇ…」

リアムは頭を掻くと、ベッドに寝転がった。


エアルは、格納庫にまだ留まっていた。
マジックウォッチでマスタングから送ってもらったコア戦の映像を見返していた。確かに、コアに大剣で斬られる寸前でスキル発動、無属性魔法を浴びせていた。もうこの時には記憶が無い。そして、気絶しているコアの口に銃口を入れ、さらにもう一発撃っている。口に銃口を突っ込むのは、やりすぎではないかと自分が怖くなった。

「これが、俺?本当に自分なのか?」

そして、自身のマジックウォッチ記録を見ると、コング砲による爆発時は吹き飛ばされかけたリアムをしっかり助けていた。ただの戦闘野郎ではなく、ちゃんと守る対象も判別できていたことは幸いなのか。
固有スキル…今まで、発動できるような変化や僅かな反応も無かったのに、どうして急に。そして、また発動するにはどうすればいい。

「固有スキル…どうしたらいいんだ」

マジックウォッチを弄っていると、固有スキルに反応したのか、アーレントと書かれた文字と、紋章が浮かび上がりクルクルと回っている。

「なんだ、この紋章…。そういやぁ、ヘスティアは発動するとき唱えていたな…クラス・ブースト!なんつって」

なんとなく真似して唱えてみた。すると

『オンセイ認証、カンリョウ。クラス・ブースト発動。三十、二十九、』

エアルの腹、心臓、頭から魔力が湧きあがり爆発しそうに体内で暴れ出す。

「っく!!なんだ、これっ!」

エアルは倒れる。頭が割れそうなほど痛く、手は震え、痙攣の末鼻血が垂れる。

「キャ、キャンセル!無し!無し、ストップ、ストップ!終わり!クラス・ブースト終わり!」

エアルは思いつく限りの終了の言葉を口走る。

『クラス・ブースト、キャンセル』

マジックウォッチが終了を知らせると、爆ぜる寸前だった魔力は風船が萎むように静まっていく。
乱れた呼吸を整え、大の字になり、鼻血を手で拭う。満タンだった魔力が一瞬で消失したみたいで身体全体が怠く、腕を上げるのも億劫だ。
ヴェネトラ戦直後は倒れなかった。じゃあなぜ今はこんなにも消耗が激しいのか。病院に着いたころは気を失っていたとジョンから言われた。多分、直後はアドレナリンなりで興奮状態だったのだろう。だが、病院に着く頃には脳と体が正常に戻り限界を迎え気絶した。それなら納得できる。

「はぁ、はぁ…覚醒したら、次使うのは音声認識で簡単に出来るのかよ…恐ろしいな。魔力の底上げが必要だな、身が持たん…こりゃリアムも特訓させるか?メニュー考えてやんないとな。スキル持ちは試験にも有利になる」

エアルは思わず、声を上げて笑った。


夕飯も終わり、風呂の順番で譲り合いが始まっていた。

「昨日俺が先に使わせてもらったんだから、今日はミラ達から先に入れよ。特訓して汗かいたんだろ?」

「私は後からでも平気。ヘスティアさんかマノン、先にどうぞ」

「いえ、私も後からでも…」

「なぁ、俺にも声をかけてくれよ。お先にどう?ってさ」エアルがごちる。

「ならさぁ!ミラもティア姉も、私と一緒に入っちゃおうよ!」

マノンがグッドポーズをする。

「昨日、お風呂一人ずつ入ってたら遅くなったじゃん?なら、三人一緒に入れば時間短縮にもなるしさぁ!」

確かに風呂は少し広めに作られていた。三人で入っても手狭にはならない。

「なら…そうしますか?」

ミラがヘスティアに訊く。

「そうね。そうしましょう。明日にはティアマテッタに着く予定ですし。夜遅くなるのは避けたいですしね」
「決まり!それじゃあ、入ってくるね!」

マノンは嬉しそうに二人の背中を押し、風呂場に向かう。
実は作戦があった。ヴェネトラを出発するとき、マノンはレンから可愛い袋に包まれた餞別を貰ったのだ。

『初日に渡した一着だけでは足りないでしょうから、これも持っていきなさい』

その台詞で、マノンは袋の中の物がなんなのか、一発で理解した。
そう。レンから貰ったのはセクシーランジェリーなのだ。紫を生地に、白の刺繍が施されている。そしてブラのアンダーにはシフォンレースがあしらわれている。パンツはゴムの部分にシフォンレース。

『あれ、マノン、いつの間にか大人っぽくなったんじゃない?』

『まぁ、見間違えたわ。出会った頃はまだ子供だと思っていましたが…ここに来るまでに、成長したのですね』

マノンには手に取るように想像できていた。ミラとヘスティアが自分を褒める光景が!お風呂の準備を終えると、ふふふと笑い、浮足立って風呂場に向かった。


女性陣が風呂場に入ったのを確認すると、エアルがリアムに近付いた。

「なぁ…気にならないか?」

「何が」

リアムがツッケンドンに返すと、エアルは声を潜めて力説する。

「ミラ達がどんな会話するかだよ!ガールズトークだぞ。それを聞いて、彼女達が求める男になるんだよ!」

「ただ覗きたいだけだろ」

リアムのゴミを見るような目付きに、エアルは挫けそうになるが負けてはならない。

「リアム、お前ももう少しは乙女について勉強しろ。いつ何が起こるか解らないんだぞ」

「何って、何」

「それは…ミラがデートしよ!とか、一緒に寝たいなぁ、、、とか言われたらどう対処すんだよ」

リアムはメルカジュールの記憶を蘇らせる。デート紛いなことも、一緒に寝た紛いなこともあった。だが、どれも大変なものだった。女の買い物は時に時間泥棒、そして一緒に寝ると言う事は、何が気に入らなくて怒るか解らないギャンブルでもあり、腹を殴られる覚悟がなければならない。

「…俺はもうこりごりだ」

「え、何?もうミラとなんかあったのか?」

エアルが興味津々にグイグイと近づく。

「近寄るな!つうか、そんな風呂覗きしなくても…その、好きな奴とはちゃんと話せばいいだろ」

するとエアルはわざとらしく眩暈を起こす仕草をする。

「はぁー!リアム君はピュアだな!純情恋愛を楽しむのか!そりゃ十代までの話だぜ、二十歳過ぎたら恋も愛も駆け引きよ。つうことで、お兄さんは女性達の情報を収集してくる」

「あ、おい!止めとけってば!」

リアムは止めるが、エアルはスキップ気味にルンルンしながら行ってしまった。

「…久しぶりにエマ姉に連絡しようかな」


エアルは洗面所のドアに耳を当て、聞き耳を立てる。風呂場から入浴して会話が反響しているのが確認できた。
エアルは酔っぱらったフリして風呂場を覗く作戦に決め、ドアを開いたその瞬間。

「ブースト!」

「へ?ギャン!!!」

確かにヘスティアの声がしたが、透明人間に思い切り顎を蹴飛ばされた。そして思い切り壁に頭を殴打する。

「い、いてぇ…」

「この変態が!貴方ねぇ、出会ってから二年も一緒にいますけど、ほんっとうにそういう所が変りませんよね!大体、妹分で兄と慕っているミラの裸まで覗こうとするのはどういうことなの?!恥ずかしいとは思わないのですか!!」

「なんでいんの」エアルから鼻血が垂れる。

「貴方の行動なんかお見通しですよ!リアムが止めても、どうせ来ると思いましたからね!弟分が止めるなら、少しは改心するかと思いましたが…私の勘を信じてよかったわ、全く」

ヘスティアはエアルを簀の子巻きにすると、格納庫へ放り込んだ。

「おい、ヘスティア!ここまでしなくても!」

「朝まで反省するか、リアムが気づいて助けに来てくれるか…どっちの方が早いかしらね」


そう冷徹な顔で言い放つと、ヘスティアはドアを閉め、鍵をした。
「おい、ヘスティア!リアムは多分来ない!呆れてたもの!朝になってもお前覚えていてくれるか?!俺を閉じ込めた事!!おーい!」

哀れな男の悲鳴が、格納庫で虚しく響いていた。


女性陣はゆったりと湯船に浸かっていた。ミラは髪留めでまとめ上げ、ヘスティアはヘアトリートメントを髪に馴染ませるために蒸しタオルを巻いていた。

「ねぇねぇ、ミラはさぁ、なんでリアムの事好きになったの?」

「ブフォ!」

マノンの質問により、まったりとしていた空間が一気に変わる。

「へ…私、リアムの事が好きって、言ったっけ?」

「いやぁ、言われてないけどさぁ。解るじゃーん!たぶんリアムも解ってるってぇ!だからミラのこと邪険にしたりしないんだよ」

「まぁ、確かに昔から一緒にいるけど、邪魔だとかあっち行けみたいな事は言われないけど…」

子供の頃、近所の子供達に一緒にいることを揶揄われることは毎日と言っていいほどあった。でも、リアムは相手に怒るだけで、ミラに対して冷たい態度を取ったり、距離を置くことは無かった。寧ろ、いつもミラが追いかけたり、押しかけたりしても、受け入れてくれていた。

「で、いつから?リアムが初恋?」

「マノンも結構ぐいぐい来るよね…そうだなぁ」

三、四才だったか。ミラは遊具の対象年齢六才からの滑り台に、チャレンジしたくて、母の静止を振り切って階段の昇って行ってしまったのだ。そしたら、思ったよりも高くて、滑り台もうねっていて、怖くなって戻ろうとしたが、階段も高く見えて、しかも後ろには年上の子供達が並んでしまっていたのだ。
どうしたらいいか解らず半ベソになり、母がキャッチしてあげるから滑っておいで、という掛け声にもイヤだと駄々をこねていた。その時、

『怖いなら一緒に滑ってやるよ』

それがリアムだった。ミラは、リアムの前に座り、抱えられるようなかたちで滑り台を無事滑り終えた。もう怖くなくて、リアムがヤッホーと叫ぶのを、必死に真似していた。
それから、母はリアムにお礼を言っていたと思う。この瞬間からミラにとってリアムは王子様みたいだった。それから、家も近所だと知り、交流が始まった。

「こんな感じだね。聞いてて面白かった?」

「えー!一途じゃん!ヒューヒュー!」

「もう、からかわないでよ。そういうマノンは?」

「へ?わ、私は…まだ…。恋とか興味無いし!」

一瞬、エアルが過ったが、それは今朝の洗面所での事件のせいだろう。

「ティ、ティア姉は?好きな人とかいないの?」

「あ、誤魔化した」ミラがボソリと言う。

ヘスティアは微笑ましい話から、まさか自分に振られるとは思っていなかった。ここで、別にいない、と答えても良かった。だが、なんとなく、話してみたくなった。ずっと言えなかった恋のお話し。

「いましたよ、好きな人…でも、もう死んだと思っています」

「それって、いなくなっちゃったってこと…?行方不明、とか?」

マノンは悲しげに訪ねる。

「忘れたんですか?私は、色々なゴタゴタに巻き込まれて現国王に殺されかけた人間ですよ。人との交流も、山あり谷あり、生死ありです」

「そっか…ごめん、ずかずかと聞いちゃって」マノンが謝る。

「いいえ。話そうと思ったのは私の判断です。私が好きになった人のこと、例え名前も顔も知らなくても、忘れないでいてくださいね」

「うん!名前も顔も知らないけど、忘れないよ!」

「私も!」

ヘスティアは微笑むと、ありがとう、と礼を言った。


風呂から上がり、マノンは早速パンツを穿く。おしりの部分は若干の透け感。

「あれ、マノンもナイトブラする派だったっけ?」

「え?あ、ううん!間違えてブラも持ってきちゃった」

マノンは慌ててブラを私服の中に隠した。

「えー、それ、新しい下着だよね!大人っぽいじゃん!レイラとレンに選んでもらったの?ねぇ、ちゃんと見せてよ」

「え!う、うん」

ミラが前に立つ。ミラのパンツは、可愛いに振り切ったものだった。ピンクの生地と、センターは水色と白のストライプ、花のレースが付けられていた。
そして、花柄のナイトブラをしている。
マノンはナイトブラとは無縁であった。だって、固定するほどの胸が無いから、今まで気にしたことがなかった。

「マノンは大人っぽいデザインが好きなんですか?」

ヘスティアも会話に参加してくる。レイラといい勝負のおっきなお胸、そしてワガママなおしり。鍛えられた美脚。その美脚に挟まれて死んだ人は多分幸福だと思う。そのおしりと美脚を自慢するかのように、見せつけるかのように真紅のTバック。ナイトブラも、スポーツブラではなく、左右のレースから乳を固定しフックで留められるタイプのものだった。
きっと、明日身に付けるブラも今のパンツに負けず劣らず可愛くてセクシーなモノだろう。

「わ、私もナイトブラ考えようかなぁ…あはは」

「ナイトブラは胸が固定されて安定しますからね。お勧めしますよ」

「ねぇマノン!折角だからブラも着けてみなよ!普段、お互いの下着見る事なんてないからさ、ファッションショー!」

なんかミラがノリノリである。
マノンは言われた通り着けてみる。サイズもぴったりだし、少し盛れている。

「可愛い!やっぱ下着だけでも雰囲気変わるね」

「似合ってますよ、マノン」

「あ、ありがとう」

嬉しさ半分、スタイルバツグンのミラと、鬼スタイルのヘスティアに褒められても、なんかしょんぼりな気持ちになったマノンは、難しいお年頃になってきたのかもしれない。
頑張れ、マノン。


――一方、格納庫から助けを求める声がする。

「リアム!助けてくれー!」

「今エマ姉と電話してるから。助けていいよって許可でたら助けるわ」

「は?!姉貴に電話とか、やめろ、絶対に助けなくていいって言うから!リアム、リアム!!!」

こうして、二日目の夜は更けていった。

「そういや、アイツ等、風呂なげぇな…何してんだ」
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